魔族と魔獣の住まう国、通称魔界。 人外魔境なこの国は、ぶっちゃけ魔王を頂点とした完全無比なる軍事国家です。 実力主義の戦闘主義を地で突っ走るのがいわゆる魔界クオリティだったりするのは既にご存じの通りですが、そんな魔界でもちゃんと階級制度はあるし、戦闘を仕込む教官だっていたりします。 そしてこれは、人界侵攻を控えたとある新人魔族達の一幕でありました。 「お早う、愚物共」 「「「「「「「サー!おはようございます、サー!」」」」」」 既に血臭が染みついて消えなくなった大地に集う魔族の新兵達が、澄み渡る青空のような爽やかさ200パーセントの罵倒語を発した教官に向かって一斉に敬礼しました。多種多様な姿形の魔族達が、見た目若いにーちゃんの前で一糸乱れず整列している図というのは中々の萌えシチュエーションであります。中にはにーちゃんよりムキムキマッチョネスな魔族も混じっていますが、要するに見かけ倒しという事らしいですね分かります。 そして実力主義の魔族が指導官の訓練が楽なはずがないのも真理ですね当然です。 実際、一か月も魔界軍で軍事訓練されればいかに惰弱な精神と肉体の持ち主であろうとも確実にひとかどの魔族になれると大評判な辺りからも、それは窺えるというものでした。 「よく聞け、栄光ある魔界軍の末席を汚す事を許された愚物共」 今期の教育担当を任されたフリダヤ教官は、新兵に対して優しく爽やかな侮蔑を向けながら諭しました。 威圧感パねぇ上での見下し目線のみならず、唇が紡ぐ単語は正しく鬼畜サド全開でした。自重してません。 反抗心を根こそぎ刈り取り磨り潰すオーラで、教官による罵倒混じりの訓示はさらに続きます。 「貴様等は未来の将軍、もしくは英雄かもしれん。だが、今はまだ糞にたかるウジ虫にも劣る排泄物に過ぎん。 これから俺の教えを受け、それを全てモノにできて初めて、タマゴの殻をケツにぶら下げた半人前のひよっこになれる。 分かったら口から糞をたれる前と後に“サー”と付けて返事をしろ!」 「「「「「「「サー!イエッサー!!」」」」」」 「声が小さい!貴様らの口は呼吸以外に能が無いのか、もう一度だ!」 「「「「「「「サー!!!イエッサー!!!!!」」」」」」 「よろしい。貴様ら愚物共が俺の訓練に生き残れたら、各人が武具となる。戦争に祈りを捧げる死の司祭だ。 その日まではウジ虫だ。この大陸で――――いや、この世界で最下等の生命体だ! 貴様らは魔族ではない、糞魔獣どもの糞をかき集めた値打ちにすら値しない! 貴様等にひとつ良い事を教えてやろう。俺は厳しいが、不公平が嫌いだ。 新兵としてこの場に立つ以上、半魔だろうと魔獣混じりだろうと人間だろうと関係無い。 貴様等は、全く平等に価値が無い! 俺の仕事は役立たずを刈り取る事だ。魔界と陛下に害成す糞虫共を、呼吸をするようにな。 分かったか、愚物共!」 「「「「「「「サー!!イエッサー!!!」」」」」」 お子様の精神に色々害を残しそうな訓示ですねありがとうございます。 そしてこの訓示が序の口なのはもはや語るまでもない現実です、PPが一気にゼロと化すぜ。 「さて、本日は通常の訓練課程は執り行わん。 特別講師として、魔獣軍を率いるプシュケ将軍と天空将軍がここに来ている」 その言葉と同時に、フリダヤの横の地面が噴水のように噴出しました。水のよーにどべべべべと土を放出しながら、大地を割り裂いて登場した魔獣モードの天空がグォオオオオ!と猛々しく咆哮し。 「やほー!」 そんな魔獣の上にちょこんとオマケっぽくのっかっているプシュケ将軍が、とっても平和なおかおでぶんぶかと手を振りました。和む光景ですね。これでも上から数えた方が早い実力者なんだから世の中って不思議ですよね。ちなみにフリダヤ教官も上から以下略なんですけどね。 ちなみにこの新兵訓練ですが、くじでどの将軍が担当するか決定してたりします。めっちゃ適当ですね決め方。これもいわゆる魔界クオリティです。いいのかオイ。 同じようにあっちこっちから出てくる魔獣に動揺する新兵達に、フリダヤが高らかに告げました。 「歓べ愚物共!今日はこのプシュケ将軍と天空将軍、そして俺とが貴様等を泣いたり笑ったりできなくなるまで念入りに可愛がってやる。ゴミ屑になるまでシゴき倒す。どうだ、嬉しいか?」 「「「「「「「さ、サー!!!!イエッサー!!!!!!!」」」」」」 「いい返事だ腐れ【 以下放送禁止用語につき省略します 】共! では訓練に移る前に歩兵訓、詠唱始めッ!!」 何のために生まれたんだ!? ―――強い奴と戦うためだ!! 何のために戦うんだ!? ―――ゴミを叩き潰すためだ!! 貴様等は何故存在するんだ!? ―――刃向かうゴミクズを一掃するためだ!! 貴様等が敵にすべき事は何だ!? ―――目標定めてブチ込みゃいい!! 歩兵とは何だ!? ―――武器兵より身軽に!騎兵より小回りが利き!魔法兵より早く!どれよりも安い!! 歩兵が怖れるものは何だ!? ―――最凶最悪、星堕としの我らが魔王陛下!!それより怖いものは無しッ!!! 我等歩兵連隊兵!弓矢上等!魔法上等!被弾が怖くて戦場に立てるか!!(×3回) ヤケクソ感の窺える新兵達を見ながら、プシュケはこてんと首を傾けてコメントしました。 「元気がいいなー?」 『鍛えがいがありそうだよな!』 戦争が近くったって、のんきモードと脳筋モードに変更は無いみたいですね。がんばるぞーとか言ってます。 ちなみに蛇足ですがプシュケ将軍、敵の弱点発見は得意でも手加減は苦手と大評判だったりします。そして天空将軍についてはもはや言うまでもありません。新兵ファイト。 そんな彼等のその後は、もはや語るまでもない閑話休題でした。 |