レベルに、そこまで大きな差は無い。 となれば勝敗を決するのは、トレーナーのバトルセンスとポケモンとの連携が鍵になる。 レッドには天性のバトルセンスがあるが、才能は磨かなければ路傍の石に等しいもの。その経験の浅さゆえに未だ開花しているとは言えない才覚と、仮にもジムリーダーに師事したグリーンでは差は歴然としている。半年前の手合わせよりも腕を上げた少年は、“すぐに”とはいかないまでもかなりの早さで勝負にケリをつけてしまった。 ううむ、さすが主人公組の一人なだけありますな、殿!(誰が) 「フン、口ほどにも無いな」 クールに抑えられた口調ながらも、そこに漂うのは優越感。 レッドが傷ついたニョロゾを抱き絞めて、屈辱と敗北感にその顔を歪める。 女王様ちっくなグリーンと虐げられるレッド、みたいな光景に思わず腐れた萌え魂がうずきまくってきゅんきゅん ハァハァ してしまったのはいわゆるオトメのひ・み・つ☆ グリーン×レッドってアリだよね!(イイ笑顔) 「自分の実力以上に思い上がる奴は自滅する・・・・・覚えておいた方がいいぜ」 年齢には不相応な、しかし萌えずにはいられない上から目線なお言葉をレッドに吐いて。 「さぁ、行こうか」 一転、さっきまでの女王様ちっくに黒い態度が嘘のような可憐な笑顔でバックに花をとばすグリーンの豹変振りに、あたしはただ頷く事しかできませんでしたよ いやマジで。 (別人!?) ・・・・・・・・・バトルしてる間にとんずらすりゃ良かったかなー。 【 泥沼危機一髪 】 オーキド研究所の応接間にて、は窮地に立たされていた。 そりゃもう窮地だった。命に別状は無いけれどもうっかり走馬灯が見れちゃうくらいには窮地だった。 何故かというとの目の前には、見覚えありまくりーな赤い図鑑と二つのモンスターボールがどっかり安置されていたりしたからだ。正直 土下座してでも勘弁して欲しい が断ったら断ったで命の保障は真実あるのかと思っちゃうアンビバレッジ。あたし何かしましたか! 「いや無理無理無理無理超絶無理」 「あらあら。完全拒否の構えねぇ」 首よちぎれてもげ跳べ空高く!とでもいわんばかりの勢いで首を横に振るにお茶を淹れながら、“ガタガタ抜かさずいいから請けろよこのメスブタ” というニュアンスの黒っぽいオーラをびしばしとばしてナナミが朗らかにプレッシャーをかける。その器用さが更に恐怖を誘って、は結構本気で泣きたかったが我慢した。 泣いたら負けだ。泣いたら負けだぞ自分! 今すぐ部屋のすみっこの狭くて暗いところに縮こまってぷるぷるしたい気分だけども我慢だ! あたしには仲間がいるじゃないか!まぁ氷月助けてくれなさそうだし紫苑にこれの相手は無理だろうし天空はすぐに屈しそうだし睡蓮はなんかボケだし白夜は・・・・・・うん、白夜なら、いけるさたぶん!方向音痴だけど!!!(関係無い) 耐えきるのだ、自分!! 「どうしても、引き受けてはくれんのかね?」 ちょうど相対する形でソファーに座ったオーキド博士が、少し困ったように眉尻を下げる。 が、全身から迸るオーラは “承諾せずに無事に帰れると思うんじゃねぇぞ、ああん?”とか語っていて超絶怖い。 雄弁なまでなその副音声をしっかりはっきり読み取れる自分が、はちょっぴし嫌いになりそうだった。 理解できないくらいニブいか、へーぜんとしてられるくらいズ太かったら良かったのにな! や っ ぱ り 逃 げ る べ き だ っ た ぜ ! (泣) 「・・・・・・おじいちゃんの頼み、聞いてくれないか」 隣に座っていたグリーンが、無意識だろうが上目遣いに嘆願する。 きゅん☆とかハートが高鳴るシチュエーションだ。 グリーンの上目遣い・・・・・・ッ!良かった、年上でグリーンより座高高くて良かった!! そのうち抜かされそうな気がビシバシするけども今だけは 神に感謝ァアアアアアアッッ!!!!! 「ね、?強情はらないで・・・・・お願い?」 打って変わって優しい口調で、ナナミがの肩に手を置く。 部屋に充満していたブラックな空気が消え、重圧から開放される。 無意識な安堵と目の前にある萌ゆるエサ(別名グリーン)に、はうっかり承諾しようと首を縦に―――― 「って 無理なもんは無理だぁあああああああああ!!!! 」 ―――首を縦に振りかけて、ギリギリで我に返った。 オーキド博士とナナミが同時に舌打ちする。 