前世を思い返してみれば、私はだいぶ親不孝なお子様だった。
平和な世界の平和な時代、ほどほどに裕福なご家庭に産まれ、遊ぶ金が無くてぴいぴい言うことはあっても衣食住に困ったりする事も無くのほほんと育ち、思春期にはいっちょまえに世間様に反抗かまして夜更けまで遊び歩き親を泣かせ、バイクで峠を攻めた青い春。
警察のお世話にこそならなかったけれど、家事の手伝いは一切しないし勝手に金を持ち出したり当たり散らしたりとかはしたから面倒な子供だったろうな、とは思ってます。ハイ。
でもまぁ、迷惑かけまくった私にだって就職という大人の階段を上る日は来る訳で。
バブル崩壊後に比肩せんばかりの就職氷河期をくぐり抜け、ようやく勝ち取った就職内定に肩の力を抜いた。
ここまではいい。思春期ほどには親と険悪でもなくなったし、自立できるくらいの貯蓄ができるまでは親孝行しようかなーとか先々のプラン考えながら、お祝いに友達と飲み屋ハシゴしたのも、後悔はしていない。
……前後不覚になるまで呑んだのは、流石にまずかったと思うけども。
「やっぱり、四軒目行くか行かないかが運命の分かれ目だったのかなー……」
視界を埋め尽くす観客、もとい人身売買しにいらっしゃったお客様方の値踏みする視線をガッツリ全身に浴びながら、私はやっぱり今更な事を猛省してみた。
朝チュンならぬ朝転生トリップを繰り広げた、これはそんな私の生後四年目の出来事である。
【 01.呑み過ぎた翌朝転生トリップしていた。今生では禁酒しようと思う。】
さて、記憶保持での転生者である私のこれまでの経緯を簡潔に振り返ってみよう。
産まれて一年目。
状況把握と現状を受け入れるのに費やされた。そして生存本能に塗れた一年間でした。
いやだってシモの世話も食事も満足になかったんですよ本当。
最初はこっちもいっぱいいっぱいだったから気付かなかったけども、後半ネグレクトを疑った。
転生して早々に死ぬかと日々怯えておりましたとも。言葉も意味不明だったし。
産まれて二年目。
単語の意思疎通くらいはできるようになった。やったぜ。
で、自由に動き回ると危険な戦時中国家に産まれた事に気付いた。嘘だろ神様。
就職早々死んだ親不孝者だからですかそうなのか。輪廻はあっても慈悲など無かった。ガッデム。
そして体力っていうか脂肪の重要性を認識。むしろ虫食べるか死かの瀬戸際。嘘だろ神様。
やめてお母様ソレがハイカロリー&高タンパクだって知ってるけどせめて炙らせて……せめて火を通させて下さいお母様お願いしますうごうごしてるマジ勘弁して野性的ですね人間の尊厳取り戻しておかーさまぁああああ!
産まれて三年目。
前世記憶があろうとなかろうと、生存確率にはさして影響しないよね☆ と本気で実感。
いや、その知識分だけ境遇に比べてまともに育ってるとは思うんだけど。
トイレトレーニングも事後処理も自分でする幼児。これはどんなプレイだろうか。
そしてちらほら耳に入る情報から、私の国陣営が敗色濃厚だって理解できて本格的に鬱だ。
略奪凌辱はないと信じたい。頼むから信じさせて基本的人権! ひとの! こころを!! もって!!?!?
産まれて四年目。
はーい誕生日に敗戦確定しましたー。四って災厄の数字なのかな。うふふ。
想定通り起きた秩序皆無な略奪凌辱殺人の無法行為にプラスで人浚い。これはひどい。人面獣心が跳梁跋扈とか末法の世ですねありがとうございます。待ってこれ転生じゃなくてガチ修羅道堕ちじゃないの? 違う? 幼女で強姦凌辱を逃れたのはありがたいけども、結局ドナで売られた事を考えるとあんま良くないな私の運って。
そして現在に至る訳だけども。
「さぁ~エントリーナンバー四! つい最近滅んだ“北の海”イルキム出身! 人間の少女、四歳!
