どうも。ボーイスカウトのタクロウだ。
誰だお前って思った人ばっかだと思うよああ分かってるさあんなのと行動してりゃ存在感全体的に食われるんだよ目立てるような主役級キャラじゃないさ どうせ俺なんて ――――え、何だ黒子さん。
「あんた一度も名乗ってないから分からないに決まってる」?
・・・・・・いやすんませんウッカリしてた。つい思考が後ろ向きに。
絶対に状況のせいだな。うん。改めましてこんばんわ。
あの黒いのに正直屈辱と言うか人権無視もはなはだしいと言い切れる扱いを受けているパトラッ○ュ(仮)です、みんなこれを機に俺の正式名称覚えておいてくれタクロウだから。タクロウ。

あの黒いのは俺の名前聞く気さえなさそーだからな・・・・・・ははは・・・・・(遠い目)

そもそも俺、シンヤの――――あ、友達なんだが、そいつん家行く途中だったんだよ。
それが何でポケモン屋敷にいるんだろーな・・・・・・・昔は研究かなんかで使われてたって聞くけど、今じゃ凶暴なポケモンが徘徊する廃墟だってグレンじゃ評判だぞ。トレーナーだって滅多に近寄りゃしねぇ。
・・・・・・・・・なんであの時ポケモン屋敷を見たんだ俺の馬鹿!
あそこで黒いののポケモンと目が合わなけりゃ!そして黒いのの侵入シーンを目撃してもすぐ逃げていれば!!
今思い出しても悔やまれる。
つーかR団だぞR団!!極悪非道、冷酷無比の犯罪集団!!!
危ない事すんのは怖いんだぞ?!R団に立ち向かうとか、俺はそこまで命知らずじゃねー!!

な・の・にっ!

何で俺はR団の服まで着て、こんなヤバくて怪しい黒いのと行動してんだ・・・・・・・っ!?!


( A.成り行き。 )







     【 ちょっとの犯罪無問題 −後編− 】






遠く響くは破壊と狂騒。

壁を幾重にも隔ててすら聞こえてくるそれは、研究者達を慄かせるには十分な効果があった。
それは当然の事だろう。R団の命ずるままに、より強く、より強靭に、そしてより従順なポケモンになるよう薬やバイオ技術などあらゆる手法を利用しての化学実験を推し進めてきたのは研究者である彼等自身だ。
そしてこのポケモン屋敷に放たれていたのは、自分達の研究の過程でモルモットとして利用し、研究データを収集した後は番犬代わりとして放し飼いにしていたポケモン達。薬物の許容量以上の使用や度重なる実験の結果、思考能力に著しい低下こそきたしてはいるが、その力は並のポケモンを軽く上回る。
それを「実験」を通して知り尽くし、なおかつ戦う力はほとんど持たない彼等が、青くならないはずが無い。
非常用の予備電源のおかげでかろうじての薄明かりを保つ室内で、研究者達は慌ただしく右往左往して研究データをかき集め、待機していたR団のポケモンで安全な場所へとテレポートしていく。
その光景を横目にしながら、R団においては研究の中核を担う存在であり、主導者でもある男――――グレンジムのジムリーダー・カツラは、R団本部の研究所にいくつかの研究情報を転送処理していた。
多少時間の必要とされる作業ではあるが、放棄するわけにはいかない。
もし作業の途中でここにある電子機器が破壊されてしまえば、これまでの労力が水泡と帰す事になる。
カリカリカリ、と独特の悲鳴を上げて作動するCPUに、常に無く神経を波立たせながらカツラは転送中と表示された画面を睨む。事前に何か報告があれば、もっと迅速な避難行動や対処への助言が行えたはずなのだ。
だと言うのに危なくなるギリギリまで無言を貫いた上、暴走するポケモンへの対処の助言すら請おうとしない。
内心でそんな警備隊長の無能と頑迷を罵り倒しながら、カツラは複雑なため息をつく。
これらのデータをイチから集め直すとなれば、かなりの時間と手間が必要になるだろう。
せめて処理が終わるまでは時間を稼いで欲しいものだ、とカツラは苦々しい気持ちで考えた。

