「――と、言う事があったのですよ」
「それでフテ寝した割に起きるの遅かったのか……」
ごろごろ、ぐだーん。
前日の事もあって見回りに出る気にもならず、ツキネとメタングは自室にこもって、何度となく見た他地方チャンピオン達のバトル総集編を流しながらお喋りに興じていた。
マーシャドーがいなくなってしょんぼりしていた三つ子が、グラエナと見回りに出かけたこと。
壊した医務室は年末までには業者を入れて直す予定になったこと。
ジョーイとキュワワーは念のためにお休みを取って、ソルトタウンの病院へ精密検査を受けに行ったこと。
ツキネが寝ている間に起きた出来事だけでも話題には困らなかったが、それでも一番話題になるのは、やっぱりマーシャドーの事だった。
「それにしても珍しいね、ツキネが引きずられるなんて」
「なのですよね」
ツキネは感情が読める。正確には、読めてしまう。
テレパシー。
心の内容をそのまま他者に伝達する、エスパー能力のひとつだ。
生まれながらに飛び抜けたエスパーとしての才能を持っていたせいだろう。他者に心の内容を伝達するのみならず、他者の心の内容を読み取ることもツキネにとっては簡単な事だった。あまりにも簡単すぎたから、幼い頃には色々無防備に読んでしまって、嫌な思い出を山ほど量産してしまったものである。
大きくなった今ではなるべく読まないようにしているのだが、それでも、瞬間瞬間の強い感情……例えばプレゼントをもらって嬉しかったとか、バトルに負けて悔しいとか。そういうものは読もうとしなくとも、自然と感じ取ってしまう。
けれど瞬間の感情というのは、えして長続きはしないものだ。
ツキネを引きずるほどに強いだけでなく、映像まで伴うほどに強い〝感情〟や〝思い出〟なんて、滅多にない。
おそらくは相当の年月、記憶を何度も何度も繰り返し、何度も何度も思い返して、同じ感情を積み重ねたのだろう。
それがツキネを引きずって自失させる強度を持つほど。妄執とでも言うべきモノになるほどに。
ある意味、ゴーストらしいといえばゴーストらしくはあるのだが。
ツキネが話した〝思い出〟の内容に、メタングが録画を巻き戻そうと四苦八苦しながらふと呟く。
「……なんだかその記憶、神話と似てるね。水の神様と海の巫女の」
「そういえば」
ツキネが見たのは、あくまでもマーシャドーの記憶だ。
夢と同じで古い記憶というものは、遠ざかるほどに細部をぽろぽろ取りこぼしていく。
なんなら勝手に無かったシーンを捏造したりする程度には適当なものだし、そもそも記憶の前提になる認識だって、さして信頼の置けるものではない。
それでも、印象深い部分は意外なくらい明瞭だったりするものだ。
マフォクシーを腕に抱いていた女性の、祖母と同じ色をした長い髪を思い返す。ツキネが生まれるよりずいぶん昔に亡くなった祖母は、ナギサの生まれだったと聞いた事がある。
大昔に滅んだ水の国。ひょっとしたら水の民は皆、あんな風に綺麗な蒼銀色の髪をしていたのかも知れない。
遺憾にも父と同じ金茶色の髪をくるくる指先で弄び、ツキネは首を傾げる。
しかし、あれが本当に神話の時代の記憶だとすると。
「あのマーシャドー、どれだけ存在しているですかね?」
「えっ……どのくらいなんだろう。ゴーストは見た目で生きてきた年数が分からないからな……」
「ゴースト、わりと時間感覚おかしいとこあるのですよね」
ふたりのよく知っているゴーストタイプは父の手持ちであるニダンギルくらいだが、十数年前の出来事をついさっきの出来事みたいな調子で話したりするので、しばしば困惑させられたものだ。
長生きしていると数十年程度は誤差だとか何とか。
せいぜい十年くらいしか生きていないようなツキネ達にはよく分からない感性であるし、何なら今後理解できるかも怪しかった。
