人間。




とても愚かしく、忌避すべき生き物。
それが、私の[人間]に対する、長い間の評価でした。

彼等は海を汚し、仲間を傷つけ、私達の住処を奪ってきたのですから。

気紛れに、自らの利益のためだけに。
そのために周りのものを破壊せずにはおけない、馬鹿な種族。


だからこそ、彼女を助けた時は―――――自分でも、ひどく戸惑いました。


それこそ、仲間達以上に。



“死なせたくない”



感じたままに行動するなど、私の本意ではありませんが・・・・・後悔はありません。
彼女の傍は、・・・・とても、居心地が良いのですから。








       【 二重協奏葬殺曲 】







「ってワケで今んトコ、アサギにいます」

現在、マサラにお電話中。

時折ナナミさんはドス黒いオーラを覗かせて命の危険を感じさせ、(ちなみに博士は外出中だそうだ)
しかし表面上は あくまでもにこやかに、あたしの話を聞いていた。

怖いよー恐怖だよー何か電話ボックス越しなのに冷気が漂ってるよおぉぉぉ(泣)

<そう・・・・・大変だったのね>

あらあらと、極めて穏やかな表情で、頬に手を添えるナナミさん。
見ようによっては、同情し、いたわっているように見えなくもない。
が、はその言葉の裏側に「ドジってんじゃねぇよ」的なニュアンス(と言う名の本心)を感じ取り、

背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。

「・・・・あははははー・・・・・・・ご心配おかけしました・・・・・・・」


激恐。


ここにナナミさんがいたなら、そのブラックオーラはこの比じゃないだろうと言う確かすぎる確信を抱きつつ、画面越しである事を神に感謝した(←信じてないくせにな)

<ところで。折角だし、一つお願いできるかしら?>

先ほどまでとは一転して黒いオーラを収め、そう切り出す。 ただし、[お願い]と口にしてはいるものの、断らせる気がないのは明白だが。

だって目が言ってる、まさか断るなんて言わないでしょうね?、と!


断ろうものならあたしの命が危ない!!


・・・・・・・立場弱いなー、あたしって(遠い目)

「・・・・・なんですかね」

<そこから海を行くと、タンバシティがあるのよ。
そこのジムで私の弟のグリーンが修行中だから、会って、様子を教えてくれないかしら?>

何を押しつけられるんだろう、と戦々恐々しながらの問いに返ってきたのは、比較的まともな依頼で。
我知らず身構えていただけに、はこっそり、安堵の息を吐いた。

「いいですけど・・・・・電話すればいいんじゃ?」

連絡を取るくらい簡単だろうに、どうして頼むのかと疑問をストレートに口にする。
するとナナミさんは、画面の向こうで苦笑を浮かべた。

<そうなんだけどね・・・グリーンったら自分から電話してくれないし、電話してもあんまり話してくれないのよ>

・・・・・ああ、弟が心配なんだな。

マサラから遠く離れた地で、修行にあけくれる弟。
怪我はしていないか、元気にしているのか。
無事だと信じてはいても、やはり心配なのには変わらないのだろう。

――――――あたしはもっぱら、心配かける側だったけどね。

姉も、怪我して帰ると怒ってたもんなー(心配はしてなかったけどさ、毎度の事だったし)
あたしも、姉がヤ●ザに話つけに行った時はすっげー心配だったもんなぁ(しみじみ/ちなみに帰ってきた時、何故か姉は彼等に姉御と呼ばれていた

「分かりました。タンバに着いたら連絡しますね」

懐かしい記憶に思いをはせ、請け負う。
それはちょっとだけ、ナナミさんに対しての見解を改める事にした瞬間だった。



 ■   □   ■   □



ナナミさんの、「お願いね」と言う言葉を最後に、通信が遮断される。
緊張して硬くなった身体をほぐすため、思いっきりのびをする。

と。

「タンバへ行っちゃうの?」

「ぅわひゃっっ!?」

耳元で囁かれた言葉に、妙な悲鳴を上げる
耳を押さえ、勢いよく後ろをふり返れば―――――そこにはやはり、ブルーの姿が。

うわびっくりしたーっ!
今、全然気配感じなかったんだけど!?

