もぐもぐ、むちむち。ごっくん。

「うーん」

 甘いものは好きだ。
 しかし、一振りでの食事はなんとはなしに味気ない。
 御手杵おてぎねはへにゃりと眉尻を下げ、片手サイズの包みにみっちり詰まった大福を見下ろす。
 刀剣男士の肉体は仮初めだ、霊力さえ足りていれば器の維持に支障は無い。ただ、やはり仮初めであろうと人間同様の機能を備えてはいるので、食べないよりは食べた方が調子は良い。ともすれば沈みがちの気分を引き上げるのにもだ。

「……誰か誘うかぁ」

 この頃は食欲の失せる出来事続きなので、見つけた誰かが付き合ってくれるかは怪しいが。
 指先に残る片栗粉を軽く払い、片手に大福の包みを乗せたままで厨を出て廊下を歩いていく。
 頬を撫でる風は春に設定された景趣に相応しく、爛漫と咲き誇る花々の香りを乗せて鼻先に甘く、快い。
 いつもなら梅雨も終わり、そろそろ夏の景趣に切り替えようかという頃だ。歌仙兼定が常日頃から丹精込めて世話をしているだけあって、春の庭は四季の中でもいっとう華やかで目に楽しい。だが、季節が巡らないとなればその美しさも何処か色褪せて感じられる。本丸内の静寂も相まって、まるで時間の流れから取り残されたようだ。
 まあ、ここ最近は騒がしいとはそれ即ち内輪揉め発生中の意であるので、仲裁に回っている身としては静かな方がありがたかった。

「お、長谷部はせべ

 どちらかと言えば辛党だが、確か、甘いものもいける口だったはずだ。
 廊下の先で庭を見据えて厳しい表情で佇む長谷部は、けれど確実に聞こえていたはずの御手杵の声にも反応するそぶりを見せなかった。
 その視線の先にあるのは、普段、主が私的な空間として使っている離れだ。主不在でお役目がある訳でもないのに戦装束、腰には本体である刀。更には思い詰めた顔となれば、後は察して余りある。タイミングが良かったのか悪かったのか。
 自然と零れそうになるため息を、御手杵は大福を口に運ぶ事で飲み込んだ。甘味は正義。

「止めた方がいいぞー」
「っ」

 びくりと肩を跳ねさせ、長谷部が勢いよく振り向いた。
 抜刀姿勢なのはご愛嬌と受け流し、御手杵は大福片手に、反対の手にある包みを差し出す。

「長谷部も食うか?」

 がく、と分かりやすく脱力した長谷部が、ばつが悪そうに刀を死角に隠しながら「要らん」とそっぽを向く。
 そんな気はしていた。御手杵は肩を竦めて素直に包みを引っ込めた。

「あいつら容赦ないからな。博多はかた悲しませる真似はすんなよ」

 それでも釘を刺しておく事は忘れない。
 主不在の離れは、普段であれば誰かが出入りする事はない。しかし今回は事情が違った。

 現在、離れには"薬研藤四郎やげんとうしろう"が厳重に隔離封印されている。
 これについての詳細は知らされていないが、次郎太刀じろうたちがそうと決め、山姥切国広やまんばぎりくにひろが異を唱えていない以上、それは揺るがされざる本丸の決定事項だ。
 しかも、監視役の任にあたっているのが鯰尾なまずお骨喰ほねばみの二振りである。下手に近寄れば、問答無用で排除される事だろう。

「そんな事は分かっている! だがっ――……くそ、次郎太刀も次郎太刀だ! 主の護衛を仰せつかっておきながら、こんな失態を犯すなど……!」
「いやあ、あれは主の判断ミスだろ」
「貴様主を愚弄するか!?」
「うぇあ」

 藪蛇だったらしい。胸倉を掴んで揺さぶられながら、そう言えばへし切長谷部きりはせべってどの分霊も主への忠誠心が厚かったなぁ……とか思い出すが、もはや後の祭りである。いくら事実でも言い方がまずかったようだ。
 でもこのくらいでそんな怒らなくても良くないか? と遠い目で怒鳴り声を聞き流す御手杵の脳内で、イマジナリー主が「ですよねえ」と深々頷く。

「なにやってんだお前ら」
「! 同田貫どうだぬき……」

 御手杵はぎくりとした。長谷部の手が動揺で緩む。
 これ幸いと抜け出してそーっと振り返れば、あからさまに面倒くせえという顔をした同田貫正国どうだぬきまさくにと目が合う。答えず曖昧に笑う御手杵に、同田貫が半眼で呆れたふうに鼻を鳴らした。

