気怠い気分で、彼女は眠りから覚めた。
眠気の色濃く残る、トロンとした灰銀の瞳がうつろに周囲を彷徨い、壁に掛けてあった時計で止まる。
数秒、時計を見詰めていたが――――やがて、睡魔の支配する脳へと時間の認識が到達したらしい、うげ、と呟いてのそのそとベッドから這い出た。

「・・・・あ゛ー・・・寝過ぎた・・・・・」

昨日の一件は、思った以上に響いているらしかった。普段目覚める時間に比べてはるかに遅く目が覚め、しかも未だに眠気とだるさが抜けないなど、にとってはめったに無い事だ。

『やっと起きたか』

『寝るにも程がありますよ、主殿。私達を餓死させる気ですか』

くぁああ、と大口開けてあくびするに、呆れを含んだ冷たくてハスキーな声と、涼やかなテノールの声がかかる。
ガシガシと首の辺りを掻きながら、声をした方へと視線を向けて。

「・・・おー。おはよ、お二人さん」

『もう昼前だ』

「それは言わないお約束☆」

ぬはははは、と怪しい笑い方をして窓を開け、テーブルに置いてあった、誰かの忘れ物だろうラジオのスイッチを入れる。
ブヅ、と濁った音がして、機械越しに女性アナウンサーの声が流れ出した。


『――――――・・・・・ですね。では、次のニュースです』


「紫苑と天空は?」

『まだ寝ていますよ』

ニュースを聞き流しながら問うに、氷月があっさりと答えた。
ふぅんと呟き、ぺたぺたとリュックに歩み寄って、ごそごそ漁ってタオルを捜す。
まだ眠いが、それも顔を洗えば多少はマシになるだろう。
ここはポケモンセンターなので、洗面所が各部屋に備え付けてあるような事は無く、共同の方を使いに行かなければならないが・・・・・まぁ、この時間帯ならそう人もいないし注目をあびたりもしないだろう―――――と、着替えるのが面倒なは勝手にそう判断した。
それに犯罪者でもあるまいし、あまり視線を気にして神経質になるのも疲れるだけだ。


『昨日の夕方、エンジュシティの公園内で多数の負傷したゴースが見つかりました』


の手から、取り出したばかりのタオルがばさりと落ちた。
勢い良くふり返ってラジオを凝視する彼女の目の前で、機械の向こうの女性アナウンサーが淡々と言葉を紡ぐ。


『ゴース達は意識不明の重体ですが、命に別状は無いとの事です。現場には激しい戦闘の痕跡が残されており、警察では付近の住民や当時公園にいた人達から、詳しい話を・・・・・―――――――』


ひくり、と頬を引きつらせるが見守る中、ラジオは次のニュースへと移り変わっていって。
そのままで氷月と白夜に視線を向けた彼女の顔には、すでに眠気は微塵も残っていなかった。



「・・・・・逃げよっか」




ぼそっと―――――しかし、完全完璧にマジな目でされた呟きに、彼等二人は躊躇うこと無く頷いた。






       【 世界って狭いよね −前編− 】







何処の世界にも大都市が存在するように、このポケモン世界にも“大都市”と呼ぶに相応しい街は幾つかある。
カントーならヤマブキシティ、そしてジョウトならば―――――コガネシティだろう。
そして現在、エンジュ名物・焼けた塔そしてスズの塔を見る事無くダッシュで逃亡してきた達一行がいるのは、その大都市・コガネシティであった。

「やー、気付くの早くて良かったよホント。もし遅かったらブタ箱行き だったし。
 ―――――――あ、お姉さんバニラ一つ!」

やれやれとぼやきながら、通りすがりの店で売っていたモーモー印のソフトクリームを注文する。
待つ事しばし、柔らかな乳白色のアイスクリームをたっぷりと乗せたコーンが出てきた。
売り子のお姉さんにお金を払い、コーンを受け取って歩き出しながらぱくりと一口。

うぅん、デリシャス!

