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(小話40)「学者と友人」の話・・・
古い時代のこと。一人の学者が、あるとき友人から金を借りた。友人は、「借用書を作って、証人を立てて署名してほしい」と要求した。学者は驚いて言った。「あなたは私を信用しないのですか。私は律法を長い間研究して、その権威といわれている人間ですよ」すると友人はいった。「だから私は心配しているのです。あなたは律法の勉強ばかりしているので、心が律法で満たされ、借金のことは忘れてしまうからです」
(小話39)「富豪と賢人」の話・・・
富豪と賢人と、どちらのほうが偉いだろうか?と、ある学者の弟子たちが考えた。そこで弟子たちは、学者にたずねた。「もちろん賢人だ」と学者は一言のもとに答えた。
「しかし、先生それなら、どうして大金持の家には、賢人が出入りするのに、賢人の家には、富豪が行かないのは何故でしょうか?」と兄弟子が、聞き返した。
「わが弟子たちよ、賢人はかしこいので、富が必要ことを十分に知っている。ところが、金持はただ金をもっいるだけで、賢人から知恵を学ばなければならないことをまったく知らないのだ」
(小話38)「本当の財産」の話・・・
ある船上での話。船客はみな大金持ちで、その中に一人の貧相な学者が乗り込んでいた。金持ち達はお互いに己の富の自慢をしていた。すると学者が、「私がいちばん富んでいる人間だと思うけれども、いま私の富を皆さんに見せることはできない」といった。海賊が船を襲った。金持ち達は金銀宝石、すべての財産を失った。海賊が去った後、やっとのことで船はある港に着いた。 学者はすぐ教養が高いことがその港の人々に認められ、学校で生徒を集めて教えはじめた。しばらくしてから、この学者は船で一緒に旅行したかっての金持ち達に会ったが、みんなみじめに零落していた。そしてかっての金持ち達は異口同音に学者に言った「確かにあなたは正しかった。教育のある者はあらゆるものを持っているのと同じだ」と。
(小話37)ある「愚かな男」の話・・・
昔、あるところに一人の男がいた。友達の夕食に招かれ、料理に手をつけてみると、まるで味がない。そこでありのままを友達に告げた。すると友達は、塩を少しふりかけた。料理は美味この上ないものになった。そこで男は帰りぎわにその塩をわけてもらった。帰宅するやいなや男は、料理にその塩をふりかけてみたが、少しもおいしくない。自分の舌がどうかしているのだろうかと思い、もっと多く塩をふりかけてみた。やはり少しもおいしくない。そこで今度は塩だけをなめてみた。少しもおいしくない。こうして男はとうとう病気になってしまったという。
(小話36)ある「七人目の男」の話・・・
ある町でのこと。集会で長老が、「翌朝、六人の人が集まってある問題を解決する」といった。ところが翌朝になると、七人の人が集まって、一人呼ばれてない男がいた。長老には七人目の男がだれかわからなかった。したがって、「ここに来るはずのない人間が一人いる。とっとと帰れ」といった。すると、その中でいちばん必要な人物で、誰が考えても呼ばれているはずの人が立って出ていった。彼はなぜそうしたか。呼ばれてなくて、何かの間違いできただろう人が、屈辱感を感じないように、自分で去っていったのである。
(小話35)「母親のなにげない言葉」の話・・・
小学校5年生の先生が子供に「自分の良い所を5っ書いてくること。どうしても5っ見つからないときは家の人に聞いて・・」という宿題をだした。
A君は、良い所が三つしか見つからなかったから、しかたなくお母さんに聞いた。「お母さん、ぼくの良い所は?」って尋ねてみたら、母さんは「あんたの良い所はねえ…一個もない!」
B君も遠慮がちに「お母さん、ぼくに良い所ってある?」と尋ねた。お母さんは「Bちゃん、あんた、悪い所ならいっばいあるワ」と言った。
結局、良い所を5っ書いてきた子供は半数にも満たなかったという。
