巨大な火山を有するその島に到着したのは、日がほど良く傾いた夕暮れ時の事だった。 “グレンタウン”――――その名に相応しく、夕日の紅蓮に染められた水面と町並みは絶景の一言に尽きる。 ゲームを通してであれば一生涯知る事は無かっただろう“現実”の光景。 情熱の色に例えられる紅蓮の赤。 通りすがる人々からそこはかとない不審者見る目でブッ刺されつつも、うっとり魅入って。 デカい屋敷の窓の向こうに、ちょっと見慣れてきちゃった 某お馴染みスタイルを発見しまちた(まる。) 無駄にエンカウント率高けぇえええええええええええ。 つーかなんでこんなトコに・・・・・ってあーそういやグレンジムのカツラってR団寝返ったヒトだったけかー。 まだこの時期ってあっち側で研究員やってたんだっけかやべーもうすっかりコッチ側な印象しか無かった! ポケモンセンターを求めてふらついていたは足を止め、ふっとニヒル一割 怪さ九割な ちょっとどうかと思われる笑み を浮かべてみせて。(瞬間、うっかり目撃してしまった通行人Gは小さく悲鳴を上げて引きつり、ちょうどと距離をおいてだがすれ違いざまだった通行人Mは奇妙なステップで更なる距離を取って ダッシュで逃げた ) デカい屋敷、もとい“ポケモン屋敷”に泥棒宜しくお邪魔すべく、あいた窓をこっそりと探し始めるのだった。 よいこ の みなさん へ。 ふほうしんにゅう は りっぱ な はんざい です。 ブタ箱 に ブチ込まれて臭い飯を食いたくなかったら けっして まね しないでください。 【 ちょっとの犯罪無問題 −前編− 】 結論:一階の窓全っ部閉め切ってた上にカーテン引いていやがりました。 「中も窺えないか・・・・」 『相手にも後ろ暗い事をやっている自覚はあるだろうから、な。このくらいの用心はするだろう』 「くっそ、あんな自己主張激しい格好で堂々ウロつく癖して!」 『落ち着け。見つかるぞ』 至極もっともな白夜の言葉に、こちらも至極もっともな文句を垂れては苦々しい表情で舌打ちをした。行儀が悪い。 植え込みの影から屋敷を見上げれば、夕日を浴びて荘厳な風格さえ漂わせて佇んでいたレンガ造りの建物も、今は闇に沈んで悪が潜むに相応しい、威圧的なたたずまいを誇示している。 黒ずくめという闇に紛れるにはうってつけの格好だ、夜が更ければその分周囲に発見されづらくなるのはありがたい。 だが、それも侵入経路を見つけられなければ話にならない。いっそこっそり押し入るか。 『姐さん!』 羽音と共に響いた言葉に、顔を上げて破顔する。 紫苑では色が色だけに目立ってしまうし、天空だとこの辺りでは見ない種族だとかそれ以前の問題として無駄に図体がデカすぎる。そのためは手っ取り早く野生のポッポを捕獲して話し合い、報酬と引き換えに偵察を依頼したのだ。 「お、ご苦労さん。どうだった?」 『窓は全部閉められちまっていやしたが、二階と三階にバルコニーの方からは問題ねぇでしょう。 見張りは三階に一人、二階には見当たりこそしやせんでしたが、ありゃ見えない所に潜んでおりやすぜ』 「ほほう。潜んでんのはポケモン?人間?」 『あー・・・・・たぶんポケモンの方だと思いやす。気配の消し方が野生のモンでやんした。 人間じゃ、ああも上手くは隠せ・・・・・・・・・・』 そこまで言って、何故かポッポは言葉を途切れさせた。 「どしたよ?」 『・・・いや、姐さんみてぇなのだったら話は別だな、と思いやして』 「つまりあたしは規格外っつー事か、おい」 『ぶ フッ!!』 ジト目で見る、目をそらして無意味に鳴いてみるポッポ。 ほぼ初対面なポケモンにまで認定されたよ。 あたしの何処がどう規格外だっつーんだちくしょー喜んじゃうぞ!( 喜ぶんかい ) むぅ、と唇を尖らせて、隠す気皆無な爆笑をとりあえずモンスターボールごとシェイクする事で黙らせてみた。 ぎゃー とか ひー とか聞こえるのはきっと妖精さんの断末魔だよね☆ 何はともあれ。 荒らすかどうかはお邪魔してから決めるにしても、ある程度は隠密で動きたい。 変装すればそう簡単には気付かれ――――あ、駄目だ。この顔だと確実目立つ! おーまいごっと、と天を仰ぐ。 異常にキレーに整った顔というのも、こういう時には面倒なものだ。周囲に溶け込みようが無い。 やっぱ向こうのまんまな容姿で設定すりゃ良かったかな、と思うのはこういう時だ。 すぐにやっちゃったもんは仕方ないよね☆ と割り切ったが。うん、後悔してもいまさらいまさらー。 過去の自分をペ○ちゃん笑顔でごまかして、ポッポに報酬として約束したポケモンフード(高級品)を渡す。 