「許可なく真剣での私闘騒ぎを起こした処罰ですけど」

 穏やかに。あるいは一切やる気無く。
 疲労こそ滲んではいても、責める意図などまるでない、気のない様子で審神者が問う。

「一ヶ月厠掃除と、有機肥料管理。どっちがいいです?」
「謹慎、とかではないんだな」

 よりにもよってその二択か、とげんなりする気持ちもあるにはあるが。
 正直、刀解もあり得ると考えていただけに複雑な心境の滲む感想を、彼女はへっ、と皮肉るように鼻で笑った。だいぶ荒んだ顔である。よく見知った涼やかで平静な、凪いだ表情からは想像もしなかったその顔に、蜂須賀は虚をつかれて瞬いた。

「私が馬車馬みたいに働かされてるってのに、私の刀に夏休みとか許す訳ないじゃないですか」
「なつやすみ」

 耳慣れない単語であったが、どうやら審神者にとって謹慎は罰では無いらしい。
 何にせよ、処罰としては随分と軽い。「まあ冗談はこのくらいにして」見えない何かを脇にどける動作をして、審神者はゆるりと半ば目を伏せる。緊張に、身体が強張った。

「蜂須賀さん達を教育係に任せっきりで指導内容も丸投げ。むしろ、顕現してから一度も衝突が起きなかった事の方が奇跡でしょう。罰当番くらいが妥当な処罰ですよ」

 だが予想に反して告げられたのは、疑念に対する補足だった。
 てっきり“本当の処罰”を下されるものだと思っていただけに、肩透かしを食らった気分である。「“蜂須賀虎徹”は、審神者が選ぶ初期刀の一振りですから。贋作との確執は有名なんですよ」戸惑いを見て取ったように、審神者が続ける。

「……知っていたのに、俺達を同期で顕現したのか」

 ぽろりと零れ落ちた声は、自分でも驚くほどに尖っていた。
「知ってましたよ」なんでもないように。蜂須賀の感情など意にも介していないような平静さで、審神者が答える。

「知っていて顕現しました。“蜂須賀虎徹”は贋作嫌いではあっても、憎んではいない事も」
――、」

 蜂須賀虎徹は、真贋に固執する刀剣男士である。
 しかし贋作さえ絡まなければ、彼は物腰柔らかで誠実な、誇り高い刀剣男士だ。
 ただ一点、彼を意固地にさせるのが真贋の問題なのである――その固執は、自らの刀派を誇りに思うが故にこそだ。事実、贋作“長曽祢虎徹”とだって、慣れ合う気はない、とどこぞの一匹竜王よろしく会話を拒もうと、戦場に出れば味方同士、戦果を競い合いながらも協力するだけの柔軟性は持ち合わせている。

 蜂須賀虎徹は贋作を蔑んでいる。
 それでも、憎んでいる訳ではないのだ。恨んでもいない。

「初陣では危険を冒してまで助けに入ってましたし。共闘が嫌で足を引っ張り合うって様子も無かったから、そんな心配しなくてもいけるかなって思っちゃったんですよね……。結果として、蜂須賀さんには要らない負担をかけました。ごめんなさい」

 あっさりと。
 そうするのが当然であるかのように、審神者が頭を下げる。
 他の誰でもなく、蜂須賀に対してだ。部屋には彼等以外誰もいないのだから、彼女が謝罪した相手は自分以外の誰であるはずもない。「ぇ、あ、ああ……?」返事をしなければ。だが、何と? 謝るべき自覚はあれど、謝られるなど夢にも思ってみなかった。静かに動転しながらも、何とか言うべきだと思っていた言葉を、から回る頭で絞り出す。

