途切れては降り途切れずに降り。
ある意味エンドレス状態に続く降雪の弊害にも、こうも続くと慣れてくる。
最初の頃こそヒワダの人々も、ポケモンと協力して屋根の雪下ろしや交通の便の確保の為にと雪かきに励んでいたが、今ではそれも最低限しか行われていない。
延々降り続ける白い悪魔に流石に疲れてきたとか、いくらやってもきりが無いので様子見の為、とその要因は人それぞれだが。とにかくこの豪雪は他の街との連絡を切断し、電気の供給にも異常をきたしてきている。
交通もほぼ不能、と状況は結構を通り越してかなり悪い。
あと数日たてば、“かなり”が“激烈に”と変化するのはもはや確実だった。
ふぅ、とは真っ白い息を吐き出して。

「あー・・・・・カキ氷シロップ欲しい

『真面目に言う事か、それは』

雪より冷たい視線を受けて、は巨大雪ダルマ(全長2・5メートル)の上であさっての方向を向いた。

「あぁ―――・・・・・空が灰色だねぇ」

『それで誤魔化している積もりなのだとしたら、愚劣極まり無いですね』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

とめどなく氷月の言葉が耳と心臓に痛い。
空を見上げ、雪ダルマの上で仁王立ちしていると氷月、白夜の間に何とも形容し難い微妙な空気が形成されているのに気付きも構いもせず、大食いな天空は自重で沈んだ足元の雪をじっと見詰めてぽそりと一言。

『・・・・・・・・このまんまでもイケるよな?』


止め(い)(ろ)(なさい節操無し)』


奇しくもツッコミが唱和した、それはヒワダへ到着して五日目の昼の事。






     【 カミソリレター的挑戦 −前編− 】






―――― ォン・・・・・ ――――


『・・・・・何か聞こえなかったか?』

「へ?いや、別に」

雪化粧で白に染まった森を見ての白夜の問いに、雪ダルマの上でヤンキー座りして首を傾げる。
一応二人して耳を澄ましてみたものの、聞こえるのはヒュゥヒュゥと唸る風の音と氷月がサクサクと天空に投げつける雑言の数々のみである。天空がちょっといじけ気味だが、まぁ いつもの事なので放置しておこう。
隣接する森を眺めながら、紫苑は大丈夫かなぁと不安を抱く。
寒さに弱い紫苑だが、雪によって行動を制限される事が無いので森でいつぞやの襲撃者探しを頼んでいた。
吹雪いてくる可能性もあるので、天気がヤバかったらすぐ戻るように―――そして、危険な目にあいそうだったらとにかく相手ブッ殺してでも逃げろと言い含めてはあるのだが。

「無事だといーんだけどなぁ・・・・」

なんたってウチのメンバー中では可憐キューティー唯一の花ッ!
つーか紫苑がいないと野郎(美形だけどね!目の保養なのは認めようとも!!)ばっかだし!!
第一こいつら癒しとは光速の壁突破できるくらい程遠いしな!!!(手のかかる大食いと毒舌サド紳士とクール通り越したアイスビューティーだからなー・・・・/遠い目)

うっわ、何か考えてるうちに不安になってきたし!

「もしや野性ポケモンにハレンチな真似なんかされて・・・・・・ッ!?オノレあたし抜きとはいい度胸だ!!

『破廉恥なのは貴方の脳内ですよ 恥知らず。 妙な妄想して叫ばないで頂けますか、目障りなので』

「ヒドッ!」

見事なくらいばっさり切り捨てられました。
いいじゃんちょっと願望口に出・・・・もとい、冗談かますくらい!これでも心配はしてるんだぞ!?

天空にまで白い目で見られ、屈辱にハンカチをかみ締める。
呆れをスキップで通り越したケーベツの視線がものすっげーイタイです、白夜さん。
ちょっと奥さん、あたし一応主人だよね?何この冷たい扱い!(←自業自得だ)―――――という想いを込めて、あたしは森に向かってこう叫んでみた。


「かえってきてマイオアシース!



――――ぉオオォぉオおンッッ!!!