『ほとぼりが冷めるまで、エンジュには行かない方が良いな』

「だねぇ」

程良く濃厚な自然の甘さに、至福の表情を浮かべながら同意する。
天空がボールの中から羨ましそうな目で見ているのは、当然ながら無視の方向で。
のんびりとコガネ百貨店に向かって歩きながら―――――やはり、来たからにはあそこは見ておかないと損だろうし、何より最近道具が乏しくなってきている―――――道行く人々を眺める。

「それにしても、さすがは大都市。人が多いわ」

マサラタウン、トキワシティ、アサギシティにタンバとエンジュ。
それら、今まで見てきたどの街よりも・・・・コガネシティには活気があった。
アサギシティも港町なだけに交易船やら何やらでにぎやかだったが、それでもこの街の比では無い。

『・・・・・・・なー。良かったのかよ?あいつら置いてきて』

アイス見せびらかしているからだろう。微妙に恨みがましい声で、それでも少し心配そうに問う天空。
ちなみにあいつらとは、紫苑と氷月の事である。
カントー及びジョウト地方にいるはずのない白夜と天空のみ手持ちに残し、二匹は自然公園に置いてきたのだ。

「んー・・・・大丈夫だって、きっと。ヤバかったら逃げるようにって言ってあるし、どっちも退き際は心得てるし?
 進んでトラブル起こしたりしないっしょ・・・・・・・多分」

あの自然公園にいるぐらいのレベルの連中なら大丈夫だろうが・・・・・心配し始めたらキリが無い。
それに何より、彼等は自分の仲間であり大切な友人だ。
信頼するべきだし、自分の考えだけで束縛したりはしたくない。

『でもなー、紫苑はパニくると手加減きかねぇし、氷月は容赦ねぇぞ』

『自然公園が廃墟になってたりしてな?』

まんざら冗談でも無さそうに言う白夜に、しかしはにっこり笑って親指押っ立て。

「あいつら無事ならオールオッケー☆」

『いいのかよ』

『馬鹿で無ければ、自力で逃れるだろうよ』

突っ込む天空、クールな白夜。
まったくといって良い程に情や気遣いが感じられない辺り、いっそ彼らしいと言うべきか。
もっとも、正論っちゃ正論なんだけどね。
そうなったら、また逃げなきゃいけないかなー・・・と思いながら、コーンの部分にかじり付いた。

「それはそうと・・・・・どーやってカントーに戻ろうか」

問いの形を取った独白は、何処か憂鬱な響きに満ちていた。
「今」の段階ではリニアの駅はまだ開通しておらず、念のために確認してみた所工事中といった様子すら無かったので、おそらくまだ開発中なのだろう事は容易に予測できた。
かといってアサギとクチバを繋ぐ豪華客船“アクア号”も、そんな話がちらほら出ている程度で建設予定の段階だ。

「オーキド博士もナナミさんも、一度戻ってこいっていってたしなー」

あんまり待たせるのも悪いし。
それに何より、あの二人を長く待たせればその分だけ命に関わる確率大気圏突破する勢いで上昇する。
むぎゅ、と口の中にコーンの残りを押し込んで、パンパンと手を払う。
文明の利器が使えないなら、残る手段はポケモンの手を借りる事。
陸路でも確か繋がってはいるはずだが、正直言ってどこがどう繋がっているのか良く分からない。

「確か、トージョウの滝通ってカントーとジョウトは行き来できるはずなんだけどなー・・・・」

あれってどこにあったっけ?と首を傾げてみるものの、どうも今ひとつはっきり思い出せない。
ポケスペ内でも滝自体は出てきていたが、そこに至るための経路は出てきてはいなかった。
ゲームの方には出てきた記憶はあるものの、残念ながら一番最後にコンプリートしたポケモンのルビー&サファイヤバージョンに押し出されてかなりの勢いであいまいになっている。
それに、例え正確に覚えていたとしても―――――たどり着くのは困難な事だろう。あちらはゲームで簡略化されていたが今現在では現実なのだ、記憶に頼って進んだ挙げ句に遭難してもおかしくは無かった。

どうにもならんな、これは。と口の中で苦く呟いて。



「ざけんじゃねぇこのガキが!ぶつかっといてワビも無しか、あぁん?!」



頭が痛い、という表情のの耳に、お世辞にも上品とは言えない―――――鼓膜を突き破りそうな勢いで発せられた罵声が届いた。
結構近くから聞こえてきた其れに、ぴた、と足を止めて目を輝かせる。

「何、トラブル?」

『・・・・・嬉しそうだな』

嬉々とした表情で声の出所を捜しながら、白夜の指摘にニヤリと笑う。

「はっはっは。人間ってのは野次馬根性と好奇心の生き物なのさ!

