鎖が外れた。
 こつこつ削りへこませ続けた鎖が、やっと外れた。
 しつこくミニの行動を制限し続けた忌々しい鎖が、とうとう、外れたの。

 泥になれるって素晴らしい。
 両手が使えるって素晴らしい。
 行動が制限されないって、素晴らしい。
 もう、ミニを縛るものは何も無い。
 忌々しい海楼石の鎖から解放されたから、ミニは何処にだって行ける。何だってできる。

「はじめまして海賊さん、そしてさよなら永遠に!」


 だからその海賊船、力ずくで貰っていくね?

【 09.ロギア系はマジチート。ただし使い道が戦闘&サバイバル限定の現実。】


「 や っ ち ゃ っ た ・ ・ ・ ・ 」

 誰もいない元海賊船の上で一人絶望のポーズ。わぁ空しい。
 鎖がようやく外れた嬉しさで羽目外して暴れちゃった昨日までのミニを殴りたい。全力で殴りたい。
 久しぶりに能力使ったけど、上陸中とはいえグランドラインまで来た海賊余裕勝ちとか悪魔の実って本当にチートだと思うのありがとう。うん傷一つ負わなかった。そもそも動きとか簡単に読めた見切れた普通に遅かった。
 相手も海賊だったし制圧したのも悪い事じゃないし、うん、そこまではいいとしても。

「その日のうちに北の海目指して出発は失敗だった……」

 海図の見方とか舵の取り方とか、リトルガーデンにいた時に勉強だけはしてたから一応基本は分かってるつもり、だけど。
 いやむしろそれが逆にまずかったのかな。おかげで勢いそのまま出航しちゃったもん。
 水も食料も残り少ないし、そもそも一人で切り盛りするのにこの船大き過ぎるし。
 嵐来て転覆したり、船底に穴があいたらどうしよう……

 ……緊急用の小船とか、あと最終手段・タルの用意を万全にしておこう。うん。

 どっちにせよ、現在位置がカームベルトなのには変わりないし。
 それにしてもカームベルト、なんで海王類の巣になってるんだろうね?
 他の海でもいいんじゃないかと思うんだけどね。不思議だね。
 とりあえず今後の基本方針としては、海王類何でもいいから従えて、船全速力で引かせる事かな。
 原作でも船を海王類に引かせるっていうのはしてたし、そうでもしないと凪ぎオンリーで波もほとんど無い海ってすごく通りにくいんだ。実際に来てみないと分かんない事だよね、この辺りは。
 見事に凪いでます遅々として船が進まないです。泥で複数オール操って漕ぐにしても、体力には限度があるし。
 ……うん、それにミニってば貧弱なんだ。もやしっ子なんだ。能力はチートだけど、純粋に筋肉少ないの。
 持久力と体力と速度にはそこそこ自信があるんだけどね。パワー無いの。
 地上なら海王類何十匹来たって泥の質量で華麗に圧殺できるけど、船上に泥なんて無いよ。

「うー……質量に任せての戦闘は、地上以外じゃ使えないもんなぁ……」

 解放されたからって浮かれ過ぎだったね。失敗だなぁ。
 とりあえず、冷静に現状を整理してみよう。

 まず、今後の食糧と進路。
 食べ物は海賊たちの残りが多少あるし、それ以後についても海王類仕留められればどうとでもなるとして。
 水については手間かかっちゃうけど、海水蒸留すればいくらでも作れるし。
 野菜成分足りないのが痛いなぁ……生ゴミに根菜ってあるかな? 育つまで時間はかかるだろうけど、家庭菜園の要領でなんとかなるかな。無理ならまた海王類の血(の、成分)に頼るしかないけど。