あぶね、うっかり引き受ける所だったよ!怖いなこの連携!! 「別に、そんな全力で拒否する事でも無いと思うけどな」 「するわい!それも全身全霊真心込めてっ!!」 クワッ! と般若の形相で叫ぶの迫力に、ちょっとだけグリーンが引いた。 まぁ、帽子で顔が隠れてるのであんまり怖くはないが。 オーキド博士が呼び出した理由というのは、やっぱりポケモン図鑑製作をにも依頼するためだった。 あとついでに、研究資料作成のためにポケモンを一匹預けるためだった。 これポケスペじゃねーのかよゲーム序盤の展開かよ!とツッコミたくなる状況である。 勘弁して欲しい。面白そうだけども。 最初のバージョンのポケモン図鑑を受け取るのはグリーンとレッド、そしてブルーと決まっている。 そして三匹一組で研究していたポケモンの残りニ匹――――ゼニガメとフシギダネは、ブルーとレッドの手に渡るべきものなのだ。てゆうか、そうでないと今後の展開的に困る。ものすごく困る。的に。 R団潰しは手を出す気満々なだったが、ポケスペ本編はなるべくそのままにして楽しくあんなシーンやこんなシーンを見物・・・・もとい暖かく見守りたいとか願っているのだ。そんな自分の欲望のためにも、本編をあんまり変えるような事をするわけにはいかない。意図して無いのにしょっぱなから盛大にけつまづいたから特に。 「ふむ。そこまで拒否するのなら、納得のいく説明をしてもらおうか」 「げ。」 いやそーに呻いて、あからさまに視線を泳がせる。 とたんにどす黒い威圧感が全身を圧迫し、は全身から脂汗を流す。 やっぱそういう展開になりますかー。 見逃してくれませんかー。 「えぇっといやあのその!天からコブラマントヒヒが電波でコスモと唱えろと!!」 「あらったら、そんな分かり易すぎる嘘で場を切り抜けられるとでも・・・・・・・・・・・・・・・・・・? 」 「申し訳ありませんナナミ様謝ります土下座します地に頭をこすり付けて詫びますその目止めて怖い怖い怖い!」 修羅の目だよ!頭からバリバリ食われそうだよ! 本気で土下座する、「うふふふ」と無意味にフラワーな慈愛深い微笑みを浮かべるナナミ。 力関係モロ丸出しな構図である。 ブラックなオーラの圧力にもう屈服しちゃっていいんじゃね?とチキンハートが弱気に呟き、持って生まれた(?)腐女子魂が屈するなあたし!これも今後の萌えシーンのためだ!と主張する。 その為にも、理由は言わずにこの場を切り抜けなければなるまい。 最初から言えるはずが無いのだ、こんな馬鹿全開な理由なんぞ。 それに、理由を話すとなればイモヅル式に未来を知っている事から知っているのは何故かという事、果ては異世界出身なんですよ自分!という辺りまで全部吐かされる事になってしまう。 わー、ぜってぇ言えねぇー☆ でもこの空気はこの空気で窒息死させられそうなんだよな!(恐怖で心臓止まるわい!) ああでもうまい言い訳思いつかないしそもそもナナミさんとオーキド博士のタッグは問答無用で承諾させるぜと言わんばかりなオーラだし!!どうする・・・・・・・・・・どうする、自分!? 「だ」 「だ?」 「だ・・・・・・・・ エスケーップ! 」 「だ関係無いっ!?」 疾風迅雷、電光石火。 グリーンのツッコミは完全シャットアウトして、 叫ぶと同時に椅子から離れテーブルを踏み台に跳躍、そのまま窓まで一直線に突っ込んで―――― 「甘いわい」 「ぎゃんっ!!」 すり抜けざまに、図鑑でオーキド博士に叩き落とされた。 ごギュ、と結構嫌な音がして、は顔面から床に追突する。 「うふふ、何処に行くつもりだったのかしらね?ったら」 力無く倒れ伏したの頭上で、柔らかい声が問いかける。 威圧感MAXで。 今や全身ナイアガラの滝と化したはぷちぷちと意味も無く絨毯の毛を毟りはじめてみたりしながら目を泳がせた。 お外に行こうとしました♪なんてストレートに告白したらヤられる。確実にヤられる。本能は冷静に警告していた。 「あ、あっはっは」 「うふふふふふふ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こぇえええええ! 「あ、あのですね?実はトイレに行きたくなりましてー」 「エスケープとか聞こえたけど?それにトイレはそっちじゃ無いって知ってるわよねぇ?」 