気付いたら知らない部屋にいた。



「・・・・・あれ」

ぱきん、と澄んだ悲鳴を上げて、手の中にあった銀の腕輪が砂になる。
はくりくりとした大きな漆黒の瞳を瞬かせ、目の前で唖然としている二人を意識からばっさり切り捨てた状態で広い円形の部屋をぐるぅりと見回した。その動作に従って、ゆるく三つ編みにした長い黒髪が尻尾のように揺れる。
壁には幾つもの肖像画が飾られており、そのことぐごとくが“興味深そう”に、彼女を“視”ていた。

「・・・・・あっれーぇ?」

しつこいようだが知らない場所だ。
ついでに言えば“奇妙な”部屋でもある。
動く癖に魂の気配はまったくしない肖像画群、見た事もない不思議な道具、変な格好の二人組み。
それでいて場に満ちるのは、馴染み深い“力”の感覚だった。
部屋を見回し、二人組を改めて見やっては直前までの事を思い返す。

仕事仲間の甲斐に呼び出されて、ナンか古い呪具の腕輪の検分をさせられた。
で、腕輪に書かれた言葉を読み上げたらココだった。以上終了。

――――帰ったらみじん斬りかイチョウ斬りにしてわんこのエサにしよう。

主語に入るのが何かはあえて割愛する。
ナチュラルに可愛らしい外見を大幅に裏切りまくった事を決め、はにっこり笑顔を浮かべ。

「突然おじゃましまーす!ところでココって何処ですか?」



1分。



2分。



3分。



辛抱強く待ってみたが、反応は戸惑い以外の何ものも返ってはこなかった。
順応性に乏しいなぁ、やっぱり年寄りだからココロにユトリが無いのかなーと失礼な事を考えながら、じぃいいーっと二人組を見る。わぁヘンな格好とか思っていたりするの無遠慮な眼差しに、ようやく我に返ったらしい背の高い男が、ふもふもな鳶色のひげをせわしなく撫でながら、困惑したように何事か言った。

「・・・・・・Aー・・・・Who are you?」

「ふぇ?・・・・ひょっとして言語、違ったりする?」


二人の間に、微妙すぎる沈黙が下りた。




※以下、編集の都合上同時通訳でお届け致します。




「え、やっばいなぁボク分かんないよここの言葉。どーしよ」

『・・・・い、一体何者だ?ホグワーツ内で‘姿現し’するのは不可能のはずだが』

やっと現状を認識し、受け入れる事ができたらしい老人。
で知り得た事実に、危機感の無い様子で首をしきりに捻っている。
鳶色のひげをした背の高い方の男はといえば、こちらもやや困ったような表情をしていた。

「ボディランゲージで話通じるかなぁ。こーんにーちわー?」

『ディペッド校長・・・・・彼女の言葉、解りますか?』

『いや。君は解るかね?』

『どうやら東洋圏の言語の様ですが・・・・それ以上は』

「わーリアクション皆無ー。ちょっと傷付く瞬間だね!」

見事に咬み合っていない。

この状態では、嘆いてもボケても怒っても困惑しても対話は困難だろう。
彼等二人の操る言語の発音や流れを聞いていると、どうも、ここが西洋圏の国の何処かであるのは確かなようだが。
二人してごにょごにょ話し込んでいるのを聞き流しながら、は改めて考える。
正味な話、なんか面白な状況なのでコミュニケーションはとってみたい。
しかしこの国の言語なんてさっぱり微塵も理解できないし、そもそも必要な時には言語翻訳専用の呪具に頼りきっていたので、それを持っていないこの状況下では会話は無理。
今から通話用の術でも開発するのがイチバン早いかなぁ、とが思ったその時、鳶色のひげの男がこちらを向いた。
何をする気なのだろうか。
安心させるつもりなのだろう、にっこりと優しく微笑みかけてくる相手に、危害を加えるつもりで無い事だけは理解できた。
興味津々と顔にでかでか書いてじぃいっと見ていれば、取り出したのは一本の木の棒。
やはりこちらも、何らかの「力」の気配を感じさせる。
の見守る中、男はその棒きれを一振りした。
先端から幾重にも幾筋にも放射線を描いてキラキラとした光が生まれ、の身体に降り注ぐ。


「さて。私の言葉が解るかね?」


今まで「音」としか認識していなかったものが、明確な「言葉」へと変化していた。
おぉ、理解出来る!とは大きな瞳をきらきらと子供のように輝かせて、賞賛の拍手を男へと贈った。
気分的にはスタンディングオべレーション。できれば今すぐ歓声をモブに用意したい。なんて便利なんだろう!
は是非とも今の術を教えてもらおうと決意する。
自分で術式を組むより教えてもらった方が楽なのは何においても同様だ。
ぴし!と直立不動で敬礼してみせる。

「ばっちり分かりまーす!改めましてお邪魔してます、ココって何処ですか?」

改めて、のほーんとした表情で問いかける危機感なその様子に、及び腰だった老人がへにゃりと覇気の無い笑顔を浮かべた。危険にはまったくもって見えないの姿と、敵意の無い態度に安堵したのだろう。
実際のところ、の余裕はいつ、どんな状況下でもなんとでもできるという確信に由来するものだったりするし、その気になれば敵意も殺気も悟らせずに彼らを肉塊に変える事ができたりするが、その辺りは知らぬが花か。

「ここは、ホグワーツ魔法学校じゃ」

「マホーガッコウ?」

耳慣れない単語に、きょとんとした様子で首を傾げた。
常人には縁の無い世界に生まれる前からどっぷり浸り続け、誰より何より深く深淵に慣れ親しんで育っただったが、寡聞にしてそんな学校があるとは知らなかったし、そもそも聞いた事すら無い。

第一、魔法使い系のギョーカイってそんな余裕あったっけ?

心の中でそう自問して、眉間に深くシワを刻み込む。
現在“巣”を置いている世界の魔法使い達は、完全な師弟制のはずだ。
そもそも、この手の知識は権力者による乱用を防ぐ目的のためや、扱うための力を持たない大多数からの迫害の歴史がある為に目立つような真似を避けているフシがある。実際問題として、現在でも対立者は存在するのだ。
下手をすれば一網打尽にされかねない学校方式なんて、にとっても初めて聞く話だった。


「―――――――――――・・・・・・・・あぁ。つまりそーゆーコト」


結論として行き着いたそれに、ぽむ、と手を打って納得する。
これまで聞いた事が無くて、でもさっきまでいた世界でそんな事はありえない。となれば答えは至極簡単だろう。
それでも、自分の意思以外では体験した事が無かったので、少しばかり意外な結論ではあった。

「何が、だね」

一人で納得するに、男が淡いブルーの瞳に不審と心配、純粋な疑問を滲ませて問う。
そんな彼の方へと顔を向け、はへろーんとした笑顔を浮かべて一言。


「ボク、どうも異世界に来ちゃったみたい」

「「・・・・・・・はぁ?」」


超絶軽いノリでされた、常識から考えれば非常にブッ飛んだ一言。
それに、老人と男―――――ホグワーツ校長のディペッド老とダンブルドアは、間抜けな声を漏らしたのだった。






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無敵に神様属性童顔主人公によるハリポタ生活、始まります。
ちなみにタイトルに意味はありません(笑)