――マーシャドーがどこへ行って、何をしようとしているのか。そもそもどうして、あんなケガをしていたのか。
ツキネの千里眼なら、行方は追える。
倒れていた場所から力を使って辿っていけば、ケガをした理由だって調べられる。
けれどふたりが、それを話題に出すことはない。
彼は、誰にも助けを求めず出て行った。差し伸べた手を取ろうとはしなかった。
誰しも事情はある。望まれた訳でもないのに、首を突っ込むべきではない。暴くべきではない。
だからどれだけ気がかりでも、この話はそれで終わりだった。
「ツキネさまー!」
話が終わるのを見計らっていたかのようなタイミングで、ドアについた小型ポケモン用の出入り口からデリバードがニュッと頭を出す。「きょくちょーからおてが……おてがみっ……! ぬけないっ。ぬけないぃ―!!」ごっつんごっつんドアと格闘する郵便配達員に、ツキネは「ぅえ」と露骨に嫌な顔をした。
渋面でしぶしぶつけっ放しだったTVをツキネが消すかたわら、メタングがじたじたしているデリバードの頭を、そっとドア向こうに押し出す。「あーん!」どてっと、向こう側で尻もちをつく音。呆れながら、メタングがドアを開けた。
「来るのこれで三回目だろ。そろそろ学習しなよ」
「次がんばるっ」
フンスフンスと鼻息荒く決意表明し、ドテドテとツキネの前までやってきたデリバードが、袋状の尻尾から、大きく〝国際警察〟の文字が踊る大きな封筒を取り出す。
「きょくちょーからお手紙ですっ!」
「はぁーい。オツカレサマなのですよー」
月に一件、ツキネは父から仕事を請け負っている。
そうしてその仕事は国際警察絡みだけあって、大抵において不愉快なものだ。
しかしやってやったぜ、と得意満面なデリバードに罪はない。
ツキネはあからさまな表情を引っ込め、受け取りにサインして受領書を差し出す。
「ありがとござーましたっ!」
ニコニコ顔で受領書を尻尾にしまい、デリバードがドテドテ退出していった。
ドアが閉められると同時に、ツキネはやる気なくクッションの上にぺしょんと伸びる。封筒がメタングに向かってふよんと飛んだ。
「めたー。めた要約してなのですー」
「えー? やだよ。ツキネやればいいだろ」
「やーなのです。面倒くさいのです」
「は? それ言うなら自分だって面倒くさいんだけど」
ふたりのサイコパワーに押し合いされて、封筒がしゅぱぱぱと新種の生物のように室内を往復する。
「お姉さまの言うことには素直に従うものなのですー」
「たかが生まれ順が先ってだけの立場にそんな権利が付属する訳ないだろ。物考えて発言しなよ」
ツキネは上半身だけ起こしてメタングを睨んだ。
メタングも冷たい目でツキネを睨んだ。
「ええい弟のくせに生意気なのですよめたー! 素直に要約していればいいものをー!」
「ハァー? 横暴なツキネに言われたくないですぅー! 姉らしく敬われたいなら相応の振る舞いしてみせればぁー!?」
あらゆるクッションがふたりの間を残像すら見える勢いで飛び交い、そこかしこでサイコパワーの衝撃波がぶつかり合う。犠牲になった残骸が雪のようにふわふわと舞う頃。力尽きたツキネが大の字になってふてくされている横で、試合に勝って勝負に負けたメタングが、いかにもしぶしぶ、といった様子で封筒から分厚い紙束を引っ張り出した。
書類が空中を泳ぎ、ぱらぱらと広げられていく。
「えーっと? 今回の仕事内容は、世界的な指名手配犯であるポケモンハンターグループの捜索、だね。十数人規模のグループで、リーダーが〝ビューティー〟。幹部ふたりが〝グレート〟、〝ワンダフォー〟の通称で……」
びたんっ
突如として響いた生っぽい音に、メタングの言葉が途切れた。