「トイレに行きたくなったらそう叫んで窓に向かって跳ぶのが昔っからの趣味でして☆」 「ふむ。じゃあ跳んどくかね?鉄バットで」 にこやかに言いながら、ソファーの下から鉄バットを引きずり出すオーキド博士。 何でそんなところにンなもんスタンバイしてんだ。 の顔が見事に引き攣る。返り血だったっぽい赤黒い痕とかベコベコにへこんで曲がった感じが超リアル。 ひょっとして使用済みだったりしますか。愛用の鈍器だったりしますかひょっとして。 「ジョークですユーモアです真実はえーとそうだチビりそうだったのでついうっかり!!」 「ぶっ!」 味方にはならないが敵にもならない、というポジションで、茶をすすりながら事の成り行きを見守っていたグリーンがむせた。「あらあら」とか言いながら、ナナミが弟の背をさする。 すまんグリーン!全然まったくこれっぽっちも罪悪感は爪の甘皮程度にも無いが心の中だけで謝っておく!! 「つーわけでトイレに駆け込ませてください博士お願いぷりーず!」 裏なんてありませんぜ☆という熱い主張を湛えたキラキラ無邪気な表情で、手なんか組みつつオーキド博士を見上げる。オーキド博士とナナミさんが、無言のままで視線を交わす。 「そのまま逃げるのはいかんぞ?」 「イエッサー!ベリアル辺りに誓って逃げないでありまっす!」 博士が微妙な表情になって、ため息をついた。 「・・・・・・まぁ、良かろう」 「よっしゃ!」 博士の出したゴーサインに、は一目散にブラックオーラの充満した部屋から逃げ出した。 野性ポケモン並みの素早さをご披露したの去った後を見ながら、ナナミが少し不満そうに訴える。 「おじいさま、良かったの?確実に逃げるわよ、あの子」 「仕方あるまい。あの様子だと、図鑑製作を承諾させた所でまともにやりゃせんじゃろ。 ポケモンの方も然り。こっそり忍ばせておいた所で・・・・・・・・」 やれやれ、と言いたげに首を振る。 がポケモンと会話できる事は、オーキドもナナミも知っている。 だからこそ、こっそりザックに忍ばせておいたとしても、ポケモンを説得して研究所まで自分で帰らせる、もしくは野性ポケモンにモンスターボールを届けさせる事もしかねないと予想がついていた。 言質を取っておけば、それを盾にやらせる事も可能だっただろうけれど―――――。 「・・・・・・理由くらいは、聞いておきたかったんだけどな」 「そうね。どうしてあんなに嫌がったのかしら」 ぽつりと呟いた弟の言葉に、ナナミが首を傾げて同意する。 感情は簡単にさらけ出す癖に、そういう所は妙に巧みに隠すのだ。 そこに普段からの気ままな言動も加わるものだから、の考えはひどく読み難いものだった。 オーキド博士が、鉄バットをソファーの下に戻しながら肩を竦める。 「まぁ、無理に聞き出す事でも無いじゃろ。簡単には口を割りそうにもないしな」 「の、割りにはおじいちゃんも姉さんも、ずいぶん気合入れてを問い詰めてたよな」 「あら、そうだった?」 やや呆れたようなグリーンの視線に、ナナミはそ知らぬ顔でカップを片付け始める。 「ああ。ちょっとやりすぎってぐらいにね」 言われて二人は顔を見合わせ。 「反応が良いから、ついついやりすぎちゃうのよねぇ・・・・・」 「敏感に空気を読むからなぁ。遊び甲斐があっていいんじゃ」 「そうね。面白いわよね」 うふふ、はははと笑い合う祖父と姉。 確実に恐怖とかトラウマとか植え込んでいる事を自覚しつつも止めるつもりは皆無らしい。 反省する気のまったく無い二人の様子に、グリーンは一人、心の中でに対してエールを送った。 ■ □ ■ □ 青く広く晴れ渡る空、青く深く澄み渡る海。 何処から何処までが空で、何処から何処までが海なのか、時に分かち難くなる程相似した二つの青色の狭間で、自由を謳歌するのは皆様の予想通り、トイレの窓から輝く明日への逃走を果たしただ。 重圧とか緊張とか恐怖なんかで凝り固まった筋肉をほぐしつつ、イエー!と拳を突き上げて凱歌を上げる。 「おっしゃ、なんとか逃げ切れたーっ!」 『見逃された気もするが、な』 「言ってくれるな頼むから」 モンスターボール中からのシビアなツッコミに、途端に苦い顔になって肩を落とす。 とて馬鹿では無い。その可能性が非常に高いのは理解していたが、見たくない現実は見たくないのだ。 