和室で行儀良く正座したは、会長と向き合っていた。
およそ一年ぶりになる畳の匂いや懐かしさは、このまま転がったら気持ち良さそうだな、と思うには充分だったが、面談の場である以上そんな事はできない。全身でひしひしと視線を感じているのだ、ネテロ会長がいる以上、それを実行する気には到底なれそうもなかった。

「ではまず聞くが、何故ハンターになりたいのかな?」

視線をなるべく意識しないようにしながら、は考えつつ口を開く。

「師匠を超えるためと、いろんな事をしてみたいと思っているからです。
 あとは・・・・・生きていくには、ハンターになるのが一番仕事に困らなさそうですから」

「ほうほう。おぬしの師匠は何をしておるのかな?」

「ハンターです」

何を専門にしているか、というのは聞いていないが。
とにかくやたらと強くて容赦が無く、ついでに顔も広いという事は身にしみている。
修行で何度三途の川を渡りかけたかは思い出したくもない。
少なくとも、渡し守と顔馴染みになる程度には渡りかけたのは確かだが。

「なるほど。では、おぬし以外の8人の中で一番注目しているのは?」

「302番ですね。顔とか上半身とかあんなに色々刺さってどうして生きていられるのか気になりません?」

「ワシに言われてものう」

真顔のに、ネテロ会長はちょっと困ったような表情になる。
初めて見たとき、イルミだという事もあって盛大にヒいた。
念使いだと知ってはいるけども、それでもあの刺さり具合は怖いと思う。
抜いても血が出ないし変形するし。あれって結構針の部分太いよね?普通かなりの穴があくよね?
絶対毛細血管切れると思うんだけどその辺りどうなの。

「最後の質問じゃ。8人の中で今、一番戦いたくないのは?」

この質問に、は不思議そうに首を傾げた。

「誰とでも戦いますよ?殺し合いじゃないですから、むしろいい腕試しの機会になりそうですし。
 ・・・・・・44番や302番には勝てそうに無いですけど」

殺し合いは絶対好きになれないけれど、戦って腕を競い合うのは結構好きだ。
トリップする前にはと組んで道場破りめいた事をした事だってあるし、とも時々戦った。
もしもこれが殺し合いなら、ゴン達と戦うのは断固拒否だけどね。
あとヒソカとイルミとも。アタシまだ死にたくない。

「うむうむ、成る程のう」

ネテロ会長が頷くのを見ながら、ふと最終試験に残ったのは何人だったっけ、という疑問が浮かんだ。
スタート地点に戻ってから船に乗り込んでしばらくの間、ずっとキルアと口論していたのでまったく気にしていなかった。
関わったのがキルアとハンゾーくらいだから、問題無いと思うのだが。

「ご苦労じゃった。さがってよいぞ」

「はい。失礼します」

思考を中断し、ネテロ会長に軽く頭を下げて退出する。
それにしてもアークが大人しくしてくれててホント良かった。



 ■   □   ■   □



くるくるくるくるくるくる。
アークが尻尾を追って走る。長い尻尾は一回転してじゃれつくには充分な長さだったが、アークはあえて捕まえずにじゃれつくのみだ。じゃれつきながら、文字通りに走り回るのを見ていると目眩を起こしそうになる。
ふと、誰かの気配が近付いてくるのに気付いてそちらを見上げる。向こうはどうやらこちらに気付いていないらしかった。
長椅子から立ち上がり、手を振って呼びかける。

「クラピカ!面談終わったの?」

呼びかけられ、クラピカはこちらに視線を向けた。
不審げな表情が一転し、納得混じりの柔らかいものになる。

か。ああ、しばらく前にな」

「そっか。何はともあれ、次で試験も終了だね」

「油断はできないがな」

並んで長椅子に座りなおす。
足下では、回るのをやめたアークが尻尾についたワタボコリと必死に戦っている。
それを眺める二人の間に沈黙がおりた。
・・・・・・・・そういえばゴンとキルアとは結構関わってるけど、レオリオとクラピカとはあんまり話してないなぁ。

「―――――答えたくないのならそれでいいのだが・・・・一つ、聞いていいだろうか」

歯切れの悪い物言いに、は思わず首を傾げた。
聞かれるほどの事が何かあったろうか、と戸惑いながらも頷く。

「うん、何?」

「ヒソカとどういう関係だ?」



どんがらがっしゃん!



