煌めくネオンの光が闇を駆逐し、喧騒の向こうからは時折、底抜けに明るい嬌声が響く。
立ち並ぶ店々は夜も暮れて久しくとも、客を捕まえようと活気付いている。
そんな表通りの賑やかさ、行き交う群衆をぼんやりとは暗い目で眺めていた。
路地裏にぽつんと一人で佇んで、幼さの色濃く残る容姿にはひどく不似合いな、疲れ切ったため息をつく。


「・・・・・・・・・・・みつかんない」


乾いた呟きが、唇からこぼれ落ちる。
壁に体重を預けて、そのままズルズルと地面に座り込んだ。

日本人共通の黒髪に黒の瞳。
未発達ながらも、ほっそりとしたしなやかな身体。
ネオンの光と夜の闇が陰影を作り出すその面差しは、ややきつめの造作ながらも文句無しに整ったものだ。
けれどその目の下にはうっすらとクマがあり、肌にも精彩を欠いているなど疲労が如実に現われている。


親友兼悪友のが、謎の失踪を遂げてから早三日。


その日からは、学校にも行かず家にも帰らず、思い当たる場所すべてをしらみ潰しに探し続けていた。
周囲はと言えば、もともと放浪癖があり、ふらっといなくなる事のあるを知っているだけに、「いつもの事だろう?」と、放っておけばそのうちひょっこり姿を見せるさ、と笑ってまともに取り合わない。
自分もそう思えれば、どれだけ気楽だっただろうか。
は憂鬱な気分で膝頭を睨む。
確かに、野良猫か糸の無い凧のように思い立ったが吉日とばかり、何処かへ旅に行くのはの常だ。
大概には一言告げてから行くのだが、それでも、何も言わないで出ることもある。



「・・・・・の馬鹿、あほ、まぬけ、うっかりや、愉快犯ー・・・・・・・・・・・」



腹立ちと虚しさ混じりに呟く悪口雑言にも、反論は無い。
長い付き合いだからこそ、は今回の事が“いつもの”気紛れでは無い事を理解していた。

が失踪した日、学校では試験があった。
それ終わったら、美味しいと評判のケーキ屋で打ち上げする予定だった。
だから、絶対サボらないようにってしつこいくらいに念押してあって。
絶対に試験放棄していかないようにって。


“逃げるな”って、言ったから。





「いなくなるはずなんて、ない、のに」





何か、厄介な事に巻き込まれたに決まってる。

根拠は長年の付き合い。
そして何より自分を急きたてて訴えかける、第六感で充分だ。



それでも、収穫は未だ無い。



身体が重い。
寝不足と、ほとんど休みも取らずに歩き続けた故の疲労。
それらはすでに、限界を超えてしまっていた。


ぼんやりと、空を見上げる。


明るい街とは違い、そこに存在するのは底の無い黒。
街が明るくなって、星は見えなくなったと言っていたのは・・・・・誰だったろうか。




それでも、月は――――――存在し続ける。





空の上から、地上の総てを見守る月。
ある意味ストーカーだよね!などと言っていた事を思い出し、自然と笑みがこぼれる。







―――――ああ、今日は満月か―――――







眠気に支配された脳。
しかしその月を見た瞬間、例えようもない不吉な違和感が横切った。

銀を連想させる光を放つ、美しい夜の貴婦人。


だが。


今、空に浮かんでいるのは――――――ぽっかりと、黒ずんだ血を落とした様な色彩の、月。






空に在って、異彩を放つ・・・・・禍々しい月。







「―――――――――・・・・・・・・・・・・」









おかしい。



何かが・・・・・・・歪んでいる?










心の何処かで、何かが間違っているような・・・・そんな、違和感を抱きながら。








ずるずると、堕ちていく。

















眠りの底へ。


















目が覚めたら、一度、の家へ行こう。
そうすれば、何かつかめるかも知れないから。
未だにがいなくなった事を知らないだろう、姉にも伝えて。
きっと、力を貸してくれるはずだ。

茫洋とかすむ意識の片隅、そんな事を考えながらまぶたを閉じる。




睡魔に身を任せて、今はただ・・・・・眠りたい。













身体を包む、奇妙な浮遊感。
























闇に沈む意識の中、最後に見えた真紅の月は――――――
























わ   ら   っ   て    い    た





















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ルナロッサ=赤い月