「・・・・・・・そうだ。こいつだけでも、先に運んでおかなければならないな」

電子機器から視線を外し、デスクに置かれた“それ”に視線を向ける。
苦労して捕らえた重要な研究サンプルだ、むざむざと失う訳にはいかない。
荒々しく扉が開け放たれ、数人のR団員が慌ただしく入室してきた。
おそらく、警備隊長から護衛と避難誘導のために追加で回された連中なのだろう。
だが、彼らの言葉は最後まで紡がれる事は無かった。

「カツ、「はい、案内ごくろー様」


唐突に。


天上から降って湧いたような、場にそぐわない美しい声。
何処か皮肉な響きを伴った音楽的な音色が、あっさりと言葉の続きを遮る。
次いで鈍い音、くぐもった悲鳴が耳に快い余韻を完膚なきまでに掻き消して。

折り重なるようにして、R団員達が崩れ落ちた。

先程までの喧騒が嘘のように、場が凍る。
全ての視線を一身に浴びながら佇むのは、見慣れぬ白いポケモンを供にした黒衣の少女。


悠然と、泰然と。


その場に在る事が当然だと、そんな錯覚さえ起こしてしてしまいそうな程に自然に。
それでいて纏うのは、色濃く残る幼ささえも問題視させぬ程の、支配者であるかの如き風格で。
冷ややかに。剣呑に。
慈悲という名の温かみを、一片さえも含ませず。



――――細められた少女の瞳が、カツラを鋭く射竦めた。




 ■   □   ■   □



正直に言えばにとっても白夜にとっても、貴姫が捕まっているという情報は実感を伴わないものだった。
仮にも貴姫は“幻の”という形容詞で表現されるポケモン。
行動はまさに神出鬼没。その実力は未知数とはいえ、一筋縄ではいくはずもないのは言うまでも無い。
ただ、どんな存在であっても弱点はあるし、どうしても隙や油断はある。
おそらく、そこを突かれたのだろうとは思い至っていた。


けれど。


一抱えほどのガラスケースに収められた貴姫は、精巧な人形にも見えた。
生気を湛えて鮮やかだった表情は淡い苦悶で固定され、その皮膚には遠目にも分かるほどに血の気が薄い。
目に見える外傷こそ無いようだったが、だからといって何もされなかったはずが無く。
波のようにすぅっと表情が消えるのが、自分でもはっきりと分かった。
腹立たしいのか哀しいのか苦しいのか憎いのか不安なのか苛立っているのか――――腹の奥でとぐろを巻いて渦巻くそれは混沌として激しく、少なくとも穏やかとは程遠い事だけは確かで。
ヒワダでの一件で感じたものより、遥かに強烈な感情。

「・・・・・・・・・・・・」

ゆるり、とは瞳を細める。激情をそのまま吐露する事はしない。
何処までもふつふつと煮える胸中とは真逆に、頭の中は氷でも突っ込んだかのように冷ややかだ。
の静かな、しかし明確な侮蔑を込めた視線が、サングラス越しにカツラのそれと真っ向から絡み合う。
誰一人として物音を立てず、指一本さえ動かす事もままならない静寂。
漠たる緊張感が支配する空間の中、口火を切ったのはが先だった。

「――――返してもらおうか」

言葉だけが室内に木霊し、溶けて消える。
カツ、カツ、カツ。ゆっくりと、殊更に足音高く詰められる距離。
誰もが雰囲気に呑まれている中、カツラはいち早く己を取り戻して腰のモンスターボールに手をかけた。

