空は夜に覆われて久しく、月が半円を描いて淡く輝く。 ヒワダの上空に渦巻く厚い雲の層は、薄くうすく拡がってこのヨシノシティにもかかっていた。 あっちはココより寒いんやろなァと、とりとめも無い事をつらつらと思考しながら紙パックに息を吹き込む。ポケモンセンターに備え付けられているテレビは動いていたが、画面越しに響く平坦なアナウンサーの言葉など誰も気にかけはしない。 ニュース番組の内容に関心を寄せる事の無いトレーナー達。少年は、口の端を歪めた。 「――――嵐到来っと。思っとったより浅はかやったな」 「その程度の方が、扱いやすくて好いと思うがのぅ」 新聞をめくりながら、老人が愉しげな響きのこもった声でうそぶく。 イヤホンのコードを指で引っ張って落とし、「面白くは無いんやけどなー」と少年はケタケタ笑う。 「首尾はどうじゃ?」 「今んトコは計画通り。ま、アレは何かあっても巧くやるやろ」 「自信満々じゃな」 新聞をたたみ、テーブルの上へ放り出す。 それは、かなり狭い地域でしか発行されていない地方紙だった。広い事柄はあまり載せないものの、近隣の事ならば憶測や噂も交えて事細かに報道している新聞――――。しかしヒワダシティの一件は、多くの憶測や噂があるにも関わらず“交通の遮断”“豪雪続き”、その程度の記事しか掲載されていない。 だが、それは当然の事だった。もっと広い地域で発行される新聞は、そんな細かな憶測やら何やらまで取り沙汰する程暇では無い―――それ故にこそ、多くを語らぬようにと仕組まれた記事に誰も不審を抱きはしない。 「矢張り、おヌシが奴の後継者かのぅ」 「いやいや。何事にも計算外、ゆーんはあるし」 ストローをくわえたまま、大袈裟な仕草で肩をすくめて見せる。 目を細め、ひょっひょっひょと奇妙な哄笑を上げた老人に数人のトレーナーが驚いたように、もしくは興味をそそられたように視線を向けて通り過ぎていった。 「あのオナゴらにはせいぜい用心せい。足元を掬われてはワシも叶わんわ」 「だーいじょーぅぶ。失敗はせーへんようにするで、安心してぇな」 老人の声に含まれた、微量の氷片。 それに気付いていないはずもあるまいに、少年は軽い口調でおどけてみせて。 「使えるモンなら、利用するだけや」 紙パックを握り潰して、酷薄に哂った。 シナリオ通りに舞台は進む。 【 カミソリレター的挑戦 −後編− 】 「エオスッ!・・・・・・・と、ガンテツ師匠!」 勢い良く扉を蹴破り、勇ましく家の中に突入していったレモンに続いても足を踏み入れる。 ガンテツじぃさんはオマケですかいとレモンにツッコミたい所だが、状況が状況なだけにそれは控えた。 明りが消えた家の中は薄暗く、割れた窓から差し込む月光だけが争いの痕が残った室内の状況を濃い陰影で描き出している。静まり返った部屋に響くのは、レモンとの足音程度だ。 黒の色濃い部屋に目を凝らしてみるものの、少なくとも、動くモノは何も見つからない。 一瞬過ぎった最悪の予想を、頭をふって追い払う。冗談じゃない! 「、ライト持ってない?」 「ごめん、今持ってない」 ポケモンが全員フラッシュを使えないので携帯型の小型懐中電灯は持っているものの、それを含めて道具はポケモンセンターに置いてある愛用ザックの中だ。軽い落胆のため息をついて、レモンは明りを探そうと―――― 「おのれワシの孫ぉおおおおおおッッ!!!」 「ぬぎゃーっ!?」 「何か出たーッ!?」 ぐァばっ!と立ち上がって叫んだ年寄りに、二人は思わず悲鳴を上げて後ずさった。 月光がガンテツじぃさんを照らし出し、影が赤く彩られた般若の形相に凄みを添えている。 