小鳥のさえずり、木々の葉擦れの音、遠く響いてくる潮騒。 ハンター試験第四次試験・ゼビル島――――そこでの試験は、無人島で一週間のサバイバル及び受験生同士によるプレートの狩り合いという、神経磨り減る、片時も気の抜けない消耗戦の側面もあった。 神経の細い人間、常人であれば確実に参ってしまいそうな状況。 しかしはと言えば姿を隠す事もせず、木の幹にもたれかかって堂々と惰眠を貪りまくっていたりした。 それも、プレートを胸に付けたままで。 肝が据わっているとも、自信過剰とも、さもなくば単なる考えなしなアホともとれる行動である。 「・・・・・・・んぅ・・・・・・・・・・・・」 うららかな午後の日差しを浴びて、はゆっくりと目を開いた。 ぼんやりした面持ちで何度かまばたきすると、背を伸ばし、両手を組んで空へと力一杯突き出した。 ぁふぁー・・・・・・・、というあくびと一緒に涙をにじませるその隣で、丸くなって寝ていたアークが飼い主そっくりの仕草であくびしながら伸びをする。 「んー・・・・っ良く寝たぁー!」 丸一日寝ていたのは“よく寝た”というより“寝すぎ”だが。 まぁとにかく、自称おにーちゃん(他称トランピン/←トランプ野郎の意☆)のせいでうつろだった頭も消耗しまくりーだった気分も、心ゆくまで睡眠したおかげで完全回復・すっきり爽快!である。 プレート(適当に)狩るぞー!!!と気合いを入れるの足元、アークがミゥ〜!と一声鳴いた。 「?どうかした、アーク」 こてん、と首を傾げてそちらを見ると、アークがカリカリと、草むらから出ている手を引っ掻いて―――― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「・・・・・ 手? 」 思わず半眼で呟く。 その頬には、先ほどまでは確かに無かった汗が一筋。 手は肌色で指は五本、滑らかな皮膚で毛むくじゃらとかでは無い。 まかり間違っても動物のものではなく、立派な人間様の手だ。 視線を少し上げてみれば、ものの見事なハゲ頭が―――――――・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」 なでなで。なでなで。なでなで。 「って、頭触ってる場合じゃない!」 ハンゾーのハゲ頭の輝きっぷりについやっちゃった!(ついでやるな) いやそれよりも、 や っ ち ゃ っ た よ ! ! ! !(汗) は頭を抱えた。先ほどの爽やか気分は何処へやら、暗雲再来である。 顔を上げて周囲を見回し――――途中、一点で視線を止めたもののほんの数秒でそらして――――辺りを確認すると、忍者コスプレのハゲ・・・・・もといハンゾーの他にも三人くらい、知らない誰か――――まぁ、ハンター試験受験生であるのは確かだが――――が転がっているのが見えた。 「しまったー・・・・・。まさかこんな展開になるとは・・・・・・・・・」 後悔するも、後の祭りだ。 付き合いのそれなりに深い人間しか知らない事だが、実はの寝起きはかなり悪い。 その寝起きの悪さたるや、起こしに来た、もしくはどんな形であれ睡眠の邪魔をした相手を問答無用の手加減無用でドツき倒して気絶させる程である。 しかもその間の記憶は本人、全く無い。つまり、完全に寝ぼけているのである。 そんな訳で彼女を起こす場合、同等かそれ以上の実力が無いと確実に殴り倒されて終わりなのだった。 まぁ、寝足りる、または無機物による大音量(例:目覚ましベル)でも一応起きる事はできるが。 そんな訳で。 「やばいな。ハンゾーは最終まで残るんだよね、確か。 プレート取る訳にはいかないし、かと言ってここで気絶させたまんまってのも不安があるし・・・・・・」 小声でそんな事を呟きながらも、てきぱきと他三名からプレートを強奪する。 ハンゾーはともかく、せっかく気絶しているので他のプレートはもらっておく事にしたらしい。 「200、199、198・・・・・・・・うわぉ、見事に連番。仲間――――じゃなくて兄弟か」 同じような格好+帽子、というのを除くとしても、顔立ち自体、かなり酷似した三人組である。 何となく覚えがある顔な気がして、たっぷり数十秒ほど考えてみたものの、いまいち思い出せなかったので思い出すのを放棄した。思い出せないという事は、大した出番も無い脇キャラなんだろう。 何はともあれ、これで6点分溜まった。 問題はハンゾーをどうするかだ。 H×Hの原作は一年ほど前に、しかもに借りて1〜2度程度しか読んだ事が無いのでほとんど覚えていない。 だが、最終試験でゴンと見事なボケツッ・・・・・じゃなくて攻防をしていたのはうっすら覚えているし、ハンゾーがゴンの腕を折ったからこそのエピソードもあった。ような気がする。 ここで自分が原因で失格にするのは、さすがにマズいだろう。 さて、どうするべきか。 1.起こす。 却下。自分を(記憶が無いとはいえ)気絶させた相手を前に、穏便に済むはずが無い。 