無駄なくらい爽やかにそう断言し、人の流れが滞っている場所を発見する。
あの罵声からしてケンカだろーなー♪とウキウキしながら、それを見物しようと、集まり始めている人波に割って入って。


「・・・・・・・・・・ん?」


不審と疑問のないまざった声は、自然と唇から滑り出た。
野次馬がぞろぞろ集まり、もしくは道行く人々が少し足を止めてふり返ったり横目で見ていったりと注目を集めるその最中にいるのは、計四人の人物だった。
その内三人は、どっからどー見ても“そこらのチンピラ”(もしくは不良)といった風体で、まぁさして特筆する程の特徴も凄みも迫力も無い―――――つまりは、RPGで出てくる低級モンスター(ス○イムとかそこらへん)っぽいの。
普通の人にならちょっとした脅威でも、ちょっと腕が立つ者であればあっさりあしらえる・・・・・そんなタイプ。いかにも何処にでもいそうなタイプなので、きっと道ですれ違っても覚えてないだろう。
対峙するのは、落ち着いた雰囲気の・・・・ひどく老成した空気を纏う、何処か戦士然とした青年―――――――

では、無くてー。

かといって、たおやかな風貌の美形であるとか、もしくはセクシーなお姉様とかでも無くて。
いかにもどっかの‘悪ガキ’といった感じのある、強気そうなちみっ子だった。

いや、つーかあの顔って。

「・・・・・・・・・・・・・・ゴールド、だったりする?」

うぬぅ、と呻いて眉間にシワを寄せ、上から下まで再度チェック。
ぎゃんぎゃんぎゃいぎゃいと、素晴らしく低レベルーな言い争いを繰り広げているその少年は、格好こそ数年後とは違うものの―――――顔立ちや口調、といった部分にそれらしい面影を感じさせる。
しかも、肩の上には相棒のエイパム。
偶然とか思いこみとかの可能性もあるものの、それでも今までの作為感じる程の(←禁句だー!)ポケスペキャラ出現率を考えれば、それこそ十分にあり得る事態である。

ここまで来れば、あたしの目に狂いはないッ!(はず!!)

「ナマイキなんだよ、ガキのくせにっっ!!!」

勝手に結論付けするの見る中、とうとう三人がブチ切れた。
子供に対して大人げないと思わないでも無いが、そんな分別とか良識があるようには見えないし。

つーか、ヤバいなこりゃ。

ゴールド少年(多分)に向かって、一人が手を振り上げる。
それにも負けじと男を睨むゴールド少年(仮)。
は、その光景に対して数歩下がって助走して。


「こンの不埒モンがぁーっっっ!」





ドズゥッッ!!!





重くて鈍い音を立てて、の繰り出した靴の裏(鉄版仕込み)が男の側頭部を直撃した。
ぐらり、と傾いでスローモーションのように倒れる男。
その頭を踏んだ足に力を入れて跳び、ひらり、と舞う蝶の如き軽やかさで一回転する。

跳び蹴り、クリーンヒット!


ぐはぁっ・・・・・!


「「兄貴―――――っっ!!!」」



ゴッ!と良い音出してぶっ倒れる男に向かって、無傷の二人が悲痛に叫んだ。
その光景を尻目に、黒衣の裾をはためかせて華麗に片膝ついて着地する。
どこかの映画にありそうなワンシーンに、ギャラリーからどよめきと拍手がわき起こった。

ふっ、決まった。

さすがあたし!と心の中で賛辞を送って立ち上がり、突然の乱入者に呆然としているゴールド少年(仮)に笑いかける。
向こうで「兄貴、兄貴死んじゃだめだ!」とか「あんたがいなくなったら・・・オレ達はどうすればいいんですかい!?」とか悲劇なんだか喜劇なんだか良く分からなくなりそーな事をほざいている連中は、奇麗さっぱりシカトです。

「少年、ケガとか無い?」

唖然としたまま、こくこく頷くゴールド少年(仮)。
うむ、素直でよろしい。


「やいてめぇ!兄貴になんて事・・・・ってああーっ!

「お前、いつぞやの女じゃないか!!」

びしぃっ!とこちらを指さし、驚愕に目を見開いて叫ぶ不良Aと不良B(仮)。
‘兄貴’とやらは、う゛ーんう゛ーんと苦しげに唸りながらアスファルトの上をのたうち回っている。
しかし、彼等の大げさなぐらいの驚愕にも関わらず――――は、こりこりと帽子の上から頭を掻きつつあっさり一言。

「・・・・・・・誰だっけー?」

いっそ非情なまでに面倒くさそうに告げたその言葉に、彼等は大きく目を見開いたままで石化した。
悲痛なまでに歪められた表情は、笑いを通り越して哀れみすら誘う。

数秒の石化の後、片方が何とかショックから抜け出て叫ぶ。

「おまっ!お前!!ほんっっっっっとーに忘れたのか!?フリとかじゃないのか!?!?」

「いや、忘れるも何も・・・・つーか会った事あったっけ?

