「キルア発見ーッ!」

!?」

誰だか知らない受験生の襟首つかんでいらっしゃるキルアを発見したのは、第四次試験の残り日数があと三日となった四日目の夕方近くの事だった。小高く切り立った崖の岩間を跳ぶようにして、驚くキルアに駆け寄る。
知り合いを探し始めて結構日にちが経過しているのに、会ったのはせいぜい自分をターゲットにしていた受験生―――しかも、プレートを奪われた後だった―――とあって、もう四次試験中には見つからないんじゃないかと思っていただけに、会えた喜びもひとしおだった。

「久しぶり!えっと、三次試験の前で以来だから・・・・・・七日ぶりかな」

改めて口にすると、結構長い期間である。
キルアは襟首をつかんでいた受験生をぽいっと無造作に放り投げて、軽く口を尖らせて見せた。

「トリックタワー先行っちまうんだもんなー、お前」

「うっ・・・・・いやでも、あれは不可抗力っていうか・・・・・・・・・」

「けっこー傷ついたんだぜ?一緒に行こうと思ってたのに、置いてくなんてさ」

・・・・・・耳が痛い。
用心すればあのくらいは避けられた事態だ。
しかしそれを避けられずに落っこちて、キルア達を置いていく事になったのは言い訳のしようも無い事実。
キルアの恨みのこもった視線に「あー」とか「うー」とか唸った後、はうなだれるように頭を下げた。

「・・・・・・・・・・・・・・すいませんでした」

ぶはっ!とキルアが不機嫌そうな表情を一転させて噴き出す。

「冗談冗談!オレもゴンも、気にしてねーし」

「・・・・・・騙したね?」

今度はが恨みがましい目になった。
キルアはさして悪びれた様子も無く、ペロリと舌を出してみせる。

「いーだろ?このくらい。レイリが先行ったおかげでこっちはちょっと苦労したしなー」

「苦労?キルアが?」

首を傾げて、昔読んだきりの原作を思い出す。
確かキルアが進んだのは、【 多数決の道 】だったはず。
主人公一行+新人潰しのトンパという組み合わせで、そのせいでちょっと全体の足並みが乱れて攻略に時間がかかった・・・・・ん、だったっけ?確か。原作、そんな覚えるほど読み込んでる訳じゃないからはっきりしないけど。

「そ。がいればもっと楽に行けたはずなんだぜ?」

「うー・・・・・。ゴメン」

「あーあ。があんなとこで落ちなきゃなー」

「ドジでほんと申し訳・・・・って何で知ってるのそれ―――ッッ!?!

謝りかけて、キルアの発言に愕然とした。
え、ちょっと待って今のって空耳?空耳だよね!?
てゆうかそうであってお願い!!!見られてたとかすごい最悪なんだけど!!!!

「攻略方法が分かったんだよなー、あれで」

の必死の祈りなど通じるはずも無く、と言うか通じても無視しそうなくらい楽しげにうんうんと頷くキルア。
“見た”と言ったわけでは無い。しかしその事実を裏付けるものでしか無いようなキルアの言葉に、は思わず頭を抱えた。落ちたのを見られた。見られていた。ゴンとキルアに見られていた。
脳内を駆け回る言葉に顔が引き攣る。

「いーやー!誰も見てなかったと思ってたのに!思ってたかったのにー!!
 忘れてキルア!それ忘れて!!記憶から永久に消去してお願いー!!!!」

「やーだね。あんな面白いモン、忘れられるわけ無いだろ」

「恥が増えたー!!!!!!!」

自分でも顔が青ざめているのが分かる。
恥ずかしい上に情けない。てゆうか、こんな事師匠に知れたらころされる!
あんなに鍛えてやったのにそんなヘマするなんて悲しいねぇとか嘘泣きしつつおしおきされる!!

