▼ は お守り【極】 を発見した!
万屋覗いてみたらこんなんありましたー。
うん、当然のように一人で来たよ。案外目立たないもんだよね!
国広さん? 冷静になると同時にダッシュで逃げてゆきましたが何か。
イケメンの恥じらい顔+首まで真っ赤とかね。こっちまで恥ずかしくなるよね。
まぁ一人になった後で敗北感に打ちひしがれたわけですが。
なんだあの圧倒的女子力と色気。太刀打ちできる気がしねーぞイケメン怖い。
色気は諦めるとしても、女子力で劣るとか顔面偏差値で負けるより屈辱的なんですが。
なんだ私には恥じらいが足りないって言いたいのか。畜生イケメンなんぞみんな掘られてしまうがいい。ただし合意に限る。でないとまた新たなブラック本丸が誕生しちゃうからな! 痴情の縺れ怖い。
「はい、一期のお守り! もう絶対に壊さないでね! 約束だよ?」
「拝領します。ですが、その約束は致しかねますな」
「どうして? わたし、もう、あんな思いは……っ!」
正直、全員が納得してて合意の上なら、乱交しても問題はないと思うんだよね。
遡れば性交渉が神聖なお務めだった時代もある訳ですし? 現代でも性魔術って形で残ってますし? 本来は神からの恩恵を人間に受け渡す、そのための儀式が性交渉だったはずだから、人間でなく人外と交わる行為がどこまでセーフかは分からないけど。
「――貴女を守るのは私でありたいのです。いけませんかな?」
「……ばか、一期のばかぁ……!」
「お許しください、主……」
「試す訳にもいかないからなぁ……」
理屈だけなら、正しく行えば妖怪寄りの刀剣男士の霊格に神の恩恵をプラスする訳だから、審神者との性交渉は、刀剣男士の霊格を引き上げるんじゃないかと思うんだけどね。
神の恩恵を降ろすとなると、性別問わず審神者が女役なのは確定として。
で、地母神系列なら女性上位になるから、あー……審神者が主導権握ってないとまずい、か?
女の性質は基本的には陰に属するから、妖怪相手って事考えるとヘマ踏んだ時点で妖怪化するか眷属にされるか……男なら基本性質は陽だけど、相反する性質を求めるのは本能だからなー……あれ、男でも女でも結局やばい? なんにせよ、正式なやり方なんて知らないから全部推論になる訳だけども、刀剣男士との性交渉って実質どんなもん双方に影響あるんだろうね。
知的好奇心が疼きよる。これがゲームか何かなら嬉々として追及するところなんだが。
……いや、たぶん刀剣とそういう仲の審神者って絶対いるよね?
各本丸にこんさんはいる訳だし、前任者みたいなのも世の中にはいる事だし。暇ができたらデータもらえないかな、集計してみたい。……刀剣男士には絶対バラせないな。結構悪趣味な自覚はある。でも気になる。
審神者側からすれば、リスクヘッジ的観点から超絶お役立ち情報になるだろうけど。
「……主。自分以外に、そのような顔をなさってはなりませんぞ?」
「ふぁ!? い、一期、か、顔、ちかい……っ!」
「約束して下さいますな、主……?」
しかし一度だけ破壊を防ぐってのは身代わり人形みたいなもんって納得できるとしても、生命力全回復っていうのがよく分からんな。まぁいいか、とりあえず三つ残ってるから全部買っとこう。
「すいませーん、これくださーい」
「毎度ありー」
とりあえず後ろでイチャつく主従は目立ってるって自覚あるのかね。
いやー恋に一直線ですねー。あの審神者ちゃん女子高生くらいかなー若いってすごいよねー(棒) 異類婚姻譚は古典ひも解いてみればこの国じゃ珍しくないし、合意なら好きにすればいいんじゃね。
……私は結婚どころか恋愛すらできない気がするなぁ……なんだろうね、この落差。
「か、からかわないでよ一期ってば!」
「おや、心外ですな。私は真面目ですぞ?」
はいはい末爆末爆。
■ ■ ■
で、お守り【極】を手に入れた訳ですが効果の程については正直半信半疑な訳で。
……どうしたもんかな。なんにせよメンバー選出で行き詰る。
「んー……遠征、かぁ……」
短時間遠征って基本、短刀脇差指定だからなー……。