「それ以上近付かないでもらおう。・・・・・・・・何を返せと?」

距離にして3メートル強。

その気になれば互いに簡単に詰められる距離で、は立ち止まった。
ポケモンが既に出ている分、彼女の方が先手を打ちやすい。
それはカツラも承知の上なのだろう、戦いの時独特の、警戒を多分に含む観察の視線には相手の一挙一動さえも逃さぬ意図が含まれている。白夜が、このカントーでは見る事の無い種である事も一因だろう。
少しでも情報を得ようとする貪欲ささえも感じさせるそれは、余裕が足りないように感じられた。

「あたしのダチさ。そっちにそのつもりが無くても返してもらうけどね」

口の端を吊り上げ、口調だけは気さくに語る
けれどその視線は何処までも鋭く、苛烈な光を宿している。

「友人だと・・・・・・・?」

「うっわ、理解力なぁーい。・・・・・・ああ、ボケでも来てんの?ハゲ」

微笑み付きで吐かれたのは、端的であからさまな侮辱だった。
公然とした暴言に、瞬間的に頭に血が上る。
しかし、それも一瞬の事。
すぐに平静を取り戻し、カツラは挑発に乗りそうになった自分を踏みとどまらせた。

「研究サンプルを友達呼ばわりか。ずいぶん生暖かい頭をしているな」

見下すようなニュアンスを含んだ返答。
口調だけは柔らかいまま、殺気と緊迫感だけは息苦しいまでに高まっていく。

「そっちよりは遥かにマシさ。あたしのダチを勝手に研究サンプルなんぞにしないでもらいたいね」

「あれは野生だ。どうしようと捕獲した者の勝手だろう?」

「――――あんた脳味噌無いんじゃねぇの」


ざわり、


一気に空気が冷え込んだ。
じわり、とカツラの背に嫌な汗が滲む。


「ポケモンは道具じゃない、意思も感情も持った生き物だ。それを研究サンプルだの何だのと・・・・・・・・・」


誰一人として動かない。否、動けはしなかった。
全身を粟立たせるような凶悪な殺気を纏わせ、はカツラを無表情に見て。



刹那の静けさ。



「あんたはジムリーダーだろうが!

 寝惚けんのも大概にしろ、クソ野郎ッ!!





瞬間。


まるで計ったようなタイミングで、轟音が響いた。
鈍い地響きが床を揺らし、場を支配していた緊迫感が崩れ去る。
完全に途切れた緊張の糸。揺れは小さく、行動に支障を来たすようなものでは無い。
それでも唐突なそれは虚をつき、隙を作るには十分な時間を与えてくれた。
カツラの意識がそれた“その時”を見逃す事無く肉薄し、はその腹部に拳を叩き込む。

「――――ぐッ」

苦悶の呻きを上げてよろけたその身体に、容赦なく足払いをかけて蹴りを叩き込んで沈黙させる。
そのままは、貴姫の納められたガラスケースを引っつかんで踵を返した。

「ま、待て!」

「逃がすか!」

轟音によって呪縛から開放されたらしい。
今更ながらに逃げ惑う研究員を押しのけて、R団員達が追いすがる。
けれどその足は、白夜の放ったカマイタチで再度その場へと縫いとめられた。
稼いだ数秒で部屋から廊下へ躍り出て、は普段の不敵な笑みを浮かべてみせて。

「ナイスアシスト!」

『当然だ』

“いつも”の調子で言葉を交わし、は部屋の外でガタブルしていた仮の襟首掴んで駆け出す。
見回す限りの暴虐の爪痕は、時間の経過と共に深く激しくなっていっているようだった。
ひょいひょいと瓦礫の山を越え、向かってくる暴走したポケモンや出くわしたR団員を時に飛び越え、時にいなし、時に薙ぎ倒し、時に隠れてやりすごしながら(と、仮)は仲間を回収しながら来た道を戻っていく。