「殴り合いすんなら軽傷までにしとけよ」
「そんな事はせん!」
「あんな激しいのはあいつら以外しないって」
「ならいいけどな」

 主に先んじて本丸に戻った次郎太刀と山姥切国広の大喧嘩は、誰の記憶にも新しい。
 殴る蹴る掴み合う投げ飛ばすは序の口で、突く折る抉る引き千切ると、もはや素手での殺し合いと言った方が適切なくらいには加減の見当たらない激しさだった。いっそ刀を抜いていた方が健全まである。
 最終的に数振りがかりで引き離したが、どちらも終始無言、発端についても口を割らなかったとあって、とにかくあの二振りについては寄せるな合わすな、が暗黙の了解となっていた。
 もうちょっと他にやりようはあっただろうに、戻って事態を知った主にどう釈明する気なんだろうか。
 考えるだけで心臓に悪い難問を意識的に思考から閉め出して、差し出された手に大福を乗せる。大口を開けて半分を頬張った同田貫が、険のある表情を緩めて喜色を浮かべた。

「はづみ屋の大福か」
「ああ。大福っていったらやっぱここだろ」
「だな。……茶と塩っ気も欲しくなってくんなぁ」
「茶はともかく塩っ気かあ。厨に煎餅か何か残ってたっけか……?」

 いつもなら本丸さんに頼めば何かしら出してくれるのだが、なにせ今は省エネ中である。
 本丸さんは土地に根差し、居住する者達と共生関係を結ぶ、迷い家マヨヒガと呼ばれる妖怪だ。己の領域内でどれだけ力を振るえるかは、根差す土地と、自身の契約者――審神者を供給源とする霊力が、どれだけ潤沢に使えるかにかかってくる。
 土地から汲み上げられる霊力には余剰が発生しない。本丸の隠蔽・隔離に対遡行軍用結界の維持にと用途が多岐に渡っているし、そもそも本丸は相模一国だけでも万単位存在しているのだ。無駄遣いできるような仕組みにはなっていないのである。
 日頃の生活が不自由なく回っているのは、から供給される霊力あっての事だ。
 しかし生命力とも密に繋がる霊力を無駄に浪費して、怪我を負っている主の回復に支障をきたす事があってはならない。なので本丸さんの手は借りずに生活を回しているのだが、手間の多い作業は忌避されがちなのが現状だった。料理はその最たるものである。外出した者がめいめい買い足してはいるが、手軽に食べられる菓子類が真っ先に消えていくのは必然と言えた。

「同田貫。……御手杵も」
「ん」
「どした? やっぱり大福食うか?」
「そうじゃない。……次郎太刀や青江あおえと親しいのだろう。聞いていないか。薬研が……今回の件について何か、言っていたりしないのかを」

 むっつりと難しい顔で、それでいて言い辛そうに視線を揺らして問う長谷部に、御手杵と同田貫は互いに目配せする。
 へし切長谷部と薬研藤四郎が、どちらも織田信長にゆかりのある刀である事は彼等とて知っていた。他の本丸では概ね仲良くやっているらしいが、なにせこの本丸の薬研はああである。交友の余地などあるはずもない。少なくとも御手杵の知る限りでは、長谷部が親しく付き合っているのも、同期で顕現した刀の他は博多や日本号にほんごうといった黒田ゆかりの刀のみだったはずだ。
 主の退院予定日まであまり日が無い。発言の意図によっては、早急な対応が必要になってくる訳だが。

「なんも。言ってたにしろ事が事だ。小夜さよならまだしも、俺らにまで下りてきやしねえよ」
「そうか……」
「ひょっとして長谷部、薬研の言い分聞きに行こうとしてたのか?」

 心なしか落胆した様子の長谷部へ、ぱっと思い付いた動機の中から勘で選んで投げかける。
 カマをかけるにしちゃ穏当すぎだと同田貫が目線で咎めてくるが、長谷部はむっつりしたまま「そうだ」と肯定を返した。

「あいつのした事は、決して許されることではない。だが! あいつはあいつなりの動機があったはずだ。それに耳を傾けずして、公平などとは到底言えん」

 率直な感情を滲ませた吐露に誤魔化しや、妙な含みは感じられない。
 道具に徹してきた薬研を、それでも同じ主を戴く仲間だと認識しているようだ。御手杵の脳裏を「俺が手塩にかけて育てたけんね」とドヤ顔で親指を立てた博多が過ぎっていく。
 白けた様子で無言のまま二つ目の大福を要求する同田貫に包みごと差し出し、御手杵はほっこり気分で長谷部の頭をわしゃわしゃ撫でる。

「長谷部はいい奴だなぁ~」
「おいやめ……待て止めろ今すぐ止めろ! その汚い手で頭を撫で回すな!」
「あっ忘れてた。ごめんなあ」

 慌てて手を離して謝る御手杵から顔を背け、長谷部が髪についた片栗粉を荒っぽい手つきで払い落とす。同田貫が指についたあんこを舐め、「て事はお前、薬研折るのに反対のクチか」と話題を戻した。