「カームベルトなら羅針盤使えるから、とにかく北を目指して脱出第一。
 進行速度、はやっぱり海王類ゲットしないとにっちもさっちもいかないなぁ」

 次はミニの敵、だね。
 ミニが賞金首である以上、賞金稼ぎや海軍は当然。
 海賊も敵、かな。赤髪とか白ひげとか、ああいう良性の海賊なんて全体から見れば少数派だろうし。
 新聞見てた限りじゃ、略奪暴行拉致殺人は普通みたいだったもん。
 でも、この辺りはカームベルトにいる限りはあんまり考えなくていいだろうな。
 ここら辺の海は海王類の巣だし、他の船にちょっかい出す暇があるならさっさと逃げるだろうから。
 ミニは一人だし、いざとなればタルに隠れて無人船を装うって手もあるね。
 唯一最大の敵はやっぱり海王類、かぁ。

「数も多いし何より巨大、そもそも海に潜られたら手の打ちようは無し。
 理想は海上に出てきたところを狙い撃ちして速攻。一撃で伸せればベスト、なんだけど」

 能力者って海が致命的だもんね。
 誰か空中飛ぶ技使ってた気がするけど、あれどうやったら覚えられるんだろう。
 あると便利そうなんだけどな。船上からちょっとでも行動範囲広がった方が戦闘の幅も広がるだろうし。
 今後の課題、という事でそれは一旦保留するとしてー。あとは、これからの自分の育成方針固めなくっちゃね。
 自己鍛錬オンリーで師匠いないけど、無い物ねだりしてもどうしようもないもん。
 地上なら大概の敵に負けない自信あるけど、当分は海上戦メインなんだし。

「ステータス表とかあればいいのに」

 操舵室から持ちだした紙を甲板に広げる。
 自分が平均レベルから見てどの辺りにいるのか、よく分らないのって結構痛い。
 悪魔の実でロギア系能力者だし、基本スペックは高くなってそうだけど。
 でも、いくら基本スペックが高くたって鍛えなきゃ使えないのは変わりない。能力者としてのレベルは想像力と、後はそれを支えるだけの身体能力があるかで決まるんじゃないかなっていうのがミニの予想なんだよね。
 身体能力の高さも重要な要素だと思うの、原作でロギア系な人達もスペック高いもん。
 ミニもこの身体になって知ったけど、泥になれるからって腕力とか持久力とかは全然変化しないんだよね。
 同系能力者対決になったらたぶんミニ、一分かからず死ねる。海王類の胃の中で技の訓練したし、リトルガーデンでも恐竜さん達といっぱい遊んだから反射神経とか技の精度にはそこそこ自信があるけど。

「んー……純粋な力だけにすると、鍛えても不利にしかならないか」

 羽ペンにインクをたっぷりつけて、≪腕力目標:最低限≫と書き込む。
 性別的にも種族的にも体格的にも、パワータイプは目指しようがないしね。
 どんだけ鍛えても、おじさん達相手に力で勝てる気はしないもん。大きいものは強いのですよー。
 ミニの利点といったら、小回り利く事とリーチ気にしなくていい事、あと動体視力や反射神経?

「となると、目指すべきはスピード重視の技タイプだよね」

 理想は敵と速攻で距離詰めて、泥カッターでしゅぱあっ! みたいな。
 マッドショットの弾小さくして速度上げて、泥で疑似マシンガン! っていうのも威力ありそうだけど、なくした質量って取り込み直さないと戻って来ないんだよね。身体構成する最低量以上使ったらどうなるのかとか、怖くて試せないです。
 まず貧血からなのは知ってるんだけども。
 ふんふんと鼻歌を歌いながら、思い付く限りの修行方法を並べ立ててみる。
 うん、これはちょっと楽しい。できるかどうかは別として。

「よっし。かーんせーい!」

 思い付くまま書き上げた修行リスト!
 これをかたっぱしから試してみれば、きっと有効なのが一つか二つは、


 ざっぱーん。


「…………」


 大波が来たよ。


「………………」


 海水でインクが滲んで読めなくなったよ。


「…………………………」



 海王類が原因だよ。


「……うん。修業は実戦あるのみで」

 八つ当たりとか苛立ち紛れの暴行じゃないよ? ミニ、すごく冷静だからね?
 素人考えでの修行より、実際やってみた方が得るものもきっと多いって思ったからだよ、勘違いしないでね!




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