燃える。燃える。燃える。
 ヒトが燃える。ポケモンが燃える。街が燃える。日常が燃える。
 燃やしたのは彼等だった。壊したのは彼等だった。奪ったのは彼等だった。
 約束された協定は破棄された。誓われた不可侵は反故となった。友誼も信頼も踏みにじられた。
 火の民の英雄――彼が誰より信じた友の手によって。
 彼等が成した、行いの為に。

「のろわれろ」

 火の国も水の国も、神を中心とした宗教国家だ。
 生きるためには水の国の属国となるより道はない。けれど、追い詰められてなお、揺らぐことの無かったプロメウ様への信仰を、民が捨てられるはずもない。
 非礼も無法も承知の上で、彼等は海の巫女の下へ忍び入った。
 図々しい願いなのは分かっている。だが、プロメウ様への信仰を抱いたままであろうとも、どうか、火の民を受けて入れてやって欲しいと――縁のあったマフォクシーの手引きのもと、海の巫女へ嘆願するのだと聞かされていた。
 ……巫女を庇って事切れたマフォクシーに、それが偽りだったのだと、気付いた時にはどうしようもなく手遅れで。

「そうまでして富が欲しかったか! 何もかも奪い尽くさなければ、満足できなかったというのか!? 皆の命を、尊厳を踏みにじって! この外道の行いに、何ひとつ恥じることなどないと!?」

 そんなつもりじゃなかった、なんて。言う資格などあるはずもない。
 海の巫女は天候を操る。航海にあっては嵐を遠ざけ富を約束し、大地にあっては渇きを遠ざけ、豊穣をもたらす異能の力。
 知っていたはずだった。火の国の貧しさを。積み上げられる嫉妬と羨望の根深さを。
 海の巫女同様、ポケモンの言葉を理解し、異能を持って生まれた身の上ながら――讃えられ、敬愛される彼女とは反対に。友が、戦うだけしか能がないと嘲られ、役立たずと後ろ指さされている事だって。
 いくつだって動機はあった。予兆はあった。マーシャドーなら、気付いてやれたはずだった。
 たとえ戦争を止められなかったとしても。
 友が戦場へ出てさえいなかったなら、被害はもっと、少なくて済んだはずだったのに。

「おまえたちの行く先に災いあれ! 相争って死に絶えよ、汚らわしい略奪者ども!」

 もう動かないマフォクシーを抱いて、海の巫女が絶叫する。
 どちらともつかない赤に塗れ、自身もまた、死に瀕しながら血涙を流して吠え立てる。
 ……ケラケラと嗤う声がする。なんとも愚かしいことよ。ああ本当に、愚鈍に過ぎて笑いが止まらぬ!
 やめてくれ。彼女達を貶めるのはやめてくれ。アナタのその賢さを尊敬していた。自分にはないものだと、憧れてすらいたのだ。それが間違いだっただなんて、頼むから気付かせないでくれ。

「あの御方に対なぞ不要。これにて、この地の〝神〟は、プロメウ様のみとなった。――のう、マーシャドー? 実に、実に喜ばしいこと。これにて火の神――否。我等の天なる神、あの御方を讃える祭壇も更に絢爛荘厳に、相応しいものになるであろうよ!」

 やめてくれ。悲鳴染みた叫びは、もはや哀願に等しかった。
 壮麗な神殿も積み上がる供物も捧げられる贄も、プロメウ様は何ひとつ必要としてなんていない。
 分かっているはずだろう、知っているはずだろう。プロメウ様が、半身を損なった我等をお許しになるはずがない――

「良いではないか、別に」

 死山血河の地獄にあって、その肯定は残酷なまでに軽やかだった。

「この地は天のきざはしより砂の一握いちあくに至るまで、あの御方の所有物。
 怖れ多くも我が君の庭に住まわせて頂く身でありながら、我が物顔にのさばる有象無象、死に絶えて何の差しさわりがある? 人もポケモンも雲霞うんかの如くよ。偶には間引いてやるが管理者の務めと云うモノ」