「勘違いするな。俺はただ、主の裁定にケチがつくような欠けを残しておきたくないだけだ」

 長谷部の回答は、やはり、動向を警戒する必要は無いと確信できるものだった。同じ結論に至ったらしい同田貫が「ふーん。えぇんじゃねぇの」とあからさまに興味の失せた相槌をうつ。
 自分で聞いておいてどうかと思うが、同田貫の気持ちも分からなくはない。御手杵は曖昧な微苦笑を浮かべた。
 長谷部の主張は、あくまでも主が元気で――少なくとも精神的には――戻る事が前提となってくる。
 ……現世の施設とあって一振りしか許されていない主の護衛は、本丸で唯一極のみだれと、もっとも足の速い博多が交代で務めている。関与する刀が極限まで絞られている上に、二振りが主の状態についてかたく口を閉ざしている事も、本丸内がピリピリしている一因だ。
 ただ何にせよ、離れへ行こうとしていた事については博多からも釘を刺しておいてもらった方がいいだろう。
 政府の報告書によれば、薬研藤四郎は刀剣男士からの逸脱、並びに完全変質が確認されている。
 この完全変質がどういったものなのかは分からないが、ロクでも無いモノに成ったのだろうな、というのは、隔離封印に青江や石切丸いしきりまるが駆り出されていた事から容易に予想ができた。鯰尾と骨喰の目を盗めたところで、今の薬研に話が通じるかは怪しいところだ。

「そういうお前たちはどうなんだ」

 長谷部の声音がにわかに尖った。同田貫が片眉をあげる。

「貴様も御手杵も、他人に口を出して回っているだろう。お節介を焼くのは結構だが、俺にそんな口を叩くのだ。さぞや高尚なご意見を持っているんだろうなぁ?」
「……へえ。まだまだケツの青いひよっこが、随分ナマ言うようになったじゃねえか」

 きょとんと瞬きする御手杵を置き去りに、同田貫が獰猛に笑う。

「じゃあ言ってやるよ。主に捨てられそうって時に薬研のオハナシなんざ、馬鹿らしくて付き合ってらんねぇってな!」
――貴様ァ!!」
「おわぁーっ!!!!!」

 抜刀しようとした長谷部を、慌てて羽交い締めにする。
 同田貫に食って掛かろうと暴れながら、長谷部が激昂して吼えた。

「主が俺達を……などと! きさま、貴様よくもそんなたわごとを――んグッ!」
「なんっでそれ言っちゃうんだよ正国まさくにぃ! 真実ほど他人を傷付けるもんは無いんだぞ!?」
「お前も大概だろ。ったく、だから分からせとけっつったんだよ」

 暴れる長谷部を練度差で強引に抑え込みついでに口も塞いで抗議する御手杵に、同田貫は忌々しそうに舌打ちした。身動きできない長谷部に、同田貫が指先を突き付ける。

「耳かっぽじって聞いとけへし公。俺らの主はあの通り危機感終わったクソ甘の大間抜けだが、命かかった場に情持ち込むほどヌルかねぇ」
「なぁ今の貶しなんで入れた? いらなかったのになんで入れた?」
「俺のお気持ち聞きてえっつったから叶えてやってんだろ。おらギネ、てめえも聞かれてんだろーが。言え」
「うぇええ俺もかよぉ」

 ついさっき怒らせたばかりの身としては、できれば言わずに終わらせたい。
 そろりと抑え込んでいる長谷部を見下ろしてみるも、当然、見えるのは煤色の髪だけだった。長谷部は分からないが、少なくとも同田貫は言わないと許してくれなさそうだ。最近ずっと機嫌が悪いので、最悪、手合わせという名の憂さ晴らしに延々突き合わされる羽目になる。御手杵は諦めた。

「えーっと、だな。外であれこれ危ないことに首突っ込んで回ってるのとか、命知らずに見えるだろ? でもあれ、先に面倒潰しとかないと、巻き込まれた時に手に負えなくなってるかも知れなくて心配だからやってるんだよ。目の届く範囲が安全でないと、気が抜けないみたいなんだよなあ」
「ま、あんだけ悪縁の引きが強けりゃな。ともかくだ。主は何かと危なっかしい上に死ぬような真似も平然とやらかすが、死ぬ気はまるで無いし、むしろ死なないために動いてんだよ。……これまではな」

