天照様キリスト様仏様マホメット様お釈迦様アッラー様あとえーっとその他諸々の神々様。

とりあえず、どの神様かは存じ上げやしないが認めよう。
ああ認めましょうとも、あたしが不信心の信仰心薄いゆる信者だと!
確かに。たーしかーに!いてもいなくても一緒だろーなんて暴言吐きましたともよ?
自分の都合に合わせて祈ってみたりとかもしたさ?

でも、そんなのみんなしてると思うんだがそこんとこどうよ。

祈っても奇跡とか起こすワケぢゃないし。出てくるわけでもないし。
ただでさえ信仰ごたまぜな現代日本、ぶっちゃけマジに神様信じてる奴は希少だと思うんだよね。

……あー。近所のお寺の大仏にラクガキしたのが悪かったのなら謝るよ。
ひょっとして、神社のお神酒をコーラとサイダーと醤油と青汁混ぜたのに換えたのが悪かった?
それとも通学路のお地蔵さんにカツラ(正確には増えるワカメ)かぶせてサザエさんヘアーにしたアレだったりする?

うん、色々やったよ。認めよう。
でもさ、これ以上の事やってる奴もいるじゃんか。

もしや教会に犬猫持ち込んだのが原因?
いいじゃないか、あれはちょっとした仏心だったんだし。プリティーで癒されるじゃん。
犬猫がキリストさんの足元でマーキングしたりステンドガラスひっかいたのはあたしの責任じゃないっしょ。


…………謝るってば。やりすぎたんなら。


確かにやり過ぎた、かもしんないし。
ごめんなさい悪かった。同じネタは二度とやらん。

だからさ。

せめて、現状に一言くらいの説明は欲しいんだわ。




出て来い奇跡の責任者ーッ!




明日テストあるんだよ。
そっちはどうでもいいけど打ち上げのケーキ楽しみにしてたのにどうしてくれる!





         【 トラップ・ゲーム 】





翌日テストにも関わらず、が馴染みのゲーム屋に行ったのはちょっとした気分転換だった。
目当ては現在絶賛2週目突入中!なポケモン最新作、ルビー&サファイアの攻略本である。

1週目は情報ナシ、2週目以降はやり込みプレイがあたしの正義ッ!

親友兼悪友のが見たら「真面目にやれッ!」とハリセン突っ込み確実の行動だろう。
だがしかし。ただ延々と机にかじりついて教科書とにらめっこ、という苦行にひたすら耐えていられる人間など、果たしてどれだけいるだろうか?そもそも、ゲームや漫画も嗜むがは基本的にアウトドア派野生児系である。着の身着のままで密林に投入されても生き抜けるタイプだ。
テスト勉強が愉快で楽しくて気持ち良いという人間などツチノコ以上の希少生物だとは心の底から真面目にそう思っているし信じている。むしろ人類とは認めない。


それはともかく。


「おお?掘り出し物はっけーん!」

早くも中古売り出しされていた攻略本を値切り倒してお買い上げし、ご機嫌でゲーム類を品定めしていたがそれを見つけたのも、偶然といえば偶然だった。
陳列棚に置いてある訳でも無く、流行りがすたれて大安売り中な箱からすらこぼれ落ちて、ひどく隅の方――――それこそ、よく気付いたよな自分と思いたくなるぐらい目立たない場所に、ぽつん、と落ちていた埃塗れな白地の箱。

『ポケットモンスターの扉』

そんなタイトルの、扉の絵がかかれた箱。
薄汚れたそれに興味を示したのは、ひとえにが、ポケモンラブ☆なポケモン好きだったからに他ならない。

そう、現実にあったら密航してでも行って見せるくらいには。

どう好意的に解釈しても犯罪だった。
まぁ、現実には無いからこそ密入国は実現しない行動なのだが。
夢と現実、実現可能と実現不可能の分別くらいはついているのである。
少なくとも、ガチで遺伝子操作の研究してポケモン誕生☆とかしないんだからねっ!
べ、別に技術者に残念ながら知り合いがいないとか資金面の問題とか、そんな生々しい問題があったからじゃないんだからね!勘違いしないでよ!!
何気なく拾い上げ、上にうっすら降り積もったホコリを払う。
ホコリを払ってみれば、その箱は驚くぐらいに凝った装丁が施されていた。
タイトルと箱の見事さに、ひっくり返して裏面の紹介文を読み上げる。

