「やっほー。ゴン、キルア」

「「!」」

二人とも、再会を素直に喜んでくれるのは嬉しいんだけどね。
そろって抱きつくのは止めた方がいいと思うのですよ?


向こうで怖いおにーさんが殺気出してるしね。









「良かったー。途中で姿見えなくなったから、オレもキルアも心配してたんだよ」

心底ホッとしたした表情で、ゴンがにこっと笑う。
その邪気の無さに、はメンチのメニューサボったのは黙ってようと心に誓った。

言えないよねぇ・・・・心配させといて、優雅にランチタイムやってましたなんてさぁ。(苦笑い)

「まっ、無事で何よりだぜ」

「あははー、ありがと。二人とも」

追求されないのを良い事に、笑ってごまかす事にする。
目的地である“マフタツ山”は森林公園にあった会場からは近かったらしく、この飛行船に乗り込んでから十分も経っていないというのに大窓からはその名の通り、真っ二つに割れた山が見えた。

「数分で到着しそうだね、この調子なら」

「次の課題はゆで卵だし、今度こそ合格できそうだよね」

がマフタツ山を見ながら到着時間を予測すると、ゴンが同じように山を見ながら言う。
中間部分のみがぽっかりと無くなっているあの山は、結構不自然な形だと思う。
誰かが一刀両断したように、奇麗にぱっくり割れている山。

水の浸食で出来たのだったら、それはそれで凄いんだけども。

大窓近くの椅子に並んで腰掛けながら、わいわいと会話に興じる達三人。
出会って一日と経っていない訳だが、歳が近い受験生が少ない分だけ仲良くなるのも早かった。
からすればクラピカも年齢が近いのだが、何故か会話する機会には恵まれていない。

「でさー。コイツ、香水のニオイたどって戻ってきたんだぜ?」

「ほんとに犬並みだねソレ。でもさゴン、それだけ嗅覚鋭いと、レオリオの近くにいるのきつくない?」

「もう慣れたから平気だよ。マヒしちゃうから

「「や、それはヤバい(から)(だろ)」」

ユニゾンで両側から突っ込む二人に、えへへーと笑うゴン。
照れくさそうなのは萌えとか正直良く分からない自分でも可愛いなぁこれが萌えるって気持ちかなとか思う程度には愛らしいからいいんだけど、今の会話の何処に照れる要素があったのかは疑問に思わないでも無かった。

「何の卵でゆで卵するんだろうな」

「卵っていったら鳥じゃない?」

クモワシの。

実際は知っている事を、さも知らないような口を聞くのは良心が痛む。と言う事は無い。
どのみち、知っているのはそうたいした事でも無いしね。
時々口が滑りそうになる事さえ注意していれば、未来の情報を漏らしてしまう心配は無いだろう。
漏らしたって痛くもかゆくもないんだけどさ、アタシにとっては実害無いし。
まぁ追求されたりするのも面倒だから、言わないって事でファイナルアンサー?

「猛獣のって可能性もあるよ」

横から口を挟むゴン。
その時、飛行船内にアナウンスが流れた。



『試験会場に到着いたしました。受験生の皆様は―――――・・・・・』



「時間かー」

「ゴン、、行こうぜ!」

スピーカーの方を向いて呟くの反対側で、そう言ってキルアが立ち上がる。
さっさと先を進むその後ろ姿に、ゴンと一緒に立ち上がって。

さぁノーロープバンジーにレッツトライ。

淡々とした調子で、こっそり心の中で気合いを入れた。



 ■   □   ■   □



吹き抜ける風、切り立った渓谷。

強く耳元で唸りを上げるその風は、軽いものだったらあっさり吹っ飛ばせそうな程。

ヒュウヒュウと泣いているような音に混じって、轟々と流れる水の音がした。
距離的には遠いが、勢いからしてかなりの急流だろうな、とぼんやりそう思う。
無造作に崖に歩み寄って、その下を覗き込んでみる。
視線の先では底の見えない暗闇が、強い光の影になってはるか先を覆い隠していて。


「安心して、下は深ーい河よ。流れが早いから、落ちたら数十キロ先の海までノンストップだけど」


あっさりとした口調で、そこかしこで同じように下を覗き込んでいる受験生に向かって告げるメンチ。
深い河だから落下しても死ぬ事はないだろうが、数十キロ流される課程で溺れ死ぬ可能性は充分すぎるぐらいにあると思われるのだが。肝の小さい人間なら、それ以前に恐怖のあまり心臓が止まるような気もする。
スポっと履いていたブーツを脱ぎ捨て、無造作にぺいっと放り出して。


「それじゃ、お先に」


一瞬たりともためらわず、谷底へと自ら落ちた。



「「「「「「え――――――――!?」」」」」」



その行動に絶叫しつつ、谷を覗き込む受験生達(一部除く)
はといえば、「おぉ、ナイスダイブ!」とか言いながらメンチの動向を見物していた。
何かもう、緊張感の欠片たりとも存在していない。
ネテロ会長がメンチの行動の理由、そしてこれからすべき事の説明をしているのを聞き流しながら、谷底から吹き上げる風に煽られて乱れる髪を押さえた。


「よっと」


待つ事しばし。
戻ってきたメンチが、崖の下からひょっこりと顔を覗かせる。
片手に持った卵を見せながら、にっこりと笑った。

「この卵でゆで卵を作るのよ」

それを聞き、受験生の半数程が言葉を失う。
何せ、飛び降りるのは本格的に底の見えない断崖絶壁。
そんな所から飛び降りるのは、せいぜい自殺志願者か飛び降りマニアなチャレンジャーぐらいだろう。
どちらにせよ、正気の沙汰では無い高さなのは確かで。

しかし。

「あー、よかった」

「こーゆーのを待ってたんだよね」

「走るのやら民族料理より、よっぽど早くてわかりやすいぜ」


ハンター。

それはある意味、世界でもっとも危険な職業だ。
そしてそのハンターが、普通の神経で務まるはずが無かった。



「そりゃあ―――!!」



勢い良く彼女の脇を通り過ぎ、ばらばらと谷底へ落ちていく受験生達。
その後ろ姿を見送りながら、はぽつりと呟いた。


「・・・・・念使えばラクなんだけどなー」


彼女の能力、重力操りの薙刀 【ウィッチ・グラヴィティー】を使えば、下りるのも上がるのもそう意図するだけですむ。
だがそれを使うとなると、視線の集中は免れない。
何せ、この場において念を使えるのは試験官とネテロ会長、そしてヒソカとイルミぐらいだ。
ほいほい能力を見せるのは、軽率な行いでしかない。

それに――――――


「やっぱ・・・フェアじゃないと、ね」


僅かに微笑して、そう呟いて。
も勢い良く、崖に向かって飛び込んだ。








[ 第二次試験後半 ]

    メンチのメニュー
         合格者 : 43名








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