暗雲垂れ込める鈍色の空は重苦しく、まるで夜と錯覚しそうになる。 まだ昼にさえなっていないというのに、あちこちで民家の明かりが灯されているのが容易にうかがえて。 それでも白く降り積もった雪はほの暗い世界をぼんやりと浮かび上がらせて美しい。 止む事を知らず振り続ける真白の色彩は、その勢いを増す事も、かと言って衰える様子も無くただただ無心に、まるでそれしか知らないように重力に従い舞い降りて舞い落ちて視界すら一色に染めていく。 窓越しに、指先を触れさせる。ひんやりとした感覚。 フォークをくわえたまま、窓の外を渋面で睨むと対面する形で座っているレモンが、本日もひらふりなゴスロリ服で梅こぶ茶なんぞをすすりながら曰く。 「例年まれに見る大雪、だそうぴょん」 毎年→せいぜい3〜40センチ。 今年(つーか現時点)→目測でおよそ80センチ強(しかもまだ積もり続けてる) 「・・・・・・ふ」 「ふ?」 「ふ・り・す・ぎじゃああぁぁあぁぁあーっ!!!」 盛大な怒声と共に椅子が足蹴にされ、見事な音を立てて宙を舞った。 ちなみに人が極端に少なかった為に被害も出ず―――普通なら店員が注意しても良さそうだが、見るからに怪しい彼女に声をかける度胸のある者はいなかったらしい―――それをとがめる者は現れなかったらしい。 ・・・・・・無論、レモンも含めて。 【 れじぇんど・おぶ・じじぃ。 】 「つーか異常だろ異常!なんだこの悪条件の重なりっぷりは!?」 ガンッと力任せにフォークを振り下ろされ、突き刺されたウィンナーが軽く跳ねた。 皿が衝撃に耳障りな悲鳴を上げたものの、何とか割れずに済んだらしくヒビが入った形跡も無い。しかしはそんな事はどうでもいいと言わんばかりの苦い表情で、ウィンナーを口の中へ押し込む。 「偶然ってこっわぁ〜い。ってゆうかってばコーフンしすぎだぴょん」 「これが興奮せずにいられますかっつーの。しかも えらいヤな偶然だなオイ 」 この大雪では、当初の目的どおり山にポケモン探しに行くのは自殺行為だ。 どのみち長期戦になると覚悟はしていたものの、この調子では相当長い期間の足止めをくらうのは確実。 立地条件も加えれば、もはや立派な陸の孤島である。 雪に閉ざされ孤立した街で起きる連続殺人! 果たして彼女達は犯人を捕まえる事ができるのか、それとも返り討ちにされてしまうのか!? そして、現場に残されたダイイングメッセージの意味とは・・・・ 今、命がけの戦いが始まる!! みたいなノリのドラマにできそうなくらい条件揃いまくりだし。 ポジション的にはあたしとレモンで主人公とれるか。(でもヒーローは不在かな!) 「この調子だと、このままココで年越えしそ〜」 「してたまるか――――って言いたいトコだけど、マジでしそうではあるわなー・・・・」 「え〜?今年はクリスと初詣行くって約束したのにぃ」 「あたしが知るか」 レモンの言葉を半眼で切り捨ててバターたっぷりのトーストをかじると、噛んだ部分からじゅわりと黄色い液体が染み出した。舌に触れる、バターのたっぷり塗られたトーストの味が香ばしい。 バターよりはマヨネーズとかチーズの方が好きなんだよなぁコレ。 まぁこれはこれで旨いけど。 卵とかハムとかそんなんでもいいよね!そこまでやるとサンドイッチになるけど!! 「そう言えば、特殊ボールはいつ頼みに行くの?」 その言葉に、動きを止めてぱちりと瞬き。 数秒程度言葉の意味を考え―――何を問われているのかに思いあたった。 「あー・・・・・そーいやそれあったっけか」 すっかり忘れてたよその事!(やっべー/若年性アルツハイマー!?) つーかどーしよ。こうなるともう、出来上がりが多少遅れても問題無いしなぁ。 あーでも、早めに頼んどいた方が後々で困んないでいいか。 「んー。んじゃ、今日辺りにでも頼みに行くよ」 「それじゃ、あたしが紹介してあげるぴょん。・・・・・そーでもしないと相手してもらえないだろうし」 ふっと妙に遠い目で呟かれたその台詞に、は眉をひそめた。 自分の知る限りでは、あの店は“誰かに紹介してもらわないと相手してあげなくってよ 下々のトレーナーなんて 出直してらっしゃいなヲーホホホホ!!!”