キラキラと、ゴンの目が輝く。

キルアの目が、好奇心に煌く。

アークの瞳は、警戒と興味を半々に湛えている。



何か同レベルっぽいなぁ、とは傍観しながら思った。



白い蛍光灯の光の下、キルア・ゴン・の三人は簡素な長椅子に並んで腰掛け、飛行船探検の一時休憩をしていた。
そんな折、やっと起き出してきたアークが主人の膝の上に転がり落ちてきたのだ。
当然興味を示す年下の友人二人に、は自分のペットを紹介した。
この状況下で、確か何かイベントがあった気はするのだが、思い出せない事を言っても始まらない。

「うわぁ、尻尾ふさふさだ!ねぇ、触ってもいい?」

「でもさーゴン、コイツ警戒しまくりって感じだぜ?」

言いながらアークに手を伸ばすゴン、警戒されているのが不満なのか唇を尖らせるキルア。
それでも興味津々な辺り、まだまだ子供という事か。
若いっていいなぁと、自分も若い癖に異様に年寄りじみた感想を抱きながらいいよと頷く。

「どのみち、アタシ以外には懐かないからアークって。でも、二人を噛んだり引っ掻いたりはしないと思うよ」

「ホント!?やった!」

ぱっと表情を輝かせ、アークを抱き上げるゴン。
ミュ〜・・・・と不満そうに鳴きながらも暴れはしないアークの様子に、次はオレな、とキルアが結構楽しそうに自己主張する。
を間に挟んでアークと戯れる二人は、とてもイキイキしていて。
そんな微笑ましい光景から視線を外して前を向けば、目の前の大窓から見える下界の光景はまるで、黒い布の上に様々な色の光の欠片をばら撒いたみたいな、無秩序だれど鮮やかなネオン。
個人的には満天の星空の方が好きだったりするけれど、これはこれでいいなと思わないでも無かった。

「あのさ」

キルアにアークを渡して、ゴンが口を開く。

「んー?」

「何?」

アークの毛並みを堪能しながらキルアが生返事を返し、窓の外から視線を外してゴンに向けたが問う。
それぞれな返答をする二人を気にする事無く、ゴンは視線でアークの動きを追いながら。

「キルアとの両親は?」

「ん―――?生きてるよ―――――多分」

「・・・・・さぁ。祖母(?)ならピンピンしてるけど」

アークと戯れながら、やや上の空で返事をするキルア。
その後を次いでそう言って、は再度、窓の外へ視線を向ける。
元の世界の両親は、少なくとも分かれた時点では健在だったが“こちら”にはいないのでこうとしか言い様が無い。こちらの世界での“親”に該当する師匠はと云えば結構な歳なんだろうがそう簡単にはくたばりそうにも無いし、第一、そんな姿を想像できないから当分は生きているだろうと思う。

「何してる人なの?」

「ハンター」

「殺人鬼」

に次いで言われた言葉に、二人の視線がキルアに集中する。
そして、一般常識からすればとてつもない発言に対するそれぞれのコメントはと言えば。

「両方とも?」

「うわ、夫婦喧嘩とか凄そう」

そんな、何とも微妙なものだった。
アークを抱いてこちらを見たまま、一瞬動きを止めるキルア。

「あははははははっ!おもしろいなお前らー!!!」

心底可笑しそうに噴出して、笑いながら言い放った。
そんな少年を見ながら不思議そうに瞬きするゴン、ちょっと不満そうな

「そんなヘンな事言ったの、お前らが初めてだぜー!?」

「・・・・・・そんなヘンだった?」

憮然として尋ねるに、ゴンはふるふると首を横に振って否定する。

「ううん。だって、いまキルアが言ったのって本当なんでしょ。
 だからオレ、の言った事もそんなにヘンじゃないと思うよ」

仮定では無くて断言する口調で言われたその一言に、キルアは笑いを収めてきょとん、とした表情になる。
同時に緩んだその手から、するりとアークが抜け出しての肩へ駆け上った。

