その光景を目にする事になったのは、ある意味で必然だったのだろう。
眼前に広がる光景とそれらは、予想の範囲内の行動でもあった。

ただ――――その“予想”は、あくまでも冗談の域に入る其れだったはずだ。

むしろ、そうでなければならなかったはず。
そう、今自分の目の前で繰り広げられる―――そして現在進行形の、この光景は・・・・・幻では無いのか?
現実というものが、どれほど予想を裏切るかは知っていた。
けれどそれすらも楽しむ余裕を、そこに馴染み対応する柔軟性を・・・・自分は持っている。



そう、思っていたの、だが。



うっすらと皮膚に何だかよく分らない汗を浮かべつつ、はこめかみに指を押し当てた。
どうも、自分の精神面が意外ともろかったのを思い知った気がする。
頭の中でそんな埒も無い考えをめぐらせつつ、緩慢な動きで――――そっと首をめぐらせて、ついさっき通ったばかりの場所、其処にでかでかと張り出された看板に視線を走らせる。
其処には、ちょっとだけ幻覚とか夢オチにして欲しかった言葉が、はっきりしっかりと書かれていて。




[  憩いの広場    自 然 公 園  ]





「―――――何処が憩いだぁああーっっ!?!?」


せいぜい2、3時間前のほのぼののほほんとした風景からは半回転ひねりしてロケット噴射してそうな光景を前に、そう叫ばずにはいられなかった。


 何 だ こ れ 。






     【 年齢詐称は程々に。 】





眼前に広がる光景は、まさに悪夢の再現に近かった。


半ば焦土と化し、何とも云えない焦げ臭さをさせている大地。
そうでない部分は、草も木も何もかもが凍え、氷の彫像と化し・・・・無残な亀裂を曝していて。
伸び伸びと茂り、未だ夏の色合いを多く残していた木々は半ば、或いは根元から―――それこそ、見えない巨大な手で押し潰されたかの如くにばっきりと折れ、粉々に粉砕されていた。
公園に相応しい彩りを添えていたレンガの仕切りや、地面に並べられていたタイルの規則的な模様さえも、今では無秩序な空間を更に際立たせるオブジェと化している。

花壇が原型留めてないのはともかく、何がどうなって噴水にベンチ突き刺さってんのかが知りたい。



「うふふ、とっととゲットされろだぴょーん♪」

『ははははははしつこいですねこの年増女がくたばりなさい早急に』

『まっちまっちゲットー♪〜♪』

『い゛や゛ーい゛や゛ー!!ご主人さみゃああああぁあああ!!!』



見事な笑顔で爽やかに紫苑と氷月を追う、どっかで見たようなポニーテールのゴスロリ系おねーさんとソーナンス。
ほとんど半泣きパニックでわたわた逃げ惑いつつ、手加減とかそんな単語の見当たらない技を繰り出す紫苑。
まぁ、通じちゃいないだろーけど、変わらぬ丁寧語の毒舌を直球ストレートな殺気をブレンドして投げつける――――・・・・・

「えーっと・・・・・・・・。氷月、だよね?」

多少ながらも困惑混じりに、誰にともなくそう呟く。
うん、まぁあのキレのある毒吐きっぷりはあいつの特徴(?)だしさぁ。
でもまさか、

あたしがいない間に進化するとは思ってなかったよ。

恐ろしい子!

勝手に劇画調で戦慄するアテクシ。
そんな主人の意向はさておいて、白熱するバトルは一向に終幕の気配を見せない。
の視線の先、以前までの可愛らしく愛嬌溢るるパウワウ姿とは趣きの違う、流線型の優美な肢体が氷上を軽やかに舞っている。日差しの照り返しを受けて、うっすら青みがかった滑らかな白がきらきらと輝いていて。

「いやー風情があるねぇ・・・・」

物憂い午後の日差しの下、オーロラビームが美しい。
公園近くを流れる川の水を紫苑の暴走念力が跳ね上げ、其れを凍らせて氷の刃を雨とする。
避けられた其れは地面に叩き付けられ、突き刺さったり砕けたり。

『いい加減、現実を直視したらどうだ?』

「あはははははは。」

できれば直視したくないです。

しかし、このまま放っておく訳にもいかないのは確か。
この場に居合わせた逃げ惑う人々とポケモン(野生含む)に対しても、ぶっちぎりで迷惑極まりないっつーかかなり命の危機与えてるっつーか。

『すっげ・・・・!なあ、オレあの野郎と戦いてぇ!!』

こっちはこっちで、目ぇ輝かせてる戦闘馬鹿がいるしな!
多大に却下だ大馬鹿者め!

これ以上面倒増やす気が!!!!(←そっち!?)



『ご、ごしゅじんさまぁああああ〜!!!!』



『げとげっとー♪〜♪』


こちらに気付いた紫苑が、えぐえぐしつつこちらへ猛スピードで飛んでくる。
その後ろからコブシを固めて迫るソーナンス。


っ!』  『危ねぇっ!』


狽、わこれヤバっ!?