なんつーシステムじゃ無かったはずだが。 むしろ、実力さえ確かなら経歴ヤバめ☆つーか モロ犯罪者? 的なトレーナーでもご利用可能な店だったはず。 現実とゲームやらマンガじゃ違うって事なんだろうか。 「どゆこと?あそこって、一見さんお断りだっけ??」 不審そうにが首を傾げる。 しかしそんな彼女に視線を向ける事はせず、レモンは意味も無く黄昏れた空気なんぞバックに背負って 哀愁 漂わせつつ、 何かを超越したよーな遠い目 であらぬ方向を向いたままで。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ・・・・・・・・・・・・・・・・行けば分かる、 ぴょん ・・・・・・・・・」 吐き出すような言葉に、得体の知れない不安が胸を過ぎっただった。 うっわー なんかすっげぇ行きたくねぇー。 ■ □ ■ □ 「うーあむー」 「クリーvvvvこっちや、こっち向くんやぁああvvvvvvvvvv」 「あー。じーじー?」 「クゥリィイイイイイイイっっッvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvv」 その光景を見た瞬間の、 ひどくナマヌルイ脱力感 と 寒気 と見なかった事にしていいですか リセットボタン何処だっけ 的思いはきっとあたしだけのモノでは無いのだろう。いやもう確実に。 だってほら、湯飲みに固定していた視線を向ければ硬直して緩んだ矛盾に満ちていてそれでいて確実に成り立つ―――つまりは形容し難い―――表情のレモンがいる。 何だろうこの光景。 心の中でそう呟く声だけはやけに無感情だった。 それは生後一歳にも満たない、女の赤ちゃんと。 盛大に鼻血流してだらしないっつーか 非常にキモい笑顔 でその子の写真を撮りまくるじいさま。 溺愛っぷりが視界にいれなくっても伝わるぐらいに見事な孫バカである。 めっちゃ緩んだえぐい笑顔とこゆいピンク色の空気にあてられたらしく、 さっき食べたばかりの朝食がリバースしそう なのを感じては青い顔で口元を押さえる。 やべぇマジ吐くってコレ!( え ぐ す ぎ だ ! ! ) 「・・・・・・孫が産まれるまでは、頑固一徹の職人だったんだけどね・・・・・・・」 「180度キャラ違うだろあのじーさん・・・・・・・」 ぅえ、とのどからこみ上げる物体を無理やりお茶と共に飲み下して呟く。 想像してみて欲しい。 頑固そうなじいさんが、うっすらピンク色に頬を染めて鼻血を垂れ流しているのを。 それだけでも キモい のに、目元は凶悪な三日月に歪み、口元は緩みっぱなしで吊り上りっぱなし!(つまり満面の笑みを浮かべているのだ こぇええええええ!!! /オーキド博士やナナミさんをある意味超越した恐怖が今ここに!) しかもちょっとヨダレまで垂れているッ!! これをキモいと呼ばずに何と呼ぶ。 精神破壊兵器と言っても過言では無いだろう。 ああ、そんなじじぃに無邪気に愛らしさを振りまく赤ちゃんが凄いと思うよマジで。 今からでも戻っていいですか。 紫苑の頭撫でたい白夜のふかふかに癒されたい! もしくはポケモンセンターでジョーイさんとかナンパしてお茶したいよ!! 今朝見かけた金髪美少女でもいいかもね、華やかでいいよね性格キツそうだったけど! 「・・・・・・つーか、ほんっとに大丈夫?レモン」 「まぁ、昔っからの付き合いだから・・・・・・あたしの話はまだ耳に入るし、大丈夫さ。・・・・・・・だぴょん」 いや、あたしが言いたいのはホントに腕は確かなのかってコトなんですけどレモンさん。 マンガとかで見た事あったし心配しちゃいなかったんだけど、この光景見てるとものすっげー不安になってくるぞ。 しかも “まだ”って何だ“まだ”って。 「ごめんね、見苦しい処を見せて・・・・・・・」 声をひそめて囁き合うレモンとに、着物姿の若い女性―――レモン曰く、ここの息子さんのお嫁さんらしい。昔はトレーナーだったそうだ―――が心底申し訳無さそうに深々と頭を下げる。 とうのガンテツじーさんはと言えば、孫娘につきっきりで彼女達が来た事にすら気付いていないらしく反応らしい反応を示さない。