返り血が、ぴ、と頬に跳んで肌を汚す。
絶叫する“三日月宗近”の腹を蹴りつけて、小夜が私の前に立つ。
顕現を解かれた三日月さんが、からん、と乾いた音を立てて地面に転がった。
「、下がって」
囁くような声で、抜き身の短刀を構えたまま、小夜が警告する。
それに無言で頷いて、後ずさりした。薬研さんの柄にかけた手はそのままだ。
与えられたのは軽傷だ。出血こそ派手だが、顕現入れ替え、なんて無茶振りからの迎撃である。三日月さんの与えたダメージと合わせて考えて、せいぜい中傷ってとこか。
正直ほんとギリギリでした、はい。肝冷えたよ超怖い。もうやらん。
「顔! 私の顔が! 顔がァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
斬り付けられた顔面を、袖で覆って発狂する“三日月宗近”。
その様子に頬が引き攣る。
……あっこれ盛大に地雷踏んだパターン?
しまった、銃兵刀装持ち込んどくんだった。生け捕りもう諦めた方が良さそう。
迷ったのは数瞬。ぴたり、と動きを止めた“三日月宗近”が、覆い隠した顔を露わにした。
爛々と、赤く輝く双眸。
土気色の肌。
醜悪に顔を歪ませて、“三日月宗近”を装った“ソレ”が、憎々しげに私を睨んだ。
「――覚エテおレ、女ァ……!」
吐き捨てて、獣染みた跳躍力で“ソレ”が路地の奥へと消える。
肌を重く突き刺す殺気が霧散した。無意識に詰めていた息を、ゆるゆると吐く。
保険かけといてよかった……! やべーわあれ三日月さんだけだったら死んでたわやべぇ。
顕現してなきゃ刀剣男士内緒で持ち込める事、知らなかったら詰みだったな。
「、今の……」
「ああ。……あの顔は、小狐丸、だよねぇ……」
険しい表情の小夜に相槌を打ちながら、抜き身の薬研さんを鞘に収めて仕舞い直す。
“三日月宗近”の姿を模してはいたが――あれは確かに、小狐丸だった。
肌の色死人みたいだったけど。あと目ぇ完全にイっちゃってたけど!
やだーああいう病み加減すごい覚えがあるーやだー超やだー。またブラック案件的なアレなんです? っていうかなんで小狐丸が三日月さんのフリしてるんです? わけがわからないよ。
でも恨み買ったのだけは確定っていうね。つらい。
「……ん? 着信きてたんだ」
携帯を確認する。不在着信一件。一虎さんからだ。
留守録は無し。折り返しての連絡を入れれば、繋がるのはすぐだった。
『ボス! 無事だったか!』
「ええまぁ。……何かありましたか」
『そりゃあ良かったぜ! ボスのチームの連中に連絡入れても繋がらねぇから、あのモヤシ共ケツまくって逃げたんじゃねぇかってえ話してたところだ――あああああウルセェびーびー喚くな!
てめぇ男だろうがタマついてんのか!!』
一虎さんが、携帯の向こうにいる誰かに怒鳴る。
耳を澄ませなくても聞こえてくるのは、どんがらがっしゃーん、という派手な物音。悲鳴と破壊音、啜り泣き、罵声と怒号。それらが混沌とミックスされて、BGMのように響いていた。
……あーうん。私以外と連絡つかないのかー。そりゃたいへんだー。どうしたんだろー。
「一虎さん、ミケさんのチームとの連絡は?」
『あ゛? ……ああ、ミケんとこは今こっち向かってるな。
連理の旦那はもうこっちだが、人手がいるならオレか旦那が行くぜ?』
「いや、人手はいいです」
長居は無用だ。小夜と目線を交わし、三日月さんを拾って路地を出る。
携帯の向こうからのBGMは途切れる様子も無い。「許して助けて」「おかあちゃーん!」って命乞いしてるみたいな悲鳴が聞こえてるんですがね。え、なにこれ闇金の取立てかなにか?