さらりと―――――それこそ本気でそう思っている人間特有の淡泊さで―――――言い切り眉をひそめれば、ただでさえ崩れていた顔が基本構造すら分からない程に歪んで。

「うぅ・・・・オレ達ってそんなにインパクトなかったのか・・・・・」

「ああっ!兄貴、そんな落ち込まないで!!きっと忘れてるだけですって!!!」

「そうそう!すぐに思い出しまずせきっと!!」

どんより暗い雰囲気纏っていじける兄貴、慰める弟分のAとB。
ギャラリーの方々、そして先程言い争っていたゴールド少年(仮)までもが、ちょっとした哀れみを込めて彼等を見ている。
その眼差しは何というかこう、微笑ましい馬鹿を見る目だったりするのだが―――――


「お・・・お前達!そうだな、その通りだよな!!」

「そうだぜ兄貴!力を合わせればきっと・・・・!!!」


本人達は気付いていなかったりした。

何のコントだよこれ。と心の中で、視線にすら気付かず自分達の世界を作っているチンピラヤンキー(古い?)にそう呟いた。怒ったり驚いたり落ち込んだり忙しいな、本当に。

教えてやる義理も無いし、いいけどさ。

何とか復活した兄貴とやらと、こちらを挑戦的に振り向いた不良AとBに視線を向ける。
今の間にさっさと立ち去っても良かったのだが、まぁどうするのか気になるしな。


「さぁ女、オレ達を思い出せ頼むから!

「えぇー・・・そんなワガママ言われてもー」

偉そうなのか腰が低いのか良く分からない兄貴。
すっげぇやる気の無い

ギャラリーは、この先どうなるのかを興味津々で見守っている。

「会ったのつい最近だろうがっ!?」

何で覚えてないんだよっ!と苛立たしそうに叫ぶ不良A。
うん、そりゃ多分どうでも良かったからだと思うよ。(←酷)
んー・・・・と何とも曖昧に唸りながら、まじまじと三人を観察する。

えーっと?見るからにザコっぽい連中とでしょー・・・・
そこらのトレーナーとは顔合わすたんびに一戦やらかしてっからなぁ、いちいち相手覚えてないし。
手応えある奴とか骨のあるトレーナーだったら覚えてるだろうけど・・・・今のところジムリーダーくらいだしそんな相手。
こいつらみたいなのには何度かカチ会ってるからなぁ。大概ツルんでるし、このタイプ。

モーモー牧場の近くにも、集団でいたしね。
何て暴走族だったかなー。【 鎖亜機津兎 】(ちなみに読みは‘サアキット’☆/←読めねぇっつの!)だっけ?

「あー・・・・・でも、いわれてみれば会ったような気がするかも知れないような?

「あいまいだしっ!?ほら、アサギで会ったろ!!」

「そうそう!アサギの、えーっとアレだ、あの夜になると光るトコ!!」

「兄貴、そりゃ灯台だぜ灯台!」

「そうそれだ!!アサギの灯台でお前と戦ったんだぞ!」

これでも思い出せないか!?と必死の形相でぎゃいぎゃいわめいている三人。
それに、んー・・・・うー・・・・・あー・・・・?と唸っていたが、


「・・・・・あー!あの時の!!」


ポン、と手を打って三人を差して。



「ジムバッジ欲しさに三人がかりでか弱い女の子と病気のポケモン襲ったわりには激弱で、

 偉そうな口叩いた割には情けなくもまとめて一撃でノックアウトされたあの不良!



野次馬爆笑。



「「「うるせぇぇっっ!!!!(泣)」」」


安堵と喜びが入り交じった顔から、羞恥で耳まで赤くした憤怒の形相になって殴りかかる三人組。
ギャラリーから悲鳴が上がる。

ふっ、甘い!