!?大丈夫か!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんまし」

主に精神面で。

肉体的には腐っても念使い、オーラの効果で防御はばっちりだ。
なので被害は気にしない。床がちょっぴり砕けちゃったとかそんな事実は気にしない。
コンクリの床じゃなかったっけとかそんな細かい事は気にしたら敗北決定。強化系だったらきっともっと被害は凄いさ。

「・・・・・・すまない。聞くべきではなかったな」

全力で強打、と言うよりは殴打した額をさすりながら身体を起こす
何を想像したのか、沈痛な面持ちで覗き込んできたクラピカが、わずかに赤くなった額に手をあてる。

「冷やした方が良さそうだな」

「このくらい平気だよ。アタシも大げさに反応しすぎたしねー・・・・・・・」

うん、まさかクラピカに突っ込まれるとは思ってもみませんでしたよ?
ヒソカにはよくまとわりつかれていたので、誰かには言われるだろうな、とは思っていた。ただ、もし言われるとしてもキルアかゴンのどちらかだろうとばかり思っていたので、ちょっと不意打ち食らわされた気分だ。
精神衛生上宜しくないので、その件に関してはなるべく考えないようにしていたのもあるが。
それにしてもクラピカの手って冷たいな。けっこう体温低い方?

「アタシさ、ヒソカとほぼ同時に試験会場に着いたの。
 それであのメシ屋で相席させられちゃって・・・・・・・・ その時に何故か気に入られたらしいんだよね

「それは・・・・・・・災難だな」

遠い目でため息をついてみせれば、クラピカは同情も色濃く呟いた。
分かってくれてありがとう。

「だから、聞かれるほど大層な関係じゃあ無いよ」

「――――そうか」

やや苦笑混じりにが微笑むと、何故かクラピカは視線をそらした。
心なしか、うっすらと頬が赤く染まっている。
何か照れるような事でも言っただろうかと記憶を反芻してみたが、そんな覚えはまるで無い。
・・・・・・・赤面症だろうか。

「わっぷ!」

尻尾のワタボコリと長い戦いを繰り広げていたアークが、目を見張るような跳躍力で顔面に張り付いてきた。
もふもふとした毛玉が顔から膝の上に転がり落ちる。

「こらアーク、いきなり飛びつくな!」

ミュー?

「可愛く鳴いてごまかすなっ!ったくもう、誰に似たんだか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

それはにだろう、という発言を、クラピカは賢明にも飲み込んだ。
そこで額の辺りにとどめられたままの自分の手に気付き―――眉をひそめて、の髪の一房に触れる。

。試験中、髪を染め直したりはしていないよな?」

「へ?そんな事してないけど」

というか、これって地毛だし。
トリップしてきて以来、何故か部分的に赤く染まった髪は、まるで地毛のように根元から赤い。
実はこの赤い部分を黒の染料で染めてみようとした事が何度かあったのだが、染めても翌日には完全に赤に戻っているという、染料の無駄でしかないホラーな出来事が起こりもした。
そんな訳で、黒くする事をとっくに放棄した髪だ。
手を加えるはずもないし、ハンター試験に来てどうして髪を染めなくてはならないのか。

「そうか。いや、髪の赤色がもっと濃かったと思ったんだが、私の気のせいだろう」

「んー・・・・・鏡見てないから、何とも言えないなぁ」

クラピカの触れていた辺りの髪を、無造作につまみあげる。
髪の質感自体は、黒髪の部分とそう変わらない。
あとで鏡で見てみようと決意したその時、飛行船内にアナウンスが流れた。



「―――みなさま、長らくお待たせいたしました。間もなく最終試験会場到着します」






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ちょっとした疑問が浮上した13話でしたー。次はとうとう最終試験!