さらさらと雪の如く灰が降り積もり、うっすらほのかに卵の腐ったよーな硫黄アロマ漂う噴火の危機身近すぎだろうお前等マジで大丈夫か?な火山国家・マグマ国にて。魔界侵攻も間近に控え、参戦国の一つとしてムンムンと暑っ苦しくテンションが煮えたぎっている王都城内では現在――― 「侵入者だぁあああああっ!!」 「マジかあいつ壁ごと突破したぞがブッ!? 」 「しっかりしろぉおお!誰か衛生兵呼んで来ぉーいっ!」 「うわこっち来たこっち来たァアアアアア!!!」 「防衛ライン準備ーッ!」 現在進行形で最前線と化していました。開戦まだ先のはずなんですけどね。 まぁそんな素朴な疑問はさて置くとしても、赤装束の兵士達は必死こいて侵入者撃退のためにハッスルしておりました。今のところ敵前逃亡者は出ていない辺りに結束の強さが窺えますね。 ファイトだしたっぱ頑張れしたっぱ、とりあえず死人はまだ出てないからいけるはず! 「やれやれ。このくらいで動揺するなんて、まだまだだなあ」 慌ただしいしたっぱ兵士達とは対照的に、もくもくと上がる砂煙の中を余裕たっぷりに歩く人影は、そう言って気取った仕草で肩を竦めて見せました。必死な方からするとイラッとくる具合です。 どう考えても挑発ですねありがとうございます。 「それに比べてボクは、戦う時もつねにかしこく、たくましく、かわいく、かっこよく―――」 砂煙が少しずつ収まっていき、歩いてくる少年のシルエットが明確になっていきます。 それを観察しながら一般兵達は、口上をうぜぇ黙れ と言いたげな顔でスル―しつつ体勢を整え陣を敷き、一斉に槍を構えました。左右上下どこから見てもヤる気満々の体勢です。 生かして捕えるという選択肢自体が無さそうですね大変ですね。そんな殺気率高めな視線とヤバげな切っ先を向けられながら、少年はばっ!と大きく手を広げてターンしてポーズを決めます。 「―――そして、美しい!」 懐かしさMAXな口上ですねありがとうございました。 つーか主語変えるとナル度上がりますねありがとうございますもうリターンしていいですよ。ナルはあんたの大師匠だけで足りますんで正味な話。 地の文からのある意味切実なメッセージをスル―し、少年は高らかに名乗りを上げました。 「ボクの名はルビー!Beautifulな格闘家さ!!」 聞いてねぇよ。 全員の心境が一致した瞬間でした。リアクション的にはおもーくドン引きです。エアーにはなれない。状況的に。 なにこいつ状況読んでなくね?どうしようか。どうするよ。しぃんと不気味なまでに静まり返った廊下で、兵士達は扱いに困る珍獣を前にした飼育員さん達のように視線だけで語り合いました。おいお前行って来い。いやだよあんた行ってくれ。 声の無い壮絶なバトルを繰り広げる兵士達をびっしぃ!と指差して、ルビーはノリノリで宣告します。 お前マイクどこから出した。 「ボクは無意味な争いを止めるため、ここへ来た! さあそこのキミ!ボクをマツブサ王の下まで案内してもらおうか!」 「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」 ドン引きした時よりはるかに重苦しい沈黙が下りました。 兵士の一人が、全員の心境を代表して呟きます。 「…陛下なら、昨日魔界に向かって出立したんだが………」 「………………」 「「「「「「……………」」」」」」 「………………………………マジですか?」 「疑うなら町で聞いてこい。絶対全員知ってるけどな」 否定してほしそーなルビーの言葉に、しかし一般兵の発言はとってもシビアでした。 うんうんとその場の兵士達も同意します。いないんだからしょーがない。 なにせ仮にも各国が協力しての侵略戦争。 荒事向きな山賊モドキ国家の異名があるマグマ国にしてみれば、ここがいっちょ力のいれどころというモンです。 まぁその結果、王様と幹部が全員出払って攻め入られたらあぼんな状況と化していた訳なんですが。大丈夫かこの国。 そんな残念過ぎる現状に、ルビー少年は滝のよーな冷や汗を流しつつ明後日を見て一言。 「ええと…間違いは誰にでもつきもの、という事で……」 「「「「「「 すむかぁッ!!!! 」」」」」」 のちに、魔族とガチで渡り合える数少ない人間の一人として、人魔双方に名を知らしめる少年・ルビー。 自称“美しき”格闘家の彼が歴史の表舞台に登場した、まさにその瞬間の出来事でありました。 |