昼夜を問わず闇のたゆたう狭い室内を、幾多も設置された電子機器の光がささやかに浸食する。 無声の映像は延々と職務に忠実に、監視カメラ越しの状況を部屋に在る者へと提供していた。 普段であれば、部屋を支配するのは深海を思わせる静けさだ。深々ととぐろを巻く、耳の痛くなるような静謐。 しかし、現在部屋を我が物顔に回遊するのは部下の緊張感に満ち溢れた声である。 生来あまり語る事を好まない部屋の主としては、必要不可欠な事であると理解しながらも、その事実に多少の鬱屈を抱かざるを得なかった。もちろん、仕事である以上は些細な私情を挟むべきでは無い、と頭では理解しているが、それで感情が納得すれば世話は無い。 直立不動で成された予定外の報告に、いささか不機嫌である事を隠そうともせず、部屋の主であり警備班のリーダーでもある男は剣呑に目を細めた。 「定時連絡が無い?」 「、っは」 「・・・・・・・・・・・・・ちっ」 かすれた声で返った短い肯定に、たったそれだけのために不快な時間が増えたのか、と男は眉間にしわを寄せた。 見張りに回したのは新入りだったと記憶している。どうせサボりか何かだろう。 苛立ちを隠しもせずに舌打ちすれば、びくりと部下の肩が跳ねる。 戦闘員でありながらいちいち肝の小さい反応をする部下に、嫌味の一つ二つでもくれてやろうかという考えが頭を過ぎったが、すぐにそれは時間の無駄でしかない、と思い直す。 こういう時はさっさと指示を与えて放り出すに限る。 「至急、手の空いている者に様子を見に行かせろ。以上だ」 最低限の基本事項のみ伝えると、話は終わりだとばかりに男は椅子に深く背を預け直した。 しかし、すぐに退室するかと思いきや、部下は恐る恐る、といった様子で言葉を続ける。 「・・・・・・・あ、あの。セン隊長」 「・・・・・・・・・・・・・・」 不穏なまでに鋭い視線で、センは先を促した。 見るというよりは睨むに近いその眼差しに、部下は青ざめて小さく悲鳴を上げる。 「ひっ・・・・・か、カツラ博士にもお伝えしておきますかッ?」 余計な事を。 センは苦虫を噛み潰したような表情になる。 ジムリーダーとはいえ、研究者如きの出る幕では無い。 そんな本音はひとまず飲み込んで、センは建前にもなるもう一つの本音を口に出す。 「不要だ。余計な心配を与えるようでは、警備のために我等がいる意味が無い――――話は終わりか」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」 ぶんぶんと勢いよく首を上下に振る部下から視線を外し、センは腕を組んで目を閉じる。 引きつった声で退出する旨を告げてくる部下の声を素通りさせれば、将来的なジョウト進出の為の足がかりになる予定だった、ヒワダシティのアジトが潰された時の件が頭を過ぎった。 R団が大きな、とは行かないまでもそれなりの被害をこうむったのは、さほど昔の話でも無い。 無論、センはヒワダと状況が同じとは思っていない。 警備も設備としての安全性も、ヒワダよりよほど条件が良いのだ。何かよほどのヘマでもしない限りは、相手がジムリーダーだろうとこの地下施設を陥落させられはしない自信があった。 だが、念には念を入れるに越した事は無い。 そうと判断を下したセンは、目を閉じたままで先程の命令に蛇足をした。 「――――様子見には二人以上で行け」 万が一にであっても、侵入も陥落も許すつもりは無かった。 “アレ”を捕らえている今は、特に。 【 ちょっとの犯罪無問題 −中編− 】 か細い月と星の光が朽ちた部屋に、廊下に、徘徊するポケモン達に注がれて淡く明暗を作る。 