そのあまりの迫力に押され、蹴破られた家の扉辺りまで後退してビビッている同様、レモンも壁際ギリギリまで寄ってシリモチをついている。結構神経の太い二人がこの反応なのだから、普通の人間であれば失神していたかも知れない。 「ぅおのれーッ!可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いウチの孫を誘拐とは 市中引き回しの上で生きたままミンチにしてコイキングの餌にしたるわクソどもめがぁああ!! 」 だくだくと、血を噴水のように頭から流しながら怒り狂うガンテツ。 その形相も様子もめちゃめちゃ怖いのだが、一番怖いのはマジだなこのじぃさんとか確信させる辺りだろうか。 しかし、明らかな出血多量状態でいつまでも意識が保てるはずも無く。 「 ぅ。 」 一言呻いて、ばったりとまたブッ倒れた。 ほっと胸を撫で下ろし、は一応生死の確認をしておこうとそーっと近寄って口元に手を近付ける。 手にあたる息吹の感覚に、どうやら生きてるようだと検討をつけた。騒ぐだけの元気はあるらしいが、出血の量が量なだけに早めに医者に見せたほうがいいだろう。 「レモン、ポケギアで医者呼んで―――」 言いかけた言葉を切って、放って寄越された何かを片手で受け止める。 「エオスが握ってた。宛だよ」 「あたし?」 ぐちゃぐちゃに丸められた紙切れを広げる。 そこに走り書きされていたのは簡略な手書きの地図と、非常に簡潔で分かりやすく悪人らしいお呼び出しだった。 “ 今夜中に、黒ずくめ一人で地図の場所まで来い。さもなくばガキの命は保障しない。 ” 黒ずくめ。 間違いなくあたしの事だろう。ってゆうか、あたし以外は有り得ないだろうなぁきっととか確信させるご指名文だ。 何であたしなのかとか、お前誰だよとか色々とフに落ちないしツッコミ入れたいご指名だが。 「心当たりは?」 エオスを抱き起こした状態で問いかけてくるレモンの視線がちょっと痛い。 正直恨みを買っている自覚は――――・・・・・・・まぁ、山のよーにあるワケだが(そこらの不良を撲滅してみたりとかトレーナーを片っ端から完敗させてみたりとかカツアゲとかしてる連中見つけてはボコってカモってみたりとかしてるからね☆)ヒトサマの家の幼児巻き込んでまでリベンジしようなんて度胸のあるバカはいなかったはずだ。 それ以前の問題として、交通不能状態のヒワダまでわざわざ追ってきて問題起こすだけの根性があるとは思えない。 ・・・・・・・まぁ、某ナントカブラザーズとか言う連中だったら追っかけてきそうではあるけど。あいつらは無理だろ。弱いし。 うん、ナイナイ。 「・・・・・・んー、無い。・・・・・・・・・・・・・・・・・・かな」 しかし、レモンは多少どころでなく疑わしげにこちらを見ていて。 あ、信用されてませんかやっぱ。 「そ、それより問題はクリちゃんだよね!無事だといいけ 「クゥリィイイイイイイイ!!!!」 「ぅおうっ!?」 「クリー!今助けに行ったるぞーっ!!」 「ってじぃさんストップストップ!死ぬから!助ける前に流血で死ぬから!!」 「血が何じゃーッ!孫への愛の前には あぁメマイが 」 「寝てろ怪我人」 ずげし。 の放った回し蹴りは、見事にガンテツを沈黙させた。 やっと静かになったか、じぃさん。 「んじゃ、医者呼んどいてねレモン」 「何処行くぴょん?」 ここは任せた!とばかりに敬礼ポーズを取り、壊れた扉から意気揚々と出て行くに、レモンが問う。 行き先は分かっているはずなのに、それでも問うのは警告のつもりなのかも知れない。 誰が呼び出したのかなんて、彼女達には分かりはしない。その目的も。分かるのは危険だという事。罠が仕掛けてある可能性。