「べっつに言いふらしたりしねーって」

叫ぶに、さすがに呆れたようにキルアが突っ込む。

「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいの!」

恥ずかしいというよりは(それによる師匠のオシオキが)恐ろしい、といった方が正確そうだが。
アークが慰めるように、ぽむぽむと主人の頭を叩く。

「ま、諦めろ」

「うううううううう」

はちょっと泣きたくなったが、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかないので本題に戻る事にした。
まぁ、日数が日数だけにもう集まっている気はするが。

「・・・・・・・キルア、プレート集まった?」

「あと一点分で6点たまるぜ。は?」

「アタシはもうたまったよ」

ほら、と集めたプレート三枚を見せる。
兄弟らしき三人から略奪・・・・・もとい、失敬したプレートだ。
得意げに笑うに、キルアは大きく目を見開いて。

「それだ――――ッ!!!!」

叫び声に、アークが飛び上がって驚いた。
鳥達がいっせいに飛び立つ。は反射的に耳を押さえた手を離して、首を傾げる。

「それって・・・・・何が」

「それ!そのプレートだよ!200番!!」

「200・・・・・って、これ、キルアのターゲットだった?」

「そう!」

即答されて、は200のプレートを見直した。
ひょっとしてまずかったかな、と思ったがまぁ過ぎた事とやっちゃった事はどうしようもないよね☆と自分をごまかしてみる。
どのみち今更な話でしか無い。プレート返しにいく訳にもいかないし。
ただでさえ丸い目を丸くしたまま、アークは未だに固まっている。

「んー。じゃ、これとキルアの集めたプレート一枚と交換しようよ。
 アタシ的にはどっちも一点だけど、これ、キルアにとっては三点なんでしょ?」

「マジで?サンキュ、!」

にぱっと笑うキルアの顔を見て、何故かは猫を連想した。
そういえばイルミも人形っぽいけど、目はキルアと同じで猫みたいだったっけ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・兄弟だなぁ。やっぱ。

「となると、もうこれいらないなー」

プレートを交換し、残った余分のプレートを見てキルアが呟く。

「一応持ってたら?何かの役に立つかも知れないし」

「何かってなんだよ」

「えーと」

何となくの発言だったので、はちょっと言葉に詰まった。
硬直から解けたアークが、ぷるぷるとかぶりをふって主人の身体を駆け上る。
ふと原作が頭を横切り、ぽむ、とは手を打った。

「そうそう。たとえばヒソカに遭遇した時にそれで見逃してもらうとか」

「いや、もう集め終わってんじゃねぇの?」

それもそうだ。

「・・・・・・武器代わりとか」

「攻撃力超低いっつの。あっても無くても変わんねーよ」

シビアかつ冷静なツッコミに、しかしは諦めずに考えをめぐらせる。
それなりに真剣に考えているのだが、こういう時に限ってアホ以外の何物でも無いような事しか思いつかない。
まぁそれを口に出す時点でちょっと真剣にとは言い切れない気もするが。

「う。じゃあ薪――――」

言いかけて、は言葉を止めた。
木々の影から足音を響かせ、三人の男が姿を現す。
よく似た顔をした連中にキルアと、二人の視線が集中した。
見覚えのある顔だった。はキルアに視線を戻す。

「――――ようやく見つけたぜ」

「キルア、じゃんけんしよ」

「はぁ?」

何を言い出すんだ、とでも言いたげにキルアが眉根を寄せる。
無視された形になる三人の表情がシンクロして不機嫌になったが、それに二人が頓着するはずも無い。
は不審そうなキルアにほら、一人で充分でしょ?と前置きして。

「だからさ、どっちが行くか決めようと思って」

キルア的には納得の、しかし三人的には挑発以外の何物でも無い発言である。
当然ながら一気に場の空気が殺気に満ちたものになったが、それを向けられる本人は毛ほども堪えた様子は無かった。
実力的に差がある上に、自分よりはるかに格上の人間の殺気や威圧感にならされてしまっているので、当然といえば当然の反応だったが。

