金属的でありながらも柔らかな光を湛えた、極上の銀を紡いだ髪。 最高級の白磁をそのまま皮膚にしたような、きめ細かな白い肌。 衣服の漆黒が白と銀を際立たせ、少女に侵し難い気品と風格を纏わせる。 幼さを帯びた面立ちは神か、さもなくば悪魔の手でしか成しえない程に繊細で、儚い造形美を謳う彫刻のよう。 人間味も、現実感もまるでない美貌だった。 少女に視線を固定したまま、マチスは無言で硬直している手近な部下を殴り倒す。 鈍い音と共に同じように固まっていた仲間を巻き込んで、被害者は人形のように吹っ飛んだ。 危うく巻き込まれかけた一人が、我に返って抗議する。 「何するんですか少佐!?」 「SORRY、殴ったら夢から覚めるかと思ってな………」 おざなりな謝罪だったが、文句の声は上がらない。 犯罪組織は実力主義の縦社会。軍人も実力主義の縦社会。上司が言うなら黒も白。 こめかみをぐりぐりと圧迫しながら、マチスはきつく目を閉じる。 「で。この 「はい。声紋データも一致したそうです」 言われて視線を再度、少女に向ける。 によって壊滅の憂き目を見た、ヒワダタウンとグレン島の研究施設。 ヒワダの施設は完全に破壊されていたが、グレン島ではかろうじて一部、監視カメラのデータが残されていた。 ポケモン協会でのトレーナー登録は、帽子と影で顔を半分隠している状態で更新されているものの、こうして声紋データが一致した以上は襲撃した本人である事は疑いようもなかった。が、レアコイルによる電気のオリに囚われ、意識も無く横たわる姿と暴れっぷりは何度見たってイコールでは繋げそうもない。 見込み違い、か? 腕を組み直し、マチスは疑念と不審をないまぜにして内心呟く。 一度ならずとも、R団の邪魔をしてきた少女。 敵とはいえ、マチスは彼女の事を少なからず評価していた。 単身敵地に乗り込む度胸、警備のスキを突く手際の良さ、そして何より容赦の無い苛烈なやり口。 気に入らない人物が降格処分の憂き目を見たという事もあいまって、危険だとは感じても同時にひどく痛快だったのだ。 それなのに対面してみれば、出てきたのは綺麗だがバトルと縁の無さそうな子供。 「ポケモンと隔離して、船倉に放り込んどけ」 「はっ!」 敬礼を返し、少女をオリごと連れて去っていく部下達。 一陣の潮風が、持ち主を失った漆黒の帽子を伴い空へと駆け抜けた。 港に一人佇みながら、マチスはの処遇に思いを巡らせる。 R団に立ち向かう命知らずのトレーナーだとばかり思っていたが、ポケモンに頼りきりなだけの、『奴ら』のお人形かも知れない。あまり愉快では無い想像に鼻を鳴らす。人形ならたいして情報を与えられてもいまい。 だが、現時点では確証が得られないのも確かだ。 「“試し”にでもかけてみるか……」 何か尻尾を出すかもしれないし、出さなくとも構いはしない。 そう考えるマチスが、 という少女がいわゆる外見サギ人種であるのを知るのはこの3時間後の事だった。 【 押し売れ☆人災大セール −前編− 】 あーるーはれた―ひーるーさがりー 「気ーがーついたら拉致監禁♪」 やッべぇええええええええええええええええええええ。 とりあえず、現状確認を兼ねて身体を動かしてみれば間接各部位でみっちりきっちりポイント押さえて縛り上げられている事が分った。トレードマークの帽子も無い。服、はどうやら手をつけられていないらしいが。 OK、ロリコン趣味の変質者はいないっぽい。超安心。 「まぁ、どー考えてもまっとうでない連中に捕まったっぽいけどねー」 お目覚めが暗くて狭くてホコリテイストな小部屋とかね、どう考えてもやばげ方面だぞ。 爽快からは高速スキップでかけ離れたな! 完全覚醒した思考をがっつり回転させながら、は柔軟体操のノリで後ろで縛られた手で足を掴む。 そしてブーツの裏地部分に取り付けられた小さなポケットに指を突っ込み、中に仕込んであるものを引っ張り出した。 「ちゃらちゃちゃっちゃっちゃーカミソリの刃〜♪」 あってよかった乙女のタシナミ! 確信犯的ボケに、しかしツッコミは返らない。 