ぎぃんぎゃぎんべぎゃぎぎぎん、と牧歌的な田舎町に金属音が響きます。 ぽっくらぽっくらと牛さん馬さんが堂々闊歩しよるようなド辺境、カントー帝国のすみっこの町。 夕方にならんでも虫達が遺伝子生存をかけた恋のさやあてで命を賭けるような中、派手に戦闘を繰り広げるその二人はとっても違和感満載でした。 どこぞのコロシアムとか戦場とか、さもなければ軍の訓練場にいれば違和感の無いたぶん師弟の二人。 教える側だろう男は白髪赤目のアルビノ特徴を持っています。 ですが日差しを気にする様子がないので確実に人間じゃありませんね分かりやすいな! そして容姿特徴が中二病じみてね?とコメントした貴方は原型配色見直してから出直すがよろしかろう頼みます。 腰に巻いてあるベルトに吊られた幾種ものダガ―を、冷徹な顔を微動だにさせずに時に交換し時に投げ時に戻してを光速でしながら戦う姿はまさに歴戦の戦士でした。明らかに戦い慣れていますねこの男。 そしてそんな涼しい顔の男と戦うのは、デカくて太くてとってもご立派な大剣をブン回す赤いジャケットがトレードマークな少年でした。身の丈ある剣を時には盾にし時には武器として扱いこなす姿はやっぱりサマになっています。 「っわああ!」 ばぎゃああああんとド派手な音がし、剣ごと少年が弾き飛ばされました。 ぐでんとする少年をちらとも見ず、男はナイフをベルトに戻します。 『油断が多い、避ける時に右に偏る、動揺すると攻撃が単調になる。防御と攻撃の切り替えは誤るな』 クールな口調で指導が入りますが、少年はゾンビ的に「あ゛ー………」と呻いているだけでした。言葉が耳に入ってきてすらいない様子ですねいいんですかねこれって。そんな弟子をちょっと呆れた目で眺めながら、男は続けました。 『が、俺相手に10分持てば充分だろう』 「っ!それって!!」 『……。ああ、合格だ。レッド』 「よっしゃー!」 歓声を上げてびょいんびよよん跳び回る弟子を見守る男の目は、あくまでもクールなままでした。 つーかさっきまで動けない状態じゃなかったかレッドさんよ。 『卒業記念だ、その剣はくれてやる。今後は好きに振るうといい』 「いいのか白夜師匠!?」 『構わん。手にも馴染んでいるようだからな』 肯定する師匠にレッドは 輝かんばかりの笑顔ですキュートですバックに花が舞っていますね。どこの乙女だ。 ふと、白夜がすっと視線を動かしました。何かに気付いた様子です。そっちでは牛さんがもぉおと鳴いています平和です。 その視線を遮るように、巫女服姿の少女を片腕に抱えた男が降ってわくようにして現れました。 唐突な出現ですまさに怪奇現象です、しかしその実体はとっても素早く隠密に動き過ぎたのでいきなり現れたように見えたというだけの話でした。種を明かせばたいした話ではありませんね。頑張れば誰にでもできる事ですね。 『ブルー。連行、した』 『……睡蓮、それを言うなら護送だ』 『?』 分かってない顔でした。白夜が眉間を指で押さえてため息をつきます。大変ですね。 睡蓮の腕からするんと下りて、ブルーはうかれまくるレッドに声をかけました。 「あら、レッド。その喜びよう……ひょっとして、とうとう合格をもらったのかしら?」 「おうよ!これでオレも、晴れて魔王直属部隊の一員だぜ!」 魔王直属部隊。 それは文字通り魔王に直接指示を受けて動く部隊であり、ぶっちゃけ仕事内容は魔王様の気分とノリで決まるという名誉でありつつもアバウトな職場でありました。ちなみに現魔王陛下が命じる今のメイン業務は人界でのスパイです。 諜報向けの人材って少ないんですよね魔界。だって力押しで大体解決できるんだもの。ガチバトルで白黒つける事も多いんだもの。バトって終われば今日の友、それも魔界クオリティ。 『合格。点、甘い?』 『俺が採点基準を変えると思うか』 『無い』 反問に返した答えは明確でした。躊躇いもしていません。 『そういう事だ。