森の方角から、爆音が上がった。
音と共に排出された強烈な風が粉雪を大量に舞い上げ、強く吹き付ける風は熱を孕んで熱い。
全身に直接吹き付ける其れから、片腕を盾にしてむき出しの顔をかばった。
誰かが小さくしおん、と呟いたのが耳に残る。

「氷月、天空、戻れ!」

赤い光が走り、二匹の姿が掻き消える。
二匹を収めたモンスターボールを腰に装着し直し、は雪ダルマの上から滑るように飛び降りた。
着地の衝撃に、踏み固められた雪が少し沈む。

「白夜!」

『分かってる。――――あっちだ』

先程までとは打って変わった真剣な表情で頷き合い、
白夜とは、眼前に広がる真白に覆われた森へと駆けて行った。



 ■   □   ■   □



荒い息を零しながら、それでも紫苑はヒメグマの小さな―――とは言っても、大きさは殆ど彼女と同じぐらいだが―――身体を隠すようにして翅を広げる。
吸い込んだ空気は熱く、喉が焼け付くようだ。雪深い森である筈なのに、紫苑達のいる場所だけは土の肌が露出して熱をもっている。身を隠す場となる木々さえも、燃やされ、なぎ倒されてチロチロと燻ぶった火を宿していて。
即席のバトルフィールドみたい、という脈絡の無い感想が紫苑の胸中を横切った。

ヴァぁアああアァアぁぁアッ!

今まで見たことの無い炎ポケモン―――ブーバーの雄叫びが大気を振動させる。ビリビリと震える。
その口から吐き出され、灰色の空を焼く紅蓮の炎が灼熱の風を撒き散らして周囲の総てに熱を与えて。空気が揺らいで、陽炎さえ見えた。凶暴性を剥き出しにした虚ろな目が、ギョロリと紫苑を見据える。
自分の後ろでビクンッ!とヒメグマが大きく震えたのが分かった。
後退しそうになる自分を叱咤し、理性の欠如した、獣じみた目を爛々と輝かせる相手を真正面から睨み返す。
ぎゅっと、震える自分の手を握り締める。逃げる訳にはいかなかった。ここで逃げるなど、強くて素敵で大好きな主人のメンツを潰すに等しい行為だと紫苑は思っていたし―――強くなれるように、と修行までさせてもらった意味が無い。
それにどのみち、ヒメグマを連れてでは逃げる事もままならない。


ヴァぁアああアァアぁぁアあアァアぁぁアッ!!


再度、響いた咆哮。
それに混じって掻き消されるような風切り音を、紫苑は敏感に察知した。

『――――ッ!』

『ぅあっ!?』

引きずり倒され、ヒメグマが悲鳴に似た声を上げる。
水蒸気の霧を斬り裂いて飛来した高質量の物体が翅をかすめて、先程まで紫苑達のいた場所を高速で通り過ぎて行った。高速でスピンしてそのまま木々の方へと突っ込んでいったフォレトスを尻目に、ブーバーが胸をそらして肺いっぱいに息を吸い込む。紫苑の脳内で警鐘が鳴る。ぞくりと悪寒が走った。
紫苑が全身で覆いかぶさるようにしてヒメグマを抱き締めるのと、高密度の炎が噴射されるのは同時だった。空気すら焦げつくような熱気を伴った炎蛇が、狙い違わず紫苑達へとその牙を剥き暴虐を発揮しようと肉薄する。寸前で念力で生み出された見えない壁に衝突し、火の粉が飛散し空気を炙り、幾重にも先分かれして荒れ狂った。

『・・・・・・はッ』

しかし、即席は即席だ。強い衝撃に空気を吐き出す。声が漏れた。
元々防御に適した技でも無い念力で生み出されたひ弱な盾は、衝撃や熱風までは防いでくれない。
念力の壁を通して来る衝撃に、肺が押しつぶされるようだ。吸い込む息は、もはや呼吸すら難しい程の高熱を帯びている。ヒメグマが、苦しそうに浅く呼吸を繰り返す。炎は途切れる事無く―――否、勢いを増して襲い掛かってくる。
長くは持たないのは紫苑にも分かっていた。消耗戦ともなれば、あちらが有利。