今動けるメンバーでまだ難易度低そうなのは共依存脇差コンビなんだよね。
あの二人なら審神者嫌いな他短刀ズと違って、きちんと資材持って帰ってきてくれるだろうし。問題は私のメンタルだけか。あの常時二人の世界構築してる連中に話通じるのかな。
そもそもまともに会話した覚えがないとか、不安しかないわ。
「……腹括るっきゃないか」
今まではにっかりさんとか薬研さんとか次郎さんが部隊編成してくれてたけど、それも本来なら、私がしないといけない仕事だ。現状頼りになるメンバーが動けない今、頑張るしかないだろう。
国広さん? さっきの今で頼るのはね、ちょっとなぁ……(遠い目)
重い足を引きずりながら、本丸さんの道案内を辿っていく。
ひら、と一つの部屋の前で消える花びら。
「案内ありがと、本丸さん。……あの二人って、同室者いたりする?」
散った桜が落ちてきた。否定。
二体一……いや、本丸さんいるから二体二だな。相手に加勢する第三者がいない分、まだマシだと思っておこう。ひらひらと、応援するように桜の花びらが舞い落ちる。それに苦笑気味に頷いて、深呼吸をした。
「――鯰尾さん、骨喰さん。審神者ですが、不躾ながらお願いしたい事があって参りました。聞いて頂けますか?」
襖が開く気配はない。
ただ、寝ている訳ではないようだ。
向こう側で、何かを囁き合うような声が漏れ聞こえてくる。
内容はよく分からない。……どうせろくな内容じゃないなんだろうなー。
この二人敵意は向けてこないけど審神者とか眼中にないって感じだもんなー、仲間相手ですら話しかけてもノーリアクションとか多いもんなー……にっかりさんとか歌仙さんとかよくスルーされてたもんね。なんだこいつ邪魔すんじゃねーよ空気読め的な内容で悪口言われてるんだろうか。どうしようネガティブな想像しか浮かばない。被害妄想入ってる気はするけども。既にメンタル折れそうなんだけど帰っていい? 駄目だよね知ってる。めんどい。
「既にご存じかとは思いますが、現在資材が足りず、負傷者を治す事がままならない状況にあります。しかし、新たに出現した敵に関しては情報が少なく、出陣や遠征がおぼつかない有様です。
……脇差のお二方なら身も軽く、隠れる事にも長けている。
敵に遭遇したとしても、無事に逃げおおせる可能性が高い。危険なのは分かっていますが、お願いです。
資材を集めるため、どうか、遠征にご協力願えないでしょうか……?」
囁き声が止まった。
耳を澄ませてみるも、返ってくるのは沈黙ばかりだ。
……あー……ノーリアクション? 私のお願いってばスルーされてる?
罵倒とか嫌味が返ってくるよりはいいけど、これはこれで心が痛いなー……まぁ予想の範囲内ではあるけども。迷ってるとかなら嬉しいんだけどな。楽観はしない方がいいかな。
「鯰尾さん、骨喰さん。……お願いします。私に、力を貸しては下さいませんか」
襖の前で、深々と頭を下げる。
沈黙。反応はない。
……これは駄目っぽいな。無駄足か。
内心で落胆しながら、次に頼む相手を考える。駄目元で短刀ズ頼ってみようかな。
負傷組は内三名が粟田口仲間な兄弟刀だし、一人くらいは協力してくれるはず。……はず。
断言できないのが辛いなぁ……。憂鬱な気分で溜息をつく。
「……申し訳ありません、不躾なお願いでした。では、しつれ」
勢いよく腕を掴まれた。
反応する間も無く、部屋の中へと引きずり込まれる。
ぐるんと回る視界で、再度襖が閉まるのが見えた。畳の上へと引き倒される。
背中がじぃんと痺れて、息が詰まった。衝撃に無言で悶絶していると、反対側の腕が掴まれる。
……あれっ。これ、結構やばくね?
薄暗い部屋。天井を背景に、近距離で覗き込んでくるのは共依存脇差コンビだ。
両側から畳に腕を縫い止められ、二人がかりで顔を寄せられているこの状況に、嫌な汗が背筋を流れる。
やばい次郎さんの時より危機感あるけど逃げられる気がしない……!
やめろ左右から足絡めて圧し掛かってくるな身動き取れないだろうが畜生! 何が地雷だったんだよこいつら! 逃がす気ゼロじゃないですか超やだぁあああー!