闇は引き立てられてなお昏く、しんしんと肺を満たす空気は何処か爛れて。 誰しもに明確な言葉など存在する事は無く、漏れるのはただ、呻きにも似た無意味な音。 ひっそりと濃い影の懐に紛れ込み、息を殺して静かにそれが通り過ぎていくのを見届けてから手を離した。 「――――ぶはっ」 「呼吸殺しなよ仮。あんま大きく息すると気付かれる」 荒く息をつくパ○ラッシュ(仮)(つーかもういいよな仮だけで)(既に名前を聞くという人間関係における基本的概念は 無いらしい )にそうとだけ釘を刺して、は感覚を研ぎ澄ませてポケモン達の動きを探る。 ぶっちゃけ彼の息が荒いのはが力加減をせずに口を塞いだ結果だが、ンな事気にするはずが無い。 ポケモン屋敷2階廊下。 侵入してから約4時間程度は経過している事を考えれば、進んでいるとはとうてい言えない。 ゲームの時のポケモン屋敷の記憶を指針に、は地下室を目指していた。ポケスペの話は結構ゲームとのリンクが多いので、根城にしているとすればそこで間違いは無いだろうと踏んだのだ。 問題があるとすれば、何処から地下へ行けるのかを すっきり さっぱり もののみごっっっとーに! 忘 却 してしまった事だった。 それでも下へ行ってみれば何か収穫はあるだろうし、最悪、こっそり一階の床叩き壊してでも突っ込むかとかまったくもってこっそりじゃねぇ事を企んでいたりした。 「胸糞わりぃ・・・・・・」 半ば吐き捨てるように、はぼそりと呟く。 ポケモンの言葉を理解する、という種族の壁ボーダーフリーむしろ種族の壁って何ですかそれ新種の多細胞生物?状態の人間翻訳機なにさえ、彼等の言葉は意味を成さない音の羅列にしか聞こえない。 それはとりもなおさず、ポケモン達の精神状態が正常な状態には無い、という事。 そう、いざ行動を起こしてみれば、見張りや見回り等の警備にまだ一貫性のあるのは三階だけ、二階からは目が色々ヤヴァい状態のポケモンがわんさかいらっしゃって 無秩序なまでの混沌寸前。 学校で例えるならばいわゆる学級崩壊状態だった。 こちらを視認した瞬間に殺す気で襲われるのは、ちょっぴり辟易する状況だ。 更に問題なのは痛覚や肉体のリミッターが作動していないらしい事で、まともに迎え撃ったが最後、ポケモン達は限界を迎えて力尽きるまで攻撃の手が緩まないし防御する様子も見せない。 どう考えても正常では有り得ない。 ―――ポケモンの生体実験、ここでもやってったってワケか。 考えてみれば、R団での実験を主導していたのは研究者でもあるカツラだ。 自分の本拠であるグレンでも、それをしていても不思議は無い。 「あのー・・・・・進めそうも無いですし、帰ったりは」「うざい」「・・・・・・・すんません」 不快感そのままに台詞をぶった切れば、R団コスプレ(強制)の仮は居心地悪そうに肩を落とした。 巻き込まれるわ八つ当たりの餌食にされるわ、彼の本日の運勢は大凶通り越して激凶だろう。 そんな不幸な仮をやっぱり気にせず、はガリガリと帽子越しに頭を掻く。 「あーくっそ・・・・・・二階がコレって時点で予想はしちゃいたけど、一階が更にヤバイとはなー」 二階でのポケモンの猛攻をかいくぐって降りた一階は、まさに惨状と呼ぶに相応しい状態だった。 明らかに正気でないポケモンが大量に徘徊していて、仲間同士であるはずなのにそこかしこで手加減無用の問答皆無でバトルロワイヤルを繰り広げたり、無意味に叫び声を上げて手近な壁や柱に攻撃を仕掛けていたりで満足に行動も起こせない。 音を立てるだけで総攻撃だ。 さすがのも、あんなヤバい連中と正面きってバトルして無事な自信など無かったので速攻で二階へリターンした。 