いやぁホント初めてだなぁ、強制異世界トリップなんて。 世界渡るのってそれなりの力とコツがいるのに、よくあんな手間な呪具作ったよね! きっと製作者は暇人だよ絶対。ビックリしたなー。 でもそれより今は、この世界を楽しまなくっちゃ損だよね。 うんだけどボクもそのうちやってみよう。 「おーいそろそろ戻ってきてくれるー?」 ノリノリで将来的な娯楽の計画(=誰かを理不尽に不幸に叩き落す計画)を脳内メモに書きとめると、はひらひらと二人の目の前で、手を振ってみた。どうやら言葉も出ないらしい。 驚愕と困惑とあと不審をないまぜにした表情は、何かもう某金融会社のCMフレーズでもバックに流したら似合いそうなモノだった。そんなに驚くほどの事でもないだろうに、とは口には出さないの正直な感想である。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何の冗談かね?」 「そーゆーふうに事実を否定されると、なんか色々いたたまれないんだけど」 たっぷりとした沈黙の後、絞り出すように吐き出されたその言葉に、不満を隠す事無く表情に出す。 信じられないと言わんばかりの対応だが、事実の上に事実を求められてもどうしようも無い。 精神にゆとりとか余裕とか信じる心とか、そういう成分が足りていないらしい反応だ。 お年寄りだからアタマ固いんだろうなぁと思うものの、ちょっとばかり腹立たしい。 帰ったらやっぱり、斬るよりすり下して挽き肉にしよう。 は予定を変更した。 主語に入るのが何かはあえて割愛する(2回目) 「まぁいいよ、別に理解とかはしないでくれて。そんな事は重要じゃないでしょ?そっちにとっては」 その話はおいといてー、と何かを横にどけるジェスチャーをして話題を強制終了させる。 は事実を述べたのみで、別に理解やら共感やら同情なんかを求めるつもりはこれっぽっちもありはしなかった。 “普通”なら感じただろう、見知らぬ世界への不安も恐怖も彼女には存在していない。 それら負の感情は全て、彼女自身が統べるモノ。 自分の支配化にあるモノであり、また、自身と同一でもあるモノに対して恐怖する理由は無い。 「それより、一晩とめてくれない?寝る所とか行くあてとか無いから」 あと、今がいつでここがどんな世界なのかも教えてくれないかなぁ?と緊張感を欠いた様子で続ける。 自分で異世界を渡る事ができるので、このまま空間を渡って元の場所に戻るというテもあったりするのだが、こうして強制であっても世界を渡ったからにはこの世界を楽しみたい。 その気になれば世界そのものから自在に情報を引き出せるのに、わざわざその世界の住人から情報を聞き出す事も然り。力を使うやり方より、“普通”のやり方で情報収集する方がよほど楽しい、というのが彼女の持論だった。 「あ?ああ、それぐらいならかまわないが・・・・・」 ぱちぱちと目を瞬かせ、汗を拭うような仕草をするディペッド校長。 そのまま纏まりかけていた話だったが、「待って下さい」と横からダンブルドアが制止した。 ブルーの瞳が、を見る。 「行くあてが無いのだろう?なら、わしの所へ来る気はないかね。 年頃の女の子を、行くあても無いまま放り出す訳にはいかん。真偽はどうあれ、異世界の話にも興味があるし―――」 「あるし?」 「・・・・・それに。君には――――魔法使いの素質があるように思うのだが」 真っ直ぐにを見詰めて、何処か戸惑いがちにそう口にする。 良識に満ちあふれ、なおかつ彼等にとっての“仲間”・・・・・魔法族であるかも知れないというその言葉に、ディペッド校長はぎょっとした様子で彼を見て、視線を移しての方を凝視する。 「・・・・・・・・・・・・・・そう言われてみれば」 ぽつり、と。 信じられない、とでも言いたげな表情で、声で。 囁くような小ささで呟かれた一言に、ダンブルドアは一つ頷いてみせる。 「どうでしょう。彼女を、ホグワーツの生徒として迎え入れてみては」 成された提案にうーむ・・・と呻くディペッド校長。 妙な方向に飛躍した話に、はきょとん、とまばたきした。 