変なヤツに会った。 黒ずくめで、帽子で顔を隠した怪しい女。 ふざけた口ぶりと行動。 バトルを挑んだ時は、すぐに勝てると思っていた。 けれど、そいつはすごく強くて。 いいようにあしらわれたのが、・・・・・・・悔しかった。 だけど、だからこそ思った。 ―――――――――強くなろう、と。 いいように、あしらわせたりなんかしない。 次こそは、絶対に。 【 バトル・イン・タンバ! 】 ハイ、予測済みでしょう。 あたしは今、バトルフィールド(ジム内)におります! 折角なので戦います。ええ、戦いますともここまで来たら!!(ワクワク) 楽しみだね、シジマさんはかなりの実力者って話だし♪ マンガでも強かったしねー♪♪ 鼻歌でも歌い出しそうな程に高揚した気分で、ブーツの爪先で床を蹴る。 戦いに臨む時特有の、ひりつくような空気が全身を満たし―――――程良い緊張感が、精神を引き締める。 と対峙する形で座るシジマさんは、無言で正座し、精神統一をしている。 シジマさんの後ろには、同じように正座しているグリーンと奥さんの姿。 奥さんは審判として・・・・・グリーンは見物にでも来たのか? 視線が合ったので、へらりと笑って手を振ってみたら、少しだけ頬を赤らめ、目をそらした。 ・・・・・泣いたの見られたの、恥ずかしいのかね? ううん、初々しくっていいねぇv(じゅるり/←!?) シジマさん・・・・・シジマが目を開き、立ち上がる。 その目を見た瞬間―――――――ぞくり、と背筋が震えた。 強い。 その身に纏う気迫は、グリーンとは段違いの其れ。 尻込みする一方、闘志をかき立ててられている自分が存在する。 背反する本能を愉しみながら、モンスターボールの一つに手をかける。 「―――――試合開始!」 声が響くと同時、モンスターボールが宙を舞った。 開始と同時に、シジマが出してきたのはカイリキー。 対して、あたしが出したのは―――― 「白夜!“カマイタチ”!!」 格闘タイプとは相性の悪いはずの、悪タイプ。 単純に見れば、こちらが不利。 「“空手チョップ”!」 放たれた真空の刃を避け、がら空きの腹へと空手チョップを繰り出すカイリキー。 おあいにく様、予想済み! 「懐に飛び込んで“切り裂く”!」 攻撃が来ると、大概はそれを避けようとする。 だが、敢えて避けずに一歩踏み込めば攻撃は当たる事はない。 白夜の攻撃が、カイリキーの顔面を襲う。 その攻撃は、まぶたをかすった程度だったが――― 一時的に視界を奪うには充分。 このまま一気にカタを付ける!! 心の中でそう吼える。 長引けば長引くだけ、タイプの相性の影響も強く出てくる。 「そのまま“噛みつ”け!」 だが短期戦であれば、相性が悪いかどうかは関係無い。 ヤられる前に、そいつを叩き潰せばいいだけの事っ! カイリキーの喉元を、白夜の牙が襲う。 だがその牙は、とっさに盾にされた、カイリキーの腕によって防がれた。 白夜の牙が、腕へと食い込む。 「“地獄車”!!!」 「“噛みつく”でとどまれ!」 ち、さすがにこの程度じゃ効かないか! “噛みつく”が回避不能と悟った瞬間、敢えて腕を盾にさせてこちらの動きを封じ、 “地獄車”を回避できないようにしたのだ。 ジムリーダーなだけあって、グリーンよりも状況判断が巧みだ。 視線の先で、腕に牙と爪を突き立てられて、振り解こうと暴れるカイリキー。 だが、白夜もさらに深く牙や爪を食い込ませる。 「カイリキー、そのまま叩きつけろ!」 「距離を取れ白夜!」 同時に指示が飛び交い、カイリキーが白夜に噛みつかれたままで腕を振り下ろす。 床に接触する直前、白夜が牙を外して後ろへ跳躍する。 その一瞬後、勢いがついたままの手が、フィールドの床石を砕き割る。 破片が飛び散り、トレーナー・ポケモン両者の視界を悪くする。 「白夜!」 「“空手チョップ”!!」 破片を弾き飛ばし、カイリキーの腕が風を切って白夜に迫る。 白夜は――――身構えたまま、動かない。 しかし。 その瞬間グリーンは――――が、愉しげに唇を吊り上げるのを見た。 