灼熱地獄を抜けたら其処は楽園でした。
心象イメージ的にはそんな感じ。

「ぬけたぁあー・・・・・・!」

一分ごとに1℃ずつ温度が上昇していくという拷問チックな迷路をとうとう抜け出し、は歓声を上げて座り込んだ。
迷路を攻略するのに40分もかかってしまった為、頭がもうろうとしてくるくらい熱かったのだ。
汗を吸った服が、肌に張り付いてくるのがうっとうしい。

たく、あの迷路はマジで試験官サドだとしか思えないよ!ローストにする気かっつの!!

ポックルとポンズも、冷たい石の床に転がったままぐったりとしている。

「水飲みたい・・・・・」

「・・・・・同感だ・・・・・・・」

げんなりとした疲れきった声で、呻くように呟く二人。
アークがだらしないなぁ、と言わんばかりにぺちぺちと尻尾で頬を叩く。
毛皮モコモコなくせになんでそんな元気なの。

「・・・今、何階なんだろうな・・・・・・」

床に寝転がったまま、ポックルが憂鬱そうに呟く。
電光石火の道はいくつもの分岐点があり、その分岐点へ到着するごとにどのルートで行くかの選択を迫られる。
選ぶ道よって当然ながら難易度は違い、何も無い道もあれば落とし穴だらけの道やら地雷だらけの道やら足を踏み外せば高圧電流の流れるケンケンパで進む道まで様々だ。
気持ち的にはじっくり選んで決めたい所だが、“電光石火の道”と名付けてあるだけに、そんな時間は取らせてくれない。
分岐点が見える、ある一定の距離までくると仕掛けられたカウントが始まり、それがゼロになるまでにどれかの道を選ばなければ一番困難な試練に通じる道を残して、他の道の扉が閉まるのだ。
それだけでも厄介なのに、そこにぺルナティーまで加わるのだからたまらない。
道の難易度がパワーアップしたりとかほとんどセクハラな質問に答えさせられたりとか。

「結構進んだ、とは思うけど・・・・何とも言えないわね」

精神的に余裕が持てない上、微妙に上り坂だったり急激な下り坂だったりの多い道である。
正確な判断ができる訳も無かった。
ポックルとポンズがそろって盛大なため息をつくのを聞きながら、は道の先へと視線を向けて。

「この第三次試験の担当者って何考えてるんだろ・・・・・」

そこに用意されていた試練に、思わず半眼で呟いた。

「本当、何したいのかしら・・・・・・」

ネタが尽きたのか・・・・・?」

それを見た二人も、理解不能と言いたげな表情でぼやく。
どでんとそこに積まれていたのは、図案の描かれたブロックピースの山だった。
壁は長方形の形にくぼみができていて、ちょうどそのブロックが収まる幅になっている。

つまりこれは、壁面パズルという訳だ。

部屋に出口が見当たらない事から察すると、おそらくピースをすべて壁にはめ込んでパズルを完成させない限り、次へ進む事はできないのだろう。まさに時間との戦い的な試練だ。
が、 これがハンターになる事とどう関係しているんだ と本気で思わずにはいられないのもまた確かである。
屁理屈でいくらでも理由は付けられそうだが。

「残り25時間か・・・・・」

ポックルが、手錠に備え付けられたタイマーに視線を落として渋い顔をする。

「あと約一日・・・・・本当に攻略できるのかしら」

「さぁ」

弱気なポンズの言葉に肩を竦めて、ブロックピースを持ち上げる。
とりあえず、攻めるなら下の方からだろう。はめ込み式って言うよりは積み上げ式って感じだし、このパズル。
描かれた断片的な絵をピースの形を見ながら、どれが下辺のブロックかアタリをつけて。

「でも、心配してる間があったら目の前の問題に集中した方がいいんじゃない?
 そっちの方がよっぽど前向きだし―――――」

不安そうなポンズに向かって、にこっと笑いかけて。

「ひょっとしたら、もうゴールの近くかもしれないでしょ?」

「〜〜〜ッ!!!!!」

ぼしゅうぅっ!