白夜が叫び、天空が吼える。
気付いた時には、反射的に紫苑を受け止めた後であって。
込めたコブシに輝く力から見るに、“爆裂パンチ”ってトコでしょうか。

既に距離は詰まっており、完全回避はほぼ不可能。
あのパンチを受け流すにしても、紫苑がいては其れも無理で。


「ソーぴょん!!」

『うわぁ!?』


切迫した鋭い声が響く。ソーナンスが、慌てて急停止しようとする。
この至近距離では最早遅し、充分に力のこもったパンチはほとんど勢いを殺す事無くそのまま直撃コースであって。

「つーかソーぴょんって何ー!?」

とっさの判断で紫苑を抱き締め、左腕を盾にして。
ダサいよ!と、気付けばそんな部分に突っ込み入れてる自分が其処にいた。



――――――そっちか、オイ。



そんな思いがハートを横切るのと、
凶悪無比なオーロラビームの輝きが、ソーナンスを直撃して押し流すのはほぼ同時だった。
うわー手加減ねぇー。



 ■   □   ■   □



「ゴッメンねぇ〜。トレーナーいなかったから、野生ポケモンだと思ってたぴょん」

えへっ☆とか舌を出し、改めて謝るポニーロリ。(←略すな)
ちなみに、氷月のオーロラビームを受けたソーナンスは完全ノックダウン状態でモンスターボールに収まっている。

「いやいーけどさ、それはもう」

どのみち、捕獲済みのポケモンって捕まえられない訳だしね。

「それにしても、あんたのポケモンって良く鍛えてあるじゃな〜い!?
 レモンってば、トレーナー抜きのバトルでこんなにてこずったの久しぶりだったぴょん!」

ほぼ半壊、といった惨状―――かろうじて使用できるのはこれだけ―――のベンチに腰掛け、きゃらりーん☆とかそんな効果音付けたくなるような調子で話す、・・・・・えーっと。レモンさん?とやら。
数時間前までは和やかムードでほんわかしていたはずの公園は既に無人で閑散としており、意識があるのはレモンと、そしてそのポケモン達くらいなもの、という有様だった。

しっかしこの人、確実にどっかで見た気がするんだけど。
この特徴有り余って仕方ない喋り方とかテンションの高さとか。

一目見て染めたのであろうと分かる金髪をピンクのリボンで結い上げた、派手なゴスロリ服の女性。
明るい黄色とピンクのツートンカラーな服にふんだんに使用されてる白のレースが、何かもう色々ノーコメント っつうか。
それでいてアクセはほとんど付けていない辺りが、ギリギリ辛うじての域で、相手を旅のトレーナーだと知らしめる。

「レモンも強いんじゃない?あたしも、うちの連中がここまで暴れて仕留められないの見たのは初めてだし」

壊れて幾つもの缶ジュースが転がっている自販機から、サイコソーダを拾い上げてプルタブを起こす。
プシュ、と炭酸の抜ける音と同時に泡が溢れ出し、慌ててそれに口をつけた。

「きゃ〜褒められちゃったぁ!ちょー照れるぴょん☆」

「ぶっ!」

ばっしーん!と叩かれて、危うく吹きかける。
うわ、炭酸がヘンなトコ入った!

「でもこの若さでーってトコも凄いわねぇ。どうせなら、ウチの娘に修行つけてやってくんない?」

『げ、娘いんのかよ!?』

『それはまた、ご愁傷様ですね』

げほごほがふっっ!!!とかなりヤバい咳き込み方をするをよそに、軽い口調でそんな事を言い出すレモン。
意外と言えば意外すぎる事実に、思わず天空が叫んで氷月が辛口のコメントをした。

けほ・・・・・っ。はー、あっぶねー。危うく逝きかけた。

呼吸困難状態から脱出し、呼吸をしっかり整えて。
びしっと人差し指を向けて、は一番気になっていた事を聞いてみた。

「・・・・・・つーかレモン、幾つ?」


ぴょんとかゆっといて。


ハートは花も恥らうセブンティーンだぴょん☆


マトモに答えろ一児の母。


「や〜ん、ってばイ・ケ・ズぅ。レディに年齢の話題は禁物だぴょん!」

可愛くいやいやするレモン。
ギリギリ痛くない範囲内―――と、言えなくもない。気がしなくもない(どっちだ)

「レモン・・・・・」

うふvとか言って唇に指を押し当てる彼女に、はそっと目を逸らして。
年齢はおいとくとしても、色々ギリギリアウトラインだと思うよそれ。


―――――と、告げようとしたその時。




――――んだこれは!」

――――おい、あそこ!あいつらだ!!」




そんな声と共に、向こうから駆けて来るのは緑の制服を着た集団で。
見覚えありまくりーなその制服が、示す処はただ一つ。

「やば、警備員さんご登場!?」

「しまった、すっかり忘れてたぴょん!」

げっと思わずうめく、舌打ちするレモン。
そういやこの現状は色々誤魔化し効かねぇYO!!

なんせ自然公園は半壊通り越して全壊状態に等しく、其処で意識があるのは彼女達くらいなのだ。
たとえ即座に犯人と確定されなくとも、参考人として連れてかれるのはほぼ確実。

何より、ここまで大きな騒動だったのだ――――レモンのソーナンスと戦っていた二匹を、目撃した者は多いはず。

しかも氷月はここらにいないはずのジュゴンだし、紫苑に至っては色違いの希少種である。
どっちにしろ、バレるのは時間の問題だ。
即座にそう判断を下せば、導き出される選択肢は最早二つ。



素直にとっ捕まるか、もしくは――――



「逃げるよ!」

「了解!!」


ダッシュで自由にキラメク未来を選択しつつ、
レモンはこっちの姐御系な漢らしい方が地じゃないかなぁとか、そんな事を思った。




・・・・あ、そういやレモンってクリスのママだ。






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クリスママの名前は、本作で出てこなかったのでテキトーにつけてみました。