散切りの髪を、見苦しくない程度にヘアピンで纏める。化粧は普段通りの薄化粧。
鏡に映った見慣れた顔は、まぁ、可もなく不可もなくといった仕上がり具合だ。
少しだけ迷って、最後にとっておきのリップグロスを唇に刷いておくことにする。
「……うん、武装完了」
「武装、でございますか?」
「化粧は女の武装だよ、こんさん」
社会人ともなればメイクはマナーですらあるし、特別な時にすらノーメイクな女の人はそうそういない。
化粧は自分を飾り、美しく見せる小道具である以上に、武装なんだと私は思ってる。
はい要するにはったりです。もしくは自己暗示。大丈夫だ私はやれる。
この機会に命の保証、獲りに行かせてもらうぞ刀剣男子ども! ……どうか死化粧になりませんように!
引き戸の前で大きく、深く息を吸って、長々と吐き出す。
――よし。
気合を入れて外に出る。
夕日は既に半分以上が沈んでいて、周囲は既に薄暗い。
どっかり胡坐をかいてお酒を呷っていた次郎太刀が、にっこり笑って私を見た。
「もういいのかい? 審神者ちゃん」
「はい。お待たせしました」
「構いやぁしないよ。女の支度ってぇのは時間がかかるもんだ」
だからね、うん。貴方性別グループどっちなん? 女の側に立っての発言ともとれるし、寛容な男前発言ともとれる……いやどうでもいいっちゃいいんだけども。どっちだろうとやる事に変わりはないし。
悠々と前を歩く次郎太刀の後ろを、こんさんと並んでついていく。
そういえば、初めて刀剣達に挨拶に行った時もこのくらいの時間帯だったっけ。
あれっよく考えてみると審神者になってから一週間も経ってない……なんかもう一ヶ月くらい審神者してるような気がする……おかしい……時間経過おかしいぞ……なんだこの濃すぎる現状。古典文学&民俗学系読書知識が身を助ける事になったり刀剣が本気で擬人化しちゃったり、ほんとこの世は奇々怪々だ。
「――? あの、次郎さん。その怪我、どうなさったんですか?」
「ん? あぁ、気になさんな。ちょっと本邸の連中ともめただけさ」
前を向いたまま、ひらひらと手を振ってみせる次郎太刀。
薄暗いせいで気付かなかったけど、何気にあちこち傷がある。いやそれ気にするなってのは無理だろう。
……しかし、本邸の連中と、か。やっぱり私が原因……ですよねー。もめる要因それしかないもんね刀剣同士だったら仲良くやれそうだもんねー……。ひょっとしてもう一人の方がいないのってそれ関係してたりしますか。
わぁい突っ込みたくないな! 今になって危険も承知で放り出した事実が心に来るわぁ……ごめんなさい死んでもいいかなって思ってました、だって信用できなかったんです……は悪い審神者です……でも首ちょんぱ嫌ですまだ死にたくない。
「……、……あとで、手入れしますね」
何を言おうかさんざん迷って、結局言えたのはそれだけだった。……いや、悪い事したなって思うけど、正直今も結構半信半疑……でも生きて帰れたら次郎さんのこと労わろうと思ったよ。生きて帰れたら。
「優しくしとくれよ?」
「……努力します」
振り返りはしなかったけど、次郎さんの声は笑っていた。
■ ■ ■
相変わらず、本邸の空気は悪い。
初めて訪れた時に感じた、鉄錆と、饐えた臭いは薄くなっているように思う。だけど、足元から這い上がるような冷気が何とも気持ちが悪くて、眉根を寄せて腕をさすった。鳥肌びっしり。寒い。
「懐炉になりましょうか? 殿」
「う、……いや、いいよ。まだ大丈夫。ありがとね」
頷きかけたけど何とか自制。いかんいかん、また甘えてしまうところだった。
気分的にはラスボス戦。勇気を奮い起こすお助けこんさんの出番は、できるだけとっておきたいところだ。大丈夫だ私はやれる子。あんまり甘えすぎると何にもできなくなるからね!
