▼ おめでとう! デスマーチ は なかま を よんだ!


 審神者生活三ヶ月。
 なんでや……なんでデスマーチが倒せないんや……なんで書類仕事ばっかりひたすら溜まっていくんや……! おかしいなぁおかしいなぁー、私そんな書類仕事遅い方じゃないと思ってたんだけどなー、こんさんにも手伝って(※口頭アドバイス)もらいながらせっせと片付けてるんだけどなー、なのになんで終わらないのかなー。

「……こんさん、おやすみほしいね……」
「……そうですね、殿……」

 こんさんの毛並みも、おかげでめっきり艶が落ちてしまいましてな……。
 最近は息抜き代わりにもふもふするんじゃなくて、ブラッシングするばかりの日々です。
 休んでいいのよって言っても付き合ってくれるこんさんほんと愛しい。
 うん、ほんと……ほんとすまぬ……デスマ終わらないつらい。週休二日制は幻想なのです……一週間は月月火水木金金なのです……二十四時間審神者に休みはないのです……最近気絶するように寝オチしてばっかだわつらい。にんげんっていがいとしなないね。
 ぐるりと回した首が、ごきばきとやたらイイ音を立てて鳴る。
 ため息をついてぐっと伸びをすれば、少しだけ身体の疲れが緩和された気がした。
 ひら、と桜の花びらが落ちてくる。机に視線を戻せばなんということでしょう!
 一瞬で整理整頓されたその上に、三人分のおやつの用意が!

「おや、もうそのような時間でしたか」
「やった、今日はわらび餅! 本丸さん愛してる!」

 黒塗りの器に盛りつけられた中から、何もかかっていないものを引き寄せる。
 得意そうにふわふわ舞い散る満開の桜。審神者のアイドル兼嫁、マヨヒガこと本丸さんは今日も気遣い力がEXだぜ! うちの本丸さんが可愛くて死ねる!
 異端かも知れないけど私はわらび餅は素のまま頂く派である。きなこも黒蜜もいらんのです。ほんのり甘く透き通った味わいがたまらぬ。洋菓子もいいけど和菓子もいいよね! ちなみに本丸さんの和菓子は絶品です。
 着々と私の好みの味付けを把握して料理に反映させてくとかね、本丸さんまじ私の嫁。
 みんなで頂きますと手を合わせ、ひとときのほんわか休憩タイム。

「あまぁーいぃ……おいしぃー……いやされるぅー……」
「疲れた身体に染み渡りますねぇ……」

 あ、こんさん口元にきなこついてる。あとで拭いてあげよ。

「休憩もいいけど、ほんとお休みほしいねぇ……週休二日とは言わないから、日曜日が切実に欲しい」
「そうですね。刀剣男士の皆様が休んでくだされば、こちらも休めるのですが……」
「次郎さんすらその辺り分かって無いんだよね……。
 話題に出してみたら、休みたいなら休めばいいじゃないかって言われた……」

 うん、ジェネレーションギャップだね。
 私が付き合いあるのが基本的に戦国組なせいだとは思うけど、あいつらの言う休み=盆暮れ正月疑惑が限りなく濃厚。本気出して仕事の合間に本漁ってみたらね、江戸時代辺りになると一ヶ月の中でもうちょい休みが発生していたっぽいんだけどね。その辺りのメンバーってモロ私を敵視してる組なんだよね。
 新撰組面子には敵視しか向けられた覚えないですあいつらこわい。
 刀剣の性質なのか、出陣ダイスキーな仕事中毒気質も関係してるんだろうけど。
 なんなの出陣強制してないのに嬉々として自分達で部隊組んで意気揚々と毎日敵部隊狩りしてくるとかあいつらマゾなの? 前任者に酷使されて癖になったの? 次郎さんも戦うのは好きみたいだしほんともう刀剣男士理解できない。おまえら出陣する以上報告書は発生するんですよ? 報告書上げないと資材もお給料も入らないんですよ? 誰が書類捌いてると思ってるの? 最近政府職員さんに出陣回数と負傷の多さについてやんわり釘刺されたからね? メンタルケアも審神者の仕事のうちなんだって政府職員さんは仰るんですよ?
 このやり場のない怒りをどうすればいい。

「……部隊編成の都合上、常に何人かは本丸で居残りしてますからね。
 彼等にとっては、それが実質休暇のようなものなのでしょう」
「くっそ羨ましいです畜生あの呑んだくれめ足の小指強打して悶絶して苦しめばいい」
「いっそ彼等に書類仕事のやり方を仕込みますか? 歌仙兼定かせんかねさだ様などは、覚えるのも早そうですが」
「あの人頭良さそうだもんね……でも無理。絶対一日二日じゃ仕込み終わらないでしょ? こんさんのアシスト無しとか書類の進行更に遅れるし、そもそも刀剣男士と同じ空間で書類仕事とかほんと勘弁して欲しい」

 歩み寄ってくれてる方だけどね、歌仙さん。
 少なくとも仕事仲間的な意味ではまだ良好な関係を築けてると思ってる。
 でもこんさんほど気を許せるかっていうとそれは別な話な訳で。それならまだ次郎さん仕込むわ。仕事中でもへべれけになってるイメージしかないから論外だけどな!