「――――何っ!?」 カイリキーの攻撃が虚しく床を叩き、 シジマの声が、驚愕に彩られる。 笑みの形をとった唇が、勝利を確信して言葉を紡ぐ。 「残念♪」 ズウゥ・・・・・ン 言葉と同時に。 わずかに地面を揺るがせて、カイリキーは地に伏した。 「カイリキー戦闘不能。よって勝者、挑戦者!」 よっしゃ、完・勝! 「白夜ーっ!」 告げられた勝利に心の中で力一杯凱歌を上げると、そのままの勢いで白夜に駆け寄り、床を蹴って勢いを付け、思いっきりがばぁっ!と抱きつく。 いきなりの不意打ちに、声には出さなくとも僅かに動揺を見せる白夜。 「ナイス戦闘!めっちゃ格好良かったぞー!!」 ふかふかの白い毛に頬をすり寄せ、ぎゅっと抱きしめる。 「格闘ポケモン相手に、対等に戦りあってたし!さっすがあたしの相棒!!」 『・・・・・・・/////』 無言のまま、頬の辺りを赤く染める。 表情は変わっていないが・・・・どうやら、照れているらしい。 初めて見たよ、白夜が照れる所なんて。 離れろと言われないのをいいことに、抱きついたまま白夜の毛並みを堪能する。 と、後ろから肩を叩かれて振り向く。 そこには、全力で戦った者特有の・・・悔いのない、清々しい顔をしたシジマさんがいた。 「受け取れ。久しぶりに、いい戦いができた」 言葉と共に差し出されたバッジを受け取り、白夜を離して立ち上がる。 「――――ありがとうございます♪」 満面の笑みを浮かべ、片手を差し出す。 ニヤリと笑って、シジマさんがその手を握った。 ショックバッジを手に入れた!(ちゃららん♪) ■ □ ■ □ バトル終了後。 ナナミさんにグリーンの様子について報告すると、少し安心した様子だった。 ・・・・・・・勿論、あたしがグリーンぷち倒したのは言わなかったけど。 だって、そんな事言って怒らせたらどうするんだよ! ブラックオーラは見たくないんだ!! ひたすら怖いんだよあれ!!! まぁ言わなかっただけに、平穏に終わったけどさ。 言っていたらどうなるんだろう、とは考えない。怖いから。 自販機に小銭を突っ込み、ベイリーフ茶なるもののボタンを押す。 この世界は、元の世界とは違う部分も多々あるが――――共通するものも多いとは、こちらに来てから知った事。 通貨単位が同じな事などは、分かり易いだけにありがたい。 ひんやり冷えたアルミ缶を取り出し、プルタブを起こす。 『あの、ご主人さま・・・・』 缶に口を付けると同時に、おずおずと紫苑が切り出す。 周りにほとんど人の気配が無い場所なので、全員、モンスターボールから出しているのだ。 ちなみに氷月はちょっと遠泳してきますと言い残してふらっと出かけ、天空はこの間沈んだ割にはこりずに荒波と戯れ、白夜は何かに思いを馳せるかの如く、遠く水平線を眺めていた。 一口も飲む事無く口元から離すと、右上にふわふわ浮かんでいる紫苑に視線を向ける。 「何?愛の告白?」 『/////・・・・・違います!』 さっきの間は何。 『ジム戦の事です。一体、いつ“影分身”を使ったんですか?』 その言葉に、ぴくん、との片眉が動く。 クス、と小さく笑んで、 「紫苑はいつ気が付いた?」 『あのカイリキーさんの攻撃が、白夜さんの分身に当たる直前です』 「じゃあ、そこからはどう見えた?」 言いながら、お茶の缶に口を付けて近くのベンチに腰かける。 足まで組んで堂々としているその態度は、くつろいでいると言うよりは――――ある意味、女王様めいた風情があった。 いやー、戦いの後のお茶は美味しい。 『はい。攻撃が床を叩いた時、背後から・・・“切り裂く”で一撃して、最後に蹴りを』 「んー・・・・惜しいね。70点かな」 いい子いい子と紫苑の頭を撫でると、心地よさそうに目を閉じた。 「で、天空」 ひょい、と視線をそちらに向ければ、砂にまみれて転げている天空の姿。 そんな天空に向かって、少し声を大きくして話しかける。 「あんたも、白夜の戦い見てたでしょ?