第一印象というものは、出会ってわずか0.5秒で決定付けられる。 だから多くの場合において、第一印象は=外見、それに第一声といったところだろう。 そうして決定された第一印象は簡単に覆される事は無く、長い時間をかけての交流を行い、相手を知っていく事で徐々に軌道修正されていく。無論、第一印象から得られる思い込みを大幅に踏み外す事で生じる意外性でも軌道修正を余儀なくされるが、それは滅多に起きる事でも多発するものでも無いから“意外”なのであり、故にこそ一番最初に受けたイメージは、そうコロコロと変わるものでも無い。 の、だが。 「手際が良いのねぇ、ちゃん」 「そりゃもう☆なんせほぼ毎日のよーに自炊しておりますから!」 「あら、携帯食料は持ち歩いていないの?」 「や、一応持ってんですけどね?でもホラ、作りたてのご飯のほうが美味しいし」 シジマ家の平均より広い台所にて、ジムリーダーの妻・ミサキが夕食を作るその手伝いをしながらからからと笑う芸術的なまでに美麗な銀色を、グリーン少年はやや複雑な視線で眺める。 銀色――――“”と名乗った少女の第一印象はといえば、胡散臭い以外の何物でも無かった。 ところがバトルしてみれば胡散臭い格好の癖に異様に強く、実力は自分の師にも劣らず。 そして大き目の帽子で覆い、黒ずくめの格好で見る者を惑わすその素顔は、芸術的なまでに繊細で、華やかで、きらきらしく。 けれどその性格は、甚だしく外見を裏切りまくって粉砕して止まず。 容姿も格好も家庭的という印象からは程遠いくせに、ミサキから借りて着ている割烹着姿に違和感はまったく無く、ついでに料理をするその手際はまさしく手馴れた者のそれ。 意外性が主成分なのでは無いかとさえ思わせる彼女のような人物、グリーンは今まで聞いた事も会った事も無かった。正直、詐欺だと思う。それはもう心から。 「・・・・・うそくさいよな」 「失礼な!」 「ぅわっ!?」 心の声はいつの間にか言葉になっていたらしい。 不満ですよとでも言いたげに、眉間にしわを寄せた少女の顔のどアップに、グリーンは危うく椅子ごと床に突撃する羽目に陥るところだった。そんなグリーンの鼻先にびっしと人差し指を押し付けると、はタチの悪いごろつきか酔いどれオヤジのようなガラの悪い表情で迫る。 「ぐ〜りぃい〜ん〜?あたしの料理食べても無いってーのに、“嘘臭い”ってのはどういうおつもりかなー?」 「え、や、ちが」 違う、そっちじゃない。 否定しようとする言葉は、しかしの「弁明無用!」の一喝で遮られた。 「あたしの料理の腕前が疑われるだなんて、そんな事! ダダこねたり泣き落としたりしつこく通い詰めて説得したり何日も店の前に居座ってまで料理教えてもらったあたしの根性と、情けをかけてくれたりしぶしぶOKしてくれたりお慈悲で通報してくれなかったりしたりげっそりやつれて 『分かったから昼夜問わず説得しに来るな』 と泣いて喜んでくれたお師匠方のメンツに関わるっての!!」 「ちゃん・・・・営業妨害は良くないわよ・・・・?」 ミサキが至極常識的なツッコミを入れたが、それは軽やかに右から左へと受け流された。 指先に代わって、今度は出来たての料理が突きつけられる。 暖かい湯気を立ち昇らせて“自分、ホッカホカであります!”と主張するソレからに視線を戻せば、ニィ、という擬音以外は付けられないだろう悪党笑いと遭遇し。 「はい、あーん♪」 いつの間にかの手に握られていた箸が、八宝菜を乗せて至近距離に待機していた。 「っいいよ!自分で食べるって!!」 「照れるな照れるな。ほぉーらあーんしてー?」 「いいってば・・・・・っ!」 ノリノリでにじり寄ってくる少女から身をよじって逃れようとするグリーン。 たまらず「ミサキさん!」と半ば悲鳴のような声で傍観している師匠の妻に助けを求めてみるものの、返ってきたのは困ったような、それでいて微笑ましそうな曖昧な微笑みで。 「さ、お食べv」 にーっこりと、それはもう輝かんばかりの邪悪な笑みが強制する。 どうやら救い手は現われそうに無いと賢明にも悟ったグリーンは、たっぷり数十秒ほど視線を泳がせて―――――― 結局、観念したように肩を落としたのだった。 |