見栄を張れる間は頑張るのです。ハリボテだって? うん知ってる。
前を歩いていた背中が止まる。つられて足を止めれば、こんさんが囁くような声で教えてくれた。
「――殿。にっかり青江がおります」
「!」
咄嗟に首を庇った。傷が疼く。次郎さんの後ろにいるせいで、私の位置からじゃあ前の状況は把握できない。まさかのしょっぱながこの刀剣の人……なんでこの人選なんだ……もしや宣言通りに首狩りにでも来たか……!?
「やぁ、いらっしゃい。本当に連れてきたのかい」
「連れてこなきゃあ、何一つ変わりゃしないだろう? 審神者ちゃんもアンタ達も、さ」
「分かっていても、ままならないものだよ。感情って奴はね」
……あれっ。思ったより和やか。
「いいさ、通りなよ。せいぜい頑張って守り切る事だね」
「アンタは来ないのかい?」
「遠慮しておこう。僕がいると、その子が余計に脅えてしまうだろうからね」
次郎さんがちらりとこちらに流し目をくれた。
首をガードしている私を見て、納得したように頷く。
ええまぁ、うん。その子ってどう考えても私の事ですよね。よく分かっていらっしゃる。
しかし予想の斜め上を行く和やかさ……どういうことなの……あの声だけで相手を凍死させれそうなアロエさんは一体全体何だったの……? もしや何かの罠だろうか。
それとも次郎さんの手前、矛を収めているだけとか? あっ超ありそう。
「行くといい。皆がその子を主として受け入れるなら、僕もその子を受け入れるさ」
「それでいいのかい、アンタ」
「構わないよ。寝込みを襲ってするのが手入れだなんて甘ちゃんなら、彼等を任せても問題無さそうだ」
「――なら、遠慮なく通らせてもらおうかい。行くよぉ、審神者ちゃん」
ちょ、待って次郎さんどしどし進んでいかないで! 後ろもうちょっと気にして!? 私そいつにざっくりやられそうになったんですけど! 普通に後ろから刺されたらどうするの!? 死ぬよ! 審神者は容易く死ぬんだよ!
廊下にもたれかかって佇むにっかりと、さっさか先を行く次郎さんの背中を交互に見ながら躊躇って、廊下の端によって距離を取りながらにっかりの横を通り過ぎる。
さり気なくにっかりと私の間を歩いてくれるこんさんほんともうまじイケメン愛してる!
「馬鹿な子だね。……帰っておけば良かったのに」
思わず振り返ってみれば、視線の合ったにっかり青江が薄く微笑んだ。
初対面の時のホラー要素は何処にも見当たらない。敵意も、無いみたいだった。
口を開いて、でも、言うべき言葉は何も思い浮かばなかった。つくづく自分の頭の悪さが嫌になる。何か気の利いた言葉の一つでも言えればいいのに。
開いた唇を引き結んで、言葉の代わりに深々とにっかりさんにお辞儀した。
待っててくれたこんさんと一緒に、次郎さんの背中を小走りに追う。
首は、もう痛まなかった。
■ ■ ■
「邪魔するよぉ!」
「」
「殿、お気を確かに」
追い付いたと思ったら次郎さんが速攻で部屋に突入してくれやがりました件について。
準備! 心の準備させて欲しかった! ほんとサクサク進むなぁこの刀剣の人!
こんさんがいてホントに良かった! でも抱っこはまだ耐える!
スパーンといい音を立てて開け放たれた襖から、次郎さんの後を追って入っていく。途端に四方八方から視線がびしばし飛んできて、自分でも身体が強張るのが分かった。体感気温が一気に下がる。
ひぃいいいいいい! 空気! なんか空気ここだけどろっとしてる! 気持ち悪っ! 気持ち悪っ!!
