室内は重苦しい空気で満ちていた。
 に呼ばれたのは関係者である加州と、長曽祢を含めて五振り。
 初期刀の次郎太刀。最古参であり、前任の初期刀でもある山姥切国広。そして、同派の歌仙兼定。

「和泉守兼定様の現状は、皆様既にご承知かと存じますが」

 一同をぐるりと見回して、管狐がそう前置きする。
 和泉守が重傷で戻ったあの日から、早五日。目覚めないばかりでなく、何度手入れを施しても刀身が自然にひび割れてくる異常が続いているのは聞き知っていた。良い知らせでは無さそうだ。色濃い疲労を滲ませるの、常ならば決して表に出す事は無いだろう苦渋の色を見て取って、加州は腹を据える。

「結論から申し上げれば、このまま折れるに任せる事を推奨致します」
「な――

(……やっぱり)

 予想通り、と言うべきか。淡々と、感情の一切を交えず冷淡になされた管狐からの宣告に、隣に座った長曽祢が愕然として色を失う。が、苦々しさを隠そうともせず口を開いた。

「心の状態が、そのまま刀身にも反映されている、というのが政府術者の見立てです。和泉守さんを助けようと思うのなら、心の方をどうにかしないといけないんですが……」
「日頃の態度がああだ。やるだけ無駄だろう」

 憮然とした様子で、歌仙が鼻を鳴らして言い放つ。
 それに怒りを覚えないでもなかったが、元々、歌仙が和泉守をあまりよく思っていないのは加州とて察している。(やるだけ無駄……やるだけ?)それよりは、可笑しな物言いの方に引っ掛かりを覚えた。その言い方ではまるで、何か打つ手があるような――

「主」

 そこまで考え、確信する。

「あるんでしょ、和泉守を助ける方法。それも、とびっきり危険なやつが」
「…………聞いちゃいますかぁ、それ」

 ゆるりと半ば瞼を伏せ、は曖昧に唇を歪めて肯定した。余計な事を聞いてくれる。そんな目で、じろりと歌仙が加州を睨む。心の中で舌を出して返しながら、加州は一言一句聞き漏らす事のないよう、耳をそばだてた。

「元々、心を呼び覚ましたのは審神者の業です。だから意識が無い状態だろうと、心に直接潜り込んで働きかける……って手も使えなくはない、らしいんですけど」
「意識だけで相手の心に潜り込むのは、丸腰で戦場に出るようなものです。受け入れる側の心次第で危険度も大きく跳ね上がる。まして和泉守兼定様の心は刀身同様、崩壊の只中にあると見て良いでしょう。下手に潜り込めば、巻き込まれて死ぬ危険性もある。ただ一振りの為に審神者が死ぬなど、決してあってはならない事です」
「代わりに誰か潜り込ませるってえのも、できるはできるらしいんだけどねぇ」

 こんな時でもいつも通りの次郎太刀が、国広に意味ありげな流し目をくれる。
 常に身に纏っている襤褸布とその陰影で、国広の表情は伺えない。ただ、常と変わらずよく通る、けれど陰鬱な声音に「加州」と呼ばれ、拳をきつく握り込んだ。

「和泉守は、諦めろ」

 懐かしい物言いだった。ともすれば昔の癖で、即座に従ってしまいそうになる程に。
 まだ、以前の審神者が健在だったあの頃。延々と彷徨い続ける戦場で、いつだって、彼等を率い、物事を決めるのは国広だった。忘れてなんていない。もう駄目だ、と思った奴を引きずったままでは、生き残れやしなかった。
 「見捨てろと言うのか!?」と長曽祢が叫ぶが、見切る判断をした国広の方が正しいのは、加州にだって理解できる。冷静さを取り戻せば、長曽祢だってそれは分かるはずだった。
 食って掛かろうとする長曽祢を、腕を掴んで静止する。「そもそも、成功するかどうかすら怪しいんですよ」とが続けた。

「審神者の業って言っても、基本的には政府の用意した術式頼みでやってますからね。
 今回みたいな心に潜り込むやり方になってくるとその応用編になるんですが、私も本職じゃないし、今まで試した事も無い。正直なところ、失敗して当然、くらいには望みが無いんです」
「でも、可能性はゼロじゃない」
「加州」

 咎める国広の声を、意識的に無視する。
 言いたいことは分かっている。“二度目は無い”。ただでさえ、に負担をかけているのだ。一縷の望みにかけて、更なる心労を強いるような真似、許し難くすらあるのだろう。
 珍しく垣間見えた国広の苛立ちに、肝が冷える心地だった。微かに殺意さえ入り混じった怒りに肌が粟立つ――それでも、加州に引く気はさらさらなかった。
 挑戦的にを見据えて、に、と笑って見せる。