そして―――人質がいる、あちらの方が有利だという事。 足を止め、肩越しにレモンを振り返って。 「――――決まってんじゃん?」 浮かべた笑みは、凶悪の一言に尽きた。 ■ □ ■ □ 緩やかに舞う白は、汚される事を知らない清純さにも似ていた。時に踏みにじりたくなるような。 けれど、誰もがそんな想いを抱くかと言えばそうでも無いし、雪の清らかさは無慈悲であるからこその純粋さだ。地にまみれれば儚く消える癖に、何処までも他を拒んで排除する。 月が雪化粧された森に光をそそぎ、夜であるのに視界はさほど悪くは無かった。 「ま、ダンスとしゃれ込むにゃ悪くないか」 皮肉っぽく呟いて、音の衝撃波を軽々とかわした黒衣の少女はふありと空を舞った。 驚愕に顔を歪ませるのは、ダンスパートナーとは名ばかりの無作法者ども。 鼓膜に響く強烈な耳鳴りは顔をしかめただけで無視し、連結した鋼の頭部で手招きすれば、挑発に乗ったパルシェンが強烈なオーロラビームを仲間であるはずのレアコイルに放つ。 それが炸裂する直前、はレアコイルから飛び降りて雪の上を転がった。どぉん、と空気を伝わって衝撃が背中を押す。鋼タイプに氷の攻撃などさして効きはしない。―――だが、時間稼ぎには充分。 腰から外されたモンスタボールは二つ。戦いの気配にみなぎる期待は手に取るように読み取れる。 期待に応えるべく、彼女は彼らをボールから解き放った。 「天空、レアコイルに“火の粉”!氷月、“いばる”!」 『おうよッ!』 天空が威勢良く、そして氷月が技を以って指示に応える。 火の粉が炸裂する寸前でレアコイルは難を逃れたものの、氷月の“いばる”は敵のゴローニャとパルシェンに効力を示したようだった。攻撃力も上げてしまうのはこの技の難点だが、混乱が解ける前に倒してしまえば良いだけだ。 改めて体勢を立て直し、状況を把握する。敵は四人。ポケモンは四体。パルシェン、レアコイル、ゴローニャ、そしてモンジャラ。一番組しやすいのは?考えるまでも無い! 「モンジャラ、“つるのムチ”だ!」 「しっかりしろパルシェン!“オーロラビーム”!!」 「“冷凍ビーム”」 放たれた光の筋が、文字通り敵を薙ぎ払う。 寒さで威力の上がった冷凍ビームは、混乱状態のパルシェンとゴローニャ、寒さで動きのにぶいモンジャラに直撃した。 「モンジャラに“頭突き”!」 「っ避けろ!」 草タイプのモンジャラが、この雪深い場所で実力を発揮する事は難しい。 しかも、相性最悪の一撃を受けたばかりともなれば機敏に動いて天空の攻撃を避けられるはずも無い。 「あの丸いのに“ソニック ぶぅッ!? 」 「あっまーい。氷月、ゴローニャに“吹雪”」 が攻撃指示を雪球の一撃でストップさせて次の指示を出す。天空の頭突きがモンジャラを直撃し、軌道上にいた自分のトレーナーもろとも木に叩きつけられた。衝撃で、ざばりと大量の雪が枝から落ちる。 モンジャラと男の姿は雪に埋まってほとんど見えなくなった。 次の指示を出そうと口を開きかけ、身体を半歩分、右に反らした。突き抜けた艶を消された刃が髪を一筋切り裂く。 ヒュウ、と相手が口笛を吹いた。 「やるな、小娘」 「いやいや、そちらさんもステキなお手前で」 危うく頬がばっくり裂ける所だったよ。 気配消してトレーナーをイキナリ襲撃って手口も、乱暴だけど見事だったし。 白夜の警告と漏れてた殺気が無かったら、ちょっとヤバかったかもね。 「褒めてくれてありがとよっ!」 突き出された刃が薙ぐようにして振られるのを、後転する事で回避した。視界の向こう、混乱したパルシェンに挟まれているトレーナーの姿と、その後ろで『ざまぁみやがれ!』と言っている天空の姿が視界に入る。