「……手は空きましたし、他の二人拾ってそっちへ合流しますよ。
それで、何か収穫はありましたか? やけに騒がしいみたいですけど」
『ああ、それか』
一虎さんが、忌々しげに鼻を鳴らした。
待って今「首落ちて死ね」って聞こえたぞ。死人出して無いよなマジで。
『刀剣男士の不法売買してる連中引っ掛けてな。今、ぶちのめしてるところだ』
……。
…………うん?
■ ■ ■
同じチームだった審神者達は、どうもあの“三日月宗近”の瘴気? にあてられたらしい。
片や失神、片や恐慌状態で逃亡していた二名を見つけて宥めすかして各々の本丸へ帰らせ、なんとか一虎さん達と合流したのは、あらかた事が片付いた後だった。
まぁ回収時間かかったし、小夜も「三日月じゃ頼りない」って交代渋ってたから致し方ないね。
納得させたけど。顕現解除による近侍の途中交換とか、普通に法の隙間を縫うグレーゾーンだからね。目撃者もいない事だし、正式に禁止事項になるまでは使い回していきたいところ。
「一虎、派手にやったねぇー」
「ったりめぇだ。道理も分からねぇクズに手加減してやる義理はねえ」
「五虎退や山伏国広ならまだしも、長曽祢虎徹、明石国行、江雪左文字……!?
嘘でしょ、なんでレア刀がこんなにゴロゴロしてるのよ!」
「主、こっちにもいたよー」
気絶した店員連中を椅子代わりにして寛ぐ一虎さん、にこにこ笑って気にも留めないミケさん。
その向こうではミケさんグループだった女審神者の唯織さんが、店内のあちこちから未顕現の刀剣をかき集めて回りながら頭を抱えていた。そんな彼女に声を掛けながら、唯織さんの近侍である大和守が、一虎さんの鶴丸国永が豪快に剥がしていった床板の下から、刀剣をせっせと運び出している。
あー、うん。とりあえず死人は出てなかった。
怪我人は出たけど、まぁ命に別状は無いし問題無いはず。たぶん。
「連続失踪事件の犯人は、これらで間違いないだろうな。叩いた分だけ埃の出そうな連中だ」
「一番の問題は、行方の知れない審神者達ですね。……どれだけが無事でいる事やら」
城下町の噂の一つ、“刀剣男士を売買する店”。
一虎さんとミケさんが店員をぎゅうぎゅうに締め上げた結果、結構あっさり何をしていたのか吐いてくれたそうだ。
まず術を使って未熟な、あるいは隙のある審神者を浚って人質にし、近侍は刀へ戻して商品に。
審神者は地下の粗悪な鍛刀場でひたすら鍛刀させて刀剣を降ろさせ、抵抗したり、疲労で使えなくなった頃に適当に危険度の高いブラック本丸に突っ込んで処分、という行為を繰り返していたらしい。
刀剣男士相手に、よくもまぁこんな商売やろうって気になったもんだ。
儲かれば神様だろうが叩き売りとか、まじでこの世は地獄だな。
踏み込んだ時、地下の鍛刀場で暴行の痕まみれな状態で保護された審神者も複数名いたそうだ。
今ここにいるメンバー以外は、現在彼等を城下町の医者の所へ搬送中との事。無事だった審神者や刀剣男士から、消えた審神者達の行方について少しでも手掛かりが掴めればいいんだけど。
「やあやあ皆さん、獅子奮迅の活躍でしたな!」
上機嫌を絵に描いたような満面の笑みで、ダークスーツの男が颯爽と踏み入ってきた。
胸には金バッジ。失踪事件の解決を依頼しに来た、政府の議員である。その後ろに付き従うように歩いているのは、神経質そうな男審神者さん。……あの人一虎さんグループじゃなかったっけか。
姿見ないから、てっきり医者に付き添いしていった組だと思ってたんだけど。
連絡でも入れさせたのかと一虎さんを伺えば、一虎さんは議員さんに心の奥底から嫌そーな、分かり易い渋面を向けていた。連理さんも冷ややかな目だ。あっこれは独断専行の予感。
敵では無かったからだろう。近侍の刀剣男士達が、刀の柄に手を添えたままに緊張を緩める。
「彼からすべて聞かせてもらったよ。城下の警吏が手こずった事件をこうも鮮やかに解決してしまうとは、いやはや、さすが名の通った審神者の方々は解決が早い!」
「なに、僕らは至極当然の事をしたまでですよ」
気安く肩を叩かれている男審神者さんが、涼しい顔で胸を張った。
嫌そうな一虎さんの顔には、何言ってんだこいつ、とでかでか書いてあった。ミケさんはほっぺをハムスターのように膨らませてプルプルしている。刀集めに勤しんでいた唯織さんはいつの間にか手を止め、男審神者さんを軽蔑しきった顔で見ていた。わぁ、みんな隠す気ゼロー。
連理さんがものすごく白けた様子で、「なんだあの金魚の糞は」と呟く。
「すべて聞いた、なんて随分と不思議な話やなぁ。
あのお人、自分ら来た時にはもうおらんかったのに」
連理さんの近侍である明石国行のさして小さくもない独り言は、残念ながら議員の耳には届かなかったらしい。
満面の笑みで私の手を両手で握り締め、ぶんぶんと上下に振りながらまくし立てる。
「聞いたよ! 我が身の危険も顧みず、囮役を買って出てくれた、と!
