自然は好き。 獰猛な生き物がいたり、危険な場所は多々あるしでとても厳しい場所だけど、変化と刺激・・・そして発見に満ちている。 何より、アタシは空気が良いと思う。 あらゆる生と死にまつわる事象が起こり続けて、雑多で賑やかで、無秩序に見えるのに―――――彼等の絶対的な“ルール”に添って存在する場所。 不快感では無く、安らぎすら感じさせる・・・・この、何とも言えない空気。 それは、この湿原も同じ事。 だから、まぁ。 ちょーっと夢中になりすぎてはぐれちゃったのも当然だよね!(汗) ■ □ ■ □ 足を止め、周囲を見回す。 見渡す限りにたちこめているのは、一メートル先すらも満足に見通せないような濃霧。 髪に手を突っ込み、ガシガシと掻き回すの背中で、もぞもぞとバックが動いた。 ―――――ミゥ。 鳴き声。 次いで布越しに、ふわふわとした毛の感触がして。 「アーク。起きたの?」 ミュ〜! の問いに元気良く応えて、よじよじと器用に服をよじ登り、頭上に収まる。 ふわふわした毛やぷにぷにの肉球が服や髪越しに感じられてくすぐったかったが、笑い出しそうになるのは何とか堪えた。 近場にいるなら、まだ気配をさぐれば分かるはず。 まだ大丈夫かなー、と思いながらも、はそれを探ろうとして。 「ぅわぁあああ―――――!!!」 はい手遅れー。 距離にしておよそ十数メートル先から、恐怖や驚愕に満ちた悲鳴が響いた。 どうやら、思ったよりは離れていなかったらしい。 だが。 「・・・・やっぱ騙されたか」 ちょーっとばかし、気付くのが遅かったらしい。 離れているはずのにすら、手に取るようにあちらでのパニックぶりが把握できる。 苦いものが混じった口調で、そう呟いた。 と。 「ふーん、予想はついてたみたいだね◆」 「!?」 唐突に後ろからわいて出た(←失礼)ヒソカに、ギョッとした表情で反射的に身構えて後ずさった。 の頭の上で、アークが小さな牙を剥き出しにし、全身の毛を逆立ててヒソカを威嚇する。 うわビックリしたっ! 今、全っ然気配感じなかったし!? 「何でここにいるの!?」 「ヤだなぁ カワイイ妹を見守るのも、お兄ちゃんの務めだろ」 うわぁ、心底いらん世話。 ってゆうか人はそれをストーカーと言うのですが。 素敵な笑顔で返されて、内心力一杯突っ込む。 損得のみで考えれば、いくら変人変態戦闘狂殺人鬼な奇術師とはいえ気に入られているのはそう悪い事では無い。 何せ手を出される心配は無いし(色んな意味で/←妹扱いだからね)、上手くすれば困った時の神頼みよろしく、手を借りる事も可能だ。味方にするなら、これ以上力強い相手もそうはいない。 だがしかし。理性と理論で感情を割り切れるならば、世の中もっとスムーズにコトが運ぶ。 根本的な部分で合わないんだよねー・・・どうも。 ぽんぽんと、アークの頭を軽く叩いて落ち着かせる。 ミゥゥ、と小さく鳴いて、ペロリとその手をアークが舐めた。 「君のペットかい?」 「うん、まぁね」 こちらでは身寄りの無いにとっては、師匠に次ぐもう一人の家族、といった所か。 その返答に、ヒソカはククク、と喉で笑って。 「イイねぇ、調教しがいがありそうだ・・・・・ 」 「――――――・・・・・えっと。調教はご遠慮願うとしてー・・・・アタシはそろそろ行くから」 何ともコメントし辛いセリフに、ちょっぴり口元を引きつらせながらそう返す。 いやもう、ホント勘弁して下さい。 「一人で戻れるかい?」 「当然。それにヒソカ、これから‘遊んで’くるつもりでしょ」 「うん 参加するかい◇」 「心の底からお断りです」 真顔でばっさり言い切って、はヒソカから数歩離れる。 トントン、と靴の先で、ぬかるんだ地面を叩いて均し、其処を蹴って走り出す。 この先あるイベントに参加すればもう一つの念能力を使う必要も無いのだが、それまでヒソカと一緒にいるのはものすごくイヤだった。ヒソカを止める気にもなれない。ハンター試験はもともと死と隣り合わせのものである。それを納得した上で誰もが参加しているのだから、自分の身は自分で守るのが当然だろう。 