本日のー。
突撃☆審神者の晩御飯メンバー(予想)はこちらー。
「歌仙さんとにっかりさんか……」
次郎さんと戻りの時間が重なってるから、負傷者確認したら報告兼ねての晩御飯だなこりゃ。本日の出陣遠征スケジュールと睨めっこしながら零した言葉に、書類の添削をしていたこんさんが時計を確認する。
「歌仙兼定様がいらっしゃるのですか。では、早めに準備にかかる必要がございますね」
「舌肥えてるからな歌仙さん……ねぇこんさんあの人ほんとに刀剣? 調理器具の間違いじゃなくって?」
「皆様、以前の使い手の影響を色濃く受けておいでですので。
あの方の主であった細川忠興様も、食には煩い御仁であったそうですし」
「畜生あのヤンギレ大名負の遺産残しやがって……」
「でもお好きですよね、殿」
「それはそれ、これはこれ」
多少は歴史も嗜んでおりましてな……ガラシャ様肝太すぎマジ惚れる。
戦国武将は単体よりも夫婦セットの方が好きです鬼蛇夫婦いいよ鬼蛇夫婦。まぁそんな昔話突っ込んで語ってもらえるほど歌仙さんと仲良くないけどな! 大体仕事の話しかしないし。
だがその仕事すら円滑に進んでないってどういう事なの……ああああああまた政府から嫌味言われるぅうう……退職という逃げ道すらないとか考えると本気で胃が痛い……考えても仕方ないんだけど。
刀剣の友好度ってどう上げるの? そもそもマイナス値から変動するの? あれって固定じゃないの?
必要以外離れで引きこもってるのも変動しない一因だろうけど、いつあいつらの気が変わってぶった斬られるか分かったもんじゃないからな。資材と霊力カツカツだけど、それでも一応本丸回ってるんだからメンタルケアとかどうだっていいじゃない。信頼とかクソなのです。でも過労かストレスで死んだら絶対審神者勧誘崇り倒して妨害の限りを尽くしてくれるからな覚えてろよ役人共。
「まぁいいや、早めに用意しちゃおう。手抜きすると歌仙さんがめんどい」
深々溜息ついて食材の目利きを申し出られたり手抜き指摘された時のイラッと感半端ない。
文句あるなら本邸で飯作って食ってろこちとら好きで招いてねーよ次郎さんが連れてくるから仕方なしに飯出してんだよ空気読め。って言いたいけど言えないこの腹立たしさよ……。
にっかりさんだけなら楽なんだけどな……あの人なんでも文句言わずに食べるから。何出しても「美味しいねえ」としか言わないけど、好き嫌いが無いのかそもそもこだわりが無いのか。
次郎さんはお酒に合えば何でもいいっぽいけど。
机の上を簡単に整理して片付け、タスキ掛けして土間に降りる。
慣れたもので、既に本丸さんが食材を並べてくれていた。
「ありがとねー、本丸さん。今の旬のものは……お、もう枝豆出てるんだ。次郎さん喜ぶね」
普段はあんまり頓着しないけど、次郎さんがお客さんを連れてくる夕食に関してだけは、旬の食材を使うと決めている。お供えものって言ったら初物、これ基本な。まぁ本丸内だと四季ガン無視でぽこぽこ食材生えるんだけど、ある程度出すべきものが決まってた方がメニューも考えやすい。
大根とトウモロコシとゴボウが並んで畑に植わってたのは地味にシュールだったなあ……刀剣の畑だし別にいいけども。私あそこらへんノータッチだし。
「筍の時期も、そろそろ終わりでございますね」
「だね。食卓が一番季節感あるなー……さて、若竹煮にしようかタケノコご飯にするか……」
「! 筍ご飯でございますか!」
「ああ、こんさんタケノコご飯好きだっけ。じゃあそっちにしよっか」
「よろしいのですか!?」
「いいよ、私もタケノコご飯好きだもん。
いつもこんさんには助けてもらってるしね、油揚げ多めで作っちゃおう!
メインはそれとして、枝豆は……次郎さんは茹でた枝豆でもいいけど、歌仙さん達の分はひと手間かけた方がいいよね。枝豆のスープ、は思いっきり洋食か。炒め物か和え物か……思い切ってずんだ餡にでも加工してデザートにしちゃう? 本丸さんは何がいいと思う?」
下処理しておいたタケノコを短冊切りにしながら問えば、ぽ、と現れた花びらが不自然にひらひらと流れていく。
目線だけでその動きを追えば、机の上に出された天ぷら粉へとたどり着いた。
「そっか、かき揚げ。
季節の山菜も一緒に揚げればそれなりに豪華になるね、さすが本丸さん!」
ぶわわっと桜が咲き乱れた。本丸さんったら得意げ可愛い!