大変大人しく聞きわけも良い子供ですので、奴隷初心者に良し、夜のお伴に仕込むもまた宜しいでしょう!」
体力的に脱走成功させられる確率が低かったんで大人しくしてたら、まさかのピン売りされましたよどうしよう。
しかも売り文句が大変不快。四歳児にして身の危険を感じるとか嫌過ぎるにも程がある。
ロリコンは嫌だなーとため息をつけば、首輪につけられた鎖を引っ張って顔を強制的に上げさせられた。
「まずは特別ご奉仕価格、三十万ベリーから!!」
瞬間、競って上げられるプレートの数々とその面々にどう考えても避けられなさげな性奴隷フラグを幻視した。
うわーいなにこのロリコンの数ー☆ 泣いていい? マジで。
でも抵抗して逃げたらドカンと吹っ飛ぶ訳でして。
……ええそうなんですよ、この首輪爆弾仕込んでありましてねー。下手踏むと死にます確実に。
奴隷の逃亡防止に最適なアイテムですって、素敵ねボブ! これさえあれば逃亡も反乱も心配無し☆ 今日から貴方も奴隷商! 爆発は芸術? いいえ殺人兵器です。おいこちとら四歳児だぞどんな上級者向けプレイだ。
どうにもならない現状に、遣る瀬無い気分で会場内に視線を巡らす。
会場の連中は、どいつもこいつも嫌な目でこっちを見ている。ハハハ家畜の値踏みする視線だぜ!
特に一番いやぁ~な具合なのは会場の中央、たぶん特別席なんだろう場所にふんぞり返ってる親子だった。
なんだろうね、家畜ですらないよ? 虫ケラとか物体を見る目ですよ? 消耗品見る目じゃありませんこと? 親の方は私に興味無いみたいだけど、子供の方が見下し度MAXでこっち見てますよ?
そしてそんな面白宇宙人風味服のガキんちょと目が合った私。
……奴隷にも、ガンつけるくらいの自由は許されると信じています。
うん信じてる。信じているからガキんちょ頼む目をそらせ。
信じてるから何かリアクションして何故眉ひとつ動かさない上に表情硬直させてんの?!
「おーっと出ました八十二万ベリー! さてそれ以上、それ以上はありませんかぁ~!?」
って、ガキんちょにかかずらってる場合じゃないや。
私の買い手買い手買い手ーってうわ、テンプレなくらいにブルドック面のオッサンじゃないですかやだー! 生理的嫌悪を催す! うわやだあれに触られたくない、既に鼻の下伸びきってやがる! あれは真正の変質者……! ロリコンなら贅沢は言わない、せめて普通顔のお兄さんかオジサマが良かった……!
今なら紳士という名の変態共を菩薩のように笑って許容できる自信がある。
前世で「結局変態じゃん」とか鼻で笑って馬鹿にしてた件は土下座してもいいからチェンジを要求する。
YESロリータNOタッチ! 私四歳児!! 精神年齢はともかく、身体はまだ四歳児だからね!?!
そんなささやかな願いすら贅沢だっていう事なのかな、フフフさよなら私の貞操……いやいや巧い事媚売って爆弾外させれば、隙をついて逃げるくr 「四百万ベリー出すえ!!」
…………ん?
「よ、四百万ベリー! 四百万べりー出ました! 他には、他にはございますでしょうかァ~!?」
視線をオッサンから、声のした方へ戻してみる。
身を乗り出す勢いで手を上げているのは、さっきガンつけ合っていた宇宙人風味服のガキんちょだった。
え、なんであんな真剣な顔して見られてるの私ってば。ってゆーかどう見てもあいつ屈辱に顔を赤くしてますよね? 小さな恋のメロディ的な形相では断じてないね? ひょっとしてあのガンつけで嬲り殺しフラグ立てた? いやあれだけですよないよね? ね??
「あんな小娘に四百万か」
「さすがは天竜人、スケールが違うな……」
「あのレベルの奴隷ならいくらでもいるだろうに」
……今。
……今、なんかすっごい前世で覚えのある、不快な単語が混じってたような。
「それではイルキムの少女! 三十万スタートで素晴らしく破格! 四百万べリーでの落札となりました~ッ!」
私は今、確実に死んだ魚の目をしているだろう。
拍手が鳴り響く会場の中、陰鬱な気分で天を仰いでため息をつく。
四はきっと、今生でのアンラッキ―ナンバーに違いない。
TOP / NEXT