「申し遅れましたが、私一次試験担当のサトツと申します」


すでに歩くから走るに変わった集団の中、出そうになるあくびを噛み殺しつつ、周囲に視線を巡らせる。
どいつもこいつもムサいわゴツいわいかついわで、鬱陶しいとかウザい とか思わずにはいられない。

と言うか、外でこの集団見たらほぼ確実にヒく。(見るからに暑苦しい!)

にとっては‘ちょっと’早足程度の認識で走りながら、サトツさんの話に耳を傾ける。
ああ、そういえはこんなセリフもあったよねー懐かしいなぁと思う彼女に緊張感の文字は存在しなかった。
あの当時は、まさか実際に参加する事になるとは夢にも思わなかった。・・・・まぁ、当然だが。

何はともあれ、この先しばらく走りっぱなしなのは確かな事実。
黙々と走るだけ、というのも味気無い。

誰か、テキトーな話相手でも見つけよっかな。

主人公達でもいいが、ハンゾー辺りでも道中楽しくなりそうだ。
再度、周囲に視線を巡らせればそこには何たる偶然か、主人公とその仲間がいた。

・・・・・・・どーゆー偶然かな、コレ。

むしろ何の陰謀だ、と見知らぬ誰かに突っ込む
その視界の端を、スーっと白灰色――――銀色とも言えるが――――の色彩が通り過ぎた。
何となく、目立つその色を目で追ってみれば、それはスケボーに乗った少年で。
顔は分からなかったものの、背丈や予想年齢からそれが誰だか何となく悟り、しばらく後ろ姿を見詰め続ける。
十数メートル先まで悠々とスケボーで走っていたその少年は、予想通り、そこで黒いスーツの男に絡まれた。

えーと。
今のスケボー少年がキルアで・・・・・あっちの黒スーツがレオレオ、いやレリロオ?(どんなんだっけ)

少し走る速度を上げて、彼等との距離を縮める。
残りおよそ2・3メートルという辺りまで来れば、あちらの会話もはっきりと聞き取れて。


―――――――・・・っちの味方だ!?」

「どなるな、体力を消耗するぞ。何よりまずうるさい。テストは原則として、持ち込み自由なのだよ!」

〜〜〜〜〜


あー、あったあったこんなコント。

のほほんと懐かしさを感じつつ、言い争いに耳を傾ける。
しかし、何でゴンの髪はあんな重力無視しているんだろうか。
触るとザクッ とかいきそうだし。
クラピカ女顔だし・・・・・ってゆうかアレ、女でも違和感無いんじゃ?(←失礼)
「実は女なのv」とか言っても自然だって!

恐るべし、性別詐称疑惑保持者。

内心勝手な事を言いまくるだが、とりあえず口には出さない。
勝手に戦々恐々しているの前で、レオリオが憤怒の形相で叫んだ。


「これでもお前らと同じ十代なんだぞオレはよ!!


「ウソォ!?」



「ぷっ」


あ、しまった吹いちゃった。

慌てて片手で口元を押さえて顔をそらすが、どうも、笑ってしまったのはしっかり聞こえていたらしい。
前方の四人が一斉にこちらを振り向き、レオリオが憤怒の形相を更に凶悪にした顔でを睨んだ。


「オイそこ!何笑ってんだ!!!!」

キシャー! とか効果音でもつけてやりたい勢いで怒鳴るレオリオに、何故か更に笑いがこみ上げてくる
肩を震わせながら、それでもこみ上げる笑いを必死に喉で留め、片手を上げてひらひらと振る。

「あー・・・・ゴメンゴメン。可笑しかったもんで、つい」

半笑いのままで、それでも何とか笑ってしまうのを押さえ、顔を上げて謝る。

同時に、それを目撃した周囲の受験者の顔が赤く染まったり口元を押さえて顔を逸らした。
四人の顔も、何故か赤い。


・・・・・はて、いきなりどうしたんだろう。


「き、君が謝罪する事ではない。レオリオの心が狭いだけだ」

はてなと疑問符浮かべて首を傾げるに、未だ赤い顔のままで、慌てた様に言いつのるクラピカ。
その様が、そこらの女よりも可憐に見えるのは何故だろう。

微妙かつ複雑な敗北感が胸中を横切る。
しかもさり気なくレオリオ(だったんだ)けなしたよこの人。

「そうそう!あやまる事じゃないよ!!」

「オッサンの事なんて気にする事無いぜ」

クラピカに同意しつつ、口を揃えてこちらを弁護するゴンとキルア。
将来の仲良し親友ぶりがかいま見える、息の合い方である。

「オレが悪者かよ!?―――――・・・・ってあ、ワリィな。さっきの事は気にしねーでくれ」

「ん、分かった」


プチ和解、成立。


「オレ、ゴン!キミは?」

前方のゴンが、こちらを振り向きながらワクワクしているような表情で問う。
キルアは身体ごとこちらを向いており、他の人にぶつかるんじゃないかとちょっとハラハラする。
クラピカとレオリオも、の言葉を待つようにこちらを見ていた。

「アタシ?アタシは


「オレ、キルア」

「私はクラピカだ」

「レオリオだ、よろしくな」

返答を返して3人を見れば、同じく名乗りが返ってきて。

うんまぁ、知ってたけどね。

言う必要も無いから、口には出さなかったけど。
そんな事は話をしても意味なんて無いし、異世界出身である事も同様。
ってゆーか、そんな荒唐無稽な話いきなりされても誰も信じません。
そんな心中はさておいて、友好的ににこっと笑って。


「こっちこそ、よろしくね♪」


取り敢えず、主人公ズまとめてゲット?