いやはや、素晴らしい自己犠牲の精神だ! 国のため、民のため、ここまで献身できる女性はなかなかいるものではないよ、君! 大和撫子、真の賢女とは君のような女性のことをいうのだろうね! これからも正しい歴史のため、尽くしてくれたまえ!」
ごめんちょっと心底意味が分かりませんね。
いや囮役は言いだしっぺがやらんで誰がやるのかと。
それに歴史のためとか国のためとか、ぶっちゃけそんな大義名分掲げて戦った事一度も無いんですが。あと仮にも乙女の手を無遠慮に握った挙句振り回すの止めてくれませんか心底不快。
ミケさんが膝から崩れ落ちて笑いを堪えるのを視界の端に収めながら、「それはどうも」と適当に返事をして両手を引き抜いた。……後で石鹸で洗おう。
「あとの事は僕らに任せてもらいましょう。
皆さんは、ゆっくり身体を休めて頂いて構いませんよ」
顔布をした男達がぞろぞろと入ってくる。
男審神者さんが室内をゆっくりと見渡し、最後に私を見て、勝ち誇った顔で笑う。
……あ、うん。そういう事? そういや会議でも一物含んだ目で見ていらっしゃいましたね。
納得した。名声とか名誉とか、そういうものが大好きな人か。
「ちょっと、あん――モガッ!?」
「まーまー。唯織ちゃんクールクールぅー」
ミケさんが唯織さんの口を、笑いを噛み殺しながら塞ぐ。
んー……、どうしようかね。ここの囮担当だったの一虎さんだし、一番文句言う権利あるとしたら一虎さんなんだけども。一虎さんにアイコンタクトを取れば、嫌そうな顔のまま、私を見て頷いた。
私に対応丸投げですかい。……あー……。……じゃあまぁ、いいか。
「それでは、後の事はお願いします。
保護した審神者達は医者に連れて行きましたから、そちらの対応もお任せしますね」
「あ゛!? おいボス、マジか!?」
私が抗議するのを想定していたらしい。一虎さんが驚いたように叫ぶ。
議員さんはご機嫌顔だった。事件解決に浮かれきっているのが見て取れる。
一虎さんの声も耳に入っていないらしい。楽しそうで何よりですね。
「うむ。報酬に関しては、また後ほど見合う物を贈らせて頂こう」
「そうですね。それに関しては、事後の経緯と合わせてまた後日という事で。
――では、私達はお先に失礼させて頂きます」
「……ふむ。では、失礼」
「俺もかーえろっ。一虎もかえろー」
「ああクソ、分かったよ! おらついでだ、帰るぞ唯織!」
「ちょっとぉおお! なんで私まで一緒に帰る流れになってるのよー!?」
■ ■ ■
例え夜になろうとも、城下町の表通りから灯りが消える事は無い。
生活スタイルが昼夜逆転の審神者もいるからか、はたまた人ではないモノ達をも客としているからか。
何にせよ、便利な事に変わりは無い。常春のように過ごしやすい城下の気候もまた然り、だ。
「でぇ? ボス。なんであいつの好きにさせやがった」
城下町の酒場、和風に整えられたオープンテラスにて。
だんっ! とビールジョッキを机に叩き付け、じろりと一虎さんが私を睨む。
その横では「なんで私まで」とぶちぶち言いながら、唯織さんが大和守安定と一緒に枝豆をひたすら皮むきしている。そう言いながら来る辺り、唯織さんも思うところがあったんだろう。
保護された審神者達を医者へ送り届けていったメンバーにも声掛けたけど、あの人達はげっそりした顔でそのまま本丸帰ってったし。うん、ほんとお疲れ様です。
「なんで、と言われましても。
あの程度の手柄で後始末全部してくれるなら、むしろ安いな、と思ったので。
……というか、腹立ったなら別にあの場で言っても良かったんですよ?」