「あ、そゆ事か。いいぜ、負けた方な」

「おい、てめぇら・・・・・・」

「賛成。じゃーんけーん」

「おいこら、聞けよ!」

一番背の高い男が叫ぶが、はそちらを一瞥すらせず、むしろ黙ってろとでも言いたげに手を振ってみせた。
肩の上のアークが主人を真似して同じ仕草で手を振るのを見てキルアが噴き出す。

「あーもう。すぐ終わるからちょっと待ってよ」

「ははははっ!やっべー超ウケる!」

「キルアー、じゃんけんするよ?」

ひーひーと笑いの発作を堪えながら、キルアが頷く。
三人が何かぎゃんぎゃんと騒いでいるのは当然のようにスルーだ。

「いっくぜー、最初はグー」

「じゃーんけんぽんっ!」

「げっ、オレかよ!」

途端に顔をしかめるキルアに、は上機嫌にぐ!と親指を立ててにっこり笑う。
女神の微笑みのよう、とでも表現したい美しさだが、そう表現するにはやや意地の悪い笑みだった。

「行ってらっしゃーい。だいじょーぶ、キルアならすぐ終わる!」

「ちぇっ」

「ナメやがって・・・・」

アークがばいばい、と手を振る。
地を這うような怒りに満ちた声を無視して、キルアが音も無く地を蹴って。
一分もあれば終わるだろうな、とそんな事を予想して、は白い月を見上げた。



 ■   □   ■   □



その放送が流れたのは、二人がヒマ潰しにかくれんぼをしている最中の事だった。
二人だけで?とか突っ込んではいけない。
アークも交えてやっているので、実質上は三人である。



「ただ今をもちまして、第四次試験は終了となります。
 受験生のみなさん、すみやかにスタート地点へお戻りください」



ひょこり、と草むらからアークが顔を出し、てててっとの身体を駆け上がる。
岩陰から体重を感じさせない動きで、キルアが姿を現した。
あ、あそこにいたんだと心の中で呟く。
たとえ念が使えなくてもキルアは気配を絶つのが上手いので、結構見つけにくいのだ。
無意識に絶の状態は会得しているらしい。その潜在能力の高さは、正直目を見張るものがある。



「これより一時間を帰還猶予時間とさせていただきます」



「なぁ、スタート地点までってどのくらいかかったっけ?」

「二十分あれば歩いても余裕で着いたはずだけど」

記憶にある地形と自分達の歩くスピードを大雑把に考慮して答える。
本気で走れば、多分五分で着くんじゃないだろうか。



「それまでに戻られない方は全て不合格とみなしますのでご注意下さい」



「ゴンのやつ、ちゃんといるかなー」

「心配?」

からかい気味にそう問えば、キルアは少し照れたようだった。

「・・・そりゃな。だってアイツの獲物、ヒソカだぜ?」

は何も言わずに肩を竦めた。
原作を知っているので、その辺りの心配は無用だと理解している。
ゼビル島ではヒソカ達にはかかわらないようにしたし―――いつだったが、ひどく禍々しく粘っこい殺気を感じた時などは発信源と思われる場所から即座に遠ざかった―――自分という原作には存在しない人間が介入しなかった以上、無事にスタート地点まで戻ってくるはずだ。



「なお、スタート地点へ到着した後のプレートの移動は無効です。確認され次第失格となりますのでご注意下さい」



、スタート地点まで競争な!」

言うが早いか、キルアが駆け出す。
声だけを残してあっという間に木々の向こうに消えるキルアを追って、は慌てて走り出した。
いきなりの加速にか、アークが抗議らしき声を上げる。

「ちょ、キルアずるい!フライングじゃん!!」

その叫びは、キルアに聞き入れられる事なく響いて消えた。
ちなみに勝負の結果がほぼ同着で、どっちが早かったかの口ゲンカに残り時間を費やす事になったのは余談だ。






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ゴンもいればお子様組完成です。主人公はお姉さんのつもりでもやっぱまだ子どもですよ!
クラピカとレオリオはもうちょっと大人だと思うのです。十代前半組と後半組の壁か。