[ 第三次試験 ]

   開催場所:トリックタワー
   制限時間:72時間
   参加人数:41名
   ルール:




      ――――――― “ 生きて下まで降りてくる事 ”





窓も出入り口も取っ掛かりも無いように見える、巨大な円柱型をしたコンクリートの建物“トリックタワー”。
外から行くのは普通ならば自殺行為、入るには床にある仕掛け扉から行くしかない訳で。
だが、空を飛べるにしてみれば楽勝な筈だったこの第三次試験は――――


「・・・・・・・・・・・・・・・・・アタシの馬鹿・・・・・・・!」


――――ちょっとばかり、攻略難易度が上昇した模様だった。



 ■   □   ■   □



冷たい石畳の床に腰を据え、あぐらをかいて膝にひじを乗せて頬杖をつく。
最初はゴン&キルアと一緒に、知らないフリをしたままでは出入り口を探していた。
皆で多数決の道へ行くか、もしくはこっそり外から行く予定だったのだ。
あの道に関してなら、多少だが知識もある。その方がやりやすいと考えての行動だったのだが、塔のへりから下を覗き込もうとした時に何の因果か、偶然踏んだ床が何の因果か出入り口。
それでも鍛えられまくった運動能力を以てすれば、落ちなくて済んだはずだった。

なのにその時、ちょうど起きてきたアークが寝ぼけて頭の上から落っこちて。
それを捕まえる為に、身体をひねる必要があって。

結果的にバランスを崩し、は結局、トリックタワーの攻略をする羽目になったのだった。

しかしそれでも、せめて道が一人用だったならさほど悔いずには済んだのだが。
ちらりと視線を向けるその先には、円柱型の台に置かれた手錠が二つ。
そして、その直ぐ上の位置に埋めこまれていた鉄のプレートには、この道の説明が書かれている。




電光石火の道


君達三人は ここからゴールまでの道のりを
互いに手錠で繋がった状態で乗り越えなければならない
選ぶ道は複数だが 即座に道を決めなければ
ペナルティーを受ける事になる






手錠同士を繋ぐ鎖は、およそ一メートル程度。
動くのにさして支障は無いだろうが、それでも道の事を思えば充分な長さなのだろうと予想がつく。
ここに落ちてきてからおよそ三十分経過しているが、残りの二人が来る様子は今の所無かった。

「・・・・・・このまま落ちなけりゃいいんだけど」

切実な気分でそう呟き、落ちたとしたら確実に待っているであろう地獄図絵に顔色を青くする。
それにしても、“3”という数字がやけに不吉で怖い。

アタシ以外の二人がヒソカとイルミだったらどーしよ・・・・・!

かなりの高確率で、この塔を攻略できるのは確かだ。
どちらも念が使える上に実力は相当なもの。協調性皆無だが、それでも頼りにはなる。―――が、しかし。
あの二人と鎖で繋がれたままでトリックタワーの攻略をしようものなら、一階に到着する前に精神疲労で倒れそうだ。
少なくとも、著しい精神的ダメージは免れられないだろう。

・・・・・・・まぁ、他の受験者だったらだったで不安はあるんだけどさ。

天井を仰いで、はぁ〜・・・・・・と重たい溜息を一つ。
と、その時。の視線の先で、天井の出入り口が動きを見せた。
ズ、ズと僅かに沈みこんだ石の動きに、じっと凝視する。
数秒間の間。そして、



―――――ガコンッ!



の見ているその前に、一人の少年が落ちてきた。
動きやすそうな服装に、ターバンを連想させる帽子を被っている。髪は、と同じくらいのセミロング。
背中に弓矢を背負っている処から見て、それが彼の獲物なのだろう事は容易く見当がついた。
立ち上がり、こちらを見てぎょっと目を見開く少年に向かって笑って片手を上げる。

「いらっしゃい」

「・・・・・ぇ、ええ!?あ、ああ、どうも・・・・・」

数瞬の沈黙の後、どういう訳か耳まで赤くしてうろたえる少年(多分年上)
その行動に何となく疑問を覚えなくも無かったが、比較的よく目にする反応だったのですぐさまその疑問を脳裏から抹消し、取り敢えず鉄のプレートの方を指で示して。