「ここぞって時の博打で勝ちを拾うの、主の得意分野じゃん。俺は十分、試す価値があると思ってるけど?」
「そのうち大負けしそうで嫌なんですよね……。今回も勝てる確証なんて、どこにもありません。誰かの命を掛け金にしての博打とか、尚更やりたくないんですよ」
「でもさ。主だって、ほんとは諦めたくないんでしょ?」

 加州の指摘に、が図星を突かれた様子で黙り込む。
 和泉守は、継続的な手入れでどうにか小康状態を保っているのが現状だ。彼女が手入れを止めるだけで、和泉守は自壊する。黙って手入れを打ち切るのでなく、わざわざこんな席を設けて話をしている時点で、切り捨てる事に躊躇いがあるのは見え見えだった。
 真剣な顔をした長曽祢が、「主!」と叫んで前のめりに訴える。

「おれを使ってくれ! おれはまだ練度も低い。例え失敗に終わったとしても、清光ほど痛手にはならないはずだ」
「ダメだよ、長曽祢さん。それは俺の役目」
「清光!」
「ずっと一緒にいたんだ。あいつが立ち直れなかったのは、俺にも責任がある」

 長曽祢には悪いと思うが、こればかりは譲れないのだ。
 例え、賭けに負けるとしても。和泉守と一緒に、折れてしまったとしても。(案外、早かったな)かつて出会った、誇り高い“刀剣男士”の背が眼裏まなうらを過る。諦めてはいない。無論、覚悟はしているけれど――勝ってみせる、救ってみせると今決めた。

 ここで引けば、誰にも顔向けできやしない。
 ここで戦えなかったら。足掻かなかったら、この先ずっと、後悔するから。

「主。俺に、賭けて欲しい。絶対。あいつと一緒に、帰ってきてみせるから」

 身勝手なのは百も承知だ。
 迷いに揺れるの瞳が、ゆるり、と幕を落とす。
 時間にすればほんの刹那。再度、瞼を持ち上げた時。既にそこに、迷いは存在していなかった。疲労はあれど、最早その表情に苦渋の色は伺えない。静謐な声音で、“主”が告げる。

「いいでしょう。……期待していますね。加州清光」

 その言葉が祈りのように思えたのは、あるいは、加州の願望だったのかも知れない。
 今度こそ、間に合わせてみせるのだと。決意を強くするには、それだけで、加州にとっては十分だった。


 ■  ■  ■


 和泉守の心に潜る準備は、四半刻ほどで整った。
 片道すら定かではない道行きだ。準備時間という名目ではあったが、が設けてくれたのが、実質的な身辺整理の猶予である事は疑いようもない。それを分かっていて加州は、身だしなみを整える以外の何にも、時間を費やそうとはしなかった。帰らなければならない理由は、一つでも多い方がいい。

「清光――……」
「長曽祢さん」

 手入れ部屋の少し前。
 幽霊みたいに酷い顔をして立っていた長曽祢に、罪悪感が沸き起こる。
 加州が和泉守の心へ潜る事について。主の決定だろうとも、納得できない思いが長曽祢にはあるのだろう。口にはせずとも、自分を責める気持ちもあるのかも知れなかった。

(……ごめん、長曽祢さん)

 謝罪を、口に出しはしない。出せるはずがない。
 加州が長曽祢にしたのは、そんな軽い言葉で許されていい罪じゃない。
 和泉守と堀川の件を、説明しなかった事もそうだけれど。ただでさえ不安定だった和泉守が少しでもマシになればと思って、長曽祢虎徹の顕現に賛成してしまった事も。
 勝手な都合で引きずり込んで、振り回して。そんなつもりじゃ無くっても、和泉守の背を崖に向かって、突き落とすような真似をさせてしまった。
 長曽祢は悪くなんてない。けれど、謝りはしない。どれだけ言葉を尽くそうと、長曽祢虎徹という刀は、“お前たちのせいだ”と責めてくれはしないから。自分は何一つ悪くないんだと、そう思ってなんて、くれないから。
 だから謝って、一人だけ罪悪感を軽くするような真似は、すべきじゃない。
 加州清光にできることはただひとつ。和泉守を連れて、戻ってくる。それだけだ。
 いつかこの出来事を、笑い話にしてしまえるように。

「たくあん、を」
「え」
「主に、漬けてもらう約束を、したんだ。……約束してくれ。絶対に戻ってきて、一緒に食う、と」

 絞り出すような声で、縋るような目で、長曽祢が言う。
 たかだか約束ひとつぶん。未練がひとつ増えたところで、何が変わる訳でもない。生きて戻るつもりでいても、危険な賭けには違いない。
 それでも、そうして繋ぎ止めようとしてくれるのが嬉しくて、自然に頬が緩んだ。