吸い込まれるように、ふたりの視線が音源へと集中する。
――窓に、ルリリが張りついていた。
「うわすご」
メタングが感心とも呆れともつかない感想を漏らす。
ツキネの部屋は地上三階である。翼も無ければ浮遊もできないルリリが、いったいぜんたい何をどうして出っ張りもないような窓にしがみついているのか。ずりずりと無情な物理法則に引きずられて滑り落ちながら、ルリリが短い足と尻尾で気合いの入ったビートを刻む。
「たの! もう! じゃー!」
バンバンバンバンバンババババババババババブブ。
「ええい窓ガラス割る気なのですかお前は!」
ずり落ちつつも全力ラッシュをかますルリリを、ツキネは跳ね起きてサイコパワーで引きはがした。
バン! 窓が勢いよく開く。投げ込まれるようにして部屋へと迎え入れられたルリリが器用にしゅたっ! と着地した。
「大変なのじゃ助けて欲しいのじゃ! そなたがウワサに名高いマシロのつよつよエスパーニンゲンなのじゃ!?」
「つよつよエスパーニンゲン」
そのままの勢いで至近距離へ迫ってきたルリリを押し戻し、ツキネは思わず真顔になった。
鳥ポケモンの間で何気にウワサになっているらしいのは把握していたが、よもやそんな呼び方をされていようとは。
「つよつよエスパーニンゲン……」
書類を片付けながら、含みを込めてメタングが噛み締めるように繰り返す。
まあ、間違っては、いない。いないけれども。
「つよつよ」
しつこいメタングを小突き、ツキネは咳払いして姿勢を正した。
「間違ってないですが、私にはツキネという名前があるのですね。それで、助けて欲しいとは?」
ぶんぶん尻尾を振り回しながら、勢い込んでルリリが叫ぶ。
「みんなが悪いやつに連れてかれちゃったじゃ! ホトリも!」
ずいぶんと不穏な内容だった。
ツキネの横で、メタングもそっと姿勢を正す。
「これ、吾の宝物もあげるじゃ! 吾がんばるから、みんなを助けるの、お願いじゃから助けてなのじゃ!」
どこからともなく取り出した石を差し出し、ツキネを真っ直ぐに見上げて必死に訴えるルリリからは、とても強い焦燥と、仲間を案じる気持ちが伝わってくる。
叩きつけるような激しい感情に、ツキネは差し出された石を受け取り、力強く頷いた。
「ええ。任せるのです」
即答したツキネに、ぱあっとルリリが破顔する。
「ありがとなのじゃ!」
対称的に難しい顔で、メタングが念を押した。
「いいの? このルリリ、ナワバリ外のやつだよ」
「それでも、なのです」
何事にも優先順位はある。ルリリを助けるべきは本来、ルリリのナワバリのヌシである。
ただ、基本的にポケモンはトレーナー持ちか、渡りをする習性でもない限り、ナワバリを移動する事が無い。ルリリという種も渡りの習性は無かったはずだ。
だというのに真偽も定かでないウワサを頼みに、助けを求めてはるばるナワバリ外のマシロまでやってきた。
その実力も性格も分かっている自身のナワバリのヌシではなく、わざわざツキネを訪ねてきたのだ。何か事情があるのかもしれない。ならばその労を報い、熱意に応えて然るべきだろう。
「大山鳴動してコラッタ一匹、って可能性もあるけど……」
「その時はその時でしょう。めた、外出の準備を――」
「許すワケねえだろがバカタレ」
当然のように混じってきたガオガエンの声に、ツキネとメタングはぎくりと身体を硬直させた。「ぴぅー!?」伸びてきた腕に頭をわし掴みにして持ち上げられ、ルリリがじたじたと尻尾を振り回す。
しまった、と言わんばかりでそーっと見上げるふたりを、見慣れた強面が、苦虫を噛み潰したような表情でじろりと見下ろした。
