何がいけなかったんだろう。


「さて。最終試験のクリア条件だが、いたって明確」


何が原因だったんだろう。


「たった一勝で合格である!!」


何が問題だったのだろう。


「・・・・・・・・ってことは」

「つまりこのトーナメントは勝った者が次々ぬけていき、敗けた者が上に登っていくシステム!
 この表の頂点は不合格を意味するわけだ。もうおわかりかな?」

「要するに不合格は、たった一人ってことか」

「さよう」

最終試験の説明を呆然と聞き流しながら、は考える。
この世界にトリップしてきた事・・・・は、不可抗力だし。きっぱりと。
じゃあ師匠に拾われた事が問題、にしてもあれも意識が無いうちだったしどうしようも無いし。
ならば今年の試験に参加した事が――――ってあの師匠が決定事項を変えると思えないし、そもそも今年は嫌だって言って理由を説明できたとしてもスルーされたろうからもう仕方の無い事だとしても。

「組み合わせが公平でない理由は?」

やっぱり主人公組と関わったのがまずかったんだろうか。
それとも、ヒソカと関わったせいで何かが狂ってしまったんだろうか。
いちおう原作が大幅にズレないように、配慮はしてたつもりだったんだけれども。

「この取り組みは、今まで行われた試験の成績をもとに決められている。
 簡単にいえば成績のいい者にチャンスが多く与えられているということ」

やっぱり、第四次試験でターゲット以外のプレートを適当に狩ったせいなのかな。
ちょうどいい具合に獲物がいたからって、あいつらから獲るべきじゃなかったのかな。
おつらえ向きに倒れてたのに・・・・・・獲ってと言わんばかりだったのに・・・・実は運命的な罠でしたかー・・・・・
ああもう、めんどくさがらずにターゲット探しに行ってれば良かった!

こっそりと憂鬱のため息を漏らして、は再度、トーナメント表に視線を向けた。







うん、ありえないよね。(微笑)


気付くべきだった。気付くべきんだよ、プレートの数と受験生の数考えれば、8人しか最終試験残れるはずが無いんだって!原作知ってて一応合格者の数も知ってて、第四次試験参加してたんだからアタシがターゲット以外の3人を狩れば必然的に残ってたはずの一人が脱落する羽目になるんだって事くらい!!
ごめんポックル・・・・・大丈夫、来年はきっと合格できるよ・・・・・・・!(願望)

「戦い方も単純明快。
 武器OK反則なし、相手に「まいった」と言わせれば勝ち!」

しかもなんでアタシはあの位置になってるんでしょうかね。ポックルの穴埋め?
そしてどうしてハンゾーは戦意ギンギンな目こっち睨んでらっしゃる んでしょうね。
不穏な予感がビシバシするんですけども。最初の相手はアタシじゃなくてゴンでしょ、ゴン!

「相手を死にいたらしめてしまった者は即失格!
 その時点で残りの者が合格、試験は終了じゃ。よいな」

ネテロ会長が全受験生を見渡す。
誰も何も言わないのを確認して、会長は一際大きな声で宣言した。

「それでは最終試験を開始する!!」

「第一試合、ハンゾー対ゴン!」

後を引き継いで黒スーツの試験官が二人の名を呼び、二人が部屋の中央に進み出る。
頭の上でお行儀良く座っていたアークが、何を思ったか後ろ足だけで立ち上がったのが感触で分かった。

ミュゥーミュッ!ミュッミュッミュッ!

鳴き声と共に、頭上で何だかパタパタする気配が。
と言うか、この鳴き声のメロディーって。

のペット、器用じゃん」

「・・・・・仕込んだ覚え、無いんだけどね?」

いつ応援なんて覚えたのかなアークってば。
器用にも頭上でミュウミュウ言いながらゴンを応援するアークの首根っこを、ひょいと摘んで床に下ろす。
状況に関わらず応援を止めないその根性は、なかなかに見上げたものだと思う。
何処で覚えてきたんだろうとか考えながら視線を試合中の二人に向ければ、アークの健気な、しかし緊張感はまったくもって無い応援とは裏腹に、ゴンの状況はいきなりピンチなようだった。

手刀が閃く。

「子供にしちゃ上出来だ」

受け身も取れずにゴンが倒れ、隣でキルアが舌打ちする。
ゴンが立ち上がる様子は無い――――多分、立ち上がれないんだろうけど。

「さて、普通の決闘ならこれで勝負アリなんだがな・・・・・・ほれ。目ェ覚ましな」

無理矢理上体を起こされて、ゴンが小さく呻く。
歪められたその表情に、この続きの展開を思い返しては眉間にシワを寄せた。
この後しばらく続くのは、ハンゾーからの一方的な拷問。
試合とは到底呼べないだろう展開を知っているだけに、どうにも気分は複雑だった。

「気分最悪だろ?脳みそがグルングルンゆれるように打ったからな」

淡々と告げるハンゾーの声に、優越感は無い。
事実を事実として告げる、いっそ冷淡なまでの無情さがあるだけだ。

「わかったろ、差は歴然だ。
 早いとこギブアップしちまいな―――――と、言いたいところなんだが」



・・・・・・・・・・・・・・・うん?