無茶と無謀は得意科目だが、勇気と馬鹿の区別はついているつもりである。 しらみつぶしに通路を探し出す、という計画が早々に頓挫した以上、後はもう考えるしか無いのだ。 こっそり隅っこの方で。 『らしくありませんねぇ主殿。悪党など屋敷ごと殲滅すればいいでしょう』 「うん、後腐れ無いけど 大概エグイ提案だなオイ 」 『・・・・・・滅殺、無問題』 『そーそー!どーせだし派手にやろーぜぇ?』 睡蓮がモンスターボール越しでも分かるほどに殺気をみなぎらせ、好戦的に天空が希望を口にする。 正直心が揺さぶられんでも無いっつーかいっそマジでヤるかとか思わないでもないが、の記憶が正しければ、ここはR団の基地の一つというよりはカツラの私的な研究所と言った方が正しい。 ここを潰したところで、R団にさしたるダメージは――――ある、か?いやいやいやうっかりカツラとか巻き込むと今後の展開に支障出るし。正直ここでの所業見ると改心するとかそっちの方が胡散臭くてたまらんかったりするがそこは耐えるかああでもここらでいっちょ教育的指導という名のムチでも―――って思考がそれた。でもまぁ、とにかく。 「施設は地下だっつーの。屋敷だけ壊してもダメージどの程度いくか分からんぞ。いいから少し黙っとけ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 腰のモンスターボールを軽く叩いてたしなめるのを、仮が胡乱気な、それでいて何処か薄気味悪い不気味なものでも見るような目で見ていたりする事に気付いていない訳でも無かったが、はやっぱりシカトした。 巻き込んだ張本人が言うのもアレだが、小物にかかずらっているほど暇では無い。 の隣、同じく暗がりに紛れるようにして潜む紫苑が首を傾げる。 『こんなに危険な場所、R団はどうやって無事に通っているんでしょうね・・・・・』 侵入時にノしたR団員に聞くという手もあったりするが、残念ながら打ち所が悪かったらしくて揺すって殴ってもマウントポジションで平手打ちしても起きなかった事をここに追記しておく。( 鬼かお前 ) 視線を暗闇の向こうへと向ければ、 バイオ○ザードのゾンビよろしく徘徊するポケモンの姿。 あ、破壊音。しかもこっち向いたよ。やべー、とうとう気付きやがったあいつら。 「んー・・・・・一階の連中なんて、敵味方の判別さえ付かないだろうしなぁ。テレポート、とか」 『――――もしくは戦わずに地下へと行ける道があるか、だな』 上げた咆哮は獲物を見出した喜びか、はたまた見つけた“人間”に対する憎しみか。 悲鳴を上げる仮をよそに、は侵入者対策にはうってつけの狂犬かも知れないが、やっぱ警備としては不適当だよなぁとか考えていた。肝が据わってるにも程がある。 『これだけ統制を取れていない所を見る限り、少なくともこの階には無さそうですが』 咆哮に呼応するように、暗がりに潜む達へと視線が集中する。 舌打ちをして、は仮の襟首を引っつかんだ。 「ぐぇっ」 「ほら行くよ!」 ぐずぐずしていればまた、次から次へと集まってくる。 影から飛び出して走り出せば、両側に守るようにして紫苑と白夜が併走し、転がるように走る仮の後ろからポケモンの集団が迫る。ほほほほほ捕まえてごらんなさぁーい☆(捕まっても逃げ出す気満々だけどな!) 「三階の方は統率取れてたのになぁ・・・・・」 ・・・・・・・・・ん?三階、は? 『。地下へは一階からしか行けないのか?』 取っ掛かりを覚えるに、横を走りながらも敵を警戒しながら白夜が問う。 それを首を横に振って否定して、口元に手をあてる。 「・・・・・一階は最悪。