覗き込んできた鯰尾さんの顔が、ぐぅっと近付く。
鼻先が触れ合い、互いの吐息がかかる距離。
さらさらと流れる艶やかな黒髪が、頬をくすぐっていく。
「……ねぇ。俺、必要?」
囁きのような、呟きのような言葉が降る。
初めて至近距離で見る鯰尾さんの面差しは、他の刀剣男士の例に漏れずに美しい。
少年特有の、何処か女性的なまろみを帯びた、中性的な美貌。
綺麗なんだろうな、と思う――澱んだ沼底から、犠牲者を物色するような悍ましい目さえしていなければ。
目を背けたくなる衝動を堪え、肯定を返す。
「はい。必要です」
じわり、じわりと這い登ってくるのは得体の知れない恐怖だ。
泣き叫んで、この場から今すぐ逃げ出したくなる。
けど、それはたぶん、悪手だ。
「助けて欲しい?」
「はい。助けて欲しいです」
「俺に?」
「はい」
「俺に?」
「はい」
「俺に?」
「はい」
「そっか。俺に、俺に。俺に、かぁ……」
鯰尾さんが笑う。
蕩けるような、ひどく幸福そうな。
恍惚と、した顔だった。
ぞぉ、と血の気が引く。視線を逸らさなかった事を後悔した。
グズグズに溶けきって滴る水飴みたいな、粘性を帯びた視線が胸焼けする甘さを含む。
こつり、と額が触れ合った。唇が掠める距離。目を閉じる事さえできなかった。
鯰尾さんの手が腕を這い上り、手へと触れる。てのひらをなぞり、指を絡め、執拗に、形を確かめるように指の腹でいっぽんいっぽん、爪先から付け根までを撫で擦る。
「――鯰尾」
平坦な声が、鯰尾さんの名を呼んだ。
鯰尾さんの動きが止まる。
至近距離にあった、顔が離れた。
鯰尾さんが、慈愛に満ちた微笑みで骨喰さんへと視線を移す。
つられて視線を移すして、後悔した。薄暗い淵から、じっとりとねめつけるような、それでいて縋り付いてくるような、そんな目で、骨喰さんはこちらを見ていた。逃げたい。
「俺は、必要か」
「うん、そうだよね。骨喰も、いりますよね? ね?」
薄暗い部屋の中、奇妙に底光りして見える二対の黒い眼差しが覗き込んでくる。
「――……はい。必要です」
かすれ、引き攣りそうになる声で、肯定を返す。
逃げたい。ひたすらにこの場から、この二人から逃げたかった。
第六感が大音量で警鐘を鳴らしている。
否定すれば、きっと、――いや、確実に無事ではすまない。
確信だった。もはや疑いようもない。
恐怖で鈍った頭でも、この二人が肯定をこそ、求めているのは理解できた。
「俺、いりますよね」
「はい」
「俺も、必要だな」
「はい」
「俺達が、」
「必要」
「なんですよね?」
「……はい」
鯰尾さんが、笑った。
骨喰さんも、笑った。
骨喰さんの手が、腕を離れて手に触れる。
指を絡めて、離すものかとばかりに力強く握り込んだ。
視界から、二人の顔が消える。絡み付いた脚がどけられ、私の両側に、吐息が感じられるほどの距離へと寝転がる気配がした。手は掴まれたままだ。それでも、先程より自由度は格段に上がったというのに、解放されたという気はまったくしない。両側で上がる密やかな笑い声が、ただ、恐ろしい。
二人の顔は見れなかった。見ては、いけない気がした。
天井をひたすら睨みつける私の耳元で、両側から二人が囁く。
「主のためだ。手伝おう」
「手伝ってあげますよ。主のためだから」
「だが、約束だ」
「俺以外の俺に、目移りしちゃ駄目ですよ」
「俺を、必要としてくれ」
「ね、約束。してくれますよね……?」
「……は、い……」
返答する声は、自分でも分かるくらいに震えていた。
瞬間、両手の小指に鋭い痛みが走る。
「づ……ッ!」
「へへ、やくそくげーんまーん」
「指切り、だ」
笑みを含んだ、嬉しそうな声が響く。
ぬるりとした熱い何かが、熱を帯びた小指を這う。
何をされているか、脳が理解を拒否した。強くまぶたを閉じて、唇を引き結ぶ。
抗えない。文句だって、言えやしない。まだ死にたくない。痛いのも嫌いだ。ひたすらに耐える事だけしかできない自分の非力さが、臆病さが、心底嫌で――ただ、惨めで。
密やかに落ちた桜の花が、唇に触れる。
それはまるで本丸さんに、大丈夫だよ、と言われているみたいで。
ほんの少しだけ。救われた、気がした。
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