「うん。――約束する」

 長曽祢と拳を突き合わせ、意を決して室内に足を踏み入れる。
 しん、と静まり返った部屋の中央に敷かれた布団の上、和泉守は自身の本体である打刀を抱いて、ぴくりともしない。背後に次郎太刀を控えさせ、厳かな雰囲気を纏ってが加州を見上げて告げた。

「では、始めましょう。加州さん、和泉守さんの手を握って下さい」

 言われた通り和泉守の横に座って、冷え切った手を握る。
 血の気が失せ消えた面差しは、何かを堪えるような普段の表情よりもよほど安らかで、穏やかですらある。(ごめんな)このまま折れてしまった方が、和泉守にとっては幸せなのかも知れないけど。(俺は、お前が生きてないと嫌なんだ)

「身体から力を抜いて。……そう、そのまま。目を閉じて、私の言葉に耳を傾けて――

 薄闇に覆われた視界の中、やわらかな声が響く。
 主の声と霊力が、とぷとぷと鼓膜を通って内側を満たす。境目を溶かしていく。
 刀解もこんな感じなのかな、とそんな縁起でもない感想が浮かんだ。

 降りていく。

 下りていく。

 ――和泉守の心の奥へ、ゆっくりと。


 ざぷん。


 ■  ■  ■


 揺蕩う心は、微睡んでる。
 自他の端境を曖昧に溶かして、ふわふわと。

「いい加減、見てるだけにも飽きただろ?」

 行ってきな。声が囁く。
 霊力が流れ込む。器に、心に満ちてゆく。

 “どうか、救われますように”

 顕現の為の力では無かった。
 それでも紡がれた祈りと干渉が、彼の心を呼び覚ます。
 絡まり合った縁の糸に引き寄せられる方向へ、背中を押して声が言う。

――番狂わせ、期待してるよ」

 言われるまでもない。
 それこそが、彼の望みでもあるのだから。


 ■  ■  ■


 音がする。

 ごとん。

 何かが落ちる、音がする。

 ごとん。ごとん。

 薄暗い部屋だ。昼間だ、と加州は根拠もなく思った。
 真昼間の、けれど日差しが差し込んでなお薄暗い、畳敷きの部屋。幾度となく駆けた池田屋の方が、まだ明るさでは劣っていても清々しい。澱み切って寒々しいその場所は、まるでドブ川にてっぺんから爪先まで浸っているかのような、胸の悪くなる空気で満ちていた。
 埃と、黴と、吐瀉物と、血と、腐った何かの臭いがする。一呼吸ごとに、肺が腐っていきそうだった。(なんだ、ここ)強い既視感と吐き気に苛まれながら、次第に明瞭になる視界に目を凝らす。――ごとん。

 真新しい血が、畳に重ねて飛び散った。
 血脂をたっぷりと乗せて、鈍く光る白刃が翻る。

 ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。ごとん。

 首が落ちる。

 首が跳ねる。

 死体が並ぶ。

 部屋のそこかしこに、ぐちゃぐちゃになった肉の塊が転がっている。
 ようやく馴染んだ視界一面に、同じ顔をした首がごろごろ、ころころと散らばっている。絶句する加州の後ろから駆けてきた誰かが、横をすり抜けて前へ出る。「兼さん!」明るく弾んだ声が、嬉しそうに、慕わし気にその名を口に乗せる。(あれ、は――)一拍遅れてその声に、その後ろ姿に理解が追い付く。誰だったかを思い出す。刃が閃く。

 ごとん。

 笑顔を浮かべたまま、堀川国広の首が落ちる。
 遅れて置き去りにされた胴体が、血煙を上げて崩れ落ちる。がしゃん。鋼の音がする。先んじて首を失った己の死体の上に、折り重なって倒れ伏す。生暖かい液体が、加州の靴先を汚した。
 (これが、)和泉守兼定の、心の中。深層の風景。(――これが?)直感する。これは、本丸だ。それも、“前”の審神者がいた頃の。
 呆然する加州の視線のその先で。のろのろと、緩慢な動作で和泉守が顔を上げる。乱れた髪の隙間から、ぎらぎらと異様な光を宿した目が加州を見返す。死人さながら濁っている癖、何かしらの妄念にでも突き動かされているかのような、怖気の走る目だ。ぎくり、と背筋が強張る。

「きよ、みつ」

 だらりとぶら下がっていた腕が、自然な動きで持ち上がる。
 放心したような顔の持ち主を置き去りに、敵に対するようにして構えを取る。切っ先が、加州へと向けられる。瞳孔の開いた目で、瞬きもせず、蒼白になってだらだらと冷や汗を流しながら、自分に言い聞かせるように和泉守が呟く。

「……ああ、ああ。そうだな。そうだよな。駄目だな、俺が、助けてやらねえとな。お前に頼ってちゃ、いけねえもんな。一人でも何とかなる、耐えられる、耐えられる、だいじょうぶだから――
「そうだよ、兼さん」

