実は人界ほぼ全ての国家が参加予定な、読者的に結果が明確過ぎてぬるーい気分になる出来レース魔界侵攻。 しかし“ほぼ”という辺りから分かるように、この戦争に不参加を表明した国家もいくつかあったりしました。 ちなみに不参加国は魔獣率高かったり、比較的魔界領に近い国ばっかりです。 要するに手を出すとヤバいんじゃねーかなあそこと判断できた国とゆーわけですね、なんという危機回避能力。 極北の王国、シンオウもまたその一つ。 世界でもっとも魔界領に近く、魔獣出現率も世界最高というヤバさに恵まれたシンオウ王国が魔界侵攻をパスしたのはまさに自明の理でありました。こっそり魔族出入りも多いですしね。半魔率もじみーに高いですからね。しかも時々魔界領から火柱上がったり雷落ちまくったり謎の霧が漂って来たりしますからね。魔族の危機明白だな。 けれど魔界領侵攻に参加しないのが国の方針だからといっても、イコール関わらない表明という事ではない訳で。 「本当ですか、お父様!」 「ああ、勿論だとも!」 シンオウ有数の大貴族、ベルリッツ家にて。 先祖代々学者もしているセレブ親子が、うふふあははと好奇心に煌めいておりました。 今にも輪になって踊りだしそうなテンションです。演目はワルツです。ポルカは踊りませんよだってセレブなんだもの。 もちろんらん、らん、るー♪もしませんよ? 某ピエロ様自体の存在を存じ上げないのがセレブのセレブたる所以です。これだから金持ちは……ッ! 「ははは。そこまで喜んで頂けるとは、こちらとしても有り難い。 それでは魔界領侵攻に際して、基地へご同行頂ける……という事で宜しいですね?」 「当然ですともアカギさん!なんといっても魔界は謎の宝庫! 全魔獣発祥の地にして伝承の魔都!!私達学者にとってはどの大陸よりも魅力的な場所なのですから!!!」 「それは良かった。私どもとしても、やはり商品として取り扱う以上は詳細を知っておく必要がありますからね」 はっはっはと商談成立☆とばかりにギンガ商会社長はクマの色濃い顔にどっかの新興宗教の教祖みたいな笑顔を浮かべていました。頬もこけていてガイコツじみてホラーですね本当。仕事しとらんで休めやオッサン死相出てんぞ。 で、まぁ要するに。 シンオウ王国が関わらなくたって、個人や企業が関わる事までは禁止されていない、という事でした。 魔獣は存在明白でも、魔族の存在はシンオウですらグレーゾーンですからね。なんていうかツチノコ的な。 半魔とか魔族はこっそり潜んでます。やっみにかーくれってーいっきるー♪ そんな魔族とか謎とか危険とかをあえて掘り出してみる、それがいわゆる学者の性分。 魔界をつついたら蛇どころかドラゴンが出てくるんですけどね。 でも知らないからこそ人界は魔界をつついてみる訳ですよマドモアゼル。後でするから後悔なんだぜ。 「魔界……いったいどのような場所なのでしょう…………!」 うっとりと、まだ見ぬ魔界に思いを馳せるプラチナ嬢。 彼女はまだ知りません、魔界が侵略者に容赦しねぇお土地柄だという事を。 そしてそもそもギンガ商会が、「ちょっとそれはどうよ人として」な商品も取り扱っているブラック企業だという事を。 そんなブラック企業の仲介で向かった油断一秒即アウトな魔界で、ある意味当然ながら波乱万丈な大事件に関わり死亡フラグ地雷原をくぐり抜ける展開になるだなんて。 魔界での採掘シュミレーションをしている彼女には、やっぱり想像できるはずもありませんでした。 ■ □ ■ □ 同時刻。 「ねーパールー…やっぱりまずいんじゃないかな〜?」 「なーに言ってんだよダイヤ! オレたちが大手柄上げるとしたら、先回りでこっそり紛れといて開始と同時に襲うっきゃないだろ!?」 「でもさ〜。戦争参加は、最低でも軍部所属できる実力ないとダメだって陛下が……」 「いーのいーの、結果さえ出しゃ陛下だって許してくれるさ! それに、いまさら軍事訓練受けに行けってのか?イヤだぞオレ。今期は特に教官が厳しいって話だしな」 「そーなの〜?」 「そ・う・な・ん・だ・よっ!」 そんな会話を繰り広げる魔族の少年二人も、まさか紛れ込んだ先で少女を助けて同族相手に死亡フラグ地雷原をくぐり抜ける羽目になるなんて未来像、やっぱり予測すらしていなかったという事です。 |