 赤い瞳を細月に歪め、バルジーナが嫣然と嘲弄する。

「それに今更、そなたはどうしようと言うのであろうなぁ。我等を手引きしておいて。火の民を、この国に引き込む手助けをしておいて。水の神を殺す、その片棒を担いでおいて! ほほほほほほ!
 ……止めるには、いささか遅きに失したのう? 影衛かげまもり殿」

 友と呼んできた男が、明白なまでの落胆を漂わせて彼を呼ぶ。

「マーシャドー」

 ずっと一緒にいるのだと。
 信じて疑いもしなかった親友が、沈鬱な落日の目で彼を見下ろす。

「……残念だ、友よ」

 燃える。燃える。燃える。
 ヒトが燃える。ポケモンが燃える。街が燃える。日常が燃える。
 幾星霜を隔ててなお、まなこの裏で燃えている。消えることなく色褪せず、慙愧の念と共にある。
 彼がいつかに望んだ通り、影衛かげまもりの役割なんて投げ出して、ふたりで遠いところへ行ってしまっていたのなら。
 そうすれば、マーシャドーの友達は――あんな地獄を、作らずにすんだはずなのに。


 ■  ■  ■


 ほぼ答えの出ているも同然の問題に、あえて回答をしないのは難しい。それでも、それは理性的でいるために必要不可欠な行為だった。
「おかえりなさ――!」「ゥオオオオ!? ゴルダックー!」「ゴルダック!?」「ゴルダック!」「ケガしてる? ケガしてる!?」「ラグラージは? ラグラージは?」「誰にされたのゴルダック!」「悪いやつ来なかったよ!」「怖いのも来なかったよ!」「ホトリいないよ!?」「ゴルダックいるのに!」「こっちのくろいこだーれ?」「覚えてる、でっかいのに追っかけられて逃げてった子!」「じゃあ仲間かな」「ホトリぃぃい……」「ツキネ達嫌な臭いがついてる」「知ってる、悪くて怖いやつらのニオイだ」「でも足りなくない?」「わかる」「いちばん怖いののが足りない」「ゴルダック大丈夫? 治る? 治る?」

 マーシャドーとゴルダックを預け、ツキネ達は先程暴れたばかりの場所へ戻ってきていた。
 ポケモン達にこれからする話を聞かれて、彼等の感情を不用意に煽らないようにするため……というのも無くはなかった。しかし一番の理由は、その話をして冷静に、誰かを傷付けないよう力をコントロールし続けられるだけの自信を、ツキネが持ち合わせていなかったからだ。
 ひゅうひゅう、ひゅうひゅうと風が啼く。
 明日か、明後日の夜頃にはまた雪が降ってきそうな、凍り付くような寒さの中。
 半分崩れた壁を風よけに、コートを着込んだツキネとメタング、そしてルリリは真剣な表情で、円陣になって向き合っていた。

「ゴルダックがしてた、黒い首輪についてだけど」

 殊更に感情を排した、無機質な口調でメタングが切り出す。
 ふたりの視線に促され、ルリリがダムダムと尻尾を地面に叩き付けながら吐き捨てた。

「ラグラージのことおかしくした輪っかそっくりって、みんな言ってたじゃな!」
――やっぱり、そうですか」

 トレーナーの意向で、ポケモンが装飾品を身に着けているのはままある。
 けれど、先の証言に加え、グラエナの姿を視認した一瞬。同じようなモノが付けられていた事を、メタングは見逃していなかった。そもそもグラエナが家出中のふたりを見て、しかもゴートなんて場所で会って何も言わないなど天地がひっくり返ってもありえない。
 まして、母以外のニンゲンに従っている、なんて――
 ……ポケモン達の証言。明らかに様子のおかしかったグラエナに、首輪を外した後のゴルダックの様子。
 以上から、推察できる答えは一つだ。