「紫苑ー。ボールの中に入ったままで、サイコキネシスで三階くらいまであたしのこと運べね?」 『ごめんなさい、ご主人さま。外に出てならともかく、私のレベルだと、ボールの中からは難しいと思います。 ボールに遮られると結構力が削がれますし、加減調整の難易度が上がりますから・・・・・・』 「そっかー・・・・ま、目撃されなきゃ問題ないわな」 ポケモンフードを無心につつき倒すポッポを尻目に、改めて周囲に人がいない事を確認して紫苑を出す。 バルコニーの下までは、そう大した距離でも無い。見つかりはしないだろう。たぶん。 視線を見合わせ、紫苑と頷き交わす。 「ポッポ、協力サンキュー♪」 『ありがとうございました、ポッポさん』 『んぐっ・・・・ふぇひっ、はふぇひゃんひひほふほほひょー!へふひょーふぉふぉひほひひへひゃふ!!』 (へいっ、姐さんに紫苑のお嬢!健闘をお祈りしてやす!!) いや、 何言ってるかわかんねーよ。 背後で響いたポッポの言葉に内心激しくツッコミつつ、と紫苑は一息にバルコニーの下までたどり着いた。 紫苑の小さな手がの背から腕の下をまわり、一気に足が地面を離れる。 浮遊は一分も続かなかった。三階のバルコニーに足をかけるのと同時、警備の人間らしいR団員と目が合う。 「なっ・・・・・!」 R団員が驚愕の表情を浮かべる。 紫苑が背を離れるのと、が動くのは同時だった。 相手がモンスターボールにかける前に肉迫、その頭に手をかけて―――― ゴッ! 顔面に容赦無用で片膝を叩き込んだ。 「ぐぁ・・・・・・・っ!」 頭を掴んだ手を離せば、鼻血を撒き散らしながらR団員がよろめく。 その腹めがけて体重を乗せた蹴りを叩き込めば、相手は勢いそのまま、壁へと派手に突っ込んでいって沈黙した。 ぐ!とガッツポーズをとり、――――唐突に背後で増えた気配に、はぎょっとして振り向いて。 「紫苑・・・・・それ、新種のコイキングとかそんなナマモノ?」 『いえあの、・・・・・目撃者です』 どうやらしょっぱなから、余計なお荷物を抱え込む羽目になったらしい。 紫苑のサイコキネシスで言動を束縛されてぴちぴち キモイかんじで悶える 一匹のトレーナーを眺めて、は「そのままオトせ」という殺人罪に直結する事確実なアブナい発言を、舌先辺りで飲み込んだ。 ■ □ ■ □ バルコニーの先の気配を探りつつ様子を窺う。 警護らしいポケモンはいるようだが、見える範囲に人はいない。 ポケモン相手にしても戦闘になった場合、仲間を呼ばれると面倒だし、何より派手にやれば気付かれる恐れがある。 紫苑の他に出すとしたら・・・・・やっぱ白夜がいいかな。睡蓮、静かに仕留めるとか苦手だし。 「・・・・あのぉ、」 「声がデカい」 振り返らずに速攻で裏拳を叩き込む。 ごちん、という音と共に、背後の少年が無言で悶絶するのが気配で分かった。 名誉の為に言っておくが、加減はした。いちおうだけど。 『――――ん?おい、今そこで音しなかったか?』 『ああ、なんか聞こえたよな・・・・何の音だ』 さすがポケモン、人間ならそのままスルーする音を聞きつけやがった。 すかさず攻撃態勢に入った紫苑をいったん制して未だに悶絶している名も知らぬトレーナー・・・えーと仮にパト○ッシュって呼ぶか。の、腕をつかんで出入り口のすぐ側に置き、へ?という顔をする少年の背後に潜んで耳を澄ませる。 説明はしない。したら確実逃げるしな☆ 『オレちょっと見てきますよ』 『おう、頼むわ』 『あ゛ーっかし見回りとかたりぃよなー』 『これも仕事のうち、だろ』 近付いてくる気配。出入り口の向こう側、すぐには視界に入らない位置に陣取った紫苑を見る。準備は万端だ。 未だにおたおたしているパトラッ○ュ(仮)(伏字意味無いな)の腕を掴んでいた手を離す。 のっそりとした、おっくうそうな動きで扉の無い出入り口をくぐって現われるコラッタ。 ばちり。 少年トレーナーとコラッタの視線が絡み合う。 きゃ☆目と目で通じ合うとかこれって恋のハ・ジ・マ・リ?( 違います ) 一気に青ざめる○トラッシュ(仮)。ぎょっと目を見開いて攻撃態勢に入るコラッタ。 けれど攻撃に移るその前に、コラッタはその場に崩れ落ちた。 別に床に頬擦りしたいお年頃とかでは無い。紫苑の“眠り粉”だ。 「紫苑ナイス!」 小声で親指押っ立てれば、闇に沈んで分かりにくいが、返って来たのははにかんだような、けれど嬉しそうな微笑みだった。 のあぁあぁぁん 紫苑ったら可愛いヤツめ! パト○ッシュはちょっぴし青い顔で固まっている。アレか、今ハヤリのヘタレキャラ? 