(小話34)「老人と苗」の話・・・
ある老人が庭で果物の苗を植えていた。そこに通りかかった一人の男が、「一体、あなたは、その木から実が収穫できるのはいつごろだと思っているのですか?」と聞いた。老人は「70年もしたらなるだろう」と答えた。男は嘲るように「あなたはそんなに長生きするのですか?」と聞いた。老人は「いや、違います。私が生まれたとき、果樹園には豊かに実がなっていた。それは自分が生まれる前に、父が自分のために苗を植えておいてくれたからです。それと同じことです」と答えた。
(小話33)「ある遣書」の話・・・
               (1)
ユダヤの国で奴隷がまだ主人の持ち物であった頃の話。都から遠いところに住んでいた賢い商人が、息子を都の学校に入れた。息子が学校で勉強している間に、父親は重い病にかかり、遺書を書いた。彼は全財産を一人の奴隷に譲ること、ただし、その中から一つだけ息子が望むものを息子にやるようにという内容だった。父親は死に、奴隷は自分の好運を喜んで、都に飛んで行き、息子に父親が死んだことを告げて、遺書を見せた。息子は非常に驚き悲しんだ。喪があけると、息子はどうしたらよいか考えて、高名な教師に「どうして親父は私に財産を残さなかったのだろう」と相談した。教師は、「とんでもない、あなたのお父さんは大変賢く、またあなたを心から愛していた。この遺書を見れば、それがよくわかる」といった。息子は「奴隷に全財産をやって、息子に何も残さないなんて」と腹を立てて言った。教師は「あなたもお父さんと同じくらいに賢く、自分の頭を使いなさい」といった。
               (2)
そして、教師は息子に向かって、次のように話した。「父親は、まず自分が死んだとき息子がいないので、奴隷が財産を持ち逃げしたり、財産を使い込んだり、自分の死んだことすら息子に伝えないかもしれないと考え、全財産を奴隷に与えた。財産を全部やれば、奴隷は喜んで、急いで息子に会いにいくだろう、そう思ったのだ」息子は「それが私になんの役に立つのですか」といった。教師は、「おまえは奴隷の財産は全部主人に属しているのを知らないのか。おまえのお父さんは一つだけおまえに与えるといっているじゃないか。おまえは、奴隷を選べばいいんだ。これは彼の非常に愛情ある賢い考えではないか」といった。若者はやっとわかって、教師のいわれたとおりにした。
(小話32)「復讐と憎悪」の話・・・
両隣の男たちのの話。Aが「カマを貸してくれ」とBに言った。Bは「いやだ」と拒絶した。しばらくして逆にその拒絶したBが「ハシゴを貸してくれ」とAにいってきた。するとAは「おまえはカマを貸してくれなかったから、おれはハシゴを貸さない」と答えた。これが復讐である。 Aが「カマを貸してくれ」とBに言った。Bは「いやだ」と拒絶した。しばらくして逆にその拒絶したBが「ハシゴを貸してくれ」とAにいってきた。Aはハシゴを貸してやったが、貸すときBに「あなたはカマを貸してくれなかったけれども、私はあなたに貸してやる」といった。これが憎悪である。
(小話31)ある「キツネ」の話・・・
あるとき、一匹のキツネがブドウ園のそばに立って、何とかその中に入り込もうとしていた。しかし、柵があって中に入り込むことができない。そこでキッネは三日間断食して体を細らせ、やっとの思いで柵の間をくぐり抜けることができた。ブドウ園に入って、キツネは思い切り食べてから、さてブドウ園から外に抜け出ようとしたら、満腹で柵をくぐり抜けることができなかった。キツネはやむをえず、また三日間断食して、体を細くしてからやっと抜け出した。そのとき、キツネは思った「結局、腹ぐあいは入ったときと出るときと同じだったなあ」
(小話30)ある「物売り」の話・・・