「洗脳なのですね。どこかの地方の犯罪組織が、好んで使った手口でしたか」

メタングが、「オーレ地方だよ」と曖昧な記憶を補足した。


「まさか実例に遭遇するとは思わなかったけど」
「おーれちほー? 初めて聞くのじゃ」
「だろうね、遠いし。でもあそこ確か、壊滅したのもう何年も前の話じゃなかったっけ」
「技術漏洩があったかもですね。前例のある技術なのです。くだんの組織と無関係だろうと、同じ発想で似たような技術を確立していてもおかしくはないでしょう。オーレの組織はあんな輪っか、使っていなかったはずですし」

 レベルが高くなればそのぶん、ポケモンは扱いも難しくなる。
 自分で捕獲して育てたポケモン、穏当な手段で譲られたポケモンですら問題は起きるのだから、強引にトレーナーと引き離されたポケモンや、手荒な手段で密猟されたポケモンとトラブルが起きないはずもない。
 それを思えば自由意思を踏みにじり、都合のいい道具に貶める洗脳というやり口は、極めて合理的かつ効率的な解決方法である。犯罪者らしく、倫理観の欠片もないような。

「……? ツキ――

 グラエナの選別は厳しい。
 しかしこれと決めたトレーナーには極めて従順で、トレーナーの没後にさえ、その願いを守らんとするほどに忠実である。

 ――その心を踏みにじられ、洗脳されたグラエナの屈辱はいかばかりのものだろうか。

 ゆぅらり、ふわり。
 ツキネの髪が、水中に落ちる光の波紋のように揺れ、うねる。
 ヂリヂリと、空気が軋む。真っ先に犠牲になった壊れかけの壁が、擦り潰されて砂と化す。ぴゅうぴゅう吹きすさぶ風が、まるで意思ある生き物のように、ツキネ達を綺麗に避けて逃げ惑う。
絶対零度の怒りに、ツキネの瞳を彩る燐光が、ひときわ強く光輝を帯びる。空気がそのまま水に置き換わったようにぷかりと浮かび上がる身体に、ルリリが「びぃあ!?」と叫んで尻尾を振り回し、足をバタつかせる。
「ツキネ。深呼吸してクールダウン」普段の浮遊とはまるで違う。意思に反して浮き沈みする身体に動じた様子もなく、メタングが冷酷なまでに平坦な声音で指示をした。「事態の整理、だろ。まだ序盤も序盤だよ」

――ッ、……ふー」

 燐光が、少しずつ輝きを弱める。
 険しい顔で深呼吸するツキネの頭上に、のしん、と重みがかかった。

「なーんかシリアスなお顔してるのねぇ? むーちゃんとしてはねえ、早めに寝てー、いーっぱい夢食べさせてくれるのがおススメよー?」

 上から降ってきたのは可憐な声――ムンナだ。
 ふらっといなくなったかと思えば何故か当然のように戻ってきたムンナが、むふーんとご満悦顔でたしたしツキネの頭を短い前足でタップする。「じゃすとふぃっと~♪」メタングが露骨にイラっとした顔になり、ツキネはすとん、と気が抜けた。地上に戻ってきたルリリが意外そうに問う。

「〝むーちゃん〟? ムンナ、トレーナーいたのじゃ?」
「いないよぉ。でも、ムンナだとみーんないっしょでしょー? だからねぇ、むーちゃんはむーちゃんなのよ!」

 どやーん! ムンナ、もといむーはまるころした胸を張った。
 野生でありながら、自身の呼び名にこだわるポケモンというのも珍しい。「おお」ツキネは感心して拍手した。
「いや、おまえの呼び名とかどうでもいい」けれど真逆に、メタングの反応はにべもない。

「知ってるんだぞ。おまえ、さっきまでマーシャドー達の夢食べてたろ。ツキネにまでたかるなよ」
「そうだけどぉ」

 ムンナはむいっと唇を突き出した。

「ゴーストの夢って、もったり濃くて重くてしつこいお味なのよぉ。あのことんでも長生きみたいだからクセきつくってぇ。むーちゃんもっとふんわりパチパチ色とりどりなお味が好きー」