「ったく、デリバードと同じタイミングで入ってくるたあ運のつえぇガキだ。……もうちっとデカけりゃブッ飛ばしてやんだがなあ。ホレ、おとなしく帰った帰った」
「だめなのですー!」
「待っておじさま止まって止まってー!」
踵を返すガオガエンに、慌ててツキネがルリリの尻尾をはっしと掴み、メタングがドア前で通せんぼする。
「確かにルリリはナワバリ外のやつだけどさ、わざわざウワサだけを頼みにここまでやって来たんだよ!? そんな問答無用でつまみ出さなくってもいいじゃないか! ね、助けてあげたっていいだろおじさま!!」
「そうなのですちょこっとお手伝いするだけなのです! テレポートでパって行ってすぐ終わらせてくるですから! お夕食までには戻るですから行かせて欲しいですー!」
力いっばい引っ張られ、ルリリが「吾ちぎれる! 吾のシッポちぎれるんじゃー!」とせっばっまった悲鳴を上げて足をじたばたさせる。ガオガエンが鼻を鳴らして手を離した。
「きゃわー!?」
「びゅいいー!」
勢い余ったルリリが明後日の方向にすっぼ抜け、ツキネが反動で宙をくるくる舞う。
「ギィイッ!」メタングの両眼が輝く。サイコキネシスの手助けに、ツキネはギリギリで壁への衝突を免れた。天井に激突したルリリが、ゴムボールのようにベッドへダイブする。
それを横目に、ガオガエンが腕組みをした。苦々しく顔をしかめる。
「ダ・メ・だ。まーた安精け合いしやがったな」
取りつく島もないガオガエンに、ツキネとメタングが口を開く。
しかしふたりが喋り出そうとするのをさえぎって、ガオガエンは断固たる口調で続けた。
「困りごとに首突っ込んでいいのは、オレサマのナワバリん中だけだ。外は危ねえってーのに、オマエラよわよわのチビども行かせるワケねえだろ」
「よわっ……」
「私達そんな弱くないっ!」
あまりの言いようにメタングが反論しかけ、それ以上の勢いで、ツキネが噛みつかんばかりで怒鳴る。
金茶の髪が怒りを孕んでざわざわと揺らめき、感情を反映して荒ぶる力が室内の家具一切合切を重力から解き放つ。それとは真逆に、空気が自分の質量を思い出したかのように重みを増す。窓がキィイイイと悲鳴を上げて細かく震えた。
強力なエスパーであるツキネの怒りは、普通の子どもの怒りなど比にならないほどタチが悪い。
本人に一切その意図がなくとも、手足を動かすより過敏に、生まれついての力が感情に反応するからだ。
生物にまで力の影響を及ぼしていない時点で、ツキネは怒っている割には理性的な方だった――それでも弱者にとって、彼女の怒りは恫喝に等しい。
「弱いだろうが、オレサマたちより」
けれど、ガオガエンは高レベルであるのみならず、エスパー能力の効かないあくタイプだ。
赤ん坊の頃から一緒にいるツキネの怒りに動じてくれるような、か弱い神経の特ち主でもない。
にべもなく言い放ったガオガエンにぐっと一瞬言葉に詰まり、「っそれでも!」とツキネは目を吊り上げて反論する。
「私もうすぐ十一歳なのです! ずっと弱いトレーナー達だって、もう旅に出てるのですよ!? なのにおじさまもおばさまもダメダメばっかり! いつになったら自由に外へ行って良くなるですか!?」
「決まってんだろ。オレサマたちが軽く一蹴できるようになったら、だ」
「おじさま達とのタイブ相性最悪なの知ってるですよね!? 滅茶苦茶なのです!」
「ついにキレたな……」
あっという間に蚊帳の外においやられたメタングが、遠い目をして天井を仰いだ。
ヒートアップするツキネの怒りに呼応して、がったんごっとん、激しく家具が飛び眺ねる。メタングは粛々と、ベッドで伸びているルリリを自分の下へ退避させた。
苛立ちのままに尻尾で床を叩きながら、ガオガエンが「あのなァ」と疲れたような、何故理解しないのかと嘆くような口ぶりで、噛んで含めるように言い聞かせる。
