「善財童子」=「華厳経」

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(一)

インドの昔むかしのお話。ガヤ村というところに善財童子という少年がいた。お金持ちの家の
子供で、なに不自由なく過ごしていた。頭の良いことにかこつけて、毎日遊んでいた。ある日、
サラの林に、大ぜいの、お坊さんが集まっていた。やがて、村の人びともやってきて、サラの
林は、人で一杯になった。お釈迦さまの弟子の文殊(もんじゅ)菩薩(ぼさつ)さまが、次のよ
うな話をした。「たとえば、池に、ひっそりさいている、ハスの花をごらんなさい。その、ひ
とつひとつの花の上にも、仏さまが、すわっていらっしゃるのです。でも、それが見える人は、
立派な人だけです。いろんな勉強をし、正しい行ないをして、世の中の人のためになるように
なったとき、初めて見えてくるのですよ」善財童子は、これを聞いてびっくりした。林の中の
ことなら、何だって知っているつもりだった。「でも、ハスの花の上に、そんな人がいたかし
らん」善財童子は、林の小(こ)道を走って、小さな池にでた。その水面には、まっ白なハス
の花が、たくさん咲いていた。善財童子は、その、ひとつひとつの花を、よく見てみた。やっ
ぱり、花の上に、仏さまなんか見つからなかった。善財童子は、池のほとりに、すわりこんで
しまった。「立派な人になったら見えるのかなあ」 善財童子が、林の中へもどっていくと、お
話が終ったのか、大ぜいのお坊さんたちが、こちらへやってきた。その中に、文殊菩薩さまも
いた。「文殊さま。どうしたら、私もりっぱな人になれるでしょうか」 とたずねた。すると、
文殊さまは「よくたずねました。その、立派な人になりたいと思うことが、いちばん大切なこ
とですよ。あなたは、立派な人のところへ行って、どうしたらよいかを、丁寧(ていねい)に
お聞きし、教えられたとおりに、一生懸命に努力して、世の中の人のためにならなければなり
ません。南の方に、カラクという国があります。そこの、クドクウンという、お坊さんにお聞
きなさい」善財童子 は、大よろこびで、南の国への旅にでた。

 

(二)

それは初めての旅で、ひと月も歩いて、やっとのことで善財童子は、そのお坊さんをさがしだ
した「どうしたら、立派な人になれるでしょうか」すると、そのお坊さんは「よくたずねられ
た。わしも、立派な人になって人びとを救おうと、修行をしておるが、やっと、どうしたら、
良いことと悪いことの見わけがつくかがわかったぞ。どんな嘘をついても、お見とおしじゃ。
わしは、そのことを教えてしんぜよう。じゃが、立派な人になるには、わしも、もっともっと
修行せねばならん。南の方にジザイという国がある。そこのミガという先生なら、きっと、ほ
かのこともよく知っとるじゃろう」と言った。善財童子は、いっしょうけんめい善悪を見わけ
る方法を学んでから、お礼をいって、また南への旅にでた。

 

(三)

三百里も歩いて、やっとのことで、その先生をさがしだすと、善財童子は「どうしたら、りっ
ぱな人になれるでしょうか」と、たずねた。すると、その先生は、「よくたずねたね。私も、
立派な人になって、みんなに教えてあげようと、いろんな言葉を勉強してるんだが、やっと、
どんな国の言葉でも、どんな獣や虫、どんな草や木の言葉でもわかるようになったよ。アリさ
んのお話だって、タンポポの歌だってわかるんだよ。私は、それを教えてあげよう。でも、ほ
かのことは私もまだ勉強中だ。そうだ、南の方に、バラモンという行者がいる。彼に教わって
ごらん」と言った。そこで善財童子は、いっしょうけんめいに、言葉という言葉を学ぶと、ま
た旅にでた。

 

(四)

やっとのことでバラモンをさがしだしたとき、彼は苦しい修行の最中であった。刀(かたな)
などの刃物(はもの)でできた高い山の上から、燃える火の海へ飛びこもうとしていた。「ど
うしたら、立派な人になれるでしょうか」と、善財童子がたずねると、バラモンは言った「ち
ょうど良いところへきた。お前さんも、この、刃物の山に登って、火の海に飛びこむがいい」
善財童子は、びっくりしてこう考えた「立派な人になることは、難(むつ)かしい。これは、
きっと悪魔が、わたしの邪魔(じゃま)をして、殺そうとしているんだ」すると、大空から、
多くの天女が、口を揃えて言った「悪魔なんかじゃありません。あなたはきっと、怖(こわ)
がっているんだわ」善財童子は、恥ずかしくなって、バラモンに詫(わ)びをし、立派な人に
なりたい一心で、刃物の山から、火の海へ飛びこんだ。するとどうしたことか、ちっとも熱く
ない。バラモンが言った「善財童子よ。おまえさんは勇気と、一心に思いをこめたときの強さ
を学んだ。おれにはもう教えることなんかなくなった。南へ行って、ミタラという女の子に会
いなさい」

 

(五)

南へ行くと、大きな宮殿があった。宮殿には宝石がちりばめてあって、数えきれないほどの立
派な人たちの絵があった。ミタラはその宮殿のお姫さまであった。善財童子は尋ねた「どうし
たら、立派な人になれるでしょうか」お姫さまが言った「ねえ見て、この絵の人たち。私は、
何回も何回も、生まれかわって、この人たちみんなに会ってきたのよ。そうして、一生懸命に
学んだわ。あなたにも教えてあげるわね」ミタラ姫が教えてくれたのは、いろんな呪文(じゅ
もん)であった。頭がよくなる呪文。誰の考えていることでも、わかってしまう呪文。病気を
治す呪文。おぼれている人を助ける呪文。透明な人間になる呪文。どんな願いでもかなえる呪
文。世界を滅ぼす呪文なんて、怖(こわ)いものもあった。最後に、お姫さまは善財童子に言
った「でも、ほんとうに、立派な人になるまでは使っちゃだめよ。ずっと南に住んでるジザっ
ていうお姉さんにも会っていきなさいね」

 

(六)

少し行くと、また宮殿があった。ところが、この宮殿は、普通の木でできた、粗末な作りで、
たいそう大きいのに、中はがらんどうであった。そして真ん中に若い女の人が、ぽつんとただ