手際良く手首、関節部分、足首の順でまかれたロープを断ち切って、はゴキリと骨を鳴らす。 どうやら、それなりの時間をイモ虫状態で過ごしたらしい。 うっすら赤い痕の残った手首をさすり、違和感のある身体を柔軟体操でほぐした。 改めまして、装備確認たーいむ。 ザックはどのみちポケモンセンターだ。これは気にしなくていい。 服、は無問題。でも帽子無い。…………新しいの、どっかで買うか。 あっちこっちに仕込んである乙女的☆ヒミツアイテムsは―――――うん、折り畳みナイフ以外は全部あるわ。 まぁ、道具は買いかえればいいだけだ。あるに越したことは無いが、さして問題でも無い。 問題は、モンスターボール 全 ・ 没 ・ 収 かまされたって事だ。 いやぁまさか暴れる前に拘束プレイとか想像してもいませんでしたよアッハッハ。 うーん、偶然を装ってレッドと合流→一緒にサントアンヌ号で愛の壊滅☆無双!といく予定だったんだが。 どうやら見通しがスイーツすぎたっぽい模様なので、この瞬間だけは反省しようと思う次第。 原作参加の前準備と活動妨害兼ねて、船を出航不能状態に細工しとくつもりだったのになぁ。やっちまったぜよ。 真剣度激低の反省を行いながらも、カギをヘアピン一本で抉じ開けて、はドアの外をのぞき見た。 うん。 「サントアンヌ号だわ、こりゃ」 ナチュラルに外をコイルだの海の男スタイルのオッサンだのが行きかっておりますYO! まぁ、最後の記憶がサントアンヌ号前だから予想はしてたっちゃーしてたけど。 足音を殺し、部屋をするりと抜け出して、は内心で謝罪する。 許せレッド、ここ潰す。 言葉とは裏腹に、の中で、既にこの“予定”は“決定事項”以外の何物でも無かった。 R団に仲間を預けて萌えに走れるほど楽観的ではないし、いつ来るか分らないレッドを待ってなどいられない。 借りは返すし、奪われたのなら奪い返す。例えそれが、原作を壊す行為であったとしても。 ゆるりと眼差しを細める仕草は、獲物を狙うけだものにも似ていた。 ■ □ ■ □ クチバシティ、“ポケモンだいすきクラブ”クラブハウス。 「つまり、その盗難事件は1ヵ月に一度、集中して起こってんだね」 「はい」 奇しくもそこでは、が関わる予定だった原作が進行中だった。 真摯に話を聞くレッドの姿勢を好ましく感じつつも、クラブメンバー達はため息を禁じ得ない。 以前から起きている盗難事件だけに当然ながら警察も動いている。それでも事態は一向に進展を見せないのだ。 できる事といったら盗難を警戒したり、盗まれてしまったポケモンを心配して泣いたり愚痴を言い合ったりするぐらいというこの現状。ため息量産が止まるはずも無かった。 「先月は被害が少なかったし、今月もそうだといいんだけどな……」 「そうよね……少ないに越した事は無いわよね……」 「盗まれないのが一番なんですが…本当、警察は何をやってるんだか…………」 囁きかわせば、暗然と息を吐く音が重なる。 証言という形式で話してはいるが、実態は愚痴が4割、レッドへの忠告が6割だ。 それは当然だろう。 警察が動いてどうにもならない事件を、年端もゆかぬ少年が解決できるなどと本気で期待するはずもない。 クラブメンバー達のそんな思いを知るはずもなく、レッドは思案顔であごに手をあてた。 「でも、そんな大量のポケモン、盗んだとしてもどうやって運ぶんだ? 飼い主じゃなけりゃ、ボールに入れるのもひと苦労なのに…………………」 考えてみても、そう簡単に答えは出ない。 ポケモンを盗むのが言うほど簡単でない事は、よっぽどの馬鹿でもない限り誰でも知っている事実だった。 合意の上で譲られたポケモンでさえ、トレーナーが力量不足ならその指示に耳も傾けないのだ。 強引な手段で奪われたポケモンが、おとなしく知らない場所へ運ばれていくなどレッドにはとうてい考えられない。 もし盗まれたポケモンがおとなしく運ばれたとしても、たくさんの盗んだポケモンをどう運んでいるのかという疑問が残る。 「一気に運ぶ方法……か」 一度に集中して盗んでいるのなら、一度にそのポケモン達をどこかに運んでいるんだろう。 