単に眼中に無いだけ、かも知れないが。 「別にいいってばー。あたしとエオスの仲だし」 あっはっはーと乾いた笑い声を上げながら、レモンが虚ろな口調でフォローする。 絶対フォローとしては成り立っていないそんなフォローだったが、女性はふ、と困ったように微笑んで、そうねと呟いた。 その後ろにじーさんのキッショい笑顔が見えなけりゃ、ものすごい癒されるんだろうけどなぁ・・・・・(遠い目) 「一応言っておくけど、注文してもらったボールはまだ全部できてないわよ?」 「あー、今日はあたしじゃなくってぇ。こっちの―――」 「ども、って言います」 二人に視線を向けられ、ぺこんと頭を軽く下げて自己紹介する。 そんなに、女性も軽く会釈して微笑んで。 「初めまして。私はエオスよ」 「こっちのが、ガンテツ師匠にボールを作って欲しいそうなんだぴょん」 「ああ、それで」 納得したように頷くエオス。 彼女が視線をガンテツの方へ向けるのにつられ、レモンとの視線もそちらへ集中する。 じーさんは未だにこちらを見もしない。反応しろよいい加減。 しかしはこの時初めて、ポケモン達全員を―――ほとんどが酔いが抜け切っていない為に―――ポケモンセンターに置いてきた事を感謝した。たぶん、今いたら 攻撃指示だしてる しあたし。 エオスがす、とメガホンを取り出し、レモンへ手渡す。 それを受け取ったレモンは一つ頷いて見せると、ガンテツの耳元へそれをあてがい―――― 「ガ・ン・テ・ツ師匠ぉーッッ!いー加減気付くぴょん!!」 力一杯叫んだ。 「〜ッッ!!」 あまりの声の大きさにか、ぐらりとガンテツの身体揺らぐ。 しかし次の瞬間には何とか持ち直したらしく、ギッ!と耳を押さえて。 「誰じゃ耳元で叫ぶのは――――て、レモンか!?いつ来たんや!!!」 「さっきからいましたよ、お義父さん」 本気で驚くガンテツに、大声に驚いてぐずり始めた我が子をあやしながら突っ込む息子の嫁。 その声が、微妙に冷ややかに聞こえたのは聞き間違いだったのだろうか。 声に含まれた微量の凍気に気付いてないのか、「おお、そうなんか」などとのん気に頷く義父。 だがその視線がを捉えると、不思議―――と、言うよりは不審を露にした表情で、エオスに問う。 「そっちの怪しいのは誰や」 「 あやしーの ・・・・・・」 何だろう、事実なのは確かなんだけどさ。 このじぃさんに言われるとなんかてめぇにだけは言われたくねぇって気分になるな。 「ちゃんです。ボールを作ってもらいたいそうですよ」 「こう見えても、すっごい強いトレーナーだぴょん」 「こう見えてもって何だ」 ジト目で突っ込む、目を逸らすレモン。 ガンテツはエオスとレモンの紹介に「ほう」と呟き、じろじろとを品定めするかの如くに見つめて。 やがて、納得がいったらしく視線を外して頷いてみせた。 「ふん、あんたならええやろ。何のボールが作って欲しいんや」 「あ。えーっと、ちょっと待って」 早々に本題に入った―――先程までの色々見苦しい姿とは別人のようである。さすがプロだ―――ガンテツの言葉に、慌てて背負ったままのザックを降ろして中を漁る。同色のぼんぐりを数個取り出し、それを床に並べて置いて。 「これで、スピードボール頼みたいんだけど」 「任せとけ。二〜三日中には仕上げたる」 にぃ、と笑ってどんと胸を叩いて見せるガンテツ。 その堂々たる姿からはプロの威厳、とでも言うべきものが感じられて。 これなら仕上がりの方も期待できるかな、とが思っているその目の前で。 「クリーvvvワシのかっこええ所見とるんやぞーvvvvv」 「あぅー」 「・・・・・・・・・・・・・大丈夫かな」 再度どピンクな空気を振りまいて孫娘のアピールするガンテツ。 その姿に、顔を引き攣らせて不安げに漏らしたの言葉に、フォローは何処からも入らなかった。 ・・・・・・市販品で妥協してた方が良かったか?(汗) TOP NEXT BACK 孫バカなじぃさま、できればもっと変態っぽくしたかったんですが(待て/え、充分変態ですか?) 名前はもう完全創作なのが何人かいますけど、それは気にしない方向で☆ それはそうと、大雪が長引けば物資が不足してくるってのもあり得るんですよね(ボソ |