 ムンナの食レポに、ツキネはふっと、父のニダンギルが言っていた事を思い出した。
 長生きしすぎると数十年程度は誤差で、更に長生きしていると、今がいつなのかが曖昧になってくるのだと。
 ゴーストタイプは元来、なにかしらに極端な執着や固執を示しやすい性質を持っている。
 そういった性質と長生きゆえの曖昧な時間感覚が、夢の味にも影響しているのかも知れない。
 すりゅりすりゅりとツキネの頭に頬ずりしながら、「だからいーっぱい夢見てね!」とハートマークが乱舞していそうな甘い声で締めくくったムンナに、ツキネはハイスピード過ぎるなつき具合の理由を悟った。なるほど好みの食欲対象。

「ツキネ、こいつぶっとばしていい?」
「うーん。さっきの〝まもる〟は助かったですし……あと夢、食べられた方が体調いいっぽいのですよね」

 先のバトルでの反応速度を見る限り、自分の身を守れる程度の強さはあるようだし、食べ飽きるまでは好きにさせておいてもいいだろう。

「ハハッ。ムッカつくーぅ」

 強制的に引きずり寄せての爪先グリグリをお見舞いしてくるメタングに、ムンナは「ぷゅやぁー!?」と涙目で身をよじった。
 ツキネは止めない。ルリリのように何か目的があって行動を共にする訳では無く、期間未定でこれから共にいる予定ともなれば、序列をしっかり定めておくのは大事であったので。
 深刻な様子で黙り込んでいたルリリが、「うむむ」と眉間に谷間を作って呻く。

「吾もナマエ欲しいの……おししょーにならってギャラドスとか、だいぶイケてる気がするの……?」
「ルリリがいいならいいと思うですが……その名前だと、トレーナーありきのバトルには出られなくなるですよ」
「なんと!?」

 明文化こそされていないし、心理戦、読み合いの手をあやまたせる手段としてはアリかも知れないが、姑息な上、あまりに愛が無さすぎる、という事で、基本的に他種族名をポケモンの名前として付けるトレーナーはいない。
 そもそもルリリは忘れているようだが、大抵のニンゲンは、ポケモンの言葉が理解できない。自分で自分に名前を付けても、それで呼んでもらうのは難しいだろう。

「じゃあ先取りしてマリルリかマリルとかならいいじゃ?」
「進化すれば問題はないだろうけど、そもそもソレ名前じゃないし、今と何も変わらないよね?」
「ピュゥー……でも、ぜんぜん違うのだと覚えられる気がせんのじゃよなー……」
「なら〝まりり〟とかどーぉ?」

 爪先グリグリから解放されたムンナが、ツキネの頭上に張り付いて提案する。
「ああ」うまい名付け方をするものだ。ツキネは感心した。「なるほど。今の種族名である〝ルリリ〟に、進化後の音を足したですか」覚えやすい、という意味でも、ルリリの希望をクリアしている。
 ルリリはにっこりした。

「じゃあ吾、今日からまりりじゃの! ありがとじゃむーちゃん!」
「どういたしましてなのぉ」
「ギィー……。……ま、いいか。話を戻すけど、いいよね?」

 弛緩した空気を引き締めるように、メタングは真面目な顔に戻る。
 ツキネの頭の上で、ムンナがこて、と身体を傾げた。

「なーに? むーちゃんに毎日いーっぱいおいし楽しい夢、食べさせてくれるってお話?」
「違うしそんな予定は今後とも入れない。さっきやり合った機械人形の中身なんだけど」