 行き場のない憤りを孕んで、同田貫の声音が低く這う。

「その主が、ダチだろうが敵相手にてめえの命を差し出した」
『私、腹切るくらいなら刺し違えたい派なんですよね』

 昔、主が冗談めかして叩いた軽口を思い出す。
 は良い"主"で好い"人間"だ。顕現されてから日も浅く、人間というものについてよくよく知っているつもりでいた、あの頃から変わらずに。
 けれど、今にして思えば――先達の刀剣男士達と同じく。あの頃は主もまだ、取り繕うのが下手だった。

「今んとこ帰ってくる気はあるらしいけどな。戻ったその日に誰かしら使って自刃しようと、俺ァ別に驚かねえよ」
「俺は戻った足でそのままふらっと単騎出陣、の方がらしいと思うぞ」
「あ? あー……やるか。やるな……」

 あの頃。時折、ふいに彼等を見る眼差しへ兆した陰のくらさを覚えている。
 もっと早く。次郎太刀と同じとまではいかずとも、せめて小夜左文字さよさもんじと同期で顕現されていれば、何か、主にしてやれたのではないだろうか。詮無い考えだと自嘲して、すっかり静かになった長谷部の拘束を解く。

「うそだ」

 力なくその場にへたり込んで、呆然と、弱々しい声で長谷部が呻いた。

「何故――そんなばかな。あの、あのあるじがそのような……そうだ、ありえない。それが本当なら、お前たちはどうしてそんな平然としていられる……!」
「俺は斬れりゃあそれでいい。主が使わねえなら本霊に還るってだけだ」

 長谷部を見下ろして正反対に力強く、確固たる芯をもって同田貫が言い放つ。
 機能だけで語るなら、審神者はいくらだって替えが利く。
 主のことだ。自分がいなくなったとしても後任さえまっとうであれば、御手杵達が今まで通りに戦っていくと疑ってもいないのだろう。そういう人だ。そういう、とてもひどい人だ。

「どいつもこいつも武器の癖してうざってえ。そんなんばっかで主が可哀想だと思わねぇのかよ」

 苛立ちも露わに吐き捨てて、視線を上げた同田貫が心底嫌そうに顔を顰める。

「……おいギネ、ちょっとツラ貸せ」
「おぉ?」

 困惑しつつも近付けば、同田貫はピースサインを作って。

「その目うぜえ」


 さくっ


「ぉ゛ぎゃあああぁあああっ!?」

 突然の暴挙に、御手杵は目を抑えて転がり回った。

 ガヅッ

「○@×△*~~~!??!?!?」
「せいぜい考えとくこったな。自分がどうしたいのかってえのを」
「っ……」

 勢い余って舌も噛み、無言で更なる痛みに悶える御手杵をガン無視して同田貫は去っていった。
 ようやく痛みが落ち着いた頃に残っていたのは、その場に座り込んだまま、嗚咽を押し殺して泣く長谷部のみ。
 最悪である。「あんのやろ……!」と声を荒げ、けれど泣いている後輩を無視して同田貫を追いかける訳にもいかず、御手杵は苦渋の面持ちで長谷部の横にしゃがみ込んだ。

「悪い長谷部、あいつ最近ちょっと、いやちょっとじゃないな……とにかく苛々してるせいでいつもよりケンカっぱやくって……! 本っ当にすまん! でも悪い奴じゃないんだ。ええと、言葉選びは悪かったかも知れないけどその、決して長谷部を泣かせたかった訳じゃなくてだな……!」
「……の、か……」
「あ、悪い。よく聞こえなかった。もっかい言ってもらっていいか?」
「…………ほんとう、なの、か……? ……あるじが、俺たちを……――
「あー……いや、正国の言い方はだいぶ悪意あったと思うけどな? ただ、そもそも人間ってそういうもんだろ。後生大事に愛してくれたって、結局は俺達を置いていく。物と人じゃ生きる時間が違うから、仕方ないとは思うけどさぁ……」

 眉根を寄せてぼやきながら、長谷部の涙を袖で拭う。
 機能だけで語るなら、審神者と同じく刀剣男士も、いくらだって替えが利く。
 機能だけで語れないのは、審神者も刀剣男士も、心を持っているからだ。

「まあ、考えておいた方がいいとは思うぞ。うちの主はああだからな」

 分霊なんていくらでもいる。
 だからこそ、この身の主は一人でいい。
 他などいらないと思っているのは、同田貫だって同じなのだ。ああして貶しはすれども主が好きで、できるだけ、その心に添ってやりたいと考えている。
 その結果、主が死ぬことになったとしても。肩を並べた戦友達と、敵対することになったとしてもだ。