あれは半魔だが、そこらの魔族より余程優秀だ』 褒めるというより事実を述べているだけちっくな口調ですが、目がちょっとだけ柔らかいです。デレ期か。 そして会話しながら二人はさくっと地面に円を描いて宝石っぽい何かを埋めました。 にぎやかにキャピる若人二人を放置して準備万端なようです。 とん、と足で白夜が陣を叩くと同時に複雑怪奇な文字が踊りながら線を成して枠組みを作り骨子に沿った肉付けを行い、みるみる内に不自然な闇色の内側に一人の人物を出現させました。 半透けで虚空に浮かぶ人型が、視線に気付いたように書類に埋もれた執務机から顔を上げて目を輝かせます。 ≪白夜ー!いや白夜様へるぷ!睡蓮でもいい助けてー!書類で過労死させられる!!≫ 『溜め込むお前が悪い』 『……不可』 一刀両断でした。がくぅと倒れ伏す半透け魔王様。立体映像というやつです。 それを粒子粒程度にも気にせず、白夜は話を続けます。ちなみに映像に気付いたレッドとブルーが慌てて駆けてきますがそれもスル―です。 『レッドは及第点を出せるレベルになった。今後の予定に組み込むか?』 ≪とーぜん!間に合ったんなら使いますともよ。グリーンは軍の諜報に専念して欲しいしねー≫ 頬杖をついて身体を起こし、ひらりらと陛下は手を振りました。 慌てて駆けてきたブルーが「お久しぶりですおねーさまw」とハート乱舞でごあいさつし、レッドが「ちゃんと白夜師匠に合格もらったぞ!だからオレも仲間に入れてくれるよな!な!?」と立体映像に詰め寄り睡蓮に頭をワシ掴まれて引き戻されました。ちったあ冷静になれお前ら。 半強制的に二人が睡蓮と白夜に黙らされたのを見計らって、陛下は至極愉快そうに口を開きます。 ≪うむうむ、二人とも元気そうで何より! それじゃ、任務を言い渡すよ。明日出陣式やるから、白夜と睡蓮はとりあえず一旦帰還でよろしく≫ 『ああ』 『了解、した』 軽い口調での命令に、魔界軍総指令官の白夜と隠密機動部隊隊長の睡蓮は短く了承を伝えました。 魔王直属部隊も兼ねてますが実は魔界の重鎮二人組です。魔界でも10指に入る実力者です。 そんな二人がなんで人界いるんでしょうね。まぁ命令以外理由ないですよねネタ振りですねいいのか魔王。 ≪ブルーはそのまま神殿で待機。時期を見て例の計画を発動させてもらう≫ 「勇者計画ね?」 ≪そゆこと≫ 勇者計画。 それは、放浪好きの魔王様が昔人界で読んだおとぎ話から発案した計画でした。 まとめると要するに、人間は魔族よりめっさ弱い → でも人数多いし全般的に滅ぼすのもめんどい → じゃ、敵のまとめ役兼親玉をこっちで用意しとけば戦争の止め時コントロールもしやすくて良くね? という具合でした。 つまりはでっち上げですヤラセです、やり口悪辣だな。 そして更には魔界にあるじみーにウザい敵対勢力もついでに滅ぼしちまおうぜ☆という趣旨もあったり存在したりしました。魔界は実力主義ですが、搦め手使う奴も存在しますしね。 傲岸不遜のゴーウィングマイウェイ陛下だって、決して内部に敵がいない訳ではないのです。まぁ潰すがな。 ≪で、レッドには時が来たら勇者役を務めてもらう。詳細は追々ブルーが知らせていくから。 初任務からハードな役回りだけど、任せていいね?≫ 「ああ、任せてくれ!」 頼もしい言葉に陛下はにやりと笑い、魔王らしく重々しい表情を作りました。 ≪人界侵攻の開始は明晩。時が来るまでは何事もなかったように過ごす事。 これは半魔で、なおかつ世界最大の帝国であるカントーで正真正銘産まれたレッド。それに、魔族でありながら完全に人間を騙しおおせて神殿に潜り込んでるブルーにしかできない仕事だ。――――では、健闘を祈る≫ 「「御意!」」 のちの歴史で、世界を守ったとされる“赤き勇者”と、神の啓示を受けて彼を導き助けたとされる“青の巫女姫”。 二人が半魔と魔族だっただなんて真実が歴史の闇に葬られたのは、まぁ当然の出来事と呼べるでしょう。 |