「ボスが許してるっつーのに、オレが口出しできる訳ねぇだろうが……」
心底不服そうな顔でそうぼやいて、一虎さんは乱暴に頭を掻いた。まぁ丸投げしたしな。
お猪口を黙々と干していた連理さんが、皮肉っぽく笑う。
「苛立つ必要もあるまい。あれらの後始末、あの青二才の手には負えん。
後から泣き喚いて悔いる様が目に浮かぶわ」
「私としては頑張って欲しいですけどね。連隊戦まで日がありませんし」
三日月さん達新参組、もうちょい練度上げないとおちおち留守番も任せておけないし。
消えた審神者の捜索と保護が主になるだろうけど、店の制圧と違って一朝一夕で片付く案件じゃないからなぁ。
あの議員が連れてた人員と救出やるとしても、果たしてどれだけかかる事やら。
「無理だと思うなー。こんなスピード解決するの、想定外だったろうしー。
たぶん、あっちこっちから難癖吹っ掛けられると思うよー?」
「? ちょっと待ちなさいよ。難癖って、なんの話してるのよ」
「あ゛? 何って、顧客の話だろ? 事が刀剣男士の売買だ。政府内部にも後ろ盾いんだろ」
「ふん。あの青二才、行方知れずになった審神者の割り出しだけでも手こずりそうではあるがね」
「っ私、いまからでも戻って――」
「行ってもムダだと思うよー。あいつプライドちょうたっかいしー。
むしろ意地でも頼まなくなると思うなー?」
「そんな……っ!」
のんびりとしたミケさんの言葉に、立ち上がりかけた姿勢のまま、唯織さんがぐしゃりと顔を歪めた。
トマトサラダを突きながら、「首突っ込むなら、個別であの議員さんに志願した方が早いと思いますよ」と告げておく。圧力掛かる気はするけど。
ブラック本丸、元ブラック本丸の存在は、政府としても頭の痛い問題だろう。
それを“運悪く”浚われた審神者達が改善してくれるなら御の字であるし、この売買の後ろ盾をしていた連中にしてみれば、死んでもらった方が、事態を追及する人間が減るので面倒も少ない。事態の解決を遅らせるために、まぁ確実に圧力掛けるよねっていう。どの程度影響力あるかは知らんけど。
のほほんとした様子で、ミケさんが「てゆーかーさー」と首を捻って一虎さんのビール瓶を掠め取る。
「囮に引っ掛かるのが早かったのは、運としてもさー。
情報の集まり方がねー。なーんかおかしかったんだよねー?」
ビール瓶に焼酎とウイスキーをぶち込みながらの発言に、連理さんがお猪口を置いて顎を撫でた。
横合いから裾を引かれる。視線をやれば、メニュー表片手に三日月さんがきらっきらしたお目々でこちらを見ていた。わぁい純真無垢なお子様の眼差しでいらっしゃいますね。最高レアの威厳は何処に。
「……何でしょうかね三日月さん」
「主や、俺はこの季節のふるーつとあいす盛り合わせでらっくすひまらや山脈あげあげまっくす極限もりぱふぇが気になるのだが。頼んでも良いか?」
「えー……いいですけど、一人で完食できます? これめちゃくちゃ大きそうですけど」
「! うむ、俺は一人でもできるぞ!」
「ならいいですけど。――すいませーん、チャレンジメニューのデカ盛りパフェ一つー!」
「パフェ……」
「ちゃれんじめにぅ」
「なぁに安定、あんたも食べたいの?」
「国永ァ、気になんならてめぇも挑戦してみっかあ?」
頭を寄せ合ってメニューを覗き込み、あれやこれやと選び始めたのを呆れ混じりに眺めやりながら連理さんが無言で田楽をつつく。MIX酒の入ったビール瓶を、ミケさんがさり気なく一虎さんの方へと押しやった。