「あー、まぁね。・・・・・と言っても、出発すんのは明日だけど」

「それなら、アタシ達の部屋に泊まりません!?」

キラキラと瞳を異常なくらいに輝かせ、がっちりと手を握る。
その勢いに、さすがに及び腰になるあたし。

「いろいろ語り合いましょう!夜が明けるまで!!」

「柏F々って何ーっ!?」

「いやだおねーさま、そんな細かい事気にしちゃダメよv

「細かいか、細かい事か!?むしろ激しく気になるわ!

「そんなに気にかけてくれるなんて・・・・・嬉しいv

vと可愛らしく頬を染めて恥じらうブルー。
ちょっと待て、ブルーって結構洞察力あったよな!?

「ちーがーうーっっ!」

ぶんぶんぶんっ!と首が取れそうな程の勢いで力一杯否定する。
そんなに「遠慮しないで」とか言いながら、しっかり腕をつかんで引きずっていくブルー。
全身を襲う、妙な虚脱感と戦いながらも逃げようとあがく
が、腕を掴む手はミリ単位ですら揺るがない。


いったい何処にこんな力があったんだ。


「さぁおねーさま、女同士未知の世界へと!


「未知の世界って何―――――っっ!?」


つーか知りたくない知りたくない!
激しくヤヴァイ方向に走ってないかブルー!?!?(焦)

「頼むから正気に返ってくれーっ!そっちの趣味じゃないだろ!?」

「おねーさまならオールオッケーっv

うふ☆と、ブルーが可愛らしくウインクしてみせる(しかし引きずりながら)
その表情は、確かに男だったら心揺らぐだろう。
あたしも可愛いとは思う、思うとも!

だが!

「あたしはオッケーじゃないいぃぃい!」


同性に欲情する程堕ちてないんじゃーっ!(絶叫)


いやまぁネタにして妄想してたけど!
同性愛を否定する気も無いけどさ!(個人の自由だし)

そっちの趣味は皆無なんだよ!!!!!(つーかこのトシで欲情覚えてたまるか!



と、その時。
ブルーの腕を、誰かが掴んで止めた。

「ねぇさん、そこら辺にしといたら?」

そちらを見やれば―――――赤い髪に、あたしよりも純粋な銀色の目の少年の姿が。

「シルバー・・・・・」

た、助かった・・・・・!

ほっと胸を撫で下ろす、不満そうに弟を睨むブルー。
礼を言おうと、口を開き――――――

は俺のだから」

「そっちかよ!?」

言い切られたその台詞に、反射的に突っ込みが出た。
そんなあたしとは対照的に、ブルーはにっこりと笑顔を作り、

「あらシルバーったらv たとえアンタだとしてもアタシとおねーさまの間に割り込むなんて許さないわよ? って言うかおねーさま狙おうなんて身の程知らずもイイとこね自分のものだなんて主張して良いと思ってるのかしらケツの青いガキ如きがっ ! 何なら今この場で永久に葬り去ってあげるわ v

一気にまくし立てた。

「・・・・・負けない」

きつい目つきをさらに鋭くして呟くシルバー。
をはさんで、二人の視線が火花を飛ばす。


あたしの意見無視?(←うん)


だが、いつまでも言い争いを聞いている程、あたしは気が長くは無い。
遠くから観戦してるとか加わってるならまだしも、この状況じゃ楽しめん!(←え、そこ!?
第一精神的に疲労がたまる!!(切実)

・・・・・仕方ない、この手は使いたくなかったが。

「二人とも、いーかげん止めないと・・・・・・・怒るよ?

「「ごめんなさい(怯)」」

必殺のナナミさんスマイル(黒微笑)に、二人は即座に謝った。

ふー、なんとか収まったか。
これやると疲れるんだよなー・・・・体質的に合わん。

やれやれと、疲労の色の濃いため息をついてブルーを見る。
そういや、さっきは勢いに流されてたからおもいっきしスルーしちゃったけど・・・・

「で、ブルー。何故に『おねーさま』?」

「やだ、ヤボな事聞かないで下さいv


きゃ〜vvvとか言いつつ恥じらうブルーに、あたしはかける言葉を持たなかった。

・・・・・・・聞かない方がいいかな、うん(精神衛生上)



 ■   □   ■   □



暗く昏く――――静かな夜に包まれた、深夜。
窓から差し込む月光だけが、部屋の中に明暗を生み出す。


その光に細く長い影を映し出しながら、は、そっと息をついた。

「・・・・・ふぅ、疲れた」


二人が寝付いてしまっている事は、すでに確認済みだ。
何故か恐ろしい程にテンションの高まっていたブルーとシルバーは、にぎやかではあったが―――同時に繰り広げられる激しい戦闘には、さすがに辟易させられっぱなしだった。ふ、負けたぜ・・・・・・!