 生きている事が幸せだとは限らない。
 これから先も今まで通り、戦っていけるとは限らないのだから。

「部屋で休んだ方がいいぞ、長谷部。なんなら運ぼうか?」

 とうとう嗚咽を堪え切れなくなった長谷部が、真っ青な顔で「ながまささま」と誰かの名を呼ぶ。
 どれがまずかったかは分からないが、どうも心の柔らかいところを刺してしまった気がしてならない。罪悪感にしょげ返りながら、御手杵は止まりそうにもない涙に拭うのを諦めて、その背中をやさしく擦った。

「じ、ろぅ、たぢ、はっ」
「ああ」
「とめ゛、な゛ぃ゛っ……の、か。しょきとぅ゛、っ、だろ、ぅっ!」
「次郎さんかあ」

 涙にくぐもって震える声での問いに、御手杵は眉を下げ、口をもごつかせて言葉を探す。
 大抵飲んだくれている困った酔っぱらいではあるが、あっけらかんとしていて付き合いやすく、好ましい性質の同胞だ。共にくつわを並べて戦う仲間として、背中を預けるに不足はない。
 けれど。武器寄りだと自認する御手杵から見ても、あの大太刀は――
 続くその先を飲み込んで、御手杵は曖昧な微苦笑を浮かべておだやかに諭した。

「……あいつにそういうの、期待しない方がいいぜ?」


 ■  ■  ■




 カラスが哭いている。




 ■  ■  ■


 凪の時間と責め苦の時間は交互に来る。
 全体で見れば凪の時間の方が長くても、責め苦が軽くなった訳じゃない。
 自己嫌悪と自責と否定で頭の中が埋め尽くされ、ついでとばかりに過去の失敗や黒歴史までもがああだこうだと至らなさを責めてくるのだから、最悪ここに極まれりである。凪の平穏が安らかであるほど、その辛さは耐え難かった。

「ぅえ゛……っ…………、……ぁ……ぅ゛っ……」

 呼吸が苦しい。ぼたぼた滴る液体は、うすぎたない蛍光色に発光している。
 視界はずっときらきらぴかぴか赤、白、黒、肉色、青褪めた白、腐敗した緑に灰色でデコレーションされていて、目を開けても閉じても見えるものはひゅんひゅん目まぐるしく移り変わっていくのにどれもこれもぐちゃぐちゃで醜くてきもちわるい。
 鎮痛剤による感覚の鈍さが現実の実感を遠ざけていて、本当にあるのかないのか、今が朝なのか昼なのか夜なのか、生きているのか死んでいるのか、なにもかもが曖昧であやふやで意味が分からなくて、ただ、逃げられないという現実だけが目の前でずーっとぶらぶら揺れている。

 立ち直らなければいけないのは分かっていた。
 こんなところでいつまでも悲しんでいたってどうしようもない。時間は戻らないし嘆いて後悔してごめんなさいを何度も何度も何度も唱えて自分を責めていたところで、先輩は生き返らないし死んだのが無かった事になりはしないし、何もできなかった私の無能が帳消しになる訳でもない。
 烈水れっすいさんたちは待っててくれて、次郎さんはすごく怒っていて、薬研さんのことだって決めなきゃいけなくて、仕事はしなくちゃいけなくて、責任はとらないといけなくて、こんさんは休めっていってたけど敵はころさなきゃいけなくてでも人を殺すのはいけないことで遡行軍は人ではないので、ああでも誰かを救いたい生きていたいと思う気持ちは罪ではないのででもそのために過去をかえれば生きているはずだった人が死ぬのでやっぱりわるいことでじゃあそのわるいやつをころすことは

 きりちゃんせんぱいは、そんなにもわるいことをしましたか?

――――

 世界はぐるぐる回ってる。
 がちゃがちゃぎいぎい、があがあぎゃあぎゃあ。
 赤が流れる。赤が広がる。うぞうぞもぞもぞ、わきだす黒は虫のよう。寄り集まって蹴落とし合って罵りいがみ争って、ぶちぶち潰れて啄まれ、黒い蟲が燃えている。絶叫が不協和音の大合唱を奏でているのを、カラスたちが笑ってる。

 ひとをころすのはいけないことです。
 死なないために殺すことは、そんなにも悪いことですか。

 ひとでないものはころしたっていいのです。
 人の死ばかりが罪になるのは、ちっとも道理が通らない。

 わるいことはさばかれるべきです。
 それはいったい、誰が悪いと決めました?