「手入れ回数さえ減れば、まだ楽ができるんだろうけど……」

 一応霊力さえ送っとけば自動お手入れできるんだけどね。
 でも、私がやると手入れ時間半分で終わるんだよね……手伝い札がいっぱいあればいいんだけど、手入れで拘束時間長いの嫌らしくって、うん、お前がやれってされるね。
 でも不思議な事に、怪我するメンバーって敵意満々な奴か目が死んでるのばっかりでな……!
 ちょうきまずいつらいくうきおもい。あっ思い出したら胃が痛くなってきた。

「……殿の指揮に、耳を傾けて下さいませんからね」
「指示聞かないのはもういいよ。でも刀装剥がれた上に負傷して帰ってくるのほんとやめてほしい」
「練度が高い方々ですからね……資材収支の採算が合う程度には働いて頂きたいものですが」
「主要任務とか日課で入る資材、あっという間に溶けちゃうもんね……本丸さんの資材フォローすら間に合わないし……せめて退却指示聞いてくれればいいんだけど」

 本丸には、戦況を見れる鏡がある。
 戦なんて知らない審神者に配慮してなのか、ゲーム画面風なのがなんとも虚しい気分になる仕様のアレだ。
 その辺り本丸さんに聞いたらやたらリアルグロな戦場に切り替わって、うん、お察しくださいな事になりましたが致し方あるまいだよ……リアルすぷらったはSAN値削るなぁ……はい苦い思い出です。蜻蛉切とんぼきりさんと歌仙さんに女性には辛いだろう的な労わりされた。発言は優しいけど指揮官として戦力外通知された訳である。審神者敵視組のリアクションは思い出したくもないな! ここまでくると戻すのも癪だからそのままにしてあるけども。
 たまに見て慣れる努力はしてるんだよ……こんさんと陣形ちゃんとお勉強してるんだよ……指示出す努力はしてるんだよ……聞く耳ないから心折れてそっと仕舞い込み、また何日かして再チャレンジするのが定番になりつつあるけどな。退却指示は時々聞いてくれるけど、それも出陣メンバーによるからね。あんまり口挟むと難癖付けて殺しにくる気がしてならない今日この頃。
 でもおまえら偵察したら陣形作って頼むから。見るたび見るたび囲まれて乱戦状態とか。
 だから怪我多いんだよ私の指示聞かなくていいからせめて陣形作ろうぜ。

「遠征もなぁ……成功してるはずなのに、メンバーによっては資材持って帰ってきてくれないし」
「出陣回数の割に、刀剣のドロップが無いのも異常ですよ。隠匿か、あえて拾わないでいるとしか思えません」
「いや、そっちは別にどうでもいい。今いるのだけで手いっぱい。これ以上要らない」
「ですが、ドロップ刀ならば確実に殿の味方ですよ? 刀解すれば、些少ではありますが資材となります」
「こんさんったら合理主義!
 うん、心配してくれて嬉しいけど、その辺りの話題は地雷臭しかしないから、できるだけ突かないでおきたいかな」

 次郎さんも、この件について何も言わないからね。藪蛇は嫌だ。
 ず、とお茶を啜って息をつく。しかし、考えてもどうにもならない問題ばっかだなぁ……でも解決しないといけないんだよなぁ……めんどい。解決しないと現状も良くならないんだけど。

「ごちそうさま、本丸さん。美味しかったよ!」
「……殿、それだけでよろしいのですか? おかわりなどは……」
「ううん、いいよ。美味しいけど、そんなおなか減ってないし」
「ですが、殿は本丸に来てからというもの、お痩せになる一方でございます。
 ただでさえ手入れでの霊力消費が多いのですから、少しでも多くお食べになるべきです」
「うー……でもほんと、おなか減らないんだよね……」

 寝オチしての睡眠時間は増える一方なんだけどな!
 だからよけい書類仕事片付かないループ入ってるんだけども。でも寝ても疲労感抜けたことないっていうね。
 ぺた、と自分の頬を触る。あんまり痩せた実感はない。胸に手をあててみる。
 ブラのカップ数が変動した覚えはない。うん非常事態用のカロリータンクは万全だな!
 胸に夢が詰まってるとかね、男の幻想だよ。ここには脂肪が詰まってるんだよ。ただの肉の塊だよ。フラット系な服の方が好きだから、半分くらいには減っていいと思ってるんだが。無い物ほど欲しくなる不思議。
 おなかに手をあてる。うん、やっぱ肉が……

「あれ」

 おかしいな、摘まんだ感触が圧倒的に皮。
 そろ、と膝立ちになってお尻に手を回してみる。うん。…………うん?

殿、どうかなさいましたか?」
「いやちょっと最近ズボン履いてないなって気付いたんで」

 一日中仕事してるからね。朝から晩まで巫女服でいて、私服とかほんと着た覚えない。
 手早く巫女服を脱いで、ジーンズに足を通す。
 ボタンを掛けてチャックを上げ、手を離してすとーん。

「…………」

 ズボンを上げる。

 すとーん。

 上げる。

 すとーん。

「………………………ええええええええええええええええええー……」

 やばい冷や汗とまらない。いちおう乙女としては下半身細くなったの嬉しいけど!
 私まだここ来て三ヶ月! 三ヶ月だからね!?
 あと私もともとそこまで太くない方だぞ! そりゃ細身ってわけじゃあないけど、それでも健康的な標準体重範囲内を維持してたからね!? 私どれだけ体重減ったの!? 怖い! 体重計乗れない怖い! こんな恐怖は知りたくなかったよ!? どうりでパンツ緩いと思ってた! ゴム伸びたんじゃなくってサイズダウンしてんじゃん! 何故下から減ったし! 上からならまだ気付きやすかったはずなのに! 普通胸から痩せるんじゃないのか!

「……おかわり、いかがですか?」

 愕然とする私に、こんさんが優しく声をかけてくれた。
 そうだね。これはたべないといけない系だね。食欲薄い割に睡眠欲多い現状は衰弱死ルートだね。
 OK理解した審神者業まじブラック。

「…………本丸さん、おかわり頂戴。黒蜜たっぷりで」

 ひら、と桜の花びらが落ちてきた。
 死亡フラグが埋没式になってるとか、ほんとめんどくさつらい。




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