二階は無秩序、統制が取れてるのは三階だけ・・・・・」 統制が取れた警備が敷かれているのが何故、三階なのか。 そもそも正気でないポケモン達は何故、三階へは行かないのか。 そして、地下への道が一階にあるとは限らないのなら。 「――――通路は三階、か?」 正気だろうが無かろうが、ポケモンの配置を決めたのは人間のはずだ。 そして、敵味方の区別も付かないような危険度の高いポケモンを、わざわざ大切な場所に配置する物好きはいない。 三階にいるのが正常なポケモンやR団員ばかりである事を考えれば、その可能性は一段と高まる。 先に見える、曲がり角の向こうに気配と足音。挟み撃ちか。 『妥当な思考ですね、主殿にしては』 「たまには『来るぞ!』、――――素直に褒めろっつーのっ!」 鋭い白夜の叱咤が飛び、暴虐を撒き散らして“敵”が迫る。 振り下ろされた鋭い爪をバックステップして避けて、軽く勢いをつけて鼻面めがけて回し蹴りを叩き込む。 そこへ追い討ちをかけるように、紫苑のサイコキネシスが炸裂する。 相手が壁に叩きつけられるのを横目にくぐり抜け、は頭の中でゲーム時の記憶と、実際に歩き回ってみての地図、それに外から見て回った時の外観から予想されるおおよその広さをすり合わせた。 「はーいここで多数決とりまーす!邪道と正攻法とどっちがいいですかー!」 「は、ひぇ!?」 『はいはーい!よくわかんねぇけど面白そうだしオレ邪道ー!!』 割り出した目的の場所へと全力疾走しながら問えば、仮は困惑し天空がいち早く主張する。 『何のかくらい明確にしたら如何です ゴミ虫。 まぁ、不本意ながら私も馬鹿と同意見です。馬鹿と 』 『繰り返して強調しなくてもいいだろうがぁぁぁああああああ!』 『・・・・・邪道だな。相手の意表も突けるだろう』 『殲滅』 『あの睡蓮さん、それ答えになってません・・・・・私は・・・・んっと、特に異論もありませんしどちらでも』 「よぉっしあたしは当然のよーに邪道派だ! てわけで仮がどう答えようが多勢に無勢 確 定 ! 民主主義により邪道決定ー!!」 「聞く意味無いーッ!?!」 悲痛な悲鳴が上がったが、やっぱり誰にも気にされなかった。 応えるように追っ手のポケモンから咆哮が上がったが。 キュィイイイイイ! と急ブレーキで停止して、脳内地図で検討をつけた場所をロックオン。 「って事で推定目的地到着ーッ!!紫苑、白夜!あの壁ぶっ壊して!!!」 『はい、ご主人さま!』 『成る程』 紫苑が元気良く応え、白夜が意図を的確に読み取って呟く。 何だかんだで付き合いは長い二匹だ。互いに効果の高いコンビネーションで攻撃を加え出したのを尻目に、はモンスターボールから氷月と睡蓮を出す。迫るポケモン軍団(連携皆無)を見据えて獰猛に笑って、は壁に張り付いてぷるぷるしている仮に怒声を飛ばした。 「あんたも手持ち出して応戦ッ!」 「はいぃいいいい!!!」 半泣きでナゾノクサとズバットを出す仮。 二匹にざっと視線を走らせて、はゴローンの体当たりをギリギリで避ける。 「仮!あんたの仲間は戦闘より補助でいーから!できれば超音波とドレイン系の技でヨロシク!!」 「ひぃいいぃぃいいい!!!!」 『あわわわわこっちくるな ぴぃー!!!!!!! 』 『わーははははは!せーんとーうだーいっ!』 悲鳴を上げて逃げ惑う仮、叫びながらも氷月と睡蓮は綺麗に避けて超音波でかく乱をするズバット、 突っ込んでいってポケモン達の足下をすり抜けドレインしまくるナゾノクサ。 仮より根性座ってんな、あいつら。 ガスを吐き出そうとするドガースを、体重全部を乗せたカカト落としで床に叩き落す。 