昔、アラブの都でのこと。物売りが、町の中を歩いていた。彼は「人生の秘訣を買ってくれる人はいませんか?」と、大声で売り歩いていた、町中の人が、人生の秘訣を買いにたちまち集まってきた。その中には、高名な学者も何人かいた。みんなが集まって「是非、売ってくれ」と迫ると、物売りは「人生を本当に生きる秘訣とは、自分の舌(言葉)を注意して使うことだ」と言った。
(小話29)「王様と三人の兄弟」の話−−−−
王様に一人の娘がいた。娘は重い病にかかり今にも死にそうだった。そこで、王様は、娘の病を治した者には娘をめとらせると布告をだした。遠い遠い地方に3人の兄弟がいて、一人が千里眼の望遠鏡でその布告を見た。兄弟の一人は魔法のじゅうたんを持っていた。もう一人は魔法の小さなリンゴを持っていた。三人は魔法のじゅうたんに乗って王宮に出かけ、王女にリンゴを食べさせた。王女の病気はすぐ治った。王様は大喜びして、約束どおり娘をめとらせることにした。すると一番上の兄は「私が望遠鏡で布告を見たから、我々はここにやってきた」といい、二番目は「魔法のじゅうたんがなかったら、すぐにこんな遠い所にはこれなかった」といい、三番目は「もし、リンゴがなかったら病気は治らなかった」と言った。王様はハタと困ったが、やがて三番目の男に王女をめとらせた。何故か?。一番目はまだ望遠鏡がある。二番目もまだ魔法のじゅうたんがある。だが三番目の男はリンゴを与えたので何もない。すべてを与えたものが一番尊い。
(小話28)ある「二人の友情」の話・・・
明治の時代、二人の兄弟がいた。弟が2歳の時、父親が亡くなった。父は自分の死を前にして、兄については「この子は悪くても公使にはなるだろう」といい、弟については「この子はよく育ててくれるものがあったら、世界にひとりという男になるのだがなあ」と言った。後年、弟は「父のこの期待の言葉が、ある力をもって、一生の間、私に働きかけ、この予言がなかったら、いまの仕事をしていたかどうかわからない」と言っている。弟とは「武者小路実篤」であり、そして、友情をもって彼を育てたのが先輩の「志賀直哉」である。
(小話27)ある「狐と魚」の話・・・
ある日、狐が小川のほとりを歩いていていると、魚があわてて泳ぎ回っている所に出会った。狐が「何でそんなに急いで泳ぎ回るのか?」と聞くと、魚は「我々を捕りにくる網が怖いんです」と言った。そこで狐は「それならここに出ていらつしゃい。陸に来たら、私が守ってあげるから心配することはない」と言った。魚は「狐さん、あなたは大変頭がいいといわれていますが、本当は何てお馬鹿さんなんでしょう」と言った。「我々がずっと暮らしてきたこの水の中でさえ、危険だと思っているのに、陸に上がったらどんなに危険な目にあうかわからないんですか?」
小話26)「柿」の話・・・
昔、時代がのんびりしていた頃のこと。2人の友人が田舎道を話ながら歩いていくと、途中で柿を食べながら歩いてきた男とすれ違った。しばらく行くと、田舎家の高い塀の上に大きな柿の木が枝をのばしていた。枝には熟れた柿がいくつもあった。それを見て1人が言った「おい、おいしそうだな。取って食べようか?」「うん。食べたいけど、どうしてあんな上の方にある柿を取るんだい。手が届かないよ」「チョット無理かな」「まあ仕方ない諦めて行こうよ」「待てよ。先っき柿を食べていた男いただろう。あの柿は多分、ここの柿だよ。彼が取れたのに我々に取れないはずがない。どこかに、棒か梯子があるに違いない」2人があたりを見回して探してみると、やはり近くの草むらに梯子があった。こうして2人は柿を取った。
(小話25)ある「老僧」の話・・・
昔、ある偉い人が山深い高名な寺に参拝に行った折りのこと。参拝を終えて帰ろうとしたとき、真夏の日照りの下で腰が曲がった一人の老僧が、椎茸(しいたけ)を干しているのに出会った。彼が同情して年を尋ねると68歳だという。「そんな仕事は若い者にまかせてはいかがですか?」と言うと、老僧は「他人にまかせたら自分がすることにならない」と答えた。そこで彼は「それはごもっともですが、何も老体にムチ打って、この暑い日盛りにしなくてもよろしいではありませんか」と言うと、老僧は「いや、椎茸(しいたけ)干しは日照りの時に限るのだ。この時をはずして、いつ干せようか」と答えた。彼は返す言葉もなかった。
