物見台の頂上で、軍服姿の少年が大の字になって空を見上げていました。 程良く日が照っていて風も穏やかに暖かく、秋だというのに大変快適な小春日和な気温です。 ぎゅげーと不吉に鳴き喚きつつ、慌ただしくカラスの大群が視界を横断していくのを眺めながら少年は緊張感がマイナス入ってまったりモード確定の口調で独白しました。 「………平和だなー…………」 「なぁーにが“平和だな”よっ!?」 しかし、それに異論を唱えるテンション正反対な少女が一人。 仁王立ちで少年を睨みつける眼差しは怒りに満ちあふれております。なんか今にも刃傷沙汰が起こりそうです。 蹴りの一発くらいは余裕で入れそうなノリですが、少年のヤル気ゲージマイナス以下のままで微動だにする様子もありませんでした。ボディーに入れたらさすがに動くんじゃないかと思うんですがね。のたうち回る方向性で。 「おう、クリスじゃねえか」 「ああもう!ゴールド、あなたこんな所でなにしてるのよ!」 「喚かなくっても聞こえるっつうの。ま、しいて言うなら見張り番の代理だな。いやーオレって気がきくよなー」 自画自賛してますが、ゴールドはごろーんぐだーんだるーんと寝っ転がったままでした。 そしてあっち行けとばかりにクリスに向かってしっしと手を振っています。 誠実さとか気遣いとかからはニトロチャージで逆方向な行動ですね、どう考えても嘘ですありがとうございます。 「あなたに追い出されたって、当の本人はわたしに泣きついて来たんだけど?」 腕組みしたクリスのジト目な指摘に、ゴールドはちょっとだけ動きを止め。 「……そりゃあれだ、非正式な休憩をこわーい軍師様に見つかっちゃったからな。 彼は泣く泣くオレを売るしかなかったんだろ。いやー可哀想だよなー」 棒読みで元・見張り番に罪をなすりつけました。いやあんたそれはどうよ。 ダァンッ!とクリスが青筋浮かべて足を大きく踏み鳴らしました。あわせて塔が一瞬揺れます。 この物見台って石造りで頑丈なはずなんですけどね。戦争想定して作られてるから派手に走り回ってもへっちゃらだぜ☆な造りしてんですけどね。この世はミステリーに満ちてますね本当。 「あ・の・ね・えっ!!そもそも!あなた警備の総責任者でしょうが!それがどうしてこんなところで油売ってるのよ!?」 「どーしてって、なあ…」 確かに揺れた物見台とかどーやって揺らしたんだとか、その辺りを一切無視してゴールドは流れる雲を目で追っていました。まあ彼とクリスは付き合い長いですからね。よくサボって蹴られたり避けたり引きずられたりしてますからね。 軍師だからって攻撃力が低いとは限らないという事ですね分かります。実務の方が出世早いんじゃないのかクリスタル。 「大規模な魔界侵攻。魔獣だらけにしたって手柄立て放題の土地だけに、多数の国が力を合わせ、うちでも将軍クラスは全員出払ってるから居残ってんのは隠居寸前のジジイが一人に一部の隊長クラスだけ」 言葉を切って、ゴールドは真摯な眼差しでクリスを見つめました。 とても真剣な顔ですシリアスです。ダラけてるのに表情ひとつで真面目演出です。やるな。 「クリス。おまえ、これでやる気が出ると思うか?」 「やる気が出るかどうかの問題じゃないわ。自分の仕事なんだから、やらなくちゃいけないの!」 けれど長い付き合いのクリスにそれは通用しなかった様です。 シリアスな問いをさくっとさらっと 全 否 定 して、クリスはがっしい!とゴールドの襟首を掴み上げました。 細腕からは想像できないたくましさで、幼馴染を憤慨しつつもずーるずーると引きずってゆきます。ドナドナです。 実働部隊の方が出世は確実に早いですねこれ。 「ほら、行くわよゴールド隊長!」 「めんどくせぇなー」 のちに“護国の英雄”にして“ジョウト王国の剣と盾”とセットで名を轟かせ、讃えられる事になる未来の最強コンビ。 扱いにくいからこそ待機“させられ”組に回された彼等が“ただの”いち軍師といち隊長だった、その当時の平和な出来事でありました。 |