・・・・・・そういえばこの会話、マンガにもあったような記憶が。

曖昧ながらも甦ってきた記憶に、そんなシーンもあったっけ、とぼんやり思った。
今では自分もその登場人物になっていると考えると、なんだか妙な気分になる。

「なんでわかる?」

「なんとなく」

は」

「ゴンと一緒」

正確には“知っていた”訳だが、其処は曖昧に誤魔化して差し支えないだろう。
確かに、ゾルディック家の数人とは顔を合わせた事はある。
けれどそこでキルアの話題が出てきたりはしなかったし、そもそもキルアの口からファミリーネームは聞いていない。
何故知っているのかと追求されれば、場合によってはキルアに妙な疑いを植え付ける事になるだろう。

兄の方はともかく、キルアの事は嫌いじゃない。
その相手に好きこのんで嫌われようと思う程、は自虐的な性格をしていなかった。

そんな二人の反応に、キルアは「おっかしいなァ」と呟いて。

「――――どこまで本気かわからないコってのがチャームポイントだったのに」

「ふーん」

「新しいチャームポイントでも開発する?」

「んー、遠慮しとく」

淡々とした会話を交わしながら、ふと、何処からか視線を向けられているのに気付いた。
其処に敵意も悪意も、ましてや攻撃性も無い。ただ見ているだけ、というのが一番近いだろう。

「オレんち暗殺家業なんだよね。家族ぜーんぶ」

ゴンと同じようにキルアの話を聞きながら、奇妙に凝視し続ける視線に疑問を覚えた。
単なる通りすがり―――・・・・・に、してはやけに見てくる視線だ。
誰の視線だろう、とは内心で首を傾げる。頭の上に落ち着いたアークが視線の先にいる誰かをじっと見ているのは、何となく感じ取れた。特に威嚇する様子は無い。少なくともヒソカでは無さそうだな、とアタリをつける。

それに、あいつの視線だったらもっと禍々しいし。

内心そう呟きながら、多分イルミも違うだろうなーと考える。そっちでもアークは警戒しそうだ。
マンガの記憶を辿り直す事数十秒、次に起こるイベント(?)でネテロ会長が出てくると言う事に思い当たって納得した。
そっか、これって会長の視線か。疑問が氷解してしまえば、後はなんという事も無い。
特に気にする事も無く、キルアの言葉へ意識を戻す。

「ハンターの資格取ったら、まずうちの家族とっ捕まえるんだー。きっといい値段で売れると思うんだよねー」

「・・・・輝いてるねー・・・・」

やけにイキイキした表情で言われた言葉に、苦笑いしてそう呟く。
ゴンも言うべき言葉が見付からないのか、のそれと似たような笑顔を浮かべているだけだった。




瞬間。




「――――ッ!」

一瞬視線に乗せて放たれた、鋭い“気”――――それは攻撃的な要素は薄いものだったが、その存在を知らしめるには充分過ぎるほどに強かった。認識は刹那。ゴンとキルアが長椅子から跳ねる様に離れて態勢を立て直して視線の飛来した方へふりかえる。かなりの反応速度だが―――遅い。は胸の内でそう呟く。とっさの反応で同じように長椅子から跳ね起きて構えの態勢を取る彼女の視界の端を、ネテロ会長が横切っていく。

速ッ!?

修業でシゴかれているが、何とかついていける速さ。
これで本気を出されれば、あっと言う間に置いて行かれるだろう。


「!?」


二人とは真逆、つまりネテロ会長のいる方を見据えるの後ろで、背中合わせの体勢である二人が驚くのが感じられた。
一方ネテロ会長はと言えば、唯一自分を追いきれた少女を見ながら、感心したようにほぉと言って。


「どうかしたかの?」


ゴンとキルアに向かってかけられた言葉に、背後の二人が勢い良く振り向くのが分かった。
キルアが一瞬、ちょうど彼の後ろにいたの姿に目を見張り――――次いで、ネテロ会長を見て眉をひそめる。
ゴンも、ふりかえった先にいる会長の姿を認めてきょとん、とした表情になると、「あれ?」と不思議そうに呟いて。