三人がかりの攻撃―――――しかも相手は年上の男だ、体力や体重では圧倒的に不利な立場にある―――――とはいえ、そして年若い少女であるとはいえ。は、多くの場数を踏んできた猛者だった。

自分の元へと三人が到達する前に、はもっとも距離の近い男の方へと踏み込む。
それこそ、あと10センチも無いような至近距離まで顔が近づく。
帽子に隠れて、男が見れたのはの顔の下半分くらいだっただろう。

赤い唇、其処に浮かぶは不遜な微笑。

それを捉えたのは、至近距離にいた彼だけだった。
笑みの形を取った、三日月型に吊り上げられた形の良い唇に、男の顔が歪んで引きつる。
其れが恐怖と呼ばれるものだったのか、それとも驚愕だったのかは分からなかったが、とにかく片手で殴りかかってきたのとは逆の肩を掴み、それを支柱にぐるりと添うような動きで身体を沈めて片足を軸に地面を払う。
引き倒されてバランスを崩し、不自然な体勢で―――――まるで回転するようにアスファルトに叩きつけられる男。

それに巻き込まれないようあっさり避けて、は腰に手をあてて。
アスファルトに顔面から突っ込む仲間の姿に、たたらを踏んでためらう二人に視線を走らせ、クイクイと余裕たっぷりに人差し指で手招きしてみせた。

「っくそ・・・・ナメやがって!」

片方がそう吼えれば、もう一人の顔からも躊躇いが消えて。
うぉおおお!!と叫びながら殴りかかってくる二人。
単調で大振りの拳の数々を、ひらひら避けて立ち位置を少しづつ変えていき。

「うおりゃあああっ!」

気合いと共に繰り出された右ストレートに、たむっ!と跳躍して。



「あ?」



男の頭に片手をついて、跳び箱の要領でそれを交わした。
目の前の標的が、いつの間にか仲間に変わっていた事―――――そして、頭にかかった重みに妙な声を漏らす不良A。

「「どぁああああっ!?」」

悲鳴じみた叫びを上げて、慌ててかわそうとするB、体勢を崩すA。
たたらを踏んでよろけるAの後ろから、そのケツを思いっきり蹴る

結果、二人はもつれ合いながら人垣の中へと突っ込んでいった。

人垣から悲鳴が上がり、ごつんとかパリーンとかそんな音がしたのは気にしない。
・・・・・うん、あたしのせいじゃ無いモン☆(笑)

「わー、かっこわりー」

『ダッサーッ!!!』

ゴールド少年(仮)がそう呟き、その肩に乗っているエイパムが爆笑しながらそう言い切る。
ギャラリーの中でじたばたしながらも身体を起こし、後頭部を押さえながら呻くB。


「こ、このアマちょこまかしやぐあっ!?

ばごんとギャラリーの一人に後頭部を蹴り倒され、不良Bは昏倒した。

「ああっ!何しやがるっ!?」

それを見て、じたばたしながら非難の声を上げるA。
しかしそれに、そのギャラリーはギロっと凶悪な目つきで叫ぶ。

「うるせー!俺は今朝から虫歯が痛くてカリカリしてんだ!

「や、八つ当たり!?」

「私のショウユ瓶も割ってくれちゃってどうしてくれんのよ!?特売だったのにー!
「僕の卵もだぞ!お一人様一パックの限定品を・・・!」

目を白黒させるAの胸ぐら掴んで凄むギャラリーのオヤジさん。
その横から、近所の奥様やら学生さんやらの数人が笑えるような切実なような非難の声を上げて。

「そんな事言われても・・・・!」

「ぐぁ、く、くっそさっきやったのはテメェか!?」

「違いますぅううううー!」

「邪魔だっ!」

バキィッ!

パリーンっ!バキュッ


「ぐぎゃ!?」

「馬鹿野郎、どこ狙ってんだよ!?」

「あー!?誰が馬鹿だと!!!」

「あ、アタイのお酒・・・・・が」

「うわぁあああんだからぼくじゃないですよー!!!」

「私のテトラポットー!?!?」

「いやーっおじいちゃんが流血してるー!?」


殴り合う者、言い争う者、こっそり逃げる者、参加する者。
単なるケンカだったのが、しだいにギャラリーを巻き込んでの混戦に発展していく。
悲鳴、怒号、絶叫、笑い声、何かの割れる音――――――そんなものが響き渡り、触発されたのか、至る所で騒ぎが起き始めて。



「やっば、逃げるよ!」

「え、え!?」

ゴールドらしき、少年の手をひっつかんで。
は、その場から全速力で逃げ出した。




コガネの一角で始まった乱闘騒ぎ。
この騒動は―――――十数分後、騒ぎを聞きつけた警官が来るまで続いたと言う。






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