ついでにハンゾーはそれなりに強いから、手加減できるとは思えない。 2.こっそりと見守る。 却下。いつ目を覚ますか分からないし、万が一誰か来たのがヒソカやイルミだったらお手上げだし。 3.埋める。 却下。普通に酸欠で死ぬ。 4.いっそプレート奪って・・・・・・ 本末転倒!却下!! 提案しては却下する、という事を繰り返す主人を見上げ、アークは「うーん」というの唸り声にあわせて尻尾を揺らす。 片方真剣、片方ラブリーな行動を数分程度続けた結果導き出した結論に、は一人で頷いて。 「・・・・・・・・・無難に、隠しとくかな」 木の上にでも。 そんな事を呟いたのだった。 ■ □ ■ □ 「やっぱり、水辺は食べ物が豊富だねぇ・・・・・」 重たげにその先端を垂らす枝から、鈴なりになっている木の実をもいでそのまま口に放り込む。 一つ一つは小粒だが、それなりに腹を満たせる量はあった。 の頭の上では、アークが長くてフワフワの尻尾を主人の顔の前に垂らして揺らしている。 「分かってるってば。だからどけてって、コレ」 ちょい、と尻尾をつまんで頭の上に置き直せば、またまたたれんと尻尾が垂れる。 ミュ!とアークが鳴いて、後頭部をぺしぺちと叩いてきた。 「だーかーらぁ、分かってるってちゃんとー」 ミュイミュイと抗議するようなアークを、ぽんぽん、と宥めるように軽く叩く。 「あれはいいの。放っといても」 ミュウゥ〜?と不思議そうに鳴いて、転げ落ちるように肩まで降りてきたアークがの顔を覗きこむ。 その首の辺りを指先で撫でながら、一瞬だけ後方に視線を向けて。 「多分あれ、試験官だから」 試験開始の時からついて来ていたが、一向に襲ってくる気配は無い相手。 見方によっては絶好の襲撃機会であった――――実際にはそうでは無いのだが――――の睡眠中にも、今ついて来ている相手は襲って来なかった。 移動の途中で何度かフェイントかけて相手の様子を伺ったが、ちらりと見えた格好からしても毛色が違う。 ・・・・・・・まぁ、監視されてるようでムカつくのも確かなんだけど。 と同感らしく、何処となく不満げなアークをよしよしと撫でながら、ニヤ、と笑って小さく囁く。 「気ーにーしーなーいー。・・・・・いざとなったらどっかでまけばいいんだし?」 楽しそうなその言葉に、アークはミュッ!と元気に鳴いた。 さて、プレートは6点分集まったし食事は終えたし、こうなると、プレートを守る以外にさしてする事も無い訳で。 せっかくなので、誰かのプレート狩りに協力するのが一番良いんだろうけど。 「えーっと。協力するとしたら・・・・・・・・・・・・・・」 ハンター試験を通じて親しくなった人々――――ゴンやキルア、ポンズ、レオリオ、ポックル、クラピカなど――――の顔と、ついでにうろ覚えな原作を記憶の向こうから引っ張り出す。 ゴンは駄目だろう。ヒソカとの対決は一人でしなければいけないから。 キルア・・・・・・は、手助けしなくても自力でプレートを集められるとは思うけど。 レオリオとクラピカって、コンビ組んでた気がする。 となると、やはりポックルかポンズ辺りの手伝いが、妥当な所だろうか? 「んー・・・・・・・?ポックルかポンズ、もしくはキルアの手伝いが妥当かな」 適当に探し回り、最初に見つけた相手の手伝いをするのがいいだろう。 滞在期間は一週間とは言え、すれ違いまくって結局会えない可能性は無い訳じゃあないんだし。 もちろん念能力を使えば簡単に見つかるのだが、それでは面白味がなさ過ぎる。 「ねぇアーク。アークは誰に最初に会うと思う?」 の問いに、ミュウ?と首を傾げるアーク。 その頭をよしよしと撫でながら、「せめてヒソカとイルミには会いませんように」と呟いてみたり。 口調が軽い癖に、やけに目がマジな辺りにその心境が伺える。 片や自称おにいちゃんな 変態戦闘狂ピエロ 、 片や暗殺一家のご長男で 何考えてるか分かんない 、しかもほっぺにとはいえちゅーしてきた能面男。 ・・・・・・・当然の反応かも知れない。 軽く手を組んで瞳を閉じ、祈りを捧げるかのようなポーズを取る。 考えていたら不安になってきたようだ。 本気で何かに祈りを捧げ始めたを見上げ、ゆらゆらと尻尾をゆらすアーク。 多分試験官も疑問に思っている事だろうか、試験官は立場ゆえにツッコミを入れられる立場に無かった。 「よし、気休め完了」 お祈りが終わったらしい。 目を開いてそう呟き、組み合わせた手を解く。気休めと分かっていてもやらずにはいられなかった模様。 アークがてててっと服の上を駆け上がり、パーカーのフードの中へと自主的に収まった。 立ち上がり、お尻の辺りについた砂を軽く叩いて払う。 「探索開始と行きますか!」 えいえいおー!と凱歌を上げて、拳を空へと突き上げた。 さーて、誰が最初に見つかるかな。 TOP NEXT BACK プレートナンバー45以降の番号がズレているのは、意図的です。 主人公という「本来存在しないキャラ」が入っている分(一名の余剰分) |