一箇所に留まってドンパチしているだけに、集まってくるスピードが早い。 「あとどのくらいで突貫できそー!?」 『まだかかる。・・・・しかし硬いな』 『かなり分厚く作ってるみたいです。ちょっと辛い、ですねっ!』 避けたり(敵の攻撃時々氷月)蹴ったり(主に敵。時々ヤバい状況の仮)助けたり(オンリー仮)しながらも、じわじわ狭まる包囲網。連携は無くてもゾンビ並に厄介な連中が集団、というのはメインディッシュでもなかなかにキツイ。 時折指示を出しながらも、は思考をフル回転させる。 このままだと全滅エンドだ。萌え足りんっつーのにそんなんは御免だっつの! 雄叫びを上げなら襲ってくるゴーリキーのけたぐりをかいくぐって、は紫苑と白夜に向かって叫ぶ。 「そこあけて!」 壁の前から飛び退く白夜と紫苑。 ゴーリキーがに迫る。 心の中でカウントして、は思いっきり身体を沈めてゴーリキーに足払いをかけた。 目測を大幅に外し、クロスチョップを壁に叩き込むゴーリキー。 その背に紫苑のサイケ光線と白夜の未来予知とカマイタチが炸裂し――――轟音と共に、壁が破砕される。 「ビンゴ!」 転がり落ちていったポケモンの叫びをBGMに、は楽しげに口笛を吹く。 脳内ですり合わせた外観から予想される広さと歩き回って得た情報、それにゲームの時の記憶。 それらから明らかにおかしい空白部分を攻めてみれば必ずあるだろうと踏んだ、その読みは正しかったようだ。 崩れた壁の向こうには、地下へと続くだろう階段が広がっていた。 ■ □ ■ □ ジリリリリリリリリリリリリ!!!! けたたましく警報が鳴き喚き、響く音は咆哮と破壊。 騒然とし、浮き足立っているのが手に取るように分かる動揺ぶりに、はにやりとほくそ笑んだ。 何故か笑顔が悪党以外の何物でも無い。 の使った手は至って単純。 仮のナゾノクサの“甘い香り”で、地下までのマーキングを行っただけだ。 暴走しているとはいえそこはポケモン。達を狙って集まってきた連中を“甘い香り”で地下まで誘い込むのは、トキワの森で虫ポケモンを見つける以上に容易いことだった。 忍び込むという手を使わなかったのは、混乱を起こせば侵入が楽になるからと、ぶっちゃけ追っかけてくるポケモン連中をぶっとばすだけの余力があるならR団に回したかったからでもある。それに壁ぶち破ったし。 突っ込んでった時の顔は見ものだった・ぜ!(爽) 「何はともあれ侵入成功ー」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 顔が青いぜ、仮。 がしゃーんとか ひー とかどかーんとか ぐぉー とか、聞こえる音は混沌の極み。 破砕音。暴れまわる音。止まらない暴虐は、に言わせれば正しく因果応報だ。 自分たちのした事の報いは自分たちで受けるがいい。 まぁ正直ちょーっとやべぇかなっ☆とか思わないでもなかったりするが、人数は多いんだしR団の皆さんにも頑張ってもらうとしよう。手加減とか無いしタフだから苦労するだろうけど知ったこっちゃないさー。 『うう・・・・・なんでオレは居残りなんだ!』 の腰に付けられたままのモンスターボールの中、取り残された天空が嘆く。 「いや、デカいから小回り利かんだろお前」 通りがかりに研究員を叩きのめしたり出会い頭のR団員にヘッドロックかましてみたり、ここでも捕らえられていたりしたポケモン達を解き放ったりついでに何かの試薬らしきものを片っ端から叩き落してみたりと混乱を助長するだけの火種を作り、研究成果(たぶん)を一瞬で無に返してやりながら、は冷静に突っ込んだ。 『狭いから反撃もできずに狙い打たれるだけだ。