「ネテロさん、こっちの方から誰か近づいてこなかった?」

「いーや」

うっわ、言い切りやがったこのジイ様。

飄々とした様子でその言葉を否定する姿に、思わず苦い顔になる。
師匠並に食えなさそうなジイ様だ。
キルアも、視線では追いきれていなかったものの先程のがネテロ会長であったのが分かっている様だった。
の背中を一瞥してから、硬い声で言う。

「・・・・素早いね、年の割に」

「今のが?ちょこっと歩いただけじゃよ」

その一言に、びしびしびしィっ! と空気が帯電していびつに歪んだ。気がした。
殺気立って睨むキルアに受け流すネテロ会長、何が起きているのか分からず二人を交互に見るゴンと、状況は把握していても冷汗たらして見ているだけの

・・・・・うーわー・・・・・・・・・キルア、目つきがすっごい凶悪になってる(汗)

「何か用?じいさん、最終試験まで別にやることないんだろ?」

そう言う彼の声からは、敵意しか感じられない。
気の弱い者ならそれだけで怯みそうな冷たい視線を浴びながらも動じない辺りは、ハンター試験最高責任者の貫禄か。
どの道、これだけの実力差があれば警戒する必要など無いだろうが。

「そう邪険にしなさんな、退屈なんで遊び相手を探してたんじゃ。どうかなお三方、ハンター試験初挑戦の感想は?」

「うん、楽しいよ!想像と違って頭使うペーパーテストみたいなのないし」

「んー・・・・・まぁ、こんなもんじゃないですか?もうちょっとハードル高くてもいい気はしますけど」

「オレは拍子ぬけしたね。もっと手ごたえのある難関かと思ってたから」

問いかけに対し、三者三様の答えを返す三人。
まぁ、試験の種類によってはハードル高くされると困るんだけど。(例:メンチの料理試験)

「次の課題は、もっと楽しませてくれるんだろ?」

「さぁ、どうかの―――?」

挑発的なキルアの台詞を、そらっとぼけた表情で退けるネテロ会長。
付き合ってられないとばかりに、キルアがゴンとの肩を抱いて背を向ける。

「行こーぜ、時間のムダだ」

「まぁ待ちんさい。おぬしら、ワシとゲームをせんかね?」

「「「?」」」

言われた言葉に、そろってネテロ会長を振り向く三人。
ゴンは純粋な疑問の表情、キルアは何だよとでも言いたげな表情だ。
あ、そういえばそんなイベントだったなぁと思うの頭上で、アークがこしこしと前足で顔を洗っていた。



「もしそのゲームでワシに勝てたら、ハンターの資格をやろう」



「「!」」

息を呑むゴンとキルア。
しかしはと言えば、さして興味も無さそうにあくびをして。

「アタシ、パス」

「えーっ!?なんで!?!?」

「マジかよ、ゲームで勝てば残りの試験やらなくていいんだぜ!?」

言われた言葉に、信じられない!という表情で非難めいた声を上げる二人。
そんな二人に向かって、は唇を尖らせて。


「だって眠いし」


やけに堂々と言い放たれた言葉に、二人がきょとりと瞬きした。
ネテロ会長が、何やら詰まらなさそうな表情をしていたが無論頓着する訳も無い。

「・・・・・それだけ?」

「うん」

おそるおそる、といった様子のゴンの言葉にこくりと頷く。

他の受験生に比べればラクしてる方だけど、実際眠いのは確かだし。
第一ボール取れると思わないしさそのジイ様から。

「そんな事言わないでやろーぜ」

「ヤダ眠い」

「そう言わんと、老い先短い年寄りの遊びに付き合ってくれんか」

「い・や」

なおも不参加を貫くに、彼等もついに諦めたらしい。
そろって残念そうな三人の内ゴンとキルアに目を向けて、ぐっと親指を立て。

「アタシは参加しないけど――――頑張ってね、二人とも♪」

「うん!」

「先に合格してるぜ、

「結果教えてね―」


にっと笑って返した二人に背を向けて、はその場を後にした。
真夜中に行われたゲームの勝敗が、二人の負けに終わったのは――――翌日の朝、聞いた話である。






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クラピカとレオリオは原作通り休憩中。