お料理私より上手だからなー。一緒に厨房立つの楽しいけど、書類仕事山積みだからできれば食事の準備、本丸さんにお任せしちゃいたいんだよね。でもそれやると霊力消費がな……今でもギリギリで回してるから、節約できるところは節約しないと真面目に霊力消費マッハで衰弱死しかねん。電化製品一切ないから、どうしたって洗濯とか竈の火の調節とかは本丸さん頼りになるし、でも電化製品入れてもここ電気通ってないから結局稼働させるのに余計霊力必要になるし……刀装製作と手入れが最大の消耗理由だなぁ。
原因がどうあがいても刀剣男士。あいつらほんとめんどい。
「筍ご飯に山菜のかき揚げ、となると山の幸で統一した方がよろしいでしょうね。
後はゼンマイの白和えなどいかがでしょう」
「ん、それにしよっか。あ、でもお豆腐あったっけ……こないだ湯豆腐で全部食べちゃったような気がする。
本丸さん、お豆腐残ってる?」
ひらひらと、咲いた桜が落ちてきた。
「おっけ、じゃあもう一品は白和えにしよう。汁物はどうしよっかなー。
椎茸あるし、三つ葉に卵足してお吸い物にでもしちゃおっか」
「味見はお任せください、殿」
「頼りにしてまーす。デザートは今日のおやつの残りでいいかなぁ」
「ああ、枇杷ヨウカンでございますね。しかし、あまり量は残っておりませんが……」
「んー、刀剣に出す分あればいいかなって。いいよね? こんさん、本丸さん」
「そうですね。お八つで充分頂きましたので」
本丸さんも同意見のようだ。咲いた桜がひらりと落ちる。
でも微妙にしおれてるな……ちょっと残念なんだね本丸さん。
うん、あれ美味しくできたもんね。気持ちは分かる。
「まぁまぁ本丸さん、まだビワの季節は終わらないからまた作ろうよ。今度はパン生地にアンコ練り込んでさ、ビワ包んで焼いたら菓子パン風で結構美味しいんじゃないかと思ってるんだけど」
「殿はチャレンジャーでいらっしゃいますね」
「インスピレーションって大事だよね! こんさんも食べてくれるでしょ?」
「ええ。たとえ食べれないものであっても、殿のお作りになったものであれば喜んで」
「こんさんったら男前! でも無理して食べなくてもいいからね?」
作ったものは責任もって処分しますとも。
最近胃の容量減ったみたいで、すぐにおなかいっぱいになっちゃうけど。
切った具材を研いだお米と一緒に釜に放り込み、だしにみりん、醤油を計量しながら投入。
「はじめちょろちょろなかぱっぱー、じゅうじゅうふいたら火を消してー赤子泣いてもフタ取るなー♪」
ばーいおいしいごはんの炊き方ソング。あとは本丸さんにお任せっと。
「――。殿、政府より緊急の連絡が入ったようです」
「え、緊急? ちょっと待って。本丸さん、火の加減お願いねー」
枝豆を入れた鍋を火にかけ、手を拭いて土間から上がる。
机に置きっぱなしの端末が、さっさと気付けと言わんばかりにぺかぺか光っていた。
はいはい今出ますよーっと。
「えーっと、……全審神者への通達? 戦況に何か変化でもあったかな」
「穏やかでありませんね。何事でしょうか」
「待って、今読み上げる。『全審神者へ緊急通達。歴史遡行に際し、新たな敵・検非違使の出現を確認。感知網構築の為、“こんのすけ”を一時帰還させるものとする』……えっこんさん現世に戻るの!? どのくらい!?!」
「一時帰還ですので、長くはかからないと思いますが……『検非違使に遭遇した審神者は、至急報告を上げられたし』、とは。よほどの強敵、という事でしょうか」
「いやそっちはどうでもいい。うわ、そっか。こんさん出掛けちゃうのかぁ……」
感知網構築とか、どうあがいても一日二日では終わらなさそう。書類仕事は……一応なんとかなるか。でも、癒しが足りない日々が始まるなぁ……心のオアシスが本丸さんオンリーになっちゃうじゃないですかやだー。
次郎さん? あれは癒しじゃないよ。ただの手のかかる酔いどれだよ。ほぼ常時酒入ってるからなあの人。