「その、俺こそすまなかった。忙しいのに、手間を増やしてしまって……迷惑を、かけて、しまって」

 ――本当に、どうしようもない。

 どろどろと、自責の念が溢れてくる。薄暗い情動が喉を塞ぐ。
 あの時、あの、長曽祢へと斬りかかった瞬間。あの衝動には、理性も誇りも、欠片だって存在してはいなかった。何も考えず、自制もなく、ただただ、腹立たしさだけに突き動かされて動いてしまったのだ。押し寄せてくる後悔に自然、視線が畳へと落ちる。「蜂須賀さん」審神者がいやに改まった、重々しい声音で言った。

「誰にも迷惑をかけない人は、いません」
「は、」
「いません」

 念押しされた。それも、異様に力強く。
 蜂須賀はなんだか頭がぐるぐるしてきた。主はこんな人だっただろうか。
 何を考えているのか分からない人であったのは確かだが、なんというかもっと、こう――

「誰にも迷惑をかけない人はいないし、何でもできる完璧な人もいません。いたら仕事楽でいいなーとは思いますけど、劣等感に苛まれること間違いなしなので個人的には嫌いです。なので仮にそういう万能完璧な刀剣男士がいたとしても、顕現したくはないです」

 これは誰だろう。そもそも自分の主は、こんな事を臆面もなく言ってのける人だったろうか?
「は、え、ええ?」発言内容が今までの印象とまったくもって噛み合わずにうろたえる蜂須賀の前で、審神者はうんざりした様子で溜息をつく。

「あとぶっちゃけた話、蜂須賀さんのやらかしとか屁でもないですからね? 手間で言えば歌仙さん説得する方が大変でしたもん」

 話についていけていない事に気付いたらしい。「ほら、和泉守さん危なかったじゃないですか」と付け足された言葉に、ややあって、そういえば原因不明の昏睡状態に陥っていたんだったな、と遅まきながらに思い出す。

「軟弱極まりない、こんな不始末を起こすなんて刀派の恥だって、和泉守さんの腹切らせたがってたんですよあの人。今回はどうにかこうにか宥めすかして同意もぎ取りましたけど、次は止める間もなく首落しにいきそうなんですよね……」
「えええ……?」
「怪我に関しても、三日月さんを筆頭に何人か手合わせでやらかしてますし。悪気一切ナシで相手を重傷中傷にするのに比べれば、蜂須賀さんのあの主張とか、手段は手荒でしたけど微笑ましいくらい真っ当だったと思ってます」

 色々と初耳だった。ちょっと情報量が多くて噛み砕けていないのだが、それでも重大な事実に思い至って、蜂須賀はおそるおそる、震える声で問う。

「あの、主? 待ってくれ。ひょっとして、その、俺がだな。あの日、贋作に言った内容とか、まさか……」
「……えーっと。たぶん、みんな知ってるんじゃないですかね……」
「~~~~~ッ!?!?!!!」

 声なき声で絶叫して、蜂須賀は頭を抱えて額を畳に打ち付けた。
 折ってくれ頼むから今すぐに! 穴があったら入りたいとはまさにこの事を言うのだろう。なるほど知らなかった。できれば知りたくもなかった。嘘だろう本当あれが本丸中全員の知るところだなんて。これからどんな顔して歩けというんだ。既視感を覚える気楽な調子で、「まあ人の噂も七十五日って言いますから。どんまいどんまい」と審神者が慰めらしき事を口にする。あまりの信憑性の無さに、蜂須賀は額を畳につけたままで唸った。

「うそだ……ぜったいうそだ……!」
「どうしても気になるんなら、主権限で箝口令敷いてもいいですけど」
「そ、……ういうのは、よくない事、なんじゃないだろうか……」
「んー……でもそこで一人反省会してる浦島さんとか、たぶん嬉々として仰せつかってくれますよ?」
「浦島?」