 先程のやりとりなどすっかり記憶の彼方らしい。
 わくどき顔で距離を詰めてくるムンナを押し戻し、メタングは苦り切った調子で断言する。

「この間、マシロで会ったトサカ頭の面頬男いたろ。十中八九あいつだ」
「……ドローンから最後、聞こえた声ですが。ナギサのポケモン達を売ったやつで間違いないのです」

 ナギサのポケモンを浚い売った、国際指名手配犯のポケモンハンター一味。浚われた日についての、ポケモン達の証言。そして、この二つの情報から導き出される答えは。

「さいっあく。つまり、あいつが〝グレート〟か……!」
「しくじったのですね。まさか、もう会っていたとは」

 せめて仕事の話を聞くタイミングが、もう二、三日早かったなら。
 あの時あの場で、吹っ飛ばすのではなく不審者として締め上げていたのなら。
 せっかくの機会をみすみす逃していた事に口惜しさを感じながらも、ふたりは思考を切り替える。

「めた。〝敵〟として、くだんのニンゲンに対する評価は?」
「トレーナーとしては三流だよ。突っ込ませるしか能がない」

 でも。そう前置きして、メタングは唸るような声で言う。

「あいつ相手にしながら、ってなると、ひとりで楽勝とはいかないかな。勝率六割がいいとこだ」
「なるほど。ありがとう、めた。参考になったのです」

「ひとりじゃないのじゃ、吾もいるのじゃ!」ぴょこぴょこルリリが主張した。「分かってるって。頼りにしてる」ルリリを潰さなようにポンポンと撫で、メタングが「それでさ」と提案する。

「マーシャドー、追われてるだろ? 〝ホトリ〟救出からハンター連中までは連戦になる可能性もあるし、サイコメトリで理由を探っておくなら今のうちじゃないかな」
「うーん……」

 ナギサでポケモン達が見たという小さな影。鈴と呼ばれていたのは、マーシャドーで間違いない。
 情報は武器だ。敵の手の内が少しでも明らかになってくれれば、それだけ対処も楽になるし行動は読みやすくなる。
 それに、ポケモンハンターがマーシャドーを追う理由は、〝珍しいポケモンだから〟以外にも何かありそうだ。
 ただ、サイコメトリという力は、あらゆる記憶――それこそ、胸を温める大切な記憶から、誰にも言えない罪の思い出までありとあらゆる何もかもを、丸裸にしてしまう。

 ――もう、誰とも交わらないと決めている。

 ツキネを引きずり、自分のものであるかのように錯覚させるほどに濃く、重たい後悔の念を覚えている。

「止めておくのですよ。疲れるですし、そう重要な情報を持ってるとも思えないのです」
「……そうだね。ならいいか」
「よくわかんないけど、むーちゃんもそれがいいと思うのよぉ」
「吾も吾も。追っかけられてる理由とか、自分じゃよく分かんなかったりするからのー。追っかけてるやつに聞いた方が早いじゃな!」

 至言だ。ツキネは頷いた。
 あとは――

「今後の行動方針、なのですが。
 こうしてハンター達と一戦交えたのです。相手も無傷、という訳では無い。このまま一気呵成いっきかせいに叩き潰すのですよ」
「さんせーなのじゃ! あのナワバリ荒らしどもに、えいやーと思い知らせてくれるのじゃー!!」

 提案に、勢い込んでルリリが尻尾を振り回しながら気炎を吐く。
 我が心に迷いなし。宣言していた通り、自分より強いだろうと確信する敵を相手にする事へのためらいは感じられない。まだ救出できていないホトリ達を案じるからこそ、というのも勿論あるだろう。けれどそれ以上に、一発でいいからくれてやらないと気が済まない、という強固な憤りが、ルリリからは伝わってきていた。
「そうだね」大きくため息をついて、メタングは両手を挙げた。

「こんな気分じゃ、到底寝直せそうにもないし。いいさ、このまま行っちゃおう」
「面白そうだしむーちゃんも行くぅー」

 ムンナが一切空気を読まない陽気さで、極めて軽い、けれどある意味ではとても野生らしい理由で参加を表明する。
 エメラルドの双眸に、収まり切らない憤りを揺らめかせ。ガオガエンのように、ツキネは獰猛に破顔した。

「行くのですよ、皆。――絶対、後悔させてやる」
「の、前に。今度は荷物を忘れないようにね。国際警察への連絡も。後にすると絶っっ対に忘れるから」
「…………ぁぅ」




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