トレーナーの後ろから頭突きして、あえてパルシェンに挟ませたと見た。中々見事な手である。入れ知恵したのは氷月だろうか。 「“ソニックブーム”!」 『させませんよ』 離れた所で、冷然と、涼やかなテノールが宣言するのが耳に届く。 持つべきものは好戦的で頭のキレる仲間ってか? 的確に急所―――目、喉、腹を狙ってくるナイフを、大きく動くと体力の消耗が大きいので最低限の動きで避ける。 時々皮膚や服をかすっていく感触に、背筋がひやりとし 世界が混乱した。 ブレて移り変わった視界。足がもつれて転倒したのだと理解した。 慌てて身を起こす。男が笑うのが見えた。 「仲間のカリは返させてもらう」 「身に覚えがナイんだけど?」 いやもう本気で。 言ってはみたものの、その言葉は「寒い冗談だ」の一言で斬り捨てられた。 ひたり、とこちらを見据える目の冷たさに悪寒が走る。 こっちの命なんて何とも思っていないのがまるわかりだ。マジで殺す気でいやがる。 「あの世でじっくり思い出すこった」 腰に手をあてる。ナイフが振り下ろされる。ボールを固定するホルダーのついたベルトを一気に引き抜き力一杯振った。 ぱあん、良く響く音。男が痛みに手首を押さえる。ナイフが落ちた。拾い上げようとする男の首筋に手加減無しでエルボーを叩き込んだ。鈍い音がして、男が雪原に崩れ落ちる。 首の骨が折れていない事を祈ろう。折れてたらあたし人殺しに仲間入りだし。 まぁ、正当防衛で無罪を勝ち取る自信はあるけど。 ナイフを拾い上げて立ち上がり。 「そこまでだ」 やけに偉そうな声に、新手かよと視線を向けて。 「・・・・・・・・・・・・クリちゃん」 本気で頭を抱えたくなった。 そうだった、そういや呼び出しに応じたのはクリちゃんが人質だったからじゃん!(汗) 先に襲撃された上にだーっれもその話出してこないんで、すっかり頭の片隅だったし。普通最初に人質出してきて、こいつの命が惜しければ〜とかやるもんだろ。黄金パターン遅れて使う派かよ チクショウ。 「武器を捨てて、ポケモンどもをボールに戻せ」 クリちゃんの首筋にはナイフが押し付けられている。 距離としては4メートル程度。氷月と天空は素早く動けないし、技を使うのもクリちゃんを巻き込む可能性があるから論外だ。白夜も出しとけば良かったかと後悔するも、今となっては手遅れでしかなかった。 「・・・・・はいよ」 ため息混じりに頷いて雪の上にナイフを突き立て、投げ出されたままのベルトを拾い上げる。 ここで白夜を出すとする。ボールからポケモンを出すまでに最短で一秒、クリちゃんを助け出すのに二秒で計三秒・・・・・紫苑ならボールごしでも念力で止められるだろうけど、昼間の戦闘で消耗した紫苑が、満足に念力が使えるかは疑問が残る。だいいちボールに入ったままじゃ狙いが定まらない。 結論。どっちでも救出できる確立は低い。クリちゃん刺し殺されてジ・エンドがオチだ。 「さっさとポケモンをボールに戻せ!」 「あーはいはい。戻すからその子受け取って帰っていい?」 ヒステリックさを帯びた声に、あまり焦らすとクリちゃんを殺しかねないと思い天空と氷月をボールに戻して、内心の焦りとは裏腹に落ち着き払った余裕たっぷりの様子で問う。 図太いガキだな、と呆れたように誰かが呟いた。よけーなお世話だばかやろう。 「誰が帰すかッ!お前には俺の相棒の恨み!たっぷり味あわせて刻んでやるっ!!」 「いや、身に覚え無いんだけど」 「なッ・・・・・・」 怒りでだろう、絶句した男の顔に血が上る。 「覚えが無い、だとッ!?俺のブーバーをずたぼろにしといてそれかテメェ!」 「落ち着けよ。