「この試合、お前に勝ちを譲ってやるよ」



・・・・・・・・・・・・・・・はい?



「まいった。オレの負けだ」



沈黙。

試合開始後間もなくのハンゾーの敗北宣言に、個人差はあれども全員が驚いていた。
特に驚いていたのは、対戦者のゴンと、原作を知っているである。
意外なセリフに大きく見張られたゴンの目が、みるみるうちに怒りを帯びたものに変わる。

「・・・・っバカにするな!こんなの、オレは認めない!!」

「・・・・・ま、言うだろうとは思ったが」

やれやれ、というようにハンゾーは肩を竦めた。

「バカにしてるわけじゃないぜ。
 ただ、オレは45番と戦いたい――――だから、勝ちはお前に譲るってだけだ」

「え、アタシ?」

思わず呟くに、場の視線が集中する。
アークがミュウ?と主人と同じ仕草で首を傾げてみせた。

「・・・・・・・なんかしたっけ」

「しただろーがきっぱりとッ!」

ハンゾーが、光り輝きそうな頭を湯立たせて怒鳴る。
タコみたいだなぁと失礼だがもっともな感想を抱きながら、には一応、心当たりがあった。
そう。言わずと知れた第四次試験での、あの出来事である。

「寝たフリしてたあんたを襲った受験生三人!
放っとく事もできたが!あえて手助けしようと出たオレごとぶっとばしてくれたのを忘れたとは言わせんぞ!!」

「えーっと・・・・・・・」

あー。

あそこで倒れてらっしゃったのは、そういう理由でしたかそうですか。
てっきりプレート奪おうとして返り討ちにしたんじゃないかと思ってたんだけど。

「・・・・・・・お前さん、そんな事したのか」

やや非難がましいものの混じった視線の嵐の中、レオリオが言う。
それにぶんぶんと首を振りながら、慌てて“酷い奴だな”的空気を払拭しようとする。

「違う違う!事故だって!!」

「事故であんな的確な右フックが来てたまるくぁああああああ!!!」

「だーかーらー!アタシ寝相すっごく悪くて、近くにきた人は誰でも構わず気絶させちゃうんだってば!!
 その時もホントに寝てたし、寝たフリなんてしてないっての!!!」

その発言にマジでか、という目を向ける者多数、その時の光景を思い出して納得するやハンゾー、某三兄弟達を見ていた試験官達、寝てる時は近寄らないようにしようと固く決意する者数人、機会があったら是非とも試してみようと思う者も数人。

「と・に・か・っく!あれが寝たフリであろうとなかろうと関係ねェ!」

びっしぃ!とハンゾーが勢い良くこっちを差す。
を見るその目にあるのは確かな戦意と、ついでに恨みとかそんな感じの属性のもの。

「あの時の借りを返し!どっちが強いかはっきりさせん事にはオレの気持ちが収まらん!!」

「それならオレだってそうだよ!こんな風に勝っても全然嬉しくない!!」

「なっ・・・・・・・!」

言うと思った。

は心の中でぽそっと呟く。
ハンゾーにしてみれば予想外の反応だったようだが。
仁王立ちして腕を組み、ずぃいいいっとゴンに顔を近付ける。

「あ・の・なっ!さっきので実力差はハッキリしただろーが?!
 まともにやったんじゃオレには勝てん事くらい分かるだろ!素直に勝っとけ!」

「いやだ!オレまだ戦えるし、こんなんじゃ納得できないよ!」

「じゃどーすんだよ!!」

「それをいっしょに考えよーよ!!」

「つまり何か!?オレは負ける気満々だが勝つつもりで真剣に勝負しろと、その上でお前が気持ち良く勝てるような勝負方法を一緒に考えろと!?!」

整理してみると、かなりワガママな理論展開である。
ハンゾーのこめかみの辺りに青筋が浮かんでいたりして、ついでに堪えきれないというようにあちこちで笑いが起きていたりしたが、ゴンは怯む事も恥じる事もなく、相手の目をまっすぐ見据えて、きっぱりと。



「うん!!」


「アホか――――!!!」



ハンゾーの手加減無用なアッパーが、ゴンを完全にKOさせたのでした。
ゴン、清々しい態度だったけど滅茶苦茶だから。あれじゃ誰も納得しないから。
その言葉を口にする代わりに、は床に大の字でノびたゴンに向かって心の中で合掌した。






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最初と最後だけ原作で後はドリーミン。
この手法を換骨奪胎と申しますですよ(言わない)