月明かりに照らされて、ゆるく輝く銀の髪をさらりと払う。


『寝ないのか?』


唐突に、背後から声がかかる。
それに欠片の動揺も見せず、はベッドの上から降りる。


「んー・・・・・ここんとこ、しっかり寝てたし。眠くなんないんだよね」


の全身が、窓から差し込む光によって照らし出される。
その姿は、普段のような黒一色の格好では無い。
黒のスパッツに大きめのシャツといった、かなりラフな出で立ち。


窓辺に歩み寄り、音を立てないように注意しながら、窓を開け放つ。


「白夜、紫苑達は寝たの?」

『ああ』

「そっか」


短く、簡潔に言葉を交わす。


冷たい外気を孕んだ空気が、開け放った窓から侵入してくる。
ふわりと流れ込む風が、カーテンを舞い上がらせた。



潮の香りを含んだ、海辺独特の風。



目を閉じて、遠く近く響く、波の音へと耳を澄ます。





ざざぁ・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・ ざざ・・・・ん・・・・・・・・・・・・




こうしているとまるで、海に抱かれているような気分にさえなってくる。
窓辺に頬杖をついて、心地良い、その感覚を堪能する。
無言で、白夜が傍に佇む。

ふざけて騒ぐのも好きだが―――――は、沈黙が嫌いな訳では無かった。

心を許しあう仲間と、ただ、静かに共にある時間。
気心知れた相手との沈黙であるからこそ、ヘタに気まずくなる事もない。


それは、心安らぐ・・・・・ひどく優しい静寂。


口数少なく無愛想な白夜だが、いつだって傍にいてくれる。

・・・・・思えば、出会った当初はもっと冷たかったな。

自然、浮かぶ苦笑。
愛想の無い性格こそ変わっていないが、それでも出会った当初よりは対応が柔らかくなったように思う。
この世界に来て、一番最初に知り合った白夜。
一緒に過ごすようになってそれなりになるが、解らない事の方が多いように思う。


――――まぁ、これから知っていけばいいんだけどね。


焦る事はない。
時間は、たくさんあるのだから・・・・・・・白夜が、彼女の元を離れない限り。
まるで、付き合い始めた恋人のような思考に気付いて、ガラでもないなと心の中で苦く呟く。



目を開けば、窓の外に広がるのは―――――どこまでも深遠な輝きを見せる、暗い藍色。

ため息が出る程美しく・・・・・怖くなるぐらい不吉な妖しさ。



波の音が、静かに空気を震わせる。

ぼんやりとした面持ちのの姿を、白夜はちらりと横目で見る。
銀の髪が、細く白く差し込む月光を受けて僅かに輝き、
灰銀の瞳は遙か遠くに焦点を定め、何処か遠い場所に思いを馳せているようにも映った。



昏く沈んだ、紺碧の海。

闇を照らす、無慈悲な夜の女王にも例えられる月。

吹き込む風がカーテンを揺らし、朱華の髪にその指を絡める。




どれは、ひどく現実離れした・・・・・神話の中のような光景で。




綺麗だと、白夜は思った。


普段はひどく強気で破天荒な癖に、時折、崩れ落ちそうな程に儚く脆く・・・・・
どこまでも不安定に、危ういまでの均衡を保つ

誰よりも独特な空気を身に纏う、どこまでも異質な存在。


だから、なのだろう。


誰よりも何よりも――――激しく強く、心揺さぶられるのは。




彼女自身が【 異端 】だから。




強くて脆くて、綺麗で優しくて残酷な、彼らの主。

失いたくなど、無い。









『―――――勝手に死ぬなよ、









小さな小さな・・・・・風でたやすく消えてしまう程、小さな言葉。

呟きは、の耳には届かなかった。







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