紫苑がコラッタをサイコキネシスで浮かばせ、バルコニー付近の隅に放置するのを横目に、は改めて残りのポケモン達の様子を窺った。 『でさぁ、ご主人のよこすメシって不味いんだぜ?もっとマシなの出せっつーの』 『自分達は俺ら使ってあくどく稼いでるくせになぁ・・・・・』 『やってらんねぇぜ!ったく』 『それにしても遅いな。おい、なんかいたか?』 『・・・・・なぁ、マジで遅くねぇ?』 当然ながら返らない返事。 ポケモン達の声に、戸惑いと警戒が混じり始める。 それを的確に感じ取り、は白夜のモンスターボールを腰から外して。 「よっしゃ逝ってこーい!」 「――――――――ッ!?」 パ○ラッシュ(仮)を部屋の中に蹴り入れた。 『なっ!?』 『侵入者か!』 動揺するベトベター。迎え撃とうとするラッタ。 スライディングして顔面から床に突っ込むパトラッ○ュ(仮)。 『おいおい、受け身取れよ』と天空がモンスターボールの中から突っ込んだ。 意表をつかれた二匹は一瞬、立ち竦み。 『ぐぁっ!?』 『がッ』 紫苑と白夜によって、あっさりと制圧された。 ぐぁばっ!と勢いよく○トラッシュ(仮)が顔を上げる。 「ちょ「はいストーップ」 「ムごッ!」 「ここはR団のアジトの一つであたしは連中の動きを探る為にやってきたんであって泥棒目当てじゃないし犯罪者でも無いつまりこうしてここの警備ぶちのめしたのも仕方ない事なんだよこの犠牲はひとえに世界のためカントーをR団の魔の手から守るためポケモン達を救うためついでにあたしの萌えの為ッ!と、ゆーわけなんだけど偶然あたしの姿を見てしまった君に人を呼ばれると色々と面ど、もといR団に感づかれる可能性が高くなるから危険ではあるんだけどもせっかくだし君にも いさぎよく犠牲になってもら 、じゃない協力してもらおうと思ってこうして引っ張り込ませてもらったって訳ですよすぐに理由を話して協力してもらいたかったんだけど見張りの問題もあったし気付かれると困るから後回しにしたんだよてっとりばやく黙らせようと思って『静かにしてないと このまま叩き落す 』なぁーんて可愛く囁いちゃったけれどもあれも君のためを思ってだったんだようん理解したかパ○ラッシュ君(仮)!」 ほぼノンブレスで 一気に喋った。 パト○ッシュ(仮)が奇妙な顔になる。 「ん゛ぐ?」 「そうか理解してくれたかパト○ッシュ君(仮)略して(仮)!」 『そこを残すか・・・・・』 「むグゥウ!」 「そうか協力してくれるか(仮)!え、危険なんて恐れやしないって?!盾でもエサでも好きにしろ!?! 勇敢だな(仮)!さすがだ(仮)!!君のよーな協力者を持ててあたしってば超ラッキー」 「ムごーっ!?!」 なんか言いたげな(仮)。 むぅ、不満びっちりってな感じのツラですな。まぁ分からんでもないが。 けれどもここで「じゃあお元気でねぐっどらーっく♪」ってな感じで爽やかかつ何事もなかったかのよーに別れる訳にもいかない。実際問題、誰か呼ばれたら厄介だし、何よりR団の誰かに(仮)が見つかってしまえば、イモヅル式に自分の事が露見するのは確実だ。それでは、わざわざ事を大きくしないように侵入した意味が無い。 むぐむが暴れる(仮)を押さえるをサイコキネシスで手伝いつつ、紫苑が困ったように小首を傾げた。 『ご主人さま。無理に説得しなくてもいいんじゃないでしょうか?』 『気絶させて転がしておけばいいだう。そうすれば人を呼ぶ心配も、下手にうろつかれる心配も無い』 「まぁそうなんだけどさ。うっかりコイツが見つかって始末されたらちょーっとばかし後味悪いし」 「んむー・・・・ッ!?」 そもそもR団はポケモンで生体実験しまくったりポケモンセンターに襲撃かけたり、人間をポケモンで攻撃するような悪の組織である。もし発見されでもしたら、無事でいられる保障は無いに等しい。 つまり、目的を果たしてこの屋敷を出るまでは行動を共にするのが手っ取り早くて一番安心という訳だ。結局コレが一番効果的な手かなーと肩を竦めると、はさっきまでの抵抗が嘘のように大人しくなった(仮)の耳元へ唇を寄せて。 「あたしが目的を果たしたら開放してあげるさ。 R団に見つかって始末されたくなかったら、大人しく従ってもらうよ――――オッケー?」 こくこくっつーよりはガクガク頷く(仮)。 そんな(仮)の姿に、はにんまりと、チェシャ猫のような笑みを浮かべる。 うんうん、やっぱし人間素直が一番だよね♪ 『どちらが悪党か分かりませんねぇ』なんて楽しそうな氷月の発言は、当然ながら黙殺した。 TOP NEXT BACK エンカウント率=遭遇率。 |