「なになにー?
“三つの扉のどれかをくぐり抜けて、ポケモンの世界へ行ってみましょう!
 どの道を行くかはあなたしだい。めくるめく夢と冒険が、あなたを待っています!”………?」

それ以外には、何も書いていなかった。
やや肩透かしをくらった気分で、は首を捻りながらもう一度表の扉を眺める。
綺麗だ。ゴージャス。美しい。意味深な辺りがミステリアスでトキメキを覚える扉だった。
もう一回裏面を見る。シンプルな説明文。むしろ、それ以外は何も書いていない。
ここまで凝った装丁なんだから、売り出し文句も気合い入っててもよさそうなもんだけど。
期待していた宝箱の中身がカラだった。
あえて現すならそんな気分で、今にもはがれそうな値札のシールを見る。

値段は十円。
いっそ笑える程に安い。

「んー。ま、いっか」

やった事が無いゲームなのは確かだし、十円ならつまらなくても損でも無い。
そんな打算で買った安ゲームがまさか人生の分岐点だなんて、当然、この時のが気付くはずもなかった。



 ■   □   ■   □



自宅でベッドにダイビングし、テスト勉強そっちのけでさっそく箱を開けてみる。
それなりーにわくわくしながら中身を引っ張り出してみれば、出てきたのは真っ黒のカセットと紙切れが一枚。




― ご使用上の注意 ―

このゲームは、あなたを夢と希望に満ちあふれた、ポケモンの世界へいざなってくれます。
ただしチャンスは一度きり。一度使えば後悔しても絶対に戻る事は出来ません。
ご使用になられる際には、よく考え、身辺整理を行ってからお使い下さい。




「身辺整理て」

薄気味悪い注意書きだった。
まるで何事か起きる事が前提にあると、そう言わんばかりの注意書きである。
悪夢の中に足を踏み込みかけているような、そんな奇妙な感覚。
だがまぁ、なんといってもたかがゲーム。
危険があるはずもないだろう。

突然爆発とかしたら確かに「違う世界へレッツゴー!」だけどな!(笑・・・う内容か?)

カセットを機械に差し込み、電源を入れる。
すると、黒かった画面は前置き抜きに色鮮やかな緑に染まった。
風の波紋が新緑の海を渡り、広がり、不可思議な模様を描き出して青いあおい空へと駆け抜けていく。

そよぐ草笛の音色。

肺に満ちる青々とした匂い。

今まさに草原の地平線に立っているのだとさえ錯覚してしまいそうな。
不思議な――――それは、ひどくリアルで綺麗な、草原の光景。



【 世界は君なんて必要としてはいない 】



「ケンカ売ってんのか制作者」

唐突に現れた失礼さMAXな文字に、青筋浮かべて即座に突っ込む。
まぁ無駄だけどなコンチクショウ(怒)
せっかく美麗画像であたしのハートの如く美しく洗われた脳内が怒りに満ちたぞこんにゃろう!