思わず展開である。仮にも不法侵入の不審者にする対応では無い。 多分、の見た目の小動物っぽい感じと危機感ゼロな様子のせいなのだろう。 実態としては結構な勢いで危険人物だったりするが。 「いや、ボクは別に一晩とまれればそれでいいんだけど・・・・」 やや困惑気味なその言葉に、しかしダンブルドアは首を横に振る。 「行く場所が無いのだろう?ホグワーツにおれば、衣食住の心配をせんですむ。 それに、必要経費はこちらで用意するからお金の心配も無用だ」 「あう。」 かなり魅力的なその言葉に、ぐらりとの心が傾く。 腕には覚えも自信もありまくる。仮にも“死”を司る“黒の姫神子”だ、無い方が可笑しい。 ついでに、異世界トリップ経験もそこそこあるので知らない世界だろうが何処だろうが生きていけると確信できる。 ―――――が。やはり、生活は楽な方が良い訳で。 つまりぶっちゃけた話、“タダで良し”という提案に見事に釣られてしまったのである。 悪い話では無かった。 むしろ、これ以上無い程に良い話。 今後どうするかの予定は未定、別段緊急の要件も無い。 彼等の使う魔法にも興味があるし、この世界を知るいい足がかりにもなる。 動きが制限されるというデメリットは確かにあるが、ここでお世話になるというのは魅力的だった。 かなり乗り気に目を輝かせるに、ディペッド校長は躊躇いの消えない様子で言う。 「しかし・・・・・あの件があるというのに、彼女を迎えて良いものか。 東洋系のこの子が、こんな時期に転入というのも不自然な気がするしのう・・・・・・・」 「留学生、という事にすれば良いのでは?」 頭を抱えそうな様子でぶつぶつと呟くディペッド校長に、横から助け船を出すダンブルドア。 それに、今ひとつ気乗りしない様子ではあるものの、うむ、と頷いてこちらを見て。 「君が留学生として、当校へ通う事は問題無い。無いが、あー・・・・・すまないね、何という名前なのかね?」 「だよ。ファミリーネームは」 「ああ、か。君は知らないかも知れないが、こちらでは今、戦争が起きていてね。 この国は、最近日本・・・・・まぁ、東洋の国なんだが・・・・・其処に宣戦布告したばかりなんだ」 苦い口調で告げられた言葉に、こっちにも日本があるのかぁ、とズレた感心をする。 そんな彼女には気付かずに、言い辛そうにディペッド校長は続ける。 「日本の魔術学校との仲は、悪い訳では無いんだが・・・・・魔法族にも、徴兵されて命を落とした両親を持つ子がホグワーツには多数いる。それだけに今のホグワーツでは、日本人はあまりよくは思われていない。 そして君は、一見すると東洋人の特徴を持っているから日本人だと思われる事もあるだろう。 ・・・・・・・風当たりは、正直悪い。耐えられるかね?」 真剣な眼差しで訴えられた言葉は、たぶん真実なのだろう。 けれど、その事実に対して何の感慨も湧きはしない。 他人の思惑などに惑わされて心が傷つく程ような真っ当な生き方はしていない。 裏切りも嘘も、利用しあう関係性も何もかも、にとっては娯楽の一種でしかなかった。 だからこそ、そんな事は気にしない。――――気になるはずも、無い。 それに、とは思う。 統べての事象は因果と縁が絡み合って織り成す“必然”だ。 どんな些細なものであれ、こうしてここにいる事には“あちら側”の理由があるはず。 「うん、ヘーキ☆」 とってもかるーく請け負ってみせた彼女に、疑わしそうな視線を向けるディペッド。 しかし結局、本人もそう言うならばとため息混じりに決定を下した。 「明日あさっては休日だ。来週の頭に君を全校生徒に紹介するとしよう。 宿は“漏れ鍋”に泊まりなさい。こちらで手配しておくし、君の案内にアルバスを付けよう」 「はーい♪ヨロシクねー!」 「ああ、こちらこそ」 にっこしと笑みを交わして、は差し出された手を握る。 かくして、が、ホグワーツに通う事が決まったのだった。 TOP NEXT BACK 精神面で人外なので、価値観は多大に違います。 実は結構綱渡り。(周囲が) |