「お!紫苑とナゾノクサはっけーん」

『ご主人さま、白夜さん!』

手を振ると後ろの仮に気付いて、紫苑達が振り返った。
ぱっと顔を輝かせ、ナゾノクサが捨て身タックル並の勢いで仮の腹へと特攻する。

「げフあッ!?!」

『おッかえりー!いっしょにあばれるのー?』

『殲滅』

『他の単語も口になさい睡蓮。皆殺しとか殺戮とか』

無言でびくびくと痙攣する仮。うんまぁ、結構深く入ってたしな。
そこはかとなくぬるーく微笑む、けど介入はしない
その腰のモンスターボール内では、回収済みの氷月と睡蓮が和やかとは光速でかけ離れた会話を繰り広げている。
そんな場違いに平和かつ物騒な光景の傍ら、紫苑がガラスケースに入った状態の貴姫にぎょっと目を見開いた。

『ききききき貴姫さんッ!?どうしたんですかいったい!!!』

『R団のせいだぜ。ふざけた真似しやがる!』

『R団の・・・・・・・・・・・・!?』

憤りのこもった天空の言葉に、右往左往していた紫苑の目が険しい光を帯びる。
その後ろでは、仮が苦痛の呻きを上げてのたうち回っていた。

『・・・・・・・・・・・・虐殺』

『ああ、それも適当ですね。ではその方針で行くことにするので出して頂けますか主殿』

「引き上げるつってんだろーが聞けよ人の話!」

『紫苑。その怒り、今は呑み込んでおけ――――天空、話すのは構わんが焚き付けるのは止めろ』

ナチュラルにまだまだヤる気満々☆な氷月と睡蓮にが般若顔で突っ込み、そのまま暴れに舞い戻りかねない紫苑と暴れられなくてフラストレーションの溜まっているらしい天空を、白夜がため息混じりにいさめる。
無言で頷く睡蓮、笑顔で舌打ちする氷月。紫苑が静かに怒りを燃やしながらも『・・・・・・・はい』と呟き、『オレ、焚き付けてたのか!?』と天空が自覚0なボケを発して白夜に白い目で見られた。
般若から平常モードに顔をチェンジし、はぐるりと出ている面々を見回す。

「目的はあらかた果たしたし長居は無用。撤収するよ!」

「待っ、置いてかないでくれっ!」

宣言し、駆け出すを白夜と紫苑が並んで追い、ナゾノクサを抱えた仮が慌てて続く。
いくつかの部屋の前を通り過ぎた辺りで、紫苑が少しスピードを上げての真横に並んだ。

『ご主人さま、ひょっとして最初に来た階段から帰る気でいたりします!?』

「あーうんそう!そろそろ甘い香りの効果も切れてるだろうし、あそこ手薄だと思うんだけど!!」

『何か問題でもあるのか』

『いえあの、むしろ無いから駄目なんです!』

「は?」

なんじゃそりゃ。

差し掛かった十字路、横手から意味を成さない威嚇を最大音量で迸らせて肉薄したレアコイルをスライディングでギリギリ避けて、思わずは紫苑のいた方を見た。前方には注意しましょう。
バックステップでレアコイルと対峙する白夜も、不審そうな目で斜め前を飛ぶ紫苑を見やる。

『だから、階段ごと無くなっちゃったんです!!』

「マジでかッ!?!」

驚愕の悲鳴を上げながらも、転がってソニックブームを薄皮一枚で避けきる。
ぎょろり、と無機質な三つの瞳がを捉えた。
紫苑のサイコキネシスがその動きを止め、白夜が切り裂くで強制的に距離を開ける。
その隙に体勢を立て直すに、早口に紫苑が告げる。


『地下への流入を防ぐためにって、R団の――――』


言葉が途切れる。

振って湧いたような沈黙。騒音が遠のく。
レアコイルの向こう側、十字路の反対側へと紫苑の視線が固定されて。
白夜が、を守るように前に出て身を低くする。
の視線が、紫苑の視線につられるように同じ場所へと辿り着き。



『――――あの人が階段を破壊してましたっ!』



見知らぬR団の男が、息を呑むのがはっきり分かった。
あ、やべぇ目が合った。

動いたのは同時。

即座にモンスターボールに手をかけ、解き放ち叫ぶ!