「ただでさえツキネは動けねえ時間が長いんだ。力だって使いすぎりゃあ命を削るってのに、オマエラお構いなしにつっ込んでくだろーが。その程度もできねェで、おちおち外なんざ行かせられっか」
親代わりとして、ガオガエンの言葉は至極もっともだ。
生まれついてのエスパーで、ポケモン並みの力が使える規格外であろうとも、背負ったハンデがハンデである。唯一の手持ちであるメタングも、平均的なトレーナーのレベルからすれば十分強者の部類ではあるが、なまじ力も自信もあるからこその無鉄砲さを思えば、旅立たせるにはいささか不安要素が勝る。
「……! ……ッ!!」
しかし、それはあくまで保護者の言い分。
どんな事情があろうとも、旅立ちは全ての子どもに与えられた権利で、通過儀礼だ。
旅立つのか、旅立たないのか。どこまで行くのか、いつ終わりにするかだって、決める権利があるのは子どもの側。
親が心配するほどには、子どもは何もできない訳ではない。失敗も後悔も挫折まで含めて、旅は子どもに許された〝冒険〟なのである。
腹が熱くなるような激憤と、力をコントロールしようとする理性の狭間で悶えながら、ツキネは威嚇するように歯を剥きだしにしてガオガエンを睨みつける。
「キュウクツだろうが聞き分けろ。それがオマエのためだ」
ガオガエンの過保護はいつもの事だ。今までならツキネだって我慢して受け入れていた。けれど、昨日のグラエナとの一件に加え、マーシャドーとの事もある。
ただでさえ鬱屈を持て余していたツキネに、ガオガエンのお脱教は火に油もいいところだった。
「ちがう」
激情を湛えた低い声音で、ツキネが唸るように否定する。
ルリリの口に〝げんきのかたまり〟を押し込んでいたメタングが、弾かれたように顔を上げた。やべ、と言わんばかりに慌ててクローゼットへ飛びつく。
「おじさまもおばさまだってっ……自分がもう、後悔したくないだけではないですかっ!!」
ガオガエンが顔を強張らせた。
会話の途切れた瞬間を狙い撃ちするかのように、ドアについた小型ポケモン用の出入り口から灰色の弾丸が立て続けに飛び出してくる。
「とーさまとーさまとーさまぁあああ!」
「たいへんたいへんたいへんんんんんんー!」
「たすけてたすけてやばいのぉー!」
キャンキャンキュンキュンと涙声で、脇目も振らずガオガエンに三つ子のポチエナ達が飛びつく。
なんでもかんでも大げさに騒ぎ立てるのはいつもの事だったが、それでも大騒ぎで乱入して来た我が子達に、ガオガエンの意識がそれる。
その隙を見逃さず、ツキネはサイコパワーでルリリとメタングを強引に引っ張り寄せた。
「ぴゅぅー!?」
「ギギュゥウウッ、ツキネ待って、せめてあとポシェットー!」
目を覚ましたルリリが混乱しながらジタバタもがき、メタングがコートを引っつかんで抵抗する。
それらをスッパリ黙殺し、ハッとした様子で手を伸ばしてくるガオガエンに吐き捨てた。
「どう生きるかは、私が自分で決めるです! おじさまのバカ!!」
「びゅぅいいっっ!?」
ツキネの手のひらがルリリの額を強打する。
ひときわ強い燐光を帯びて、ツキネの瞳が透明度を増して鮮やかにきらめく。
ぐにゃん、と空間が歪む。捻じれ、収縮し、テレポートの最中にルリリの持つ縁を辿って誘拐されたという仲間のいるらしき場所を後づけで強引に座標として設定し。
「ギッ」
目の前の光景が、舞台背景のようにくるりと塗り替わる。
さんにんは仲良く、凍てつく寒風吹きすさぶ何処かの上空に放り出された。
ルリリがすぅっと息を吸う。落下。
「びゃ゛ぁ゛あ゛ーっ!?」
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