他の受験生と走っていた時以上のスピードで駆け去っていったが消えた辺りへ視線を向けて。 ヒソカはその細い目を、まるでチェシャ猫のように三日月型に歪ませて笑いながら独白する。 「うん、さすがはボクの妹 ボクのいない間に、悪い虫が付かないといいけど」 その、かなり身勝手な発言が、の耳に届かなかったのは―――――― ・・・・まぁ、彼女の精神衛生上は良い事だろう。 ■ □ ■ □ 「ふぅ、ここまで来ればいーかな」 タン、と足を止めて、さらりと揺れる髪を払う。 頭上にいたアークは慣れているためだろう、落ちる事も無く、呑気にくぁあ〜・・・とあくびをしていた。 所在なく彷徨わせた視線が、一瞬霧の向こうを横切った黒い影を捉えた。 向かった先は、ほぼが来たのと同じ方向。 それにぱちぱちと目を瞬かせ、走っていったのであろう人物に思い当たった。 追う気は当然の如く皆無だったものの、一応南無ーと合掌して呟く。 「ゴン、ファイト」 無責任極まり無い。 どのみち、追って何ができる訳でも無し。 クラピカもゴンもレオリオも五体満足で帰ってくる訳だから、ここでが手を出す理由は皆無とさえ言えた。 ただし、ゴンはこの辺りでヒソカに目を付けられるのだが。 そこは死なば諸共と言うか、自分だけ不幸なのは何となくシャク と言うか。(←それが本音か) 気に入られ方はまた違うけど、とは声には出さない主張である。 まぁ、それはそれとして。 リュックを下ろし、その中から片手に収まるぐらいの大きさをしたコンパクトを取り出す。 鈍い銀色の土台に、透き通った淡い紫色の大きな丸石がはめ込んであり、中心には透明な石で六角形の花が描かれている。安物、という感じでは無いが、さして高価な訳でも無いコンパクト。 こちらの世界へ来て初めて師匠について買い出しに行った日、丁度通りかかった露天商で一目惚れし、師匠に幾つかの条件を呑む事で何とか買ってもらったものだった。 それをぱこっと開けて鏡を見詰め、体中のオーラをそこへ集中して‘硬’の状態となる。 同時に、上下の鏡面に映った像が揺らぐ。 一瞬後、そこに映っていたのは艶めかしい、赫い唇だった。 それ以外には何も映っていない。 ぽっかりと白い鏡面に、ただ肉感的な唇だけが、実体感を持って浮かんでいる。 無論、はそれに動じない。 真っ直ぐにその唇を見据えて、口を開いた。 「‘現在行われているハンター試験における、一次試験の試験官が目的地とする場所とその詳細な位置を答えよ’!」 問いを言い切ると同時に、コンパクトの上半分の像が揺らめき、地図らしきものが浮かび上がった。 は知っている。 それが、この一帯の地理を現している事を。 下側の鏡に映る唇が動き、ひどく不似合いな、無機質そのものの声で答える。 『びすか森林公園ノ入リ口付近ニアル小屋。 ここヨリ北西北の方角ヘ8.52きろめーとるト62.321せんち先ノ地点』 その解答と地図を頭に叩き込み、位置関係を大体把握して‘硬’を解く。 映し出された像が散じるのを見届けること無く、はコンパクトを閉じてバックへとしまい込んだ。 「よっし、8.52キロ先ぐらいなら近いかな」 バックを背負い直し、頭上のアークを撫でる。 「落ちないでね?」 笑いを含んだその言葉に、アークはとびきり元気良く、ミュっ!と鳴く事で応えた。 念能力: 白雪姫の不思議な鏡 【マジカルミラー】 過去・現在・未来に関するあらゆる問いに答えてくれるが、「問われた」事柄以外は答える事が無い。 告げる言葉も映し出す像も、過去や現在であれば総て真実であり偽りは無い。 未来に関しては、その時点でもっとも確立の高いそれを告げる。 問いかけの形で望みさえすれば、それらを映像として映し出す事もできる。 ただし、質問する術者自身が関わっていない事柄には解答する事は不可能である。 また、問う事柄への関わりの深さによっても、得られる情報量は増減する。 制約 ・問う事ができるのは一日に一問までであり、術者のみである。 ・コンパクトを開き、‘硬’の状態でなければ発動せず、発動中はそれを維持しなければならない。 誓約 ・制約を破った時、この能力を失う。 TOP NEXT BACK |