「ご乗船の皆様、第三次試験お疲れ様でした!当船はこれより二時間ほどの予定でゼビル島へ向かいます。
ここに残った26名の方々には来年の試験会場無条件招待権が―――――」

ゆらゆらと波に揺られる船上で、そんな水先案内人の言葉を右から左へ垂れ流しながらは空を流れゆく白い雲を眺めていた。周囲は、先程行ったくじ引きで決められた“狩る者”“狩られる者”――――ゼビル島滞在中、己が狙うべき獲物は誰なのか、また、誰が自分を狙ってくるのかという疑いや不安でピリピリした空気が流れている。
しかしそんな空気も自分の獲物についても、今のにはどうでも良かった。

心にあるのはただ一つ。


「眠い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


緊張感も何も存在しない、ただし結構切実な生理的欲求。
本当なら、トリックタワー攻略後にあまった15時間全てをその為に使うはずだった。
というかそのつもりでいた。使えるはずだった、の、だが。

「じゃあボクの膝貸し「やっぱ眠くないですいりません



にこやかに笑顔で申し出るピエロなおにーちゃんの言葉を即座に遮る。
そう。トリックタワーを出ると同時にヒソカに「や 待ってたよ◆」と拉致られ、みっちり15時間ヒソカ曰くの“兄妹交流”としてトランプ遊びに延々付き合わされたのだ。
もちろん延々トランプ遊びなんて軽く拷問チックな状況は当然嫌だったので、も何度か止めようと主張した。
が、ゴーイングマイウェイなヒソカがそんな主張を聞き入れるはずも無く、訴えはことぐごとく笑顔で却下されまくったのだ。
ご丁寧に念まで使って拘束されれば、もはや観念するしか無いだろう。
なお、拉致される際ポックルとポンズに求めた助けは見事なまでに無視されたりした。

電光石火の道で築かれた友情は何処へ。

ゼビル島に着いたら絶対に、何がなんでもヒソカと別れてたっぷり寝よう、と誓った気持ちはきっとダイヤより硬い。
諦めてヒソカの膝枕で寝る、という選択肢はの頭には無かった。
確実に悪夢にうなされるだろうし、なにより安眠できそうにない。ついでにヒソカは生理的に苦手なタイプなのだ。
これで寝る気になれたら不思議としか言いようが無い。

「獲物は誰か分かるかい

「全然」

アークをころころ転がしながら肩を竦める。
ちなみに、の引いた獲物のナンバーは90。心当たりはまったく無い。

「別にいいけどね。適当に狩ればいいだけだし」

「自信があるのはいいけど、自分が狩られないようにね

その言葉に、軽く眉をひそめてヒソカの方を見る。
第四次試験に参加している受験生は25人。全員がここまで残っているだけに、相応の実力を備えているのは確かな事だ。
しかし、“それ相応”の実力と才能があったとしても相手は念使いでは無い。
戦闘向きでないなら話は別だが、少なくとも念使いにそうでない人間が勝てるとはとうてい思えない。

「・・・・・・どういう事?」

そして、今いる受験生の中で念を使えるのはを含めた三人のみ。
自然、声にわずかに緊張が混じる。
自分という存在は、本来原作には無い異分子。
異分子がある以上、何かが変わってきているのだとしても不思議は無い。
ヒソカの獲物もギタラクルの獲物も、原作とは違う人間である可能性だってある。

例えば――――アタシだったとしても、不思議は、無い。

視線が交差し。

「・・・・・・・・・・・・クッ◆」


ヒソカが噴き出した。


「何笑ってんのアンタ」

肩を小刻みに震わせ、喉の奥で笑いを噛み殺すヒソカに半眼で突っ込む。
まさか今のって単なる冗談かこのピエロ。
一瞬まさかアタシがヒソカの獲物!?とか思って緊張したアタシの立場は何処へ!?!?

「ゴメンゴメン つい☆」

「ついで済ますなっ!・・・・ったく、緊張して損した」

「油断大敵ってコトだよ

「・・・・・言われなくても分かってる」

笑い混じりの言葉に、唇を尖らせてそっぽを向く。
そうだ、言われなくっても分かっている。
アタシがヒソカの獲物、という事はたぶん無いだろうけど(根拠?何となく。)だからと言って先程の可能性が消えたわけでは無いのだ。ヒソカじゃなくても、ギタラクルやキルア、ゴン、クラピカ、レオリオ、ポックル、ポンズ――――この中の誰かが、を獲物としているかも知れない。他の誰かが、自分を狙っているかも知れない。
少なくとも、自分自身も誰かの獲物である事だけは確かで。

けれど――――だからといって、脅えてこそこそ逃げ回るのも趣味じゃない。

たった一年とはいえ、師匠の仕込みはダテじゃない。
たとえ相手がギタラクルでも、滞在期間中、完全に逃げおおせてみせる。
大半の人間が隠しているプレートを、まるで見せびらかすように堂々と弄びながら呟く。

「そう簡単に、狩られはしないよ」



 ■   □   ■   □



ゼビル島は、どうも人の手があまり加えられていない自然の島のようだった。
木々は威勢良く枝を伸ばし、下草は覆い茂るままに任されている。
青空と野生のオアシス的な自然を背景に、にこやかなハンター協会の案内人である女性の声が響く。

「それでは、第三次試験の通過時間の早い人から順に下船していただきます!
一人が上陸してから2分後に次の人がスタートする方式をとります!!滞在期限はちょうど一週間!!
その間に6点分のプレートを集めて、またこの場所に戻ってきて下さい」

「それじゃ、行って来るね◆」

「はいはい行ってらっしゃい」

おざなりな返事をしながら、アークを抱えて立ち上がる。
ようやくこいつと離れられるのは正直踊りだしたくなるほど嬉しいが、実は睡魔に大量にとり憑かれている状況なのでその余裕は無い。それでもきちんと返事をする辺り、は律儀といえるだろう。
くぁあ、とアクビを噛み殺す義妹(本人嫌々承諾)を振り返り、ヒソカはにっこりとチェシャ猫のように笑って。

「浮気はダメだよ

「どこかだーなってそこに行き着く!?」


「それでは一番の方、スタート!!」


が怒声と共に繰り出したハリセンの音と、案内人の女性の声が綺麗に重なって響いた。



[ 第四次試験 ]

   開催場所:ゼビル島
   滞在期間:一週間
   参加人数:26名



「45番、スタート!」


さぁ。



――――――ハント、開始だ。





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この後ばっちり寝ました。カッコ良く決めた意味無いな。