思い出しても出さなくてもこのガキの末路に変わりねぇだろ」 憤慨して叫ぶ仲間を、多少うんざりした様子でレアコイルのトレーナーがなだめる。 発言内容はシャレにもならんけどありがとう。 しかし、俺のブーバー・・・・・・・・・・・って、ブーバー? そういえば昼間、明らかに暴走していたブーバーを叩きのめした覚えが―――― あ れ か 。 ブーバーの生息地は此処では無い。昼間に倒した時点で、トレーナーがいるポケモンなのだとどうして気付かなかったのだろうか。まぁあんな凶悪に荒っぽいのをそこらに放し飼いにする方もする方だと思うけど、言っても多分聞かないだろう。 くっそ、そうと分かってりゃヒメグマと紫苑助けてとんずらするか、せめてあたしが倒したって証拠を隠滅・・・・・・・・・ あ。 「思い出すも何も、あたしはあんたのポケモンずたぼろにしてなんてないけど?」 「あ゛ぁ゛!?てめ、とぼけんとも大概に・・・・・ッ」 今にも掴みかかってきそうな男を制し、レアコイルのトレーナーが鼻で笑う。 「俺らの情報、甘く見ないでもらおうか。テメェがこいつのブーバーを倒したって事くらい分かってんだよ。 何なら、その時どんなポケモン使ったかってのも言い当ててやろうか?」 「うわぉ、自信満々。嘘の情報って可能性もあるんじゃね?」 断言できる。 あの場所に人はいなかった。 ブーバーを倒した時の詳細を知るには、それこそあたしのようにポケモンと会話ができるか、イエローやワタルのようにポケモンと意思を通い合わせる事のできる人間でもないと不可能だ。 仮にあの場所に誰かがいたとすれば、気配を消してでもいない限りは確実に気付いていたはず。 あたしだけでなく、人の気配にはさとい白夜達ポケモンの感覚を欺き通すのは並大抵の事じゃ無いのだから。 「仲間が見たんだよ。んなワケねぇだろ!」 「見てた?仲間の誰が、どうやって」 「それは――――」 の追求に、男が戸惑うように仲間を見る。 レアコイルのトレーナーの方も即答できないらしく、黙り込んでしまっていた。 「と、とにかく!」 短い沈黙を破って、クリちゃんを抱いた男がナイフを持ち直す。 仕切り直しのつもりなのだろう。疑問はこの際、横に置いておく事にしたらしい。は軽く肩を竦める。 どうせ相手は5人もいるのだ―――後で、じっくりと聞き出せばいいだけの話だ。誰か一人くらいは覚えているだろう。 「そのボールこっちに寄越せ!テメェはその後でじっく 「寝てろだぴょん」 レモンに背後から赤ん坊の頭程の大きさの石でドツき倒され、男は一言も漏らさず昏倒した。 お見事。そして今の一撃が彼にとって致命傷でない事を祈ろう。犯罪者でも殺したらマズいから法律的に。 「ジャック!――――くそっ」 先ほど昏倒された男の名前らしきものを叫ぶと、形勢不利と見て取ったらしい、レアコイルのトレーナーは悪態をついて逃げ出した。その後を、多少ふらつきながらもレアコイルが追う。 「逃がすか!!」 「っ!」「パルシェン、“オーロラビーム”だ!」 レモンの警告。慌てて後方へ跳べば、先ほどまでいた場所をオーロラビームが直撃していった。衝撃で粉雪が舞う。 しまった、パルシェン達に止めを刺すのを忘れてた! 後悔するも既に遅く。派手に舞い上げられた雪の向こうに目をこらせば、“混乱”状態だったはずのゴローニャと目が合って。脳内で警鐘が鳴り響いた。嫌な予感がする。 「伏せろッ!!!」 ゴローニャの“大爆発”が、雪夜の森を振るわせた。 TOP NEXT BACK 後編と銘打ってあるのに 終 わ っ て ね ぇ 。 (不条理とはまさにこの事!) ちなみにタイトルは「カミソリレター的」=「陰湿な」の意で。「卑怯な」とかでもオッケーです。 |