インターネットの海は広大で、掲示板もうんざりするほど雑多にある。
 けれど目的をもって情報を絞り込み、なおかつ目的のものに類するキーワードさえ知っていればその作業はさしたる労力をも必要とはしない。

 Fate/Zero――“第四次聖杯戦争”。

 その物語を知っている。至る結末を知っている。
始まるために終わる物語。先に産み出されたFate/stay nⅰght。“第五次聖杯戦争”の世界線へと至るためだけの物語。書き手の性、そしてどんな悲劇に終わっても“第五次聖杯戦争”で救い上げられ、希望を見い出す事ができると確定しているがゆえに、その舞台は絶望と、血に塗れる事を宿命付けられた“物語”。

『ま、とっくに前提からして破綻してるんだけどね!』
『そうなの? 

 片や金髪黒瞳の妖精めいた容貌の女、片や翅に触角という人間ではないパーツを生やした女という明らかに日本人ではない外見の二人組は、片手にせんべい片手にココアのお気楽スタイルでのほほんとコタツに詰まって駄弁っていた。
 本来であればいるはずのない観客たち。“転生者”という、この“物語”の“結末”を知る異端者達。
 ただ悲劇に終わるだけの物語であれば、それこそ何故かわんさか発生した転生者達がここまで熱く議論し、暗躍する事は無かっただろう。どんな出来事があって、かつてどれだけ愛していようともこの世界に転生した以上ここは現実だ。
 よほど熱烈なファンかミーハー、現実と妄想を区別できないようなファンタジー脳でも無ければ人の命がトイレットぺーパーくらいにしか価値の無い“物語”、進んで関わりたがるはずもない。誰しも死にたくはないのだ。
 死を、一度経験した者達であっても――否。経験したからこそ、尚更に。

『そだよー、特にこのノートパソコンとか分かりやすい例だねぇ。
 ほんとならこの時代にあるはずないもん。で、こういうので強化されちゃう人もいるしー』
『ふぅん。並行次元については研究されてなかったけど、世界線の跳躍も研究の価値はありそうよねえ』
『発達した科学は魔術と大差ないっていうし、星間跳躍できるんだからワンチャン』

 地球外な発声での異星人な友人の発言に同様な人外発声で返答しながら、はばちこーんとウインクを飛ばして見せた。ちなみにこの世界において魔術とは「秘匿せよ、目撃者は黙らせろ(※なお手段は問わないものとする)」な人権とか倫理っておいしいの? な外道が通常運転の技術だったりするのだが、にそこらへんの秘匿意識は無いようである。まぁ相手異星人ですしおすし。大丈夫ばれないばれない。

『それにしても、まさかこの街が火の海になっちゃうなんて……』
『まぁサキはその辺りの時期、宇宙船にでも避難してればいいんじゃないかね?
 呪いの汚染だけど上空浮いてりゃ回避余裕でしょー』
『それはそうなんだけど……この街に滞在してる身としては、やっぱり複雑だわ』

 そう言って心なしか翅をしょんもりさせるサキ。
 情に溢れたリアクションを見せる宇宙人の王女様に、しかし地球人なはずのの反応は軽かった。

『まー誰しもいつかは死ぬし滅ぶし』
『……あなたって結構薄情よね』
『ここに住んでる友達とか綺礼ちゃんくらいだしー。ちょっとばかし“原作”とは性格変わっちゃってるけど、第五次で外せないキャストだから順当に行けば死なないだろうしなぁ。累はおにーさん夫婦がいるからそこは心配してるみたいだけど、一家族程度なら十分守り切れるし? サキは宇宙船で回避余裕。ほら友達みんな無事じゃん』
『他の人達は、見捨てるの?』

 じと、と非難がましい目がを睨む。
 なおこの宇宙人、こんな人情溢れた発言をしているが伴侶の種族は全員不能にして絶滅させて独占する、種族単位のグローバルヤンデレである。生物として格で負けてる感があるが、はココアを啜りながらしれっとした顔で肩を竦めた。

『他は知らんよ、正義の味方じゃないんだから』

 やってやれない事は無いだろう、というのが本音ではあるが口には出さない。
 この一件に関わるというのは、即ち面倒を背負い込むという事と同義語なのである。“原作”を知ってはいても、にそこまでの熱意も動機もありはせず、そしてついでにやる気もなかった。転生者達激おこの事実である。やる気のない奴ばっかりなんでか力とか権力とかに恵まれるというこの理不尽よ。

『……あなた達ならできると思うのよね。あたし達の宇宙船叩き落したくらいだし』
『不幸な事故だったね!』

 納得いかなさげなサキ王女の言葉に、はいい笑顔でサムズアップしてみせた。
 実際不幸な事故だった。酒盛りでのんだくれた二人が大騒ぎした結果の事故だったのだ。正直翌朝叩き落とした宇宙船と累々転がる半死半生の宇宙人達を前に、記憶を酔いと一緒に置き去りにした二人は顔を合せて証拠隠滅を目論んだ程度にはやばい有様だったが。
 まぁ結局、魔術関連の技術提供と地球文化について教える事、あとこの星でのサキ王女の婿探しに付き合う事を条件として大参事なこの一件は手打ちとなったので結果オーライと言えるだろう。達はマクバク族の心の広さに感謝すべきである。

 ともあれ。

『ま、今掲示板見せた通り色々動いてる人はいるしなんとかなるなる』
『そうなのかしら……』

 完全に傍観体勢の、そもそも関与できる立場ではないマクバク族の王女サキ。
 しかしは忘れていた。大抵、面倒事は向こうからやってくるものだという現実を。そして、の相方には一応首を突っ込む程度の動機が存在しているのだという事実を。
 かくして運命は仕事する。一般に、お約束、と呼ばれているお仕事を。




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