「この道の説明だったら其処。あと、ここって複数で攻略する道らしいから―――あと一人来ないと、出発できないよ」

「あ、ああ。そうなのか?」

動揺しながらもの言葉に反応し、指差す先のプレートに目を走らせる。
そのプレートを辿る少年を、アークが早々にリュックに引き篭もってしまって暇だったので眺めてみる。
こちらの視線を気にしながらも文面を読み進め、手錠を見て、再度プレートを見る少年。
その表情が戸惑いから軽い驚愕、困惑したようなものに変るのを見ながら表情が豊かだなぁとそんな感想を抱く。

さて、残る枠はあと一名な訳なんだけど。
ハンター試験で友達になったのって男ばっかだし、できれば同性がいいよね。

・・・・・・・・・・・・・あ、いややっぱヒソカとイルミ以外だったら誰でもいいや。

天井を見上げて、最後の一人がどんな人物かを考える。
その際自分の願望混じりだったり、その願望にすら出張してきた不吉な顔ぶれにやけに許容範囲がやけに広範囲になったりしたのは――――・・・・・・・まぁ、想像ゆえの自由さとでも言っておこうか。
一気に冷えた心に、少年との会話が無い故の寒々しい沈黙が染み渡っていたたまれなくなる。
それを振り払うように、は自分以外で唯一そこにいる少年に声をかける事にした。


「・・・・・・・・・・・・あのさ、」


「ぅわあはっ!?な、何だ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

大袈裟なくらい驚いてこちらを振り向く少年に、何とも微妙な気分になる。
ヒソカやイルミよりはまだいいがやけに挙動不審な少年に、本当に第三次試験をクリアできるか、不安に思ったに非は無いだろう。合格できなかったら頼んでもいない地獄が拝める訳だし。

「・・・・・・どうせこの試験の間は協力する訳だし、自己紹介くらいはしとこうと思って。アタシは。よろしく」

「あ、ああ。オレはポックルだ・・・よろしく」

まごつきながらも、差し出された手を握る少年。
そんな些細な行動さえも、やけにぎこちなく見える。

と、その時。



―――――ガコンッ!



背後で音。次いで、誰かが着地する気配。
振り返ってみれば、其処にいたのは――――間違ってもイルミやヒソカでは無い、女の受験生だった。
おそらく同年代であろう少女で、先ず最初に目に付いたのがやけに丸いラインの帽子。
ふわりと柔らかそうな髪が、彼女がこちらを振り向く動きに合わせて舞って。
アーモンド型の瞳が、こちらを見ると驚いたように見開かれた。少なくとも、武器を持っているように見えない。
の方を見たまま、頬を染めてぼうっとしている少女に向かってにこりと笑いかける。
すると、少女はビクンッ!と肩を震わせて後退りして。


「・・・・・・・・・・あ、あなたは・・・・?」


意を決したように、彼女を真っ直ぐ見つめて問いかけてきた。
あれ、ポックル眼中に無い?(汗)

「アタシは。それで、こっちはポックル。
 このルートは受験生同士で協力し合って攻略するらしいから・・・・・・まぁ、よろしくね?」

「え、ええ。よろしく・・・・・・私はポンズよ」

照れたような笑みを浮かべて、お互いの手を握る。
としては“一緒に行きたくない人ベスト2”じゃ無かった上に同性の受験生なので言う事無しであった。
ポックルは居心地悪そうではあったが―――まぁ、其処は我慢してもらうしか無いだろう。

今更、ルートを変える事は不可能なのだから。

「よろしくな、ポンズ」

「こちらこそ」

ポンズとポックルが握手するのを尻目に、は片手に手錠をかける。
ガチャン、と重々しい音と共に、手首に重量が加わった。
力を加えたら壊れそうな手錠だなぁなどと考えながら、ポックルとポンズに手錠を手渡す。

「はい、これつけてね」

二人が手錠を受け取り、各々の手首にはめる。
彼女達がポックル・ポンズ・という順番に鎖で繋がれるのにやや遅れて、重苦しい音を上げながら扉が現れた。






タイムリミットまで、約70時間。






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ハンター試験第三次:トリックタワー編。
道連れはお馴染み(?)ポンズとポックルのコンビでございました〜。