【 それでも君は、常にスリルと危険を求めている 】



心臓が、どきんと高鳴る。

見る人間全員に発せられる問いのはずなのに、それはひどく、的を射ていた。
スリル、危険、そして冒険。わくわくどきどきする、心躍る瞬間。
確かには、そういったものが大好きだ。
そうでなければこの歳で、一人旅やらサバイバルの経験があったりしない。
学校サボって放浪したあげく、親呼び出しの上でしこたま絞られたりもした訳だが。



【 さぁ、君は行くか?君の求める場所へ 】



言葉と同時に画面がブラックアウトし、白い文字で書かれた選択肢が浮かび上がる。
寝転がって画面を見たまま、はニヤリと不遜に笑った。

「・・・・・とーぜん」

この 、これで退くような女じゃございませんってーの。
一瞬たりとも迷わず【 YES 】を選択する。

すると、文字と入れ替わりに質問が浮かび上がってきた。


【 あなたは何歳ですか? 】


へー、自分で設定できるのか。凝ってるなコレ。
十円にしてはいい買い物だったかも?グラフィックも綺麗だし。
えーっと、いま中一だしこないだ誕生日だったからー。

「13歳っと」

ぽちぽちと片手で操作して入力。


【 性別は男と女、どちらですか? 】
【 髪は何色ですか? 】
【 目は何色ですか? 】


「……多くね?質問」

自分で設定できるにしても異様にしつこく浮かんでくる設定画面に、早々に真面目な返答を投げたのは当然の成り行きだっただろう。なんでホクロの数まで指定せにゃならんのだ。
年齢と性別以外、ほとんど適当に直観とその場のノリでの入力である。
あと、現実にはじみーにあり得なさそうなので。

理由?特にないけど、そっちのほうが面白そうだし!(きっぱり/いや胸張るな)



【 どの扉をくぐりますか? 】



そんな質問と共に三つ、真っ黒な画面に、妙にリアルな扉が浮かび上がった。

一番右端の扉は、綺麗な蒼色で『GB』
真ん中の扉は、透き通った水晶色で『SP』
一番左端の扉は、鮮やかな紅色で『AG』と書いてあった。


「うーん・・・ど・れ・に・しーよーうーかーなー」


おそらく佳境だろう質問を、はベッドでごろごろしながら神頼みした。

「よし、君に決めた!」

『SP』の扉をクリックすれば、すぅっと入れ替わるように文字盤が浮かび上がった。

【 名前を入力して下さい 】



「“ ”・・・・・・っと」



【 最後に、あなたのパートナーを選んで下さい 】



「やーっと最後かぁ・・・えっと・・・・うわ、いっぱいいるよ」

画面の中には、小さなアイコン形式で大量のポケモン達が映っていた。
伝説とされるポケモンと進化したポケモンはいないし、まぁ選ぶのが三匹の中からじゃないのはいいとしても。

「なんか、知らんポケモンが混じってんですけど………?」

ゼリーっぽいのに包まれてるのとかまふまふしたくなるのとか。こんなんいたっけか。

「そーだなー・・・よし、こいつにしよう」
 
ポケモンにカーソルを合わせて、決定ボタンを押す。
かっこいいモノ好きなが選んだのは、“災いポケモン”。
忌まれし異名を持つ、悪タイプのポケモン――――――――アブソルだった。



【 それでは、健闘を祈ります 】



そっけない(当然だけど)文字が現れて、とたんに視界が真っ暗になる。
寝っ転がっていたベッドの、布の感触すら消えて。


「へ?」

思わず呟く。
え、ちょいまちこれってえっーと・・・・・・


「あれ?」


再度呟くと同時、耳元で聞こえたのは――――――ひどく愉快そうな、そんな、笑いを含んだ女の声。





【 Good Luck! 】





一瞬の浮遊感ののち、落下。











「うぉぎ
ゃああああああああああっ?!」

















で、現在に至る。

「うあ゛ー頭イタ・・・・・ズキズキするしー・・・・・・・・・・・・・・・」

身体を起こし、おもわず固まった。
 

知らない風景が広がっています。


てゆーか、
ここどこですか(汗)




かくして。ステキに混乱な事態になったのでありました☆





教訓:好奇心のみでの行動は危険です。(←遅)






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よいこもわるいこも なるべく 後先は考えて行動しましょうね!
本作品の主成分は好奇心と迸って戻らない青春とかいう名前のパッションですよー(は