 物分かりのいい顔で自分を騙して正当化して考えないで。結局のところ、居場所がなくなるのが怖かっただけ。殺されるのが嫌だっただけ。無価値になりたくなかっただけ。死にたくないから善人ヅラして、それが破綻したってだけ。
 どれだけ足掻いて頑張ったところで、目的地もやり方も間違えてるんじゃ単なる時間の無駄でしかない。
 さっさと死んでおけばよかった。こんなことになるなんて思ってなかった。自分を誤魔化して何が残った。死に場所ですら自分で決めさせて貰えなくなって、審神者を続けていくしか選択肢は残ってなくて、そのくせ――

「…………?」

 いつの間にかすぐそばに、私をうかがう影がいた。
 がちゃがちゃぎいぎい、があがあぎゃあぎゃあ。一面を鮮やかに照り返す赤を浴びながら、青くて黒い影はそこにいる。
 赤から生えてきたような影だった。近しいのだから入ってこれて当然だった。赤くて黒くて青いこだ。いくつもいくつも重ね合わせて融かして叩いて伸ばして混ぜて決められたとおりの形を作って固定して決められたとおりにきちんと注いできれいに塗ったはずなのに、どうしてだか不格好にできてしまった不憫なこ。

「■■■■■」

 影が音を出す。

「ひとりにしてって、いわなかったっけ」

 咎めたのは、ざらざらと耳に障る老婆の声だ。
 突き放した冷たい物言いは刺々しくて、私よりも小さな影がかわいそうだった。
 影はゆらゆら揺れている。ゆらゆら。ぐらぐら。老婆の声と違って、影の音はひそやかで静かで柔らかい。

「■■■■■、■■■」

「■■■、」

「■■■■■■……■■■■」

「■■■、■■■■」

「■■■■■■■■■■■■」

 わけがわからなかった。
 カラスたちは動こうとしない。ただじっと、身じろぎもせず群れを成して見ているだけだ。
 影がそうっと、まるで怖がらせるのを嫌うように、私へ手を差し伸べる。
 きらきらぴかぴかどろどろぐちゃぐちゃ。世界はぐるぐる廻ってて、何もかもが目まぐるしく変わっていくのに、影はいつまでも消えていかない。差し伸べられて、触れるよりも少し手前で留められた手をじっと見る。
 ひとりにして欲しかった。でも入ってきた。出ていく様子はない。差し伸べられた手はそのまま触れようともせず留まったままで、それ以上、何かしようともしてこない。

「なにがしたいの」
「■■■■■」

「どうしてほしいの」
「■■■■■」

「なにもできない」
「■■■■■」

「なんにものこってない」
「■■■■■」

「どうしろっての」
「■■■■■」

「……わかんないよ」
「■■■■■」

 律儀に影は音を重ねる。やさしく影が言葉を重ねる。
 意味が分からない。分かることができなかった。良いも悪いも置き去りで、ひたすらに困惑が募っていく。
 追い出すには罪が足りなかった。出て行けと拒絶するには衝動が欠けていた。なのでぼんやり見ていれば、小さな影の、差し伸べていた手が落ちる。
 諦めたのだろうか。影が、ごそごそとどこからともなく何かを取り出す。

「……?」

 出したのは旅行雑誌だった。どこから手に入れたのかも分からないそれを、小さな影は次々と赤と黒の上に広げていく。
 紙の束が世界を遮る。フタをする。現世のモノで埋まってく。不協和音の大合唱が遠くなる。使い込まれたもの。真新しいもの。付箋だらけのもの。古びたもの。ラインマーカーの引かれたもの。あちこちに書き込みのされたもの。
 ぱらぱらめくって楽しそうな写真の乗ったページを広げ、影が私を見上げて小首を傾げる。どこがいい? と。

「かえらなくて、いいの」

 影が頷く。

「……審神者、旅行できないよ?」

 任せろというように、影が胸を叩く。

「途中で置いてくかも」

 少し考えるようなそぶりをして、影は親指を立てた。

「だいじょうぶ、って……」

 何も大丈夫ではない。
 審神者の外出先は限定されている。演練場か、城下町か。あとは許可が出て政府の施設くらい。
 現世に旅行なんて、許可が下りるはずもないのだ。実家への帰省だって、手紙も、ハガキ一枚すら受け付けてもらえなかった。影が唇に人差し指をあてる。――黙って、こっそりやろう。

「あぁ……まあ、そうなる、ね…………?」

 許可が出ない事をやるなら、それはごくごく当たり前の選択だ。
 広げられた雑誌はどれも、色鮮やかで楽しげだ。京都の祇園祭特集、沖縄のマリンレジャー、大阪のグルメ、世界一有名なネズミでお馴染み夢の国に、屋久島の杉。有名どころから初めて知るところまで、行ってみたかったところに思い出深いところもある。
 ちょこちょこ歩きで集ってきたカラスたちが、めいめいに行くならここだと訴える。おススメが見当たらないのか、くちばしでページをめくって探そうと試みる者もいた。
 祇園祭特集の冊子が、数人がかりで端へ引きずって遠のけられる。あー、うん……そこは遊びにいく先じゃあないしな……。
 影を見る。影が私を見返している。せかすつもりも無いようだった。