そんな短絡的な考えから出た独り言だったが、偶然にも、真相の一面を突いていた。 盗んだポケモンの輸送を一度に済ます事ができるのならば、事態が露見するリスクも下げる事ができる。 短期間にやり取りを済ませてしまえば、現場を押さえられない限り知らぬ存ぜぬで十分に押し通してしまえるのだから。 「ん?」 レッドの目に、窓の外で停泊している船が映った。 かなり大きな船だ。それこそ、多くの荷物を一気に運べそうなほど。 なんとはなしに問いかける。 「あの港の大きな船は、どこへ行くんですか?」 「サントアンヌ号ですね。クチバシティジムリーダー、マチスが、グレン島に荷物を運ぶとか………」 「ジムリーダーがなぜ船を……?」 ジムリーダーが、何か他にも仕事を勤めているのはさして珍しい事では無い。 たとえば、以前に襲撃されたグレンのカツラはジムリーダーであると同時に研究者でもあるし、タマムシのエリカなどは大学での講師を兼任している。純粋にその仕事が好きだからとか、ボランティアを兼ねていたりとか、元々はその仕事をしていたからとか理由は人それぞれだ。 ポケモン協会でも、ジムの運営に支障をきたさない範囲であれば兼業を認めている。 給料の支払いをしぶっているとか、そもそも安い賃金しかくれないとかそんな理由では無い。断じて無い。 しかし田舎暮らしの長いお子様レッド。 そもそも旅に出て半年にも満たない上に、ジムが存在しないマサラ出身の彼はその辺りの事情に疎かった。 「そういえば………」 一度疑念を抱けば、そこからはイモヅル式だった。 好奇心で忍びこんだサントアンヌ号の中、不自然に揺れる木箱やポケモンらしき黒い影。 そして、海で頼りなげに揺られていた、どこかで見たような真っ黒な帽子。 ―――――まさか 考えに至った瞬間、レッドは血の気が引くのを感じた。 「オレ、ちょっと行ってきます!」 「待て!」 ドアに体当たりするようにして駆け出せば、背中に鋭い制止がかかった。 たたらを踏んで立ち止り、レッドは苛立ち交じりに声の主である会長を睨む。 「なんですか!」 本音としては、一分一秒でも早くサントアンヌ号へ行きたいのだ。 レッドにとって、は昔危ないところを助けてくれた恩人であり、敬愛と尊敬を捧げる素晴らしいトレーナーなのである。 ほとんど言葉を交わしてない上、さしてハッチャケタ面を見ていないし一緒にいる時間も長くなかったので多大に妄想補正の入った人物像だがそこはそれ。確実にの容姿も夢見る乙女並の補正効果に一役買っている。 ともあれ、そんな憧れの存在が自分と同じ結論に達するのは、彼にとって至極当然の事だったし、捕えられてしまったのなら少しでも早く助け出したかった。 こんなところでのんきに話し込んでいるヒマなど無い。 そんな諸々の心情を詰め込んだ殺人視線にちょっぴり怯んだ会長だったが、そこは年の功。 こほん、と咳払いひとつで平常心を取り戻す。 「あー…レッドくん。君にひとつだけ、頼みがあるんじゃがの」 時間が惜しい。早く言ってくれ。 口に出さなくても雄弁に語る視線に、会長は誤魔化すようにへにゃりと笑い、 「出かけるんなら、その間ピカチュウを抱かせてはくれんかのう」 欲望にまみれたお願いを、期待に満ちた顔で口にした。テヘwとか言いながら。 ためらってもきっちり発言している辺り、結構したたかなご老体である。 もちろん、その場でレッド脱力しまくったのは―――――言うまでも、無かった。 ■ □ ■ □ 誘導された部屋へと踏み入れば、その瞬間に“ソニックブーム”の熱烈歓迎が炸裂した。 当然、がまともに喰らうはずも無かったが。 あっさり避けられた攻撃はドアを直撃して粉砕し、技を放ったコイルは容赦の無い蹴りで軽々吹っ飛んだ。 顔面めがけて突っ込むコイルを首を捻るだけでかわした軍人マッチョに、はワンコンマも挟まぬ速攻で距離を詰めて足払いを仕掛ける。空振りにはノーリアクション、鳩尾めがけて放った拳は手首ごと絡め取られて不発に終わった。 もう片手で肩を掴んで急所にヒザ蹴りを叩きこもうとすれば、拘束は解かれ壁めがけて投げられる。 