「国王さまー!あたしの話ば聞くばい!!」

大海原に夕日が沈む、そんな大自然チックでスタンダートに美しい光景を一望できるバルコニーにて。
ロミジュリ的ラブロマンスでも発生しそうなロマンチック空間で、しかし城壁登ってまで乱入してきた少女はとっても鬼気迫った形相で叫びました。 四 足 歩 行 なので動きが動物ちっくです。
ぶっちゃけ一国の王様に直談判する恰好でもありません小汚いです。お前何日風呂入ってないんだよ。
とにかく、どこからどう見てどう曲解しても不法侵入者でした。
常識的に考えて実際問題、正式な謁見者はバルコニーまでよじ登ったりしませんしね。
なんというロッククライミング。秘伝マシンいらねーな。
まぁそんな訳だったので、ロマンチック空間にこれまたそぐわない海坊主………もといアオギリ王は、大変冷静かつ端的に、後ろに控えていた近衛兵達へと命じました。

「不法侵入者です。捕えなさい」

「はっ!」

「なんでっとよー!?」

あっちゅー間に少女は人海戦術でとっ捕まってドナられてゆきました。
暴れてますがなんてったって多勢に無勢、こればっかりはどうしようもありません。
色々アオギリ王に「話ば聞くったいー!」とか「魔界に攻め込んだらいかんばいー!」とか「後悔するとよー!」とか必死こいて訴えの叫びを上げてましたが王様は聞いちゃいませんでした。オールスルーです。
国民の直訴なんだからもうちょっと耳を傾けたらどうかと思うんですがね。まぁ結局不審者ですしね。犯罪者ですしね。
でも正規ルートで訴えても確実に聞かなかったでしょうけどね。
なんてったって絶対王政、王様がルールブックです。反抗する奴の首はちょんぱだ!

「シズクさん、警備の強化をしておきなさい。
 大事を控えているというのに、たやすく侵入を許すようではいけませんよ」

「ははッ!」

敬礼する近衛のリーダーは冷や汗だらけです。血の気もないです。死相出てますね。
海洋国家・アクア国のアオギリ王は冷酷非情の海ぼ……じゃねーや非道王として有名だったりします。
ちょっとじゃなく不吉すぎる将来を未来予知しちゃっても当然かもですね。成果主義の効率主義って怖いですよね。
ところでこのオッサン敬語が顔にそぐわねーなと思うのって私だけですかね?
バルコニーからのビューティーな光景を眺めながら、アオギリ王はふふふと微笑みを浮かべました。
敬語キャラな丸刈り頭のムサ顔が微笑んでるのって結構気色が悪いですね。うすらさむいわ。

「もうすぐです……もうすぐ、魔界が手に入る……!」

アオギリ王は野望にもえもえでした。
そりゃそうでしょう。魔界侵攻の言いだしっぺでこそありませんが、ぶっちゃけ旅人とか商人とかその他諸々の情報網駆使して世論誘導したのアクア国ですしね。黒幕かよ。
合理主義者のアオギリ王にとって、おとぎ話の中にしか存在しない魔族を恐れて未開の資源たっぷりお宝ざっくりな魔界を放置しておくのは許し難い事でした。手強い魔獣( 人 間 基 準 )もきっといるでしょうが、それによる犠牲を考えに入れても魔界はどうやら魅力的に思えたらしいです。なにせ魔族が人界侵攻したのが1400年前ですからね。
魔王サカキの人界暗黒時代、魔族にとっての近代でも人間にとっては大昔です、詳しい文献なんざ残ってるはずもありません。あって口伝の物語じゃー信憑性も低いわな。

ふふふ、はははと夕日に向かって高笑いを上げるアオギリ王。

彼は知りません、魔界が事実って物語より過酷よね☆を実践しちゃうお土地柄だという事を。
彼は知る由もありません、人界にある国家連合軍の動きなんて魔族がとっくに掌握し尽くしちゃってるという事を。
彼は知るはずもありません、魔族にケンカを売った時点で敗北フラグは確定しているなんて事を。