一虎さんはと言えば、気付いた様子も無く店員にデカ盛りパフェを追加で頼んでいる。あっ鶴丸めっちゃ気にしてる。ミケさんの作ったMIX酒ちらっちら見てる。付喪神だし、度数濃くてもまぁ問題無いとは思うけど大丈夫かあれ。
「ミケの言、一理あるな。あの店、寸前まで営業していたにしては少しばかり小奇麗に過ぎた」
「あ゛ー……? そういや、制圧も楽だったな。抵抗が薄いっつーか弱いっつーか……」
「……ねえ、やだ。ちょっと待ってよ。それじゃあの店、なんかの罠ってこと?」
「少なくとも押収された刀剣の数、それに地下の鍛刀所の様子を見る限り、実際に取引があったのも、あそこを使ってたのも確かだとは思いますけど……」
互いに顔を見合わせ、首を捻る。
……おかしいな。一応犯人検挙したはずなのに、謎が増えるとはこれ如何に。
謎といえば、まだ他にもある。
「“一人、主を訪ねて彷徨う三日月宗近”」
「あ゛?」
「――に、会ったんですよね。一虎さんから連絡入ってた時に」
「わぁーお! あれもただのウワサじゃなかったんだー」
「……その三日月がなんなのよ?」
「いや、それがやたらと禍々しい三日月でして。
噂通り主を探して彷徨ってたんですけど……出会い頭に斬りかかられたんですよね。
あの三日月も何か関わりあるのかな、と」
まぁ、別件の可能性も濃厚なんだけど。
主を探しているのは確かみたいだし、ひょっとして浚われた審神者の刀剣男士、とか?
それなら、あの病み具合も分からなくはない、けど。
三日月の話題に、机を囲んだ面々の視線が私の隣に集中する。
なお、見られている当の本人はにっこりご機嫌顔で漬物とご飯を頬張っていた。いやさっきデカ盛りパフェ頼んでましたよね三日月さん。入るの? 食べ過ぎの腹痛で手入れはやりたくないですよ?
「うぅーん、取っ掛かりなさげだよねぇー。
消えた審神者の行方探すより、よっぽど楽しそーなのになー」
「あんたねぇ、面白そうとかそういう問題?」
「あはは、唯織ちゃんスマイルスマイル! 笑った方が可愛いよー?」
「……確か、鈴の奴が霊媒ではありませんでしたかな?」
「ああ、霊能系の技能持ちだったか。あいつ使えば、なんか分かるんじゃねぇの」
「だといいんですけどね」
鈴さんは、演練場の一件以降仲を深めた女性職員さんだ。
どんな技能なのかまでは知らないが、ただ頭を捻っているよりは遥かにマシだろう。
で、それも気になるところではあるけども。
「ミケさん。今回の連続失踪事件って、解決に乗り出した審神者については噂になってる?」
「んー? まだ日も浅いし、特になってはないけどー?」
「そっか。じゃあ、噂にしてもらう事ってできる? ブラック本丸に放り込まれた審神者が複数いる事まで含めて、その救出の為に私達が情報を欲しがってる、ってな具合で」
ミケさんが、きょとん、と瞬きをする。
私の顔をまじまじと見詰めて――にまぁ、とチェシャ猫のように笑った。
「ん、ふふ、ふふふっ! おっけーボス、まっかせてー!」
「おや。悪巧みですかな、総大将殿」
「ただの保険ですよ、ただの」
この手の後始末は、たらい回しになればなるほど難易度が上がるものである。
それを思えば保険の一つや二つはかけておいて損はないだろう。できれば不必要な保険になって欲しいところだけど、あれっこれデスマ追加される系のフラグじゃね? うっわめんどい。
ありそうな未来予想図に溜息をつく私とは対照的に、楽しそうに連理さんがお猪口を煽った。
「近々、またひと暴れできそうですなぁ」
「……勘弁してください」
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