このままじゃ、負けちゃいます、ね・・・・・・・。

きゅ、と唇を噛んで。
表情を引き締め、俯きがちだった顔を上げる。死ななければいい、と腹をくくって。

『ちょ、熱いかも、知れ、ないです、け、ど・・・・・がまん、して、れます、か?』

『・・・・・ぅん。うん!』

不安げに、それでも真摯に頷いてくれるヒメグマに、紫苑は愛らしい微笑を浮かべて。
す、と目を閉じ、両の翅を広げる。熱波による衝撃も、疲労も強い。念力で拡散されているとはいえ、正直虫ポケモンである紫苑には拷問のようだった。それでも耐える。耐えて、待つ。息継ぎの為に炎が弱まる、その一瞬を。

――――耳に届く、風切り音。

ヒメグマが悲鳴を上げた。目を見開く。高速でスピンしながら、こちらへ飛来するフォレトス。炎は未だ弱まっていない。
逃げるにはもはや遅い。では避ける?でも何処へ!
思考は迷路に入り込んで答えを見出せず。ただ、目を見開いて攻撃を甘んじて待つしかない。だめ、やられ、



「紫苑、伏せて念力解除!」



鋭く響いた、問答無用の言葉に考えるより先に身体が従った。
ひゅおん、と頭上すれすれを通過するフォレトス。解除された念力の盾。炎が身体を炙り、――――霧散する。

『・・・・・?』

おそるおそる顔を上げるのに少し遅れて、聞くだけで痛くなるような衝撃音が響く。

「おぉ、飛んだ飛んだ」

ニヤニヤと、実に楽しそうな笑顔でそんな事を言いながら紫苑の側へ近付いていくと、は少し目を見開いて「ありゃま、ボロボロ。がんばったじゃん?」と紫苑の頭を軽く撫でた。
ヒメグマは突然現れた人間に不審を隠し切れない様子だったものの、自分の恩人である紫苑が大人しく撫でられて嬉しそうな表情をしているのを見て、口出しを控える。

「さーぁって紫苑、まだ余力ある?」

『?はい、何とか』

「うぅむ、良い子のお返事ですな☆んじゃ、悪いけどあっちに向けて――――」

言いながらが指差した方向は、何故か木々が折れていて一本の道が出来上がっていた。
フォレトスとブーバーの姿は見当たらない。
先程までは無かった道の近くでは白夜が、身体についた雪を振り払っている。

全力で、サイケ光線ねv

ぐ!と親指おったてる
普段なら察しがつくだろうが、場が異様に熱いのと疲労が色濃いのとで上手く頭は回らず。
その為に主人の意図が今ひとつ飲み込めず、首を傾げて白夜を見る。と。

『情けはかけるなよ』

『?・・・・はい』

やっぱりよく分からないコメントが、仲間であり先輩格でもある白夜から返ってきた。
それでも言葉に頷き、息を吸い込んで精神を集中し――――全力で、容赦も慈悲も手加減も完全に見当たらないサイケ光線を発射した。


ドごぉおおオオおォオおォォンッ!!!


勢いのいい爆発音と共に、吹っ飛ばされるフォレトスとブーバーの姿が見えたとか見えなかったとか。

「たーまやー」

いやぁ、いい吹っ飛びようだな!(笑顔)

「ま、あっちはあれでいいとしてー。紫苑、手当てするからおいで」

『あ、はい!』

少々ふらついた飛び方ながらも、何とかの元へと向かう紫苑。
適当な処に腰を下ろし、はザックからいい傷薬を取り出す。
当たり前のように白夜がその隣に座り、それを見てヒメグマも近くに座った。

「んで、何がどーしてこーなった訳?」

紫苑の身体に傷薬を吹き付けながら、はヒメグマに向かってそう話を切り出した。
騒ぎに気付いて駆けつけてみれば戦闘中だわ大ピンチだわ、その上紫苑がヒメグマ守って頑張ってるわ。
とりあえず敵とみなして容赦無くブッ倒したものの、成り行きは気になる処だ。
しかし、ヒメグマは渋い顔で首をふる。