ちょうど進行方向にいた下っ端の頭を掴んで勢いを殺し、容赦なく床マットにして着地を決めた。 視線を交わし、どちらともなく獰猛に吠える。 「やるじゃん、不良オヤジ!」 「てめぇもな、 仲間を床マットにされたせいだろう。 驚いたようにざわつく部下達を、軍人マッチョな不良オヤジは視線ひとつで静める。 統制のきっちり行き届いたその光景に、は現状突破の難易度を上に修正せざるを得なかった。 連携のとれていない連中なら手玉に取る事はたやすいが、その逆となれば話は別だ。 …………これだから軍人系は嫌いなんだ。 は内心毒づいた。レッドがこいつらを出し抜けたのは、確実に侮られていたからだろう。 ガキんちょな上に持ちポケが水タイプだけとか、警戒要素ゼロだもんなー。 「さぁて。改めまして、サントアンヌ号へようこそ。だな!もてなしは気に入ってもらえたか?」 仕切り直しとばかりに軍人マッチョな悪党面の不良中年オヤジ、もといマチスが仰々しく一礼してみせた。 なんだご機嫌だなこのオヤジ。むかつくな。 ミョーにイラっとくる気持ちを余すところなく前面に出して、はあっかんべえと舌を出す。 「丁寧過ぎて殺意わく歓迎だっつーの!」 「ガハハハハ!そりゃ残念だ!」 心底愉快そうな笑い声を響かせるマチスに、憮然とした気分で舌を引っ込める。 しかし、それも少しの間の事。ひとつ肩を竦めて気持ちを切り替えると、笑い声が途切れるのを見計らって口を開いた。 「まだるっこしい話をする気は無いんでね、単刀直入に聞かせてもらう。R団があたしに何の用?」 「フフフ、話が早いな」 笑いを噛み殺しながら、マチスはをじろじろと眺める。 「ポケモンに頼りっきりの 「 サ○リオの二頭身か、あたしは。 某体重はリンゴ三個分よ☆なキャラクターを連想させる呼び方に、眉間にシワを寄せて抗議する。 なんか下っ端の視線がぬるーい具合な気がするのはこの際シカトだ。 気に障ってんのはガキ扱いじゃないんだっつーに! 「おっと。こりゃ失礼、おじょうちゃん」 「……………………キティでいいわ、やっぱ」 おじょうちゃん呼びの方がダメージあるわ。なんでだ。 うっすら鳥肌が立った腕をさするに、しかし上機嫌なマチスは気付く様子も無くニヤリと笑う。 「用件はシンプルだ。R団に入れ、 そ の ネ タ で く る の か よ ! は思わず天井を仰いだ。レッドより先に勧誘イベント遭遇したよ。なんでだよ。 サカキとは会ってないしそもそもマチスとだってフラグ立てた記憶無いんですがねコノヤロー。 と言うか、そもそもの問題として。 「あたしがそれに頷くとでも?」 「頷くだろ?自分のポケモンが可愛いけりゃ、な」 ち、基本だが効果的な手を分ってやがる。 これだから軍人系は以下略。 「悪いようにはしないさ、オレはお前を高く評価してんだ。 トレーナーとしての腕はもちろんだが、ポケモン抜きでも動じねぇ根性も、見かけによらねぇ腕っ節の強さもな。 もう一度言う、R団に来い。存分に暴れられる場所を用意してやるぜ!」 その言葉に、ひょっとしなくても試されていた事を悟った。 じゃっかん上から目線なのが気に食わんな、この不良オヤジめ。 舌打ちしたい気持ちをギリギリで押さえ込んで、は口元に手をあてる。 なんかバトルジャンキー的な評価されるのは、暴れまくった実績からだろーし気にしないでおくとして。 問題は、周り包囲されてて逃げ場が無いのと、ポケモンは全員あっちの手の中って事か。 ―――――参ったな。断ったら確実に死亡フラグだぞ、これ。 の記憶する限り、ポケスペで怪我人は出ても死人は出た事が無い。 だが、それはあくまでもマンガという括りの上での話だ。 バットエンドで旅終了、なんてブラック展開もありうる以上は真剣に対応しなければなるまい。 これは物語でも夢でも無く、れっきとした“現実”なのだから。 「……条件が二つある」 長い沈黙の後、はそう切り出した。 「一つ目は、仲間を返してほしいって事。 二つ目は、R団のボスに直接会わせて欲しいって事」 「あ?何のためにだ」 二つ目の条件に、露骨に不審そうな顔をするマチス。 それに肩を竦めてみせて、は納得できるだろう理由を口にした。 