諦めろ』 『・・・・・・・どーせここじゃ役に立たねぇよ、オレは』 的確すぎる指摘に、天空がボールの中でふてくされる。 暴れまわるポケモン達、応戦するR団員。 やはりR団の警備はヒワダよりは固いようだが、守りに徹した戦いは攻めるよりも難しい。 一応暴走したポケモンが暴れる事は想定してあったらしく防壁シャッターが下りていたが、という人間の協力者がいる以上、ポケモンのみをターゲットにした守りが上手く行くはずも無かった。 に遠慮が無いだけに、それはなおさらだ。それに加えて、室内で反響するズバットの超音波に混乱させられ、戦い慣れしている睡蓮達までいるのだから混乱も被害も大きくなる一方である。 「ここもハズレっと」 通りすがりに近くの部屋を覗き込み、は唇を尖らせて対火用と書かれたボタンをプッシュ。 おお、スプリンクラー。 結果だけチラ見して身を翻し、血の付着した拘束具やらカラの檻、実験用のケースらしきものを横目に通り過ぎて次の部屋を覗き込む。狭い部屋いっぱいの物々しい電子機器の数々、大量に積み上げられた研究報告書らしき紙の束。 「大当たりー!仮、見張り頼んだ!」 「・・・・・・・、・・・・・イエッサー」 仮は何か言いたげだったが、結局言葉を飲み込み見張りを請け負った。 ちょっぴりしょっぱい表情なのはご愛嬌。 そんな事はやっぱり微塵も気にかけず、白夜はに何かあっても確実に動ける立ち位置を確保する。 実験施設の破壊はどんな状況でも欠かせない目的ではあったが、今回の狙いには実験の研究資料を手に入れる事も含まれていた。 R団は各地で暴れまわっているが、いかんせん核心に迫る情報も物的証拠も少なすぎる。 ここらでいっちょR団の悪事の物的証拠をGETし、警察なり正義のジムリーダーなりの手に渡るようにすれば後々有利になるだろうと踏んだのだ。この辺り抜け目無い。 は目に付く棚から適当に資料を取り出してざっと目を通してみる。 うん、わっかんねぇー☆ 生暖かい微笑みを浮かべて放り出した。 放り出したファイルがヒットして、どざぁああああ、と紙束の山がなだれを起こす。 連鎖であちこちで土砂崩れが多発した。でもは気にしない。どうせ荒らしに入ったんだし。 仕方が無いので、は重要らしい情報だろうものを引き出しの中やそこらで崩れた書類などの中から、完全なる独断と偏見とついでに勘で選んで、ディスクやら資料を背中のリュックに放り込んでいった。超アバウト。 「お?世界神話全集はっけーん」 セキエイの図書館で見たよりも豪勢で重厚な装丁の古びた本が、散乱する書類とディスクの中に混ざっていた。 娯楽用か、研究者。 ・・・・・ん?なんか紙切れが挟まってる。 「だ、誰か来る!」 仮が小さく悲鳴に近い警告を発した。 とっさにリュックに手にした紙を放り込めば、カツカツカツカツ、と速歩きな靴音が近付いてくる。 それに後ろからエルボーでもかますか、と邪悪に笑ってスタンバイ。 仮にジェスチャーで半開きの扉から離れるように指示し、いつでも襲いかかれるように身を低くして。 しかし複数聞こえる靴音は、部屋の外を迷い無く通過していくようだった。 「くそっ、好き勝手しやがって」 「それより、早くミュウを別の場所へ――――」 カツカツカツカツ、遠ざかる音に混じって聞こえた悪態。 それに、思わず息を呑んで白夜を見た。 白夜も意外だったらしい、やや鋭くなった眼差しでを見返す。 「・・・・・聞いた?」 『ああ。ミュウ、と確かに聞こえたな』 「貴姫がいる・・・・・!?」 それは、にわかには信じ難い事実だった。 TOP NEXT BACK シリアス展開っぽい感じで思いがけず後編へ続きます。そして仮の不幸もまだ続きます。 |