『・・・・おれにもよく分かんないよ。いきなりおそわれたんだから』

「いきなり?」


「最近“ウバメの森”を筆頭として、この一帯の山でポケモンが凶暴化するって事件が発生してるんだ。
 近くのコガネやヨシノでも人が襲われてるんだけど・・・・特にこのヒワダは被害が大きい」


ふっとレモンの言葉が脳裏によみがえる。
確かに、先程倒した連中はレベルが高かった。並みのトレーナーでは勝つのは難しいだろう。
ふぅむ、と呟いて傷薬をザックへしまい、おいしい水を取り出してプルタブを起こす。

『おれはそっちのねえちゃんに助けられたけど・・・・・・さいきん、ヘンになっちゃううやつが多いんだ。
 なかまをおそったり、まちにおりてあばれたり。次はじぶんがそうなっちゃうんじゃないかって、みんなピリピリしてる』

「原因って分かってない?もしくはなんか前触れかなんか」

無言で首をふるヒメグマ。
紫苑の前においしい水をおいて、腕を組んで頭を捻る。

「ぅ〜・・・・・ん。あ、それじゃ異変の前になんか変わった事無かった?
 ここらじゃ見かけないポケモンが出たとか変な植物が生えたとかUFO出現とか!

『ゆーふぉー?』

紫苑がおいしい水を飲みながら疑問符を浮かべる。

『えー・・・・・・っと・・・・・・・あ、そういえばヘンなかっこのにんげんがどうのって―――――』

記憶をたどって紡がれた言葉が、に視線を向けるとだんだん尻すぼみになって。
待てコラ、何でそこで警戒の眼差し向けてんだお前。

「・・・・・言っとくけど、あたしは何にもしてないからね?」

『え、あ、そーだよな!そんなわけないもんな!!』

そう言ってあははは!と空虚な笑い声を上げるヒメグマ少年のお顔は引きつっていた。
うむ、あえて突っ込まずにおいてやろう。

『つまり、異変の前に妙な人間を見かけたと言う訳か』

『うんうん!おれはみたことないけど、いろんなやつがみたっていってた!!』

『無関係・・・・・じゃ、ないですよね』

「かなりの確立でねー」

ポケモンの暴走、そしてそれに関連する怪しい人物。
やけに記憶の琴線に触れてくる二つのキーワードに、は眉をひそめる。
否、覚えている。少し考えれば答えは出る。
あれはトキワの森での出来事だったけれど、状況はほとんど同じだ。

――――ひょっとして・・・・・

『・・・・・・でさ、そのチョーサのためにきたのがすっごく強いやつなんだ!』

いつの間にか、考える事に夢中になっていたらしい。話題が変わってきている。
胸に抱いた疑惑を一時棚上げして、ちょっと聞き捨てならないヒメグマの一言に身を乗り出した。

「ちょっとストップ。それ、カノンの息子の事?」

『カノンさん、子持ちだったんですか!?』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『うん、あっちのナワバリのボスんとこのむすこだってオヤジゆってた』

もの凄い驚きを見せる紫苑、無言で驚く白夜、あっさりと肯定するヒメグマ。
ボール内で天空と氷月が何か言っているようだったが、いちいち気にしていると話が進まない。
しかし、こんなちみっこにまでカノンの名前は知れ渡ってるのか。

何かすげーな。

「そいつ、紹介してくんない?この異常をさっさと収めるためにも、人間の協力者がいた方が便利っしょ」

トラブルや騒動に首を突っ込むのは、彼女にとっては既に趣味である。
それに、以前自分達を襲ったポケモンの情報も欲しい。協力しておいて損は無いだろう。

『まじ!?ねえちゃんたちがきょーりょくしてくれるんなら大助かりだ!』

「マジですともよ。一応明日の昼、ここで待ってるって伝えといて。
 何か変更あったり都合つかなかったら、そっちから連絡つけてくれればいいから」

『わかった、あしたの昼にココな。おれからオヤジに話つけてくれるように頼んどくよ!!』

「よろしくー♪」

こうして交渉は、思いがけないほどあっさりと纏まった。
だが、ようやく進展した事態に喜んでいたはある事を失念しているのに気付かなかった。
失念している、という事にすら。