「……見捨てていけばいいのに」

 前任が例外だっただけで、審神者なんて誰でもさして大差ない。
 人間に長らく愛されてきたモノ達だけあって、彼等はその本性と同じく、人としての器すらも美しい。
 誰であろうと愛するだろう。ともに過ごし、真剣に向き合うからこそ嫉妬やひいき、執着が入り混じって間違える事があろうとも、それでも愛し、大切にし、慈しむ。それが大多数の、私の見てきた"普通"の審神者達の在り方だ。

「殺し合いしてるんだから、そりゃ、命令には命かけてもらわないと困るけど。主だからって、刃生までかける義務なんて無いんだし」

 きっと、普通の審神者も揺らぐことはあるだろう。
 愛されたから愛したい。理解はできる。共感もある。だからといって、従順すぎるのも薄気味悪い事だから。
 だって、彼等は名だたる偉人に愛された刀達だ。それがこんな若くて殺し合いの下手くそな、戦のいろはも刀のことも覚束ないような女に従ってくれる方がおかしいのである。
 それは本当に彼等へ宿った心なのか。励起する側の作為が混じってはいなかっただろうか。人間側に、あまりにも都合が良すぎはしないだろうか。そこに選択肢はあっただろうか。本当に刀剣男士が主へと向ける情を、愛と呼んでいいのだろうか。
 誰しもが抱くその疑念を否定できない時点で、私は前任者よりマシなだけのハズレだった。

「何もこんな、刀剣男士を――……」

 言葉が喉につっかえる。
 何、だろうか。……何、だっただろうか。

 ■■■る。

 ■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。■■■る。

 そこにあったはずの感情はぐちゃぐちゃに塗り潰されていて、自分のものだったはずなのに、下にあるはずの何かがどうにも判然としない。
 ハズレだろうと審神者をしてきたのだ。模範解答は心得ている。愛してる、が正解のはずだった。
 自分の本丸ばかりでなく、外に出て不在本丸や、いろいろな本丸の刀剣男士とも関わってきた。
 同じ刀の分霊でも、顕現してからの過ごし方で随分と差が出る。立派な刀もいれば外道に堕ちた刀もいて、けれど全体として見れば、刀剣男士は人間よりもはるかに優しく、まっとうな者の方が多数派だ。
 私の刀剣男士達だって、みんな親切にしてくれている。前任から引継いだ刀とは確かに最初は色々あって、けれどしかたないなと許したのも、背負っていくのだと定めた気持ちにも嘘は無い。

 私の指揮で、私の為に、私の下で死んでくれる刀達。

 愛しているべきだった。
 愛せていなければならなかった。

 私が死なせた。折れて二度と戻らなかった。処分させた。殺した。
 本丸を引継ぐ時だって守ってくれた。異論を抑えて口添えしてくれた。居させてくれた。歩み寄ってくれた。生かしておいてくれた。危険を知らせてくれた。優しくしてくれた。仕事をさせてくれた。助けてくれた。追いかけてきてくれた。心配してくれた。約束してくれた。戦うすべを与えてくれた。認めてくれた。殺し方を教えてくれた。
 私のために捧げさせた命はとっくに数え切れないほどになっていて、仰々しく飾り立てられた特等席に、私が直接手掛けたモノたちの首が並んでる。

 愛してる。






 ほんとうに?






 ――パァンッ!

「ッ」

 嘲りとも憐みともつかない問いを掻き消して、鼻先で柏手が鳴った。
 そこで初めて、自分が呼吸を止めていた事に気付く。至近距離に迫った影が、安堵を瞳に滲ませた。

――……」

 呼吸させようとするなら、効率的なやり方なんていくらでもある。
 なのに、あえてまだるっこしい手段を選んだ。心から案じていたのに、触れようとはしなかった。私が嫌がるかもしれなかったから。
 ほっとした様子で身を引こうとする影を追いかけたのは、ほとんど無意識の行為だった。
 ギプスに固められた役立たずの両腕が、支えになるはずもない。バランスを崩して前のめりに倒れる私を、小さい割に頼りなさとは無縁の身体が受け止めた。吸い込まれるように、ぽすり、と肩に頭が収まる。
 暖かかった。人間と同じで、私よりも少し高い体温の熱。
 身体の端々から、こわばりがゆるゆると溶け出ていくようだった。
 肺が、呼吸を取り戻していく。初めてのことを習うように、影のひそやかな呼吸を手本に同じリズムで息を吸い、吐く。
 そうやって同じリズムで呼吸していると、おずおずとした動きで、影が頬をすり寄せてくる。
 同じように、頬を寄せる。ぴったりとくっついてじっとしていると、胸の奥底に凝ったものが、少しずつ鎮まっていくようだった。