 足元から上がった声が、楽しそうに和泉守へと追従した。
 ぎょっとして見下ろせば、部屋一面に転がる堀川の首が、寸分の狂いもなく同一の三日月型に唇を吊り上げ、瞬きもせずに加州を揃って見上げている。禍々しい笑顔の群れに、おぞ、と全身が総毛立つ。

「ッ聞くな和泉!」

 けらけらけらけら。そこかしこに転がる首が、加州の警告を嘲り笑う。
 同じ声、同じ音、同じ調子の不協和音が折り重なって反響する。笑って、あの、場違いなほどに朗らかで懐かしい声が、和泉守に同意する。肯定する。追従する。唆す。

「清光さんも、助けて」

「僕みたいに」

「可哀想だもん」

「折ってあげなきゃ」

「逃がしてあげよう」

「兼さんはかっこよくてつよぉーいから」

 かつての主そっくりな表情で。
 堀川国広の顔をして。

 異口同音に生首達が、とびりき甘ったるい声音で告げる。


「「「「独りでも大丈夫、だもんね?」」」」」

 和泉守が床を蹴った。ぬらり、と不吉に刃が輝く。
 無意識に彷徨った手が腰に伸びたのは、本能の域での行動だった。
 けれどもそこに、馴染んだ柄の感触はない。自らの本性である打刀の不在に、ここは現実ではなかった、と遅れてきた再認識に歯噛みする。

「っと!」

 呼吸を合わせ、身をかわして距離を取る。伊達に長く付き合ってはいない。フェイントも交えていないような、直線的な動きを見切るのは容易だった。
 和泉守が、不思議そうに首を傾ける。避けるなんて思ってもみなかった。そう言いたげな動作だった。それはそうだろう。なにせここは彼の心の中だ。予想外の出来事なんて、本当なら起きるはずもない。
 じりじりと距離を計りながら、加州は声には出さずに毒づく。

 (クソ、こんなのどうしろっての……!)

 二人で帰る、と約束した。
 和泉守を連れ帰る為にここまで来た。けれど――

「鬼ごっこだよ、兼さん!」
「頑張って、兼さん!」
「もたもたしてちゃダメだよ、兼さん!」
「主さんが来る前に終わらせなくっちゃね、兼さん!」

 くすくすけらけら。

 首が笑う。子供のように無邪気に、残酷に、無責任に囃し立てる。
 その内容に歯噛みした。(主さん、って)ふざけている。今の主であるはずもない。この本丸の情景を思えば、その単語が指し示すのはただ一人だ。苛立ちのままに、声を荒げて加州は怒鳴る。

「いつまで寝ぼけてんだ和泉! あの野郎はもういない!! あいつはとうに死んでるんだぞ!!」
――随分とまぁ、ご挨拶じゃあねえか」

(…………え、?)

 ぅわん、と重たく響いた声に、理解が追い付かなかった。どっと全身から冷や汗が噴き出す。聞くだけで胸糞悪くなってくる声に、カタカタと、震えが沸き起こってくる。喉が引き攣れて呼吸が止まる。心臓が煩く暴れ出す。

 いつの間にか、和泉守の後ろに男が立っていた。

 碌々着替えもしていない、汚れ、皺だらけの安っぽい洋装を着崩した男だ。
 目を逸らしたくなるほど劣悪な薄笑いを顔面に張り付けた、倦んだ雰囲気の――(違う。本物なはずがない!)分かっている。そんなことあるはずがない。あり得るはずがないのだ。
 それでもその姿を見た瞬間、全身が凍り付いたように動きを止めた。下手に動いてはいけない。目をつけられないようにしなければいけない。身じろぎすらもできないほどの恐懼が、加州の理性を塗り潰す。

「そうそう、大人しくしてろよぉ」

 粘着質な、べっとりと耳に残る猫撫で声で“主”が嗤う。
 くすくすけらけら。和泉守の声と、首だけになった堀川達の声と混じり合う。耳孔を塞いで脳を犯す。慈悲すら含んだかなしい声と、嘲笑う声が、不協和音を奏でている。


「「――すぐ、終わらせてやる」」


 刃が閃く。
 白い布が、世界を遮った。

「清光さん、こっちへ!」

 硬直が解ける。手足に感覚が戻ってくる。
 ぐい、と横合いから力強く手を引く力に、弾かれるようにして駆け出す。
 薄暗い部屋の外側に広がるのは、一寸先すら覚束無いような闇だった。夜の闇とはまるで違う。本能的な忌避感すら覚える黒の中を、迷いなく先導する背中に手を引かれながら走る。
 先程見たばかりの背だった。転がる生首と、部屋一面に折り重なった肉の塊とまったく同じ姿形を持った――

「堀川……」
「はい、清光さん」

 生首とは似ても似つかない表情で、堀川はにっこりと笑ってみせた。




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