ポンズの顔が一瞬でトマトより赤くなる。
その向こうではポックルが崩れ落ちて無言で床を叩きまくっていたりして。
ついでに監視カメラの向こうでは試験官がノックアウトされていたりするのだが、それは三人も知らない事である。

不意打ち笑顔に悶絶する二人に、分かってない張本人は不思議そうに首を傾げる。
一緒に頭の上のアークも首を傾げているのが超プリキュン。

「・・・・・どしたの?」

「なななななななんでもないわねぇポックル!!!!」

「っそそそそうだよなポンズ!!!気にするな!むしろ気にしないでくれッ!!」

無意識が罪なのか、美しさが罪なのか。
ともあれ無邪気な微笑みにうっかりトキめいてしまった二人としては、の顔を直視できなかったりする訳だが――――

「いや、気にするなって言われても」

よく分かってないだけに困惑気味だった。
ある意味天性魔性の女。

「そんな事よりパズル進めましょう!!えぇもう迅速に光より早く!!!」

「今のオレ達が気にすべき事はこれだけださぁ取り組もうこれだけしか目に入らないくらい!!!」

「え、あー・・・・うん」

二人の勢いに呆気にとられ、つられて頷く。
猛スピードでパズルを始める二人に何だったんだろうと思いはしたものの、まぁいいかと思い直してピースを運ぶだった。

そこはもっと気にしろ。



 ■   □   ■   □



そして8時間後。


「アリかこんなのぉおおおおおおお!!!!」

ポックルは全力疾走していた。

「いやぁあああああああ!!!」

ポンズも全力疾走していた。

「パズルだけの道じゃ無かったんだ・・・・・騙されたなー」

は二人に合わせて走っているので余裕ちっくだった。
しかし、三人ともこの上無く真剣に―――そりゃあもう前だけを見て必死に走っていた。
何故なら背後数十センチという余裕があるようでその実めちゃめちゃ際どい距離に、トゲトゲが素敵に凶悪動く壁 ハイスピードで迫ってきているからだ。
パズルを完成させた瞬間、動き始めたこの仕掛け。
壁からジャキーンッ!とトゲが出てきて迫ってきた時は本気で焦ったよもう。

今でもちょっとヤバイけどねっ!

ウィンウィンウィン・・・・と小さく響く機械的な音が、更に焦りを呼び起こしてくれてとっても有難くない。
本気で走ればこの程度のスピードの壁、引き離す事は簡単だ。
しかし三人そろって鎖で繋がれている状態でスピードアップしようものなら、着いて来れないポックルとポンズが引きずられて転ぶだろう。互いを繋ぐ鎖の長さは一メートル程度あるので、スピードを上げれば二人が串刺しになるのは確実だった。
一人コケたらみなコケ串刺し肉へとはや代わり☆な運命が待っている。
自分の為にも仲間の為にも、遅れたりコケたりする訳にはいかなかった。


やがて通路の先に見えてくるのは、三つの分岐点。


正面の通路の上にある四角の画面が、無慈悲に0に向かってカウントダウンをしていて。
そのカウントスピードにはげ、と呻いた。

「なんかカウント速っ!どの道行く!?」

「「(右)(左)!絶対(右だ)(左よ)!!」」

声をぴったり揃えて不協和音を叫ぶポックルとポンズ。
ちらりと互いに余裕が無い人間特有の、容赦の無い殺意混じりの視線を交わし合い――――同時にを見て叫ぶ。


「「が決め(ろ)(て)!!」」

「じゃ、中央で!」


てゆうか、距離的にも時間的にもそこしか行けないけどねもう!
カウントがゼロになる。無情に通路を遮っていく石の扉の真下へ、三人揃ってスライディングで滑り込む。
ずぅうう・・・・・ん、と背後で通路が遮断される音がして。