「できるだけすぐに戻りますゆえ、あまり気を落とされませんよう……」
「うん……あ、そうだ。晩ご飯どうする? 食べてから行く?」
「そうですね……筍ご飯でございますし、できれば食べていきたいのですが。お待ちください、伺いを立ててみます」
あらぬ方向をじっと見つめ、何やら頷いたり首を振って見せるこんさん。どうやってお伺いするのかと思ったけど、そんな手段でいいのか。猫とかそういう仕草するよね。あれもひょっとして何か交信してるのかな。
てしてしと畳を叩いていた尻尾が、とても悲しげにくたりと垂れた。
あっこれは無理だったっぽい。
「即時帰還するように、と主からも命令がございました……」
「そっかー……じゃあ仕方無いね。ちょっと待ってて」
大判のハンカチを引っ張り出して土間へとって返し、小ぶりのタッパーに枇杷ヨウカンを詰める。刀剣に出す分無くなったけど、適当にカットフルーツでも出せばなんとでもなるでしょ。
「お待たせこんさん! 戻るのならこれお土産。ご主人によろしくね」
「ありがとうございます。では殿、本丸さん、申し訳ございませんが、しばし留守に致します」
「行ってらっしゃい、こんさん。早く戻ってきてね!」
ひらひら、と桜の花びらが舞う。
背中にハンカチで包んだタッパーを背負って、こんさんはぺこり、とお辞儀した。
「はい。……行って参ります」
■ ■ ■
晩ご飯を作り終われば、後はいつも通り、出陣遠征陣が戻るまで書類仕事だ。
検非違使だか何だか知らないが、指揮権の無い審神者はただの後方支援要員でしかない。となれば、刀剣のいない時にやる事といえば家事か書類仕事だけ。でもやる気出ない。
頬杖をついて半分以上白い現状報告の書類を眺めながら、意味も無くボールペンをひたすらカチカチしてみる。
「……こんさん帰ってきたら、お稲荷さん作ろっか。とびっきり美味しいやつ」
ひら、と咲いた桜の花が落ちてくる。
「じゃ、しばらく特訓だね。こんさん、お稲荷さんの味付けに関してはすごい評価が辛いから」
お稲荷さんの味付けには妥協しないからね、狐だけに。
本丸さんですら、未だにこんさんの納得できるお稲荷さんの味には到達できてないし。
ぽぽぽぽぽっ! と勢いよく咲いた桜が落ちてくる。
「そうだね、こんさんだってまっしぐら! なくらい美味しいお稲荷さん目指しちゃおう」
ひらひらと舞う桜の花びらを、ボールぺンを放り出して両手に受ける。
触れた先から光の粒になって解けていく花びら。へにゃ、とだらしなく顔が緩む。
――ガンガンガンッ!
「ふぉあっ!?」
思わず奇声が飛び出た。
「! 僕だ、にっかり青江だ! 急いで来てくれないか!」
「……青江さん?」
珍しいな、あの人にしては随分と荒い。ちら、と時計を確認すれば、既に戻りの時間だったようだ。
しまったな、出迎えに行くのうっかり忘れてた。でも一体どうしたんだろ。
首を傾げながら、急かすようにして勢いよく叩かれる玄関を開ける。
ぐるん、と視界が回った。えっなんで私抱えあげられてるん。そのまま駆け出すのに困惑しながら、行き場のない手をにっかりさんの背中に添える。俵担ぎっておなかにダメージくるね!
「あの、青江さん? 何かあったんですか?」
「第一部隊が全員重傷で戻った!」
「じゅうしょう……重傷!? 今日のメンバーは練度高かったはずですよ! それが全員ですか!?」
次郎さんまだ練度低いけど、他はさんざ出陣しまくってた組だぞ練度結構高いぞ!?
原因は何だ、また無茶な進軍でもしたのか!? っていうか、全員!?!
――『歴史遡行に際し、新たな敵・検非違使の出現を確認』――
混乱する脳裏をふっとよぎっていく、政府からの緊急通達。
まさか、いやでもこのタイミング……だとしたらフラグ回収早すぎるだろ、検非違使さん。
めんどくさい事に、なりそうだ。
BACK / TOP / NEXT