「“火炎車”!」
「“冷凍ビーム”!」




同時に放たれた技は、本来であれば相性の問題で氷月が押し負けたかも知れない。
しかしふらつきながらも浮遊したレアコイルが間にいた事によって、ラッタの火炎車は阻まれる事になった。
耳障りな断末魔の金属音が鼓膜を突き刺し、暴れまわるレアコイルと廊下に冷凍ビームが反対側から直撃する。
凍りつく廊下。蒸発した氷が白霧となって互いの視界を阻む。

「行くよ!」

氷月をボールに戻し、Uターンして走り出す。
敵地でついでに暴走ポケモンだらけなこの状況下、あえて手こずりそうな相手とガチンコ勝負なんて楽しそうだがするワケにはいかない。貴姫もいるし、あとついでに仮もいる。危険に踏み込むには、賭けるものが大きすぎた。

『どーすんだよ!今から別の道でも探すか!?』

『少なくとも、私の見た所にはありませんでしたね』

『・・・・・・・見る、無い』

『すみません、私も見かけませんでした!』

天空の大声での問いかけに、各々が口々に己の持っている情報を提供した。
それらを総括し、白夜が呟く。

『となると、奥か。――――ガードが固くなっていそうだな』

急カーブについていけず、仮が背後で盛大にコケる。でも気にされない。
勢いよく近くの部屋の扉を蹴破ったは、疑問の目で自分を見つめる二対の視線にウインクする。

「んじゃ、てっとり早く参りますか!」

破顔一笑、そう宣言して。
は、腰のモンスターボールに手をかけた。



 ■   □   ■   □



「ぷはーっ!酸素ーっ!!!!」

地上へと帰還を果たしたのは、空も白み始めた明け方の事だった。
ポケモン屋敷からは少し離れたその場所、いわゆる往来ド真ん中でのびのびと身体をほぐす
その横では仮が必死に、睡蓮が“穴を掘る”で作ったトンネルから抜け出そうともがいている。
道が無ければ作ればいい。
「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃなーい?」の理論に基づいた合理的、な錯覚がしないでもない判断は壁を破壊、穴を掘るで地上への脱出路を開拓したのだった。

「あーやべぇ貫徹じゃん」

朝の爽やかな日差しが目に染みる。
目を細めて見上げる先には、朝日を浴びて壮麗な佇まいを見せるポケモン屋敷。
こうして見ると内部であんなドロドロのゴタゴタがあった事など、嘘のようにすら思えるから不思議だ。
久々に内容のこゆい一夜だったぜ・・・・・とニヒルに笑うの背後では、ようやく脱出した仮がR団コスプレでへばっていた。何気に目が死んだ魚類。
睡蓮が手際よく、自分の作った穴を埋めていく。
顔色の悪い貴姫をガラスケースから出して抱き直して(ちなみにガラスケースは埋まりかけの穴に放り込んだ。良い子はゴミはゴミ箱へ入れましょう)、は無言で地面に転がったままの仮の傍にしゃがみこむ。

「見どころあるじゃん、あんた」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

虚ろに溶けていきそうな仮の目玉が、のろのろと焦点を合わせる。

「途中で逃げるかと思ってたんだけど、何だかんだで最後まで逃げるそぶりも見せなかったし?」

ぼんやりしていた仮の目に、僅かに光が戻る。
ゆるゆると驚きの色に染まるその顔を見て、はその肩をぽんぽんと叩いた。

「足手まといにもならなかったし、ズバットもナゾノクサもいい育ち具合だったし。
 ――――――何より仲間に好かれてる。トレーナーとしちゃ、将来有望だと思うよ?」

にやり、と楽しげな笑みを浮かべて。

「協力サンキュ、仮」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おう」

コツン、と軽く拳を突き合わせる。
無言でてふてふと近付いてきた睡蓮が、その光景にわずかに首を傾げた。

、終わった』

「お、ごくろーさん」

睡蓮をモンスターボールに戻し、立ち上がる
その様子を見上げる仮の顔は何処か清々しく、口元には笑みが浮かんでいる。
貴姫を大切に抱きなおし、はそんな仮を見下ろして。

「んじゃ仮、後よろしく!