だから近衛に紛れこんでる魔族の密偵が、魔族の真価を体感した時にどんなリアクションするのかなーこの王様、なんて事を思ってたりするのだって、アオギリ王には分かるわけがありませんでした。



 ■   □   ■   □



さて一方、直訴してドナられた少女ですが。

「ただいまったいー……」

「おお、帰ったかサファイア!」

めっちゃふつーにおうちへ帰ってきてました。父親のオダマキ博士がのんきなテンションで出迎えます。
非道王に直訴しにいった我が子を心配していたって顔ではありません。
しかし、たった一人の愛娘の行動に動じていないのにはそれなりの理由があったりもしました。

「どうだー?王様はちゃんと話聞いてくれたか?」

「父ちゃんの言ってた通りやけん、耳も貸さんかったばい……ひどかー」

ひどかーとか言ってますが、この子兵士をのきなみ殴り倒して逃げてきましたからね。
本人かすり傷一つ負ってませんが被害は甚大だったりしますからね。
オダマキ博士が心配も動じもしていなかったのは、娘がとっても強い事を理解しているからだったりしました。
ぶっちゃけ近衛にドナられたのは魔族がこっそり混じってたからだったりします。地力が違うのだよ地力が。
しょぼーんとするサファイアを、どららと呼ばれているメタリック巨大魔獣がすりすりして慰めました。
デカい図体なのに動作がぷりちーです。癒されるじゃねーかよこの野郎!
対するオダマキ博士は 予 想 通 り という顔でした。さすがに大人だけあってこの展開も想定していた様子です。
だろうなーと頷きながら、当たり前顔で愛娘にからっぽのバックを渡して申しつけます。

「じゃ、約束通り荷物をまとめて引っ越し準備だ!母さんも魔界で待ちかねてるぞ?」

さらっと爆弾発言でした。
繰り返しますが人界は基本魔界領へは不可侵不干渉不接触が不文律です、この場に他の住人とかいたら確実に大騒ぎになっていた事でしょう。でも娘は動揺しませんでした。当然の事実ですので。

「はぁーい……。あ、みんなも連れて行くっとよね?」

「当たり前だとも!陛下からも、帰る前に全員魔界に連れてくようにって書状が来てるからなー」

さて、察しの良い方は既にお気付きでしょう。
魔界領とは関わらない、その不文律は人界側のみに適用されているルールなのです。
魔族があんまり人界に出ないのは、ぶっちゃけ興味がないからでしかありません。
なんてったってバトルマニアが多いですからね。物質方面には興味も薄いですからね。
せいぜい出て観光目的、人界の土地なんざ眼中にありませんオールスルーです。

だけどまぁ、時々旅先で人間と恋に落ちる魔族くらいはいる訳で。

魔獣研究で有名な博士、しかもフィールドワーク好きなオダマキおとーさんが魔族の女性と、イ●ディ・ジョーン●ばりに壮大すぎる冒険ラブロマンスを繰り広げたのはある意味大自然の摂理ですらありました。フォーリンラブです。
現在嫁さんと別居してるのだって純粋に研究のためだったりしますよ、現役でラブい夫婦です。
るんららるんららと引っ越し準備をする父親を背に、サファイアは夜目にも立派なお城を見てため息をつきました。

「父ちゃんが生まれ育った土地やけん、忠告しに行ったのに……どうしようもなかとね」

その日が魔獣博士オダマキと、その娘にして魔獣使いの半魔サファイアがアクア国にいた最後となりました。
そして、アクア国のみならず各地にいた魔獣達も、この日を境に人界から姿を消しました。


【 魔の沈黙 】


のちに、そう名付けられたこの魔獣消失事件。
それが魔王による侵攻の前触れだったと人界の歴史に記されるだなんて、その先導を担当した親子も、魔界でのんべんだらりとしている陛下だって、この時点では知る由もありませんでした。






6日前




アクア国、とある野生な魔獣使いのこと。




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オダマキ博士は人間です。が、魔獣と付き合いが長いだけに瘴気耐性持ちだったり。