「あたしも暴れまくったからねー、恨み買ってる自覚はあるんだよ。 R団に入ったとたんに背中からぶすっと、なーんて末路はご勘弁願いたいんだわ。 かといって、返り討ちにして面倒事になるのもヤだし?だからその辺について、トップの言質とっとこうと思って」 「はん、そういう事か」 「そ。この二つを聞いてくれるんなら、R団入りを考えさせてもらうよ」 ニィ、と不敵に笑ってみせる。 笑顔イメージはバトルジャンキーの方向性だ。 違和感無い自信あるとか、あたしってば超演技派☆ 「――――OK、ボスにゃあ話をつけといてやるぜ。 だが、一つ目は駄目だ。仲間持ってとんずらされちゃかなわないからな」 短い沈黙の後、返ってきた言葉は予想の範囲内の台詞。 さぁて、ここからがメインだ。 予想していたなんて様子はおくびにも出さず、不満を装って唇を尖らせる。 「じゃあ、返すのは睡…サンドパンだけでもいい。他は、安否確認だけで我慢するよ」 「冗談だろ?許可できるのは安否確認までだな」 マチスが、話にならないとばかりに両手を広げて顔をしかめた。 ま、地面タイプは電気の鬼門だしな。期待はしてない。 人質がある以上、盾に取られればそれで詰みだ。 取り戻せれば後はどうとでもできる自信があるが、奪還するにしても、今何処にいるのか分らないと動きようがない。 とにかく、これでポケモンの現在地確認という最低ラインは完全クリアだ。 「ケチめ。じゃあ、返してくれる一匹はそっちで選んでくれて構わない。これでどうだ」 よっしゃぁああ!と叫びだしたい衝動は、あえて頬を膨らまして誤魔化してみせる。 安否確認については呑ませた以上、この条件は希望含みのオマケでしかない訳だが――――― 「ま、いいだろう。一匹ぐらいなら返してやるぜ」 R団入りをほのめかした成果はあったらしい。 多少は気を許したか、それともこの条件なら問題無いとでも踏んだか。 なんにせよ、こっちが使える手が増えるのはありがたい話だ。ナイスあたし。 「交渉成立、だね」 戻ってくるとしたら氷月か紫苑だろう。 そんな予測を立てながら、マチスと視線を合わせて笑みを交わす。 ばん、とドアが乱暴に開かれた。 「少佐!」 慌てた様子の下っ端が、マチスに走り寄って何かを囁く。 脳を横切る原作補正の文字。……………………いやいやいやいや、それは無い。 原作補正入るんだったら、そもそもグリーンとレッドの出会い崩壊もありえないはずだし。 ……あ、けどブッキングはありえるのか?(汗) 思い至った考えに、ちょっぴり顔をひきつらせる。 報告を聞いたマチスが、そんなを見て意地の悪い顔をした。 「 「ああ、まぁ予想はつく」 今度は演技ヌキで、ナチュラルに渋い顔をする。 な・ん・で侵入はきっちり成功させてるのに捕まるかなレッド! 原作か、原作の呪いなのかそうなのか。 ただでさえ難易度高い状況なのに、ぶっちゃけレッドの面倒まで見る余裕は、 ―――――いや、この状況は使えるかも? ひらめいた考えに、は口元に手をあてる。 うん、悪くない。うまくいくかは賭けだが、やってみる価値はあるか。 電光石火で結論を出して、は面倒そうな顔を作り駆け込んできた下っ端に声をかけた。 「さっそくで悪いけど、あたしのポケモン持ってきてくれる?」 「構わん。…で、どうする気だ?」 従っていいものか迷う下っ端を促して、マチスが問う。 明らかに面白がっている顔である。気付けば下っ端連中も、興味深そうに耳を傾けていた。 これだから以下略な本音はひとまずオブラートで封印し、チェシャ猫のように口の端を吊り上げてみせる。 「あたしの客だ。あたしが何とかするさ」 死亡フラグだろうとR団への入団フラグだろうと、まとめて叩き折ってくれるわ! そんな決意を裏に潜ませての微笑は、壮絶なまでに艶麗だった。 TOP NEXT BACK 直観と思い込みで真相にたどり着く子、レッド。理詰めはグリーンの担当だと思う件。バランスいいのは結局ブルー。 の存在はR団には既に知れてます。そして警戒されてますよ派手にやってるからね!そら捕まるわ。 |