いつ“影分身”を使ったのかの正解、教えてあげてよ」 『え、白夜に聞けばいーじゃねーか』 唐突に話題をふられ、面倒そうに返す天空。 何でオレが、とでも言いたげな天空に、にやっと皮肉笑いを浮かべる。 「何、見えなかったのー?情けないなぁ」 『冗談!見えてたに決まってんだろ!!!』 「じゃ、言えるよねぇ?」 憤然と返す天空に、嫌みったらしさ満載な口調で問う。 かなりあからさまな挑発だが、天空が気付く気配はない。 「それとも、口先だけなのかな〜?」 『おう言ってやろーじゃねーか!!!・・・・・・・・・あ゛』 どうやら、自分の失言に気付いたらしい。 上手くいったと言わんばかりにニンマリ笑うとは対照的に、がっくりとうなだれる天空だった。 ふっ、愚か者。 勝者の貫禄で、悠然と「説明してもらおうか」と目線で促しお茶を飲み始める。 それを恨みがましい目で見て、しぶしぶ、と言った様子で口を開く。 『・・・・・しょーがねーなぁ。 “影分身”使ったのは、あのカイリキーが床砕いた時。間違ってねーだろ?白夜』 『ああ、正解だ』 「ちなみに影分身が消えた後は、“電光石火”でバランス崩してから“切り裂く”で一撃した後もう一閃して、最後に背中に蹴りを一発。間違ってないっしょ?」 そう問うえば白夜がああと頷き、天空が目を丸くして、紫苑は尊敬の目でこちらを見る。 ふふふふ、あたしをなめちゃーいけないな。 あれぐらい見切れなきゃやってらんなかったしね!動体視力はいいぞ!!! 「で。グリーンはどこから見えてた?」 あっさりとそう続け、すでにほとんど残っていない缶をあおる。 数秒の沈黙。 案の定、驚いた様な顔のグリーンが、近くの植え込みから姿を現した。 ちょっとだけ、バツの悪そうな顔をしている。 「・・・・・いつから気付いてたんだ?」 「ん?最初から」 けろっとした表情でそう答え、空き缶をゴミ箱めがけて投げる。 気配丸分かりだしなー。 それに、あれだけ凝視されれば誰でも気付くって。 それなりのスピードで繰り出された空き缶は、いささか乱暴な音を立てて、しかし違う事無くゴミ箱へと突っ込んだ。 ガランガランと派手な音がする。微妙なバランスでしばらく揺れると、ゴミ箱はやがて、大人しくなった。 「ポケモンの言葉、解るのか」 「まーね、けっこー便利だよ。・・・・・座ったら?」 手招きして呼ぶと、こっくりとうなずいて横に座る。 緊張しているのか照れているのか、その頬はほんのり赤い。 グリーンってば可愛いv ここで押し倒すのってOK?(←不可) そんなヨコシマなあたしに気付くはずも無く、グリーンが純粋な、尊敬にも似た感情をたたえた瞳を向ける。 ポーカーフェイスが上手くなったなぁ、あたしも(←感慨深げ/つーかそうでなきゃヤバイ奴だよお前) 「はすごいんだな。師に勝てるなんて」 「そう?あたし的には、まだまだ修行不足なんだけど」 「そんな事無い!」 軽い調子で答えれば、真剣な表情で力一杯否定するグリーン。 「師はとても強い人だ、そんな師に勝ったのに、修行不足なんて事はない!!」 ・・・・・いや、そんなムキになって否定せんでも(汗) 有無を言わさぬその迫力に微妙に押されながらも、落ち着かせようと頭に手を乗せる。 つーか、遠回しに師匠弁護してるようにも聞こえるぞ?(苦笑) 「―――――・・・・・リーン、グリーン!!」 その時。 遠くの方から、グリーンを呼ぶシジマさんの声がした。 声の聞こえてくる方角を見れば、厳しい顔で辺りを見回す、タンバのジムリーダーの姿が。 ・・・・・ひょっとして、無断で抜け出してきた? つつっと視線を戻してみれば、思いっきり舌打ちしていた。 って黒ーっ!!!! 「じゃ、オレは行くから・・・・・またな!」 こちらを見上げ、はにかむように笑って。 ぶんぶんと手を振りながら駆けていく、後ろ姿を見ながら思う事は一つ。 ・・・・・・・・・・やっぱ血筋か(汗) TOP NEXT BACK → 間話 : 貴方までの距離 戦闘シーンって書く時より想像する時が好きです。 |