イイ笑顔で親指押っ立てた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「うんだから後よろしく☆って」

「いやちょっと待て!何がどうしてそうなるんだ!?」

がばあっ!と勢いよく上体を起こして絶叫する仮。
お兄さんまだ早朝ですよ。近所迷惑でしてよ。

「ほら事後処理とかめんど・・・・・・・いやいやあたしってさー見た目超絶怪しいし?
 色々聞かれても答えづらい事満載だしぃ?その点巻き込まれたあんたは地元住民で身元ガッチリ信頼度抜群!
 むしろあたしがいない方が上手く行く!!

「うっ・・・・・・まぁ確かにそうなんだが」

笑顔で繰り出される説得という名の押し付けに、しかし洗脳されかける仮。
必殺・本音隠して事実含んだ建前攻撃!
一瞬出かけた本音の辺りは、鋭い奴なら突っ込んでいた事だろう。
にとっては上手いことスルーされたらしき仮に、おっしゃあと一押し!と内心意気込む。

「警察に今回の事報告するだけで悪党退治に大貢献☆
 いっそ全部自分が解決しましたって事にしてもオールオッケーだぜ仮!!」

「いやいやさすがにそれはちょっと」

「謙遜か!?高等手段を使うな仮、さすがだ仮!
 そうか引き受けてくれるか警察に通報あーんど証言するの!!それでこそ仮だ!」

「え、俺そん「タクロウ!?!」

驚いたような声が、二人の間に割り込む。
説得を止めて視線を向ければ、にとっては見知らぬ少年が立っていた。
つーかタクロウって・・・・・・・・・・・(考え中)・・・・・・・・・・・・・・・・ああ!仮の事か!!(ポム。)
仮改め“タクロウ”が、ぎょっとしたように「シンヤ」と呟く。
どうやら知り合いらしい。

そこまで思い至るとはイイ笑顔で、シンヤとは反対側にダッシュをかけた。

「って、おいちょっと待て!」

「後は頼んだー!そのコスプレも脱いどけよー!!」

足を止めずに叫んで返して、は更にスピードを上げる。
正直大立ち回りの貫徹後に全力疾走はちょーっとキツいが、今止まる訳にはいかない。
人の気配のまばらな道を駆け抜けながら、氷月の入ったモンスターボールを軽くノックした。

「このまま双子島まで直行するんでよろしくーぅ!」

『・・・・・・・ええ、分かりました』

「ってマジで?」

貫徹しての大暴れの後だというのに理由も聞かない、嫌味一つ吐かない。
ひょっとして徹夜で人格崩壊?という疑念がの頭を過ぎる。

が。


『ただし後でツラ貸しなさい』


調教して差し上げます。

スマン。 (でも調教は勘弁!)


――――やっぱり氷月は氷月だった。

顔を引きつらせる、笑顔がヤバい氷月。疲れが別の意味でキテいるらしかった。
それでもグレンに留まる訳にはいかないのは、ぐったりしている貴姫の状態、それに疲れきっている自分や仲間達の事を考えて、である。休んでいる時にでも襲撃されては目もあてられない。
その事態を避ける為にも、今のうちに距離は稼いでおきたい。
結局、双子島への必死の強行軍の最中にさんざん弁明する羽目になったのは余談である。



 ■   □   ■   □



一方、走り去るを見送る結果となった仮、もといタクロウはがっくりと肩を落としていた。
何だろうか、逃げられたという気しかしない。
打ちひしがれるタクロウに、首を傾げてシンヤが問う。