「……さよ」
「うん」
「小夜、左文字」
「うん」
「小夜。……小夜」
「うん」

 応える声は静謐で、夜闇のようによく馴染む。

「……なんだろ。なんか、いろいろ分かんなくなっちゃった」
「そう。なら、そのままでもいいんじゃないかな」
「いいのかな」
「いいよ。僕はそれでいいと思う」
「本丸、帰れなくても?」
「あなたに必要なのは休息だ。それを苦痛だと思うなら、本丸に帰るべきじゃない」

 囁きかけられる言葉は、何処までもやわらかくてあたたかい。
 捨て値程度の価値すら無くて、だから審神者としても役に立たなくて、捨てた方がよっぽど良くて、なのに優しくされている。
 わけが分からなかった。何も返せないのは分かり切ってるはずなのに。だけどもう、なんだってよかった。

「次郎さんに、嫌われちゃったかなぁ……」

 審神者として最悪の間違いを犯して、ひどい醜態を晒した。全部勝手になげうった。怒らせた。
 それでもきっと、一緒に死んではくれるだろう。約束だから。
 つくづく私はどうしようもない。
 自嘲に口元が歪む。大切にされるのも必要とされるのも、あくまでも私が審神者で、主だからだ。それ以外の何物でもあるはずがない。審神者失格なら当然、そうしてもらう資格も無い。
 分かっているのに手を離せないでいるのだから、嫌われてしまって当然だった。
 弱くて醜くて自分勝手。どれだけ取り繕ったところで底の浅さは見え透いていて、だから薬研さんが死なせてくれなかったのだって、つまりはそこらへんで一人きり、無様に野垂れ死んでいるのがお似合いだって事なんだろう。

「……行き先が決まらないなら、相模遊郭に滞在する手配をしておくよ。本丸の方もどうにかしておくから、安心して休んでいて」

 そっと身を引いて微笑んだ小夜が、「これを」と私の膝に短刀を置く。
 自分の延長のようだった薬研さんではない。カラスたちと限りなく近しい、同類の気配を纏った小夜自身。

 赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒赤黒。

 世界はぐるぐる回ってる。
 現世のモノでフタをして。それでも皆、世界の何処かで生まれ来る。
 カラスたちが笑ってる。善哉、善哉と笑ってる。
 一緒においでと笑ってる。おなじであることを願われていた。
 一緒にいこうと笑ってる。おなじであることを望まれていた。

「心配いらない。僕は、薬研とは違う」

 目を合わせて、小夜は語る。優しい口調で。慈しみを込めて。愛おしげに。
 顔立ちが違った。色が違った。声が違った。刀派が違った。相手が違った。状況が違った。だというのに、重なるところなんて何一つ無いはずなのに――その表情は、どうしようもなく想起させる。思い出させる。今でも記憶に鮮やかな、鋼の棺の白雪姫。私が最初に殺した刀剣男士。

「僕はあなたの復讐の刃。あなたが呑み込んできた、胸の奥の黒い澱み」

 “死んでしまえ、呪われろ”。

 誇りでもって否定した。同じ場所まで堕ちたりしないと。
 今もそう。誰かのせいであるはずがない。罪も、咎も。私が自分で背負うべきものだった。
 だから死ぬべきなのも、呪われるべきなのも。責めを負うべきは私の、はずで。
 耳の奥。うそつきと、いつかの私が笑ってる。
 記憶の片隅に押し込めていたって、とっくの昔に知っていた。あのろくでなしな前任と、自分が大差ないなんて。
 望んで何もかも置いてきた訳じゃない。憎かった。怨めしかった。呪ってやりたかった。私をこんな目に合わせたやつら。こんなところに放り込んだやつら。
 内情を知って、個人的に付き合いのある職員も増えて、話の分かる人もいるんだと実感できたところで、審神者など消耗品だと言わんばかりな時の政府の対応全部が帳消しになる訳じゃない。
 先輩の信濃藤四郎と対峙して、歴史を改変する行為を否定しきれなくなったとしても、こんな戦争を引き起こして、平穏に生きていけたはずの今日を奪われてきた事実が帳消しになる訳じゃない。

「たくさん休んで、元気になったら」

 許した。担った。多くを知った。呑み込んだ。
 妥協しながら選んでいくのが人生で、どれだけ必死で足掻いたところで、取り零すものは必ずあって。
 審神者になった事だって同じのはずで。どれだけ愚かな間違いだったとしても、それは自分で選んだ道で。
 ああ。でも。あの日、訪ねてきた政府の誰かを招き入れたのは。……本当に、自分の意志だった?

「あなたが憎いものすべてに。僕と、復讐を果たしに行こう」

 否定は、できなかった。




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