だって怖すぎるじゃないか何で逃げるの黙認してくれたのかとか考えると!何企んでるんだかって思うじゃないか!! うっかり知っちゃったら怖くて野宿できなくなりそうじゃないか!!! ヘタすると呪われそうじゃないか!!!! なんって恐ろしいっ・・・・・! (ガタガタ) 『・・・・・・当分、マサラには来れませんね』 ひらひらと優雅な動きで主人のそばを舞いながら、遠ざかっていくマサラを振り返ってぽつりと紫苑が呟いた。 その言葉に、は深々と頷く。 オーキド博士やナナミさんの真意は不明だが、何はどうあれ逃走したのは確かなのだ。 見つかったらどうなるかとかそこらへんを思うと、ほとぼりが冷めるまでは絶対マサラに立ち寄れ無い(つーか 立ち寄りたくねぇええええ! ) 本当はもうしばらくはマサラにいて、グリーンかレッドと一緒に旅立つか後ろからストーキングでポケスペ本編ウォッチング☆を決め込むつもりだったんだが。 しかも近かったからって海のほうに出ちゃったもんなールート完全に逆走してるもんなー。 どっかで合流しよう、うん。 『それで、目的地はどちらなのです?まだ聞いていませんが』 ひとまず今後の決意を固めたに、どうやら無目的に波乗りさせられていたらしい氷月が問う。 その問いかけに、はふっとニヒルに笑って胸を張り。 「笑止!目的地など決めているはずが無いんだぜっ☆」 まったくもって自慢にならない事を言った。 だって無目的に逃げてきただけだし。逃走ルート考えてなかったし。 うん、行き当たりばったりですが何か? 『ご主人さま・・・・・・・・それじゃ漂流です』 『それなら私が決めて差し上げましょう。深海が行き先でも差し支えありませんね?』 『げっ!』 「すいませんっしたあッ!」 言葉に含まれた明らかな本気に、は慌てて氷月にがっちりしがみつく。 ホールドしたって水ポケモンな氷月は水中も平気なので意味は無いが、まぁそれはそれだ。 放り出されたらたまったもんじゃない。 モンスターボールの中から、天空も抗議の悲鳴を上げる。 『氷月!オレ泳げねぇんだぞ!?沈めんのはだけにしろよな!!』 「オイこらそこ、ナチュラルにえげつない発言すんな」 『いーじゃん泳げるんだし!』 口を尖らせ、反論するその叫びは結構切実なものだった。 全体的に筋肉が多いのと体型が完全に水中向きで無いとはいえ、出身地である流星の滝にはそこそこ水辺もあったはずなのだが。何度か沈んだり沈められたりしてたから、ひょっとしてトラウマになったかな。 『ああ、そういえばそうでした。沈めるのなら氷漬けにしてからでないといけませんね』 『いえあの、それするとご主人さま死んじゃうと思うんですけど・・・・・』 うっかりしていた、と言わんばかりの口調でヤる気満々な発言をする氷月。 仲間から出た危険極まりないっつーか色々アレな発言に、さすがに青い顔で紫苑が口を挟む。 『へーきだって紫苑!だってだぜ?』 『ええ、主殿ですからね。氷漬けにして深海深くに沈めた所で死ぬはずがありません。 きっと煮えたぎるマグマの中でも生きていられると私は信じています』 『そうなんですか!?』 『やはり、人間、違う』 「いや信じるな紫苑! そして睡蓮!あたしは人間だってこないだも言ったろ!つーか お・ま・え・ら・なあっ!? 」 驚愕の表情で主人を振り返る紫苑、モンスターボールの中で重々しく呟く睡蓮。 口々に勝手な発言をする連中に、は鋭くツッコミ入れつつ青筋浮かべて関節を鳴らす。 収拾のつかなくなってきた仲間達の会話に、白夜が冷静に水を差した。 『それで。結局、何処へ向かう気だ?いつまでも波間を漂っているのは御免だぞ』 「 うー。 んじゃ、てっとり早くあそこって事で!」 脳内で地図を展開するまでも無い。 既に遠く空と海の狭間に、影で輪郭を描き出した島を指す。 あの後グリーンとレッドがどうなったのかとか、 そもそもレッドはちゃんとフシギダネ持って旅立てたのかよ!とか、 自分が捻じ曲げてしまったライバル同士の邂逅がおよぼしたであろう原作への影響なんかはあっさりすっきり都合良く、忘却の彼方へと押しやっているだった。 TOP NEXT BACK 【ベリアル】:上級悪魔。けっこう有名どころ。端麗な容姿に優雅で洗練された立ち振る舞いの詭弁家。 つまり口ばっかうまい嘘つきさんですよこいつに誓ってって完全逃亡予告ですね! |