 ■   □   ■   □



一定のペースを保ったまま、長い階段を駆け上がる。
長距離を走った後でなのだから、当然、疲れも一層感じてしまうような急角度、かつ体力を消耗するのは確実の階段。
だがの顔に疲労の影は無く、また汗一つ浮かんではいなかった。
その表情はむしろ涼しげですらあり、見るからに余裕綽々といった感じだ。

「いつの間にか、一番前に来ちゃったね」

横を走っているゴンが、そう言いながら後ろを振り向く。
こちらはそれなりに疲労しているらしく、息は荒く、多少だが汗もかいていた。

「うん、だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよなー」

こちらはと同じく、汗どころか息一つ乱していないキルア。
本気でそう思っているらしい彼に、ゴンを挟んで向かい側を走りながら口を挟む。

「そう?いいじゃん、ハイキングみたいで」

どこがだよ。変化なさすぎだっつーの」

そうかなぁ、と憮然とした面持ちで首を傾げる。
の脳裏にはかつての修業時代、縛り上げられたミノ虫状態で階段を反復横跳びしつつ上らされた 記憶が浮かんでいた。それに比べればこの程度、ハイキングも同然である。
すでに出発点の見えない階段を、走りながら振り返る。
数段離れて、先頭の達の後を追う集団。
その影になって見えないが、おそらく下の方ではそれなりの数、脱落者が出ているのだろう。

こっちに来た当初のアタシだったら、その一員だったんだろうなー。

しかしそれも、師匠にシゴかれ殺されかけ埋まり沈み血まみれにされたあの日々が無ければ、の話だが。
ぼんやりと浮かぶ、思い出の数々。
それは生まれた世界での、と一緒に教師とかいじめっ子とかヤンキーとかに悪戯したりからかったりして追いかけ回されたそれだったり、もしくは師匠に狙撃されながら追い回されたり師匠の調教した猛獣に追い回されたりした思い出ばかりだったが。

うわー、美しくない懐かしさ。


は、どうしてハンターになりたいの?」

「え、アタシ?」

多少(美しくない)思い出に浸ってぼんやりしていたので、一瞬動揺してしまった。
しかしすぐにそれを収めて、あごに手をあてて首を捻る。

「アタシかー・・・・。アタシは師匠と約束したからってのもあるんだけど・・・・」

ってゆーか、ライセンス無いと独立もできないし。(こちとら未成年ですからー!)

の行ってる世界(確かポケスペ)だったら、未成年でも問題無いんだけどねー。
身寄りナシの一文無しでどう生きていけと。


けど、それだけが理由じゃ無いのも確かで。


「―――――・・・・・うん、師匠を超えるハンターになるため、かな」

初めて心の底からハンターになろうと思った日の事は、今でも覚えている。
ただそれを口に出すのはひどく気恥ずかしく、明確に、口に出せる程固まっている訳では無いのだけれど。

本心と誤魔化しを混ぜたそのセリフに、ゴンが嬉しそうに目を輝かせた。

の師匠ってハンターなんだ!」

「へぇ。どんな奴?」

興味津々、といった表情でこちらを見る二人。
キルアはともかく、ゴンにはヘタな事言えないかなー・・・・と心の中で呟いて、言葉を選ぶ。


「んー・・・・・・・・・・とにかく、すっごい強くて・・・・」


未だに師匠の動きは、目でさえ追いきれません。(結構トシなハズなんだけど・・・・)


「それで、厳しくて・・・・」


あやうくあの世に逝きそうな程ね。


「・・・・・口が巧くってー・・・・・」


主に脅し強請り脅迫など。


そこまで来て、はた、と気付いた。
師匠・・・・善良とか優しいとかまぁそんな平和的スキル皆無?


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

?」

「どうかしたのかよ?」

何とはなしに気付いてしまった―――――まぁ、分かっていた事ではあったのだが―――――その事実に、そして何より自分がそんな人物に師事している事に思い当たって、こめかみの辺りを押さえて目つきを険しくし、脂汗を流す
そんな彼女にキルアが不思議そうに、ゴンが心配顔で問う。

「あ、いや大丈夫!気にしないで!!」

あはははははは!と乾いた笑い声を上げるに、なおも不審そうな二人は顔を見合わせて首を傾げる。
そんな一行の前方で、薄暗いトンネルの中に眩しい光が差し込んできた。
薄暗いのに慣れた目をかばうため、光に手をかざして目を細めるの後ろで、誰かが「見ろ、出口だ!」と叫んだ。





――――――――ザアァッ





光が一瞬、網膜を白く染め上げた。

薄暗く単調だった地下道から出た途端、強い風が吹き抜けて。
それに、走っていた足をゆっくりと止める。
眼前に広がるのは色鮮やかな緑の地平線と、空の青、霧と雲の白い色。
師匠の所で慣れ親しんだ、底の感じ取れない独特の大気。
それより幾分か水っぽい感じはあるものの、その含む気配は同じだ。
隣でゴンが、感嘆の声を上げた。



「ヌメーレ湿原、通称“詐欺師の塒”。二次試験会場へは、ここを通って行かねばなりません」



風になびいてはためく髪を片手で押さえ、耳元で唸る風を楽しむ。
遠く聞こえるのは、この湿原に棲まうと言う、生き物達の鳴き声だろうか?



「この湿原にしかいない珍奇な動物達。
 その多くが、人間をあざむいて食糧にしようとする、狡猾で貪欲な生き物です」



淡々と、流れるような口調でなされる説明。
そこには誇張も、脅しの響きも無くて。
それを聞きながら、リュックの紐を引っ張って位置を直す。
アークは、どうやらもうしばらくは起きそうになかった。







「十分、注意してついて来て下さい。だまされると死にますよ」











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