「タクロウ・・・・・・・あのさ、大丈夫か?」

「・・・・・・・・・まーな。シンヤ、お前こんな朝早くに何してんだ?」

純粋に、心配したという目で見てくる友人に、タクロウは苦笑いを零して問い返す。

「早朝散歩はおれの日課だぞ、知ってるだろ。
 ・・・・・・・・・・なぁ。お前昨日なんで来なかったんだ?何があったんだよ」

「あー・・・・・色々あったんだけど、さ」

遊びに繰り出す予定が潰れたのは完全な不可抗力だが、怒るより先に心配されると何とも申し訳なかった。
波乱万丈すぎて信じてもらえないかも知れない。
だが、それでも心配してくれた友人に対するせめてもの誠意として、タクロウはシンヤにこの一晩で起きた事のあらましを語った。

「――――つうワケで、いけなかった。わりぃ」

そう締め括り、深々とシンヤに向かって頭を下げる。
そんな友人の頭をじっと見詰め、シンヤは静かに口を開いた。

「・・・・・・・・・タクロウは、これから警察に通報しに行くのか?」

「!ああ、押し付けられたって感じはあるけど・・・・・・・そのくらいは、俺にもできるしな」

あの黒いののように、大立ち回りのバトルはできない。
R団は怖いし、今回の事で自分がヒーローになれる人間じゃ無い事は嫌というほどに実感させられた。
けれど。それでも、タクロウなりにあの地下施設で見た光景に思う事はあったし―――――

「タクロウ」

シンヤの真剣な声が、思考を断ち切る。

「止めた方がいいと思う。お前、さっきの奴と一緒に乗り込んだんだろ?
 あっちの方が印象強かっただろうけど・・・・・・・情報提供者って事で、お前まで目ぇ付けられるかも知れない」

その指摘に、タクロウは無言で息を呑んだ。
考えてもいかなった、そんな事。
目を見開いて固まるタクロウに、シンヤは続ける。

「R団、警察内部にも協力者がいるって聞いた事あるんだ。
 悪い事は言わないから止めとけよ。おれも黙ってる。そうすれば、あいつらもお前の事まで追及できない。
 これ以上、進んで危険に首突っ込む事無いだろ?」

心配なんだ、という感情を目に、表情に、言葉の端々に滲ませてシンヤは言い募る。
まっすぐに合わされた視線。誠実な言葉に、タクロウはうつむく。
突きつけられた可能性は、波乱の一夜の後だからこそ具体的な説得力を持って胸に響いた。

「それに、さ。タクロウ」

言いにくそうに、シンヤはうつむくタクロウを見る。

「あのトレーナー・・・・・・・信じていいのか?」

「っ――――」

勢いよく顔を上げれば、真剣なシンヤの目とかち合う。
思えば、あの黒いのとの付き合いはたったの一晩。
知らないに等しい相手だし、何か別の思惑がある可能性だってある。

けれど。



―――――“見どころあるじゃん、あんた”

―――――“トレーナーとしちゃ、将来有望だと思うよ?”



目を伏せて、タクロウは考える。
R団は、怖い。 ・・・・・・そうだ、保身に走って何が悪い?
自分に言い聞かせて、タクロウは静かに首肯する。
先程まで、確かに喜びを抱かせた言葉は臆病風に吹かれて消えて。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

地面を見詰め、うつむくタクロウ。
その姿を見るシンヤの目は――――確かに、嘲笑に彩られていた。




潜む影は、ただ哂う。






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とりあえずこの時点ではまだまだ敵以外の何物でもないカツラさんです。
好奇心の為に生体実験さえするまっどさいえんてぃすといめーじ!でもキャラ掴みにくい!!(本音)
蛇足ですが本来の物語(私的妄想設定)では、ミュウは隙を見て自力で逃げ出します。
逃げた先がマサラで、それを追ってR団がやってきて以下原作1話の流れ。
実は数日程度早くなってしまっていたライバル同士の出会いだったりするかんじ。

ちなみにミュウが捕まったのは、れっつ・みっしょん1年目30話のすぐ後です。
実はあれから一ヶ月ちょいは経過していたりですよ。光陰矢のごとしー!