「椿の、おっかえりぃ~。随分と遅かったじゃあないかい」
「あっはっは! 悪かったねぇ、待たせちまって。調子の方はどうだい?」
「んー? が持たせてくれた酒があったからねぇ、元気いっぱいさね」
「あーっ! アタシの分まで呑んじまったのかい!?」
おい空気読めドッペル付喪神。
横で騒ぐツイン次郎さんを視界に入れないようにしながら、顔を上げて室内を見回す。心の距離を示すような距離の取られ方だ。部屋が広いから遠いのが分かりやすいね! まぁ、逃げる時の事を考えればこのくらいの距離がこちらとしても有り難い。大きい刀剣の人達は、もうちょっと距離あってもいいかなって思うけど。……なんか今すぐ抜刀して斬りかかってきそうなのが三人くらいいるからね……!
あの狐連れてるのと黒くて赤いの、あと男貞子二号怖いです。こっちくんな。他はまだ敵意は薄い……の、か?
すごく見られてるのは確かなんだけども。
明らかに警戒心が強いのは、小さい子達だ。一番距離の遠い部屋の隅で一塊になっていて、女の子にしか見えない子と、見た目野球少年っぽい子が……うん。控えめに言っても般若の形相ですね! 襲い掛かりたそうにしているのを押さえて? くれているのは、昨日の薬研藤四郎。ありがとう少年、君の優しさがお姉さんはとても嬉しい。
とりあえず、問答無用で殺される展開だけは無さそうだ。話ができる冷静さがあるのならそれでいい。
寄り添ってくれているこんさんを見る。
うん、大丈夫。一人じゃないから、頑張れる。
自然と緩んだ口元を引き締め直して、目を伏せて息を吐き、最敬礼でお辞儀した。
「――改めましてご挨拶申し上げます。先頃着任したしました、審神者でございます。前任者の無体、審神者の一人としてお詫び致します。皆様には大変ご迷惑をお掛けしました、申し訳ございません」
返事は無い。
誰一人として、言葉を返す気配は無かった。
さっきまで横で騒いでいたツイン次郎さえもが黙っている。
おい誰だ今鍔鳴りさせたの怖いわ! 心臓の音が煩い。既に背中が冷や汗びっしょりだった。頑張れ私。
「この本丸を引き継ぐにあたり、私から三つ程、提案させて頂きたく思います。
一つ、この本邸を皆様方の住居とし、私は必要以外離れより出ない事。
一つ、時間修正主義者達の討伐数に応じ、物資を提供させて頂く事。
一つ、私の身の安全と命の保証がある限り、私は皆様の手入れ及び刀装の提供を行う事。
ご質問、ご不満な点があるようでしたらこの場でお申し出下さい。可能な限り取り入れさせて頂きます」
お辞儀キープで爪先を睨みながら、ほっと息を吐く。
っしゃ詰まらず噛まずに言い切れた! これで通りますようにこれでどうにか通っていきますように! 無茶振りするなよ絶対だぞ!? 無害で非力な新人審神者だから優しくしてね!?
「……まずは頭を上げてくれるかな、審神者殿」
思ったよりも柔らかい声がかかった。
視線にグサグサ刺されながら、おそるおそる顔を上げる。
最初に口を開いたのは、どうやら紫髪の人のようだ。罵声飛んでこなくて良かった……。
「一つ、僕から質問したい事があるんだ。いいよね?」
「……どうぞ。お伺い致します」
「僕達を刀解しなかったのはどうしてだい? そうすれば、こんな手間をかける必要もなかったろうに」
ザックリくるなこの御仁! まずそれかよ! そして正論な!
「……負傷者の治療に、敵味方の区別はありません。私には、前任者の後始末をする義務があります。
今後どのようにこの本丸を運営していくか、その話し合いを行うためにも、勝手ながら治療を行わせて頂きました」
「――本当、勝手だよ」
赤と黒の男が、地を這うような低い声で吐き捨てた。
「審神者なんかに手入れされるくらいなら、あのまま朽ちた方がよっぽど良かった……あんた達は、身勝手だ」
うわぁ身勝手ってとこに異様に重みがあって深く穿ちたくないこわい。
だから前任のアレとセットにするのやめてほんとお願いします……世の中にはまっとうな審神者がたぶんいっぱいいるんであってだな……!
「ご期待に添えず申し訳ありませんが、これが私の仕事です。ご希望とあれば、刀解にも応じさせて頂きます」
「審神者ちゃん」
「提案を受け入れるも拒むも、ご自由にどうぞ。
人の姿を持って顕現なさっている以上、刀剣の皆様方には己の意見を主張する権利があり、拒絶を選ぶ権利もあります。検討する時間が必要でしたら出直しましょう。どうなさいますか?」
次郎さんはもの言いたげだけども残念! 私に次郎さんの意見聞いてる余裕は無いぞ!
うんほんとね、刀解がいいならそうすればいいんじゃないかな。崇りとか影響とかもうシラネ。日本の神様は祟るのが本業です。触らぬ神に崇りなしってことわざあるだろ、崇めるのも奉るのも祟られないが為なんだよ。神域で括ってるのもそれな。敬意っていうかね、根本は保身な。崇りくらいなら諦めるよもう。だが命は譲らん。命があるだけめっけもん。ってゆーかね、超逃げたいからね。離れに引きこもっていたいです視線いたい視線いたい刀剣怖い。交渉めんどい。なにもかんがえないでいたい。私……この審神者業辞めたら実家に帰るんだ……。
ぎん、と金属の擦れる音がした。
いつの間にか、次郎さんのどちらかが前に立っていた。
ぎちぎちと、金属が噛み合う音がそこかしこから聞こえてくる。
体感温度が一気に下がる。寒気が酷い。かくり、と膝が崩れた。足の感覚が無い。
あれ、なんで私座ってるんだろ。
「落ち着け和泉守! 刀を収めろ!」
「うるせぇどきやがれ歌仙!
どうせ殊勝な事言ったって、あのクソ野郎とそう変わりゃしねぇんだ! そいつぁ俺がぶっ殺す!」
「和泉守の言う通りです……愛でられるだけの籠の鳥ほど、耐えがたいものはありません。
審神者と交わす言葉など、なくて良いでしょう……?」
「おいおい、随分好き放題言ってくれるじゃあないかい!
アタシの審神者をアンタ達の前の主と一緒にしないで欲しいねぇ!」
「……蜻蛉切。邪魔しないで」
「それはできん! 退け鳴狐、審神者といえど無抵抗の女を斬るものではないぞ!」
「――っ逃げなっ!」
次郎さんの切羽詰った声が響いた。
背中に衝撃が走る。視界を占めるのは、少女めいた顔を般若の形相にした子供。
ひょっとして、押し倒された?
「ど――ギャンッ!」
こんさんの悲鳴がした。
乱闘のただ中にあって、不思議とこんさんが壁に叩き付けられる音だけは鮮明に聞こえた。
「こん、さ…………あ゛、ぐ……」
包帯越しに首を掴んだ手が、ぎりぎりと力を込めて締め上げてくる。
至近距離で覗き込んだ目は爛々と異様な輝きを放っていて、魂ごと絡め取られそうだ。
爪を立てて必死に振りほどこうとするものの、手から力が抜ける気配はまるでない。きん、と鍔鳴りの音がした。子供が無言で片手を高々と振り上げる。握られた刀身が、怪しく煌めいた。――あ、死んだ。
「させるかぁっ!」
物凄い音を立てて、馬乗りになった子供の身体が跳ね飛ばされる。視界がぐるんと回って、気付けば次郎さんの腕の中に囲い込まれていた。ぎゅうぎゅう押し付けられる胸板かたい。
「あ、ぁあああああああっ!
なんで! なんで! 邪魔! するのさぁっ! どいてよ次郎太刀! そいつ殺せない!」
「馬鹿言ってんじゃあないよ! アタシの審神者だ、殺させてたまるもんかい!」
「あなただって刀剣じゃないか! そいつは審神者だよ、どうせ裏切る!
あなただって僕たちみたいに酷い目に合わされる! 今のうちに殺すべきなんだよ!」
息。
息が、苦しい。
がんがんと頭が揺れる。子供の言葉が鼓膜から脳を犯していくみたいだった。ずるずるという音が何処かから聞こえてくる。なにか、なにかがはいってくる。首、私の首、やだ、やだやだやだなんでまだくるしい、あ、いき、できな、や、やだやだ、しまる、わた、いき、こわい、わたし、わたしのくび――
「――やめろ、乱」
音が止んだ。呼吸が戻る。
目の前の布を掴んで、荒く息をつく。頭が朦朧とした。視界が滲んでいる。
聴覚だけが鋭敏に、周囲を音を拾っていく。
「皆もだ。刀を収めちゃあくれないか」
「薬研、でも!」
「……頼む」
沈黙が落ちた。
剣戟の音が止んで、辺りに静寂が戻ってくる。
「俺は、――この審神者の出した条件なら、呑んでもいいと思ってる」
「薬研!? アンタ、審神者なんぞを信じるってぇのかよ!」
「そうだよ! 今のうちに殺した方がいい!」
次郎さんの腕に力が籠った。痛い。
白い布を被った金髪の男が、不思議そうに口を開いた。
「……あんたが一番、主にひどい目に合わされていただろう。いいのか、薬研」
「ああ。もちろん、不満のある奴もいるとは思う。審神者が信用ならねぇのも分かる。
……だけどそれ以上に俺は、皆にこのまま朽ちて欲しくねぇと思ってるんだ」
「薬研……」
「俺の我侭だ。どうしても嫌なら、無理にとは言わねぇ。いいよな? 」
思わず、息を呑んだ。何とか次郎さんの腕の中から顔を出して見れば、相変わらず昏い目をした薬研藤四郎が、それでも真っ直ぐにこちらを見つめている。離してもらえまいかと次郎さんの腕を叩いてみるも、意図が伝わっていないのか緩まる気配は全くない。……仕方ない。
「――嫌だと仰るのであれば、ご随意に。
私は条件を提示するのみであって、皆様方に強いるつもりはありません」
「拒絶を選ぶ権利、か。……それは、あんたの刀剣になっても許されるのか?」
「ええ。嫌であれば拒絶すればいいし、審神者を信じて欲しいと言うつもりもありません。
私が皆様方に望むのは、歴史修正主義者への対処のみです」
言い切る声は震えている。それでも、視線をそらさずに答えられた私を褒めたい。
できれば円満なコミュニケーションができると楽でいいんだけども、それは前任者のしてきた事を考えれば高望みというものだろう。こんさんも本丸さんもいない余所のブラック本丸に異動は嫌です。
いやいるんだろうけど別個体だろうし。
死亡フラグ立たないで仕事できるんならもう何でもいいです。
「……なら誓ってくれ、。
あんたが提示した条件を呑む。だから、あんたも言を違える事をしないって」
「誓いましょう、命を賭けて。私は絶対に強制しない。前任者のような真似もしない。
もし言を違えるようならば、その時は煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
「、どの……! そのような! ああああ、そんな、そんな……命を賭けるなど!」
よたよたと身を起こしたこんさんが、悲痛な声を上げて崩れ落ちる。
……うん、ごめんね。勝手に決めちゃって。
でも、こればっかりは今後を思えば避けて通れない道だ。
大丈夫。怖いけど、――守れない誓いじゃあ、ない。
薬研藤四郎が、ふわりと笑った。
嬉しそうに。
底の無い、眼差しで。
「じゃあ、決まりだ。……俺っちは薬研藤四郎。皆ともども、よろしく頼むぜ」
「はい。……よろしく、おねがいします」
認められるまでで、これか……。
命は保証されたけど、先が思いやられるなぁ……本当、めんどくさい。
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