(小話24)ある「贈り物」の話・・・
ある時、高名な哲学者の、よい評判をねたむあまり、その哲学者の面前で罵声を浴びせてののしる者がいた。しかし、いくら悪態をついても高名な哲学者は沈黙を守り平然としていた。彼が言い疲れた時、哲学者は「友よ、もし、人が贈り物を差し出して、それを受け取らなかったならば、その贈り物は誰に属するだろうか」と言った。彼は「それは贈り物を差し出した持ち主さ」と答えた。哲学者は「そうだ、そして今、君は私をののしった。私がその贈り物を受け取らなかったら、それは誰に属すだろうか」と問いかけた。この男は返答に困り、黙ってしまった。
(小話23-1)ある「僧と弟子」の話・・・
昔、ある僧が、弟子と二人で旅していると、召使いを連れた美しい娘が、にわか雨で泥水になった川の前で困っていた。これを見て僧はつかつかと娘に近寄り「さあ、お嬢さん、人助けは出家のつとめ、わしが渡してあげるから、この胸におつかまりなされ」と娘を抱きかかえると川を渡っていった。これを眺めていた弟子は面白くなく「邪淫戒といって、出家は女の髪の毛一本にも触れてはならない身なのに、娘を抱きかかえるとは・・」と先に行ってしまった。娘を渡し終えると、僧は先に行った弟子に追いついて言った「おいおい、わしをおいてきぼりにしてけしからんじゃないか」「師匠こそおかしいです。若い娘を抱きかかえるなんて」と弟子が言い返した。すると僧は「いやはや、これは驚いたわい。わしはとっくにあの娘のことなど忘れているのに、お前はまだ憶えているのか。あははは。お前も案外色好みじゃのう」
(小話23)ある「二人の兄弟」の話・・・
ある時、二人の兄弟が大きな河にさしかかり、向こう岸へ渡ろうとしたが、橋がなく困っていた。さいわい河岸に大きな丸太があったので、二人はそれに乗って無事に向こう岸に着いた。岸についてからも二人の兄弟がなお丸太をかついで歩いていると、道行く人々が「君たちは、どうしてそんなものを担いでいるのかね。用がすんだら河岸に置いておくものだよ」と忠告してくれた。二人の兄弟はハッと気づき「それはそうだ」と言って、わざわざ置きにいった。
(小話22)ある「女神」の話・・・
昔、一人の男が住んでいた。そして幸せになりたいと、毎日、神にむかって幸せになれるように祈っていた。その甲斐あって、ある夜、彼の家の戸口に「吉祥」という幸福の女神がやってきた。男は喜んで、家の中へ招き入れようとした。すると女神は「ちょっと待ってください。私には実の妹がいて、いつも一緒に旅をしているのです」と言って、後ろにいる妹を紹介した。男はその妹を見て驚いた。美しい姉とは裏腹に醜い女神ではないか。「本当に妹ですか」と言うと「実の妹で名を不幸の女神「黒耳」と申します」。そこで男は「あなただけこの家に入って、妹の方はお引き取り願いませんか」と頼んでみた。「それは無理な注文です。私たちはいつもこうして、一緒に連れ添わなければなりません。一人だけ置き去りにすることはできないのです」。男は困ってしまった。幸福の女神は「お困りなら、二人とも引き上げましょうか」と言う。男は途方に暮れてしまった。
(小話21)ある「三人の会話」の話・・・
偉い人が言った。「働かざる者は食うべからず」。すると一人の男が答えた。「それはおかしいですよ。それでは、働けない人は食っちゃいけないのですか?」すると、もう一人もうなずいて言った「働かないで食えりゃ、こんな幸せなことない。人間の基本的な要求は、もっと自由な時間が欲しい、ということで、スポーツや好きな趣味に没頭することが、人間の本来の仕事です。機械が人間に代わって働いてくれるなら、人間の労働時間は、もっと減らすべきで、機械はそのためにあり、又、文明の進歩もそにため意味があるのです。」