そのツケは、直ぐにまわってくる事になったのだけれど。



 ■   □   ■   □



冬の日暮れは早い。それが真冬ともなれば、尚更に。
達がポケモンセンターに戻ったのは、夕方が完全な夜に移り変わった五時頃の事だった。
ポケモンセンターの入り口で丹念に雪を払い落とし、すっかり冷えた頬に手をあてる。

「うー・・・・・あったかいモン飲も」

手をこすり合わせながら、自販機求めて歩き出し。

「あ、はっけーん!レモンってばちょーラッキーだぴょーん♪」

「およ、レモ」

「エオスからボールできたって話きてるのよー!あんたの分もできてるそうだから一緒に来なさい!!」

「え、いやあたしいま帰ったば」

問答無用!!!!

マジかよ。

強制的に引きずられ、ストーブ効果であったかなポケモンセンターから冷風吹きすさぶ暗い外へと逆戻り。
先程までは止んでいた雪が、またひらひらと降り始めていたりして体感温度が更に低下する。夜になってぐっと冷え込んできたのもまた、確かな事である。

ああ、寒さが身に堪える・・・・・・・(遠い目)

遠く灯る民家の光がちょっぴり憎い。
だんだん遠ざかっていくポケモンセンターの光に、さめざめと涙を流してみた。
うう、せめてフレンドリィショップであったかい飲み物でも、

「・・・・・・って、あれ?」

フレンドリィショップは、営業していなかった。
明りはついている。しかし、それはショップを囲むテールランプやらその場にいる人々の持っているライトによっての明りだ。その場所だけ他より明るくライトアップされた店の細部は伺えないまでも、その場にいる者が全員警察服を着ていた為、何かあったという事だけは充分に予想がついた。

「レモンー。フレンドリィショップでなんかあったの?」

「ああ、昼に強盗が入ったって話だぴょん。店員が大怪我させられたって」

「うわおおごとッ!

ずるずると、半ば引きずられる形で目を剥くとレモンもうんうんと頷く。

「他に被害者はいなかったらしいけどぉ。どーも噂の強盗団だったんじゃないかって、街中その話で持ちきりなんだぴょん」

「ぅっわぉー・・・・・あたしの知らない間にそんな出来事が」

「森の方でも謎の爆音がしたりとか火柱上がったりとかしてたしぃ。ほ〜んと物騒だよねぇ〜」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

うん、そっちは心当たりありまくりだ☆(汗)

後半の原因は自分であるだけに、ちょっと頷くには躊躇いを覚えてあえて無言を貫いてみる。
悪気はないんだよ、悪気は。ただちょっとやり過ぎたのは認めるけど!

?」

何も言わないを、レモンが足を止めて不思議そうに見下ろす。
その視線に誤魔化し笑い―――と言っても、闇が濃いのでお互いの詳細な表情など伝わらないだろうが――――を浮かべ、は仄かな明かりが灯る、ガンテツ宅を指し示した。

「いや何でもない何でもない!ほらガンテツのじぃさんち見えてきたよ!?早く行こう寒いし!!!」

「・・・・・なぁ〜んかうさんくさいけど。まぁ、勘弁してやるぴょん」

それ以上の追求はしないレモンに、ほっと胸を撫で下ろし。



ガシャァアアン!



まるで消えてしまいそうな程に小さな、遠くでガラスの割れる音。
それは雪に半ば以上掻き消されていながらも、確かに二人の耳に届いて。ガンテツ宅の明りが消える。

「・・・・・何?」

その呟きは、果たしてどちらが漏らしたものだったか。
歩みを止め、僅かに表情を硬くして顔を見合わせるレモンと
その耳に、今度聞こえたのは。

絹を裂くような、女性の悲鳴だった。

「今のって確か、」

「エオスの声!!」

二人は、弾かれたように明りの消えたガンテツの家へ向かって駆け出した。
降りしきる雪は激しさを増し、闇はその深度を深めていく。


――――夜はまだ、始まったばかり。






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