港はさしたる交通手段も発展していなかった大昔、遠くから異郷のあらゆる文明を運んでくる国際交流の窓口だった。 この世界ではドラゴンポケモンや鳥ポケモンなど、人を乗せて飛翔する事の適う存在もあったが、ポケモンであったとしても飛行距離や運べる重量は限られているし、今のように性能の良いモンスターボールの無かった時代には、彼等のトレーナーとなり得るポケモントレーナーは少なかっただろう。 水系ポケモンに関しても同様の理由により、大規模に商売を行うにはどうしても船を使う必要があった。 そして前提条件として、交易は相手国との条約や利害、打算その他諸々を考慮した上で国家の上層部がゴーサインを出しているか、黙認しているかでなければ成り立たない。 もし仮に許可を得ていなければ、それは相応の罰を覚悟しなければならない危険を伴うものなのだから。 このアサギシティも、そんな港町の一つ。 人の出入りも多く、また、昔から異文化に親しみ、自国の文化にそれらを取り入れてきた。 だからこそ生まれる技術もあり、だからこそ生まれる文化もある。 そして、だからこそ。 『ー!!!アレうまそうアレくいてぇえええ!!!なっアレも買ってくれアレも!!!!』 「でぇえええい口の中に物入れたまんまで喋るな!汚いっつの!!」 美味しくてあんまし見ないスイーツなんかも多かったりした。 きらきらと目を輝かせて飛び跳ねるでけぇ白ダンゴムシ―――もとい天空に容赦無く愛のムチという名の 蹴り を叩き込んで沈黙させて、は指し示された方を見る。 鼻腔をくすぐる、甘すぎないバニラの香り。 キツネ色に焼き上がったシュー生地に挟まれるのは生クリームの白。 合間にとろりと流れる赤は、きっとイチゴジャムか何かだろう。 黒と紫の小さな丸い粒を詰め込まれ、色合いもばっちりなフルーツのシュークリームは確かに美味しそうだった。 出来上がったばかりらしい、外からもばっちり見える場所に次々ディスプレイされていく。でもとしては、近くの屋台で今なお焼いてる最中の、シンプルでカラフルな焼き菓子の方がもっと気になっていた訳で。 「あっちの方がおいしそうだと思うけどなー」 『っつう〜・・・・・・。あ?あっちってどっちだよ』 「ほら、あの戦隊モノちっくなの」 『んな説明で分かるかよ!つうかしらねーしセンタイモノって!』 路上でポケモンと漫才を繰り広げるに、通りすがりの人が遠巻きに気の毒そうな目を向けて、ついでにジョウトでは見ないポケモンである天空に好奇の視線を向けていく。 ポケモンの言葉の分からない人間から見ればいろんな意味でイタい人にしか見えない事など知っているだろうに、それを細胞核ほどにも気にしないのは神経がドラム缶並みに太いからなのか、そもそも 気にする神経が皆無 なのかは判断に困るところだ。 「テレパシーで察しろ天空!ほらあれあそこの―――ってあー!あっちにもハートがときめくスナックが!!」 『センタイモノどこいったんだよ!?スナックもいいけどあのなんかウマそーなのが先だぞ!』 「ばっかさっきから甘いものオンリー買ってんじゃん!ここは一つ、塩気も摂取しないと」 『フレンドリーショップでぽてちとか買えばいーじゃん!約束守れよ!!』 アサギの灯台で言った事を覚えていたらしい。 いらんとこで記憶力の良い奴め、とは内心で舌打ちする。 「それは“次の街で”っしょー?」 『その後こっちのお菓子おいしそーだから買い漁っとくかーって言ってただろーが! 忘れたとは言わせねぇからな!!大半オレの腹に入るって事も!!!』 「うんうん、天空の腹だけに入るってワケじゃねーってのも忘れんな?」 びしぃっ!と前足でをさす天空に、微笑みながら、しかしさりげなく釘をブっ刺す。 やはり買う以上はお留守番組の三人(匹?)の分も無ければなるまい。 白夜はあんま食べないけど、紫苑は甘いものけっこー好きだし。 氷月は・・・・・うん、とりあえず買ってかないと 確実に嫌味のマシンガンで狙い撃たれるしな ☆ 『そーいやそうだよな。んじゃ、もっといっぱい要るよな!』 釘を刺されてその事に気付いたらしい、よく分からない使命感に、天空が瞳を燃え上がらせて。 『いっそ全部買ってこうぜ!な、!』 「そこまで金無いっつうの」 ぐ!と短い前足を握り締めて振り返った天空に、は半眼で突っ込んだ。 買い物が終わるのは、もうしばらく先の事。 |