「は」「え?」「げ」


間の抜けた声が三つ、漏れる。
滑り込んだその先に、あると思っていた床は無かった。
そして万有引力の法則に従い当然のように、



落下。





「「「ぅわぁぎああごぉうあああああああああああっっ!?!?」」」






悲鳴が混じって壁に反射し、不協和音が尾を引いて響く。
とっさに薙刀を具現化しようとしただったが、直角フリーフォールがつるつる滑る急角度の壁に、そして滑り台へと変化するのにさして時間はかからなかった為に、危険無しと判断して体勢を整えるのみに留めた。
長いような短いような暗闇を抜け、一気に光の中に放り出される。
顔面に迫る床についた手を支柱にくるりと前転し、体勢を整えて着地したのその横で、ポンズがしたたか打ち付けた腰をさすっていた。

「いったぁ・・・・・・」

「立てる?ポンズ・・・・・・と、ポックルも」

運悪くポンズの下敷きになったらしい。
床に突っ伏し乗られた状態のまま、無言でひらひらと手を振るポックル。
心配無いと言いたいのだろうが、手に力が無い辺りにその余裕の無さが伺える。実は結構痛いのだろう。

「ご、ごめんなさいポックル!」

慌ててポンズがその上から飛び退いた。
まぁ元気そうだし大丈夫かなと検討をつけ、周囲をぐるりと見回す。
部屋には先程出てきた穴と、その反対側にはもう一つ出入り口が設置されていた。
横にはカギの置かれた台があり、その上には金属製のプレート。
そこに刻まれた文字に視線を滑らせて、は会心の笑みを浮かべた。

「どうやら、ゴールみたいだよ」

手錠のタイマーを確認すれば、残り時間はあとたっぷり15時間は残っている。
電光石火の道は結構ハードであまり休む時間が取れなかった(と言うか、取る場所が無かった)が、これなら残り時間でしっかり惰眠を堪能できそうだ。おっし睡眠時間確保ッ!

「間に合ったのね、私達!」

「これで三次試験はクリアだな」

カギを使って手錠を外し、軽くなった手首をさする。

「ねぇ。・・・・・・・・次の試験の内容次第じゃ、敵同士になるのよね」

「なに、いきなり」

唐突な言葉に、きょとんとしてポンズを振り返る。
複雑そうな顔のポンズを見て、次いで同じように不審そうなポックルと顔を見合わせて。

「・・・・・・だろうな。だが、オレはそうならない事を祈るよ。手の内が知られている相手とは戦い辛い」

「んー・・・・・まぁでも、ハンターって状況によっては仲間同士でも戦うし。いい経験にはなるんじゃないかな」

「そんなもんか?」

「そんなもんでしょ」

場合によっては、獲物をめぐって殺し合いだってする職業だ。
仲間と戦いたくないなんて言っていたら、ハンターなんて務まらないだろう。
戦いたくなくても、戦わなければならない時はある。
ハンターを目指す以上、覚悟しておかなければならない事だ。

「それに、別に戦うと言っても今回は殺し合う訳じゃないし。
 もし戦う事になったら、その時は全力で戦うのが相手に対しての礼儀だと思うな」

「全力で戦うのが、礼儀・・・・・・・・」

「そ。少なくとも、アタシはそう思うかな」

ヒソカやイルミなんかとは本気で戦いたくはないし、ゴンやキルア達ともできれば戦いたくない。
けれど、もし試合か何かで戦う事になったなら―――その時は多分、は真剣に試合に臨むだろう。
たとえ、実力差が判りきっていたとしても。
それは言うなれば、意地だ。


後悔したくないから。

負けたくないから。

だから真剣に戦って勝ちたいし、相手にも真剣に戦って欲しい。


ふ、とポンズの表情が綻んで。

「・・・・・・・・・・そうね。もしも敵同士になったら、その時は・・・・・・」

「ああ、その時は――――」

「全力で、戦おう」



軽くこぶしを突き合わせ、誓いを立てた。




「でも戦わずに済むにこした事ないよね」

「・・・まぁ(ね)(な)」(苦笑)






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トリックタワー攻略完・了!リッポーさんはきっとS。
ところでこのトリックタワーってトイレどーしてたんでしょうね。