 弟の名に、弾かれたように顔を上げる。
 すい、と審神者が無言で廊下の方を指差した。
 つられてそちらを見る。床近くすれすれの位置から覗く目に、心臓が跳ねた。

「はちすかにいちゃんごめんねぇぇぇ~…………」

 力無い、哀愁たっぷりのか細い声が呻く。ひょこんと上から顔を出した後藤藤四郎ごとうとうしろうが、申し訳なさそうに軽くお辞儀してそっと障子戸を閉める。「お邪魔様でしたー。ほら浦島行くぜー」「あぅううううう」ずるずると引きずられて遠ざかっていく気配に、蜂須賀は困惑も露わに障子戸の方を指差して審神者を見た。

「……浦島?」
「教育係だったのに気付けなくってごめんね、だそうです。もっとも、これについては蜂須賀さんの見栄もいくらかあったかも知れないですけどね?」
「………………その。ほんとうに、もうしわけない……」

 図星をつかれ、蜂須賀は顔を覆って呻くように謝罪の言葉を絞り出した。
 次郎太刀にも言われた事だ。可愛い弟に愚痴など言えるはずもなかったし、弱いところなんて見せたくなかった。後から来たぶん、余計に立派な頼れる兄であるところを見せたいと、みっともない姿は見せられないと、浦島の前では特に気を張っていたのも確かだ。
 ただ、そのせいで浦島があんなにも落ち込むなんて、思ってもみなかったのも事実である。(……どうして俺は、こう……!)仲間のみならず、弟の気持ちすらも思いやる事ができないだなんて。あまりの情けなさに、じわり、と視界が滲む。

――私、失敗多いんですよ」

 穏やかに。
 謡う小鳥のような声音で、彼女は言う。

「提出書類で誤字とかしょっちゅうだし、交渉事で何十回と相手を怒らせて状況悪化させたりもしてますし、引き際とか人選誤って怪我人出す事もままあるし、人を育てるのもうまくなくってスパルタすぎるって週一で審神者仲間に怒られたりもしてますし。……頑張ってはいるんですけどね。優秀なんて、お世辞にだって言えやしない。
 蜂須賀さん達のことも、放りっぱなしでしたから。見限られたって文句が言えないくらいには、駄目な審神者だと思ってます」
「ッそんなことは……!」
「蜂須賀さん」

 反射的に否定しかけ、けれどそれは一言で以て封じられた。
 腰を半ば浮かせた姿勢のままで動きを止めた蜂須賀を真っ直ぐに見据えて、困ったように眉尻を下げる。

「私は、刀の価値が分からない審神者です。良し悪しも、真贋すらも未だによく分かっていないような、貴方達のかつての持ち主には遠く及ばない不出来な人間の小娘です。そんな私に命じられる事を良しとして、戦ってくれるならそれでいいと、それだけで今日までやって来ました」

 やめてほしい、と思った。どうしていいのか分からなくなる。
 顕現されてから今まで、蜂須賀にとって、審神者は主ではあったが、何処か遠い存在であった。血風吹きすさぶ戦場がうす寒くなるほど肌身に馴染んだ、ひとでなしの。

「不満があれば主張していいし、拒絶を選んだっていい。私を信じる必要すらない。この通り欠点だらけの審神者だから、期待に添えない事は多いですし、きっとこれからも、我慢させちゃいますけど」

 今でも、顕現された時の出来事を覚えている。

「長曽祢虎徹という。贋作だが、本物以上に働くつもりだ。よろしく頼む」

 蜂須賀の口上から、さほど間を置かず響いたあの声を覚えている。
 顕現された誇らしさ、先に顕現されていた浦島が出迎えてくれたという喜びがすぅっと冷えていった、あの感覚は忘れようにも忘れられない。初陣での敗北も、追おうともしなかった検非違使も。本丸へ逃げ帰り、手入れを受けた後に開かれた軍議の席での出来事も。
 彼等の無様に怒るでもなく、「それで。検非違使の面倒さ、納得してもらえました?」と小首を傾けて平然とのたまう彼女の姿は、あの敗北を織り込み済みであったのだと、そう察するには十分なものだった。
 その豪胆さ、怖気の走るような冷酷さは成程、刀の主、審神者として不足ない。
 そうだ。主に不足はなかった。だからこそ、蜂須賀はおそろしかった。

 蜂須賀虎徹は虎徹の真作である。
 けれど彼個刃には戦の道具、人斬りの実用品としての逸話は存在しない。

 主は彼等に、戦へ出ること以外、何も望みはしなかった。
 蜂須賀虎徹は“刀”として、特別な逸話を持ち合わせている訳では無い。虎徹の真作と、出来の良い贋作。並べて比較されるかのように、同期で顕現され、共に轡を並べる事となったからこそ、功を焦る思いがあった。認めて欲しかった。他でもない、この人に。――彼を顕現した、この主に。

「私に見切りをつけたなら、言ってください。刀解の希望にはいつでも応じますから」

 だと言うのに。
 認めて欲しかったその人は、そんな事を当然のような顔で言うのだ。
 自分は選ぶ側ではないのだと。蜂須賀が選ぶ側なのだと、そんな事を、当たり前のように。ごく普通の、何処にでもいる人間のような顔をして。

「……できれば、首を獲りに来る前に言ってくれると嬉しいですね」

 思えば蜂須賀が知っているのは、刀の主、将としての一面だけだ。
 冗談めかしてそう締め括った主に、すとん、と。肩から力が抜ける。得心する。

(そうか)

 あの日。次郎太刀の提案に頷けなかった理由がようやく見えた。

 蜂須賀虎徹は、主に認められたかったのだ。
 ここにいてもいいのだと。肯定して、そうして、流石は虎徹だ、と自慢に思われたかったのだ。
 だから落胆した。次郎太刀の提案は現状を解決する最善手であったけれど、それがまるで、いなくたって構わない、と言われたように感じたから。
 人の器を得ても、刀は刀だ。自己嫌悪も憤りも苛立ちも。突き詰めてしまえば結局のところ、主に認められたいと、その思いに端を発していた。

「主」

 浮かせていた腰を落ち着け、居住まいを正す。審神者が、主がこてん、と小鳥めいた仕草で首を傾けた。
 陽光が差し込んでもなお薄暗さを残す室内に、それでも遠くから響く鶯の囀りが、冬の終わりを告げている。
 季節はもうすぐ、春だった。顕現された頃と同じく。

「主、見ていて欲しいんだ」

 気付かなかっただけだった。
 気付けなかっただけだった。

 気付いてしまえば、こんなにも単純な話だった。
 随分とまあ、馬鹿馬鹿しい事で自分は長らく悩んでいたんだな、と苦笑する。
 だって、なんてことはない。弱くても、頼りなくても。失敗ばかりであろうとも。最初から蜂須賀は主に認められていたし、受け入れられていた。彼女の、刀剣男士として。

「虎徹の素晴らしさ。俺はきっと、あなたに示してみせるから」

 この先もずっと。本霊に還ったとしても、この時の事を、忘れたりはしないだろう。
 しあわせな気持ちで、蜂須賀は笑った。


 ■  ■  ■


 冬でも花の溢れかえる本丸の庭は、鳥達の憩いの場だ。
 今の時期、いっとう存在感を主張するのは求愛と縄張り主張に忙しい鶯であるが、だからと言って他の鳥達が背景に徹しているかと言われれば、別段そんな事も無く。それでも一番目に留まるのは、濡羽麗しいカラス達だろう。時の政府から “雛鴉”の名を与えられた庭の主人に親近感でも覚えているのか、彼等は誰が寄ってこようと、避けるそぶりがまるでない。

「……わりと何とかなったなあ。そう思わない? 本丸さん」

 美しい庭に憩うゆとりを持たない雛が、廊下を歩きながらマヨヒガへと語り掛ける。
 ひらり、と桜の花弁が頭上へと舞い落ちる。律儀に相槌を返してくれる友に、彼女は面倒そうにぼやく。

「しっかし蜂須賀さんもだけど長曽祢さんも真面目さレベル半端ないよね。何故知らされなかったせいでのやらかしまで責任背負い込もうとするのか……誰かしらには怠慢責められる覚悟はしてたんだけどな……刀剣男士の許容範囲わりと頭おかしいな……」

 ひらり。桜が舞う。そうかなぁ。微妙な否定。
 困ったように頬を掻いて、“”を名乗る彼女は話題を切り替えた。

「目下の問題は和泉守さんだよね。後が無い」

 ひらり。桜が舞う。同意。

「どうしよっかな。国広さん身内に執着激しい方だし内に溜め込むタイプだからなあ……堀川さんにどう反応するか読めない……山伏さんと対応考えるか……」

 ひらひら。桜が舞う。
 指摘に、は顔を顰めた。

「あー……歌仙さんもしばらく和泉守さんと距離置かせないとまずいか。詰所の仕事優先的に回……いや本丸さんごめんってば。私のおうちはこっちだから。本丸さんだから。浮気じゃないです。あっちはあくまで職場だって職場。住み心地の良さでも安心できるっぷりでも本丸さんがナンバーワンだから。不動の一位だか、……」

 花弁、枯れた花、怒りのどんぐり。
 ふわふわひらひらぽとぽと、途切れなく落ちていたそれが止む。沈黙が降りる。
 濡れ縁の柱に身をもたせかけ、普段通りに酒を呷っていた大太刀が、を見上げて苦笑した。

「まぁだ怒ってんのかい?」
「……次郎さん。逆に聞きますけど、本丸で起きてた問題事あれこれ内緒にされてた挙句にお手上げになってから知らされて、なんで怒ってないと思うんです?」
「だよねえー。でも、なんとかなったろ?」

 ひょいと立ち上がり、当然という顔で寄ってきた初期刀へあからさまに嫌そうな顔して、は通り過ぎる予定だった手近な部屋へと向き直った。開け放たれた障子戸を閉める後ろで、次郎太刀がやわらかに、諭すように言う。

「何でもアンタに頼り切りじゃあ、先は見えてる。……そんな不安がらなくたって、誰もこの件でアンタを恨んで、殺そうとはしなかったさ」
――分かってますよ。知らされてたって、どうしようもなかった事くらい」

 振り返るそぶりも見せず、は独り言のように答えた。
 背後から伸びた大きな手が、頬へと触れる。顎の輪郭を辿り、耳朶を擽り、髪を絡め取って弄ぶ。宥めるような、愛撫にも似た指の動きを甘受しながら、静かな声で。

「加州さんと和泉守さんが折れてたってきっと、誰も私を責めやしなかった。蜂須賀さんの悩みについてだって、下手に肩入れすれば嫉妬を煽った。……自分達で決着をつけさせるのが、一番いい方法だった」

 乱暴な手つきで、が締め切られた障子戸を叩く。
 ひらりと桜の花弁が舞った。

「分かってるんですよ。後から知ったから、こうやって状況判断できてる事も。知らされてたら、首突っ込まずにいられなかった事だって」

 べしんと次郎太刀の手を払い除けて、再度、障子戸を開ける。
 ショートカットを繋げた執務室へと身体を滑り込ませ、後ろを振り返ると、じろりと遥かに高い位置にある、整った顔を睨み付けた。

「だから。……これは、ただの八つ当たりです。次郎さんのばか」

 ぴしゃん! 障子戸が勢いよく閉められる。
 もう一度開いたところで、既に繋がってはいないだろう――執務室へ赴いても、あの様子を見る限りでは、当分入れてはもらえまい。本丸さんはの味方だ。辿り着かせてもらえるかも怪しかった。
 払い除けられた手をぶらつかせながら、次郎太刀は神妙な面持ちで呟く。

「八つ当たり、か。あんま可愛いことされると、浚っちまいたくなるんだけどねぇ……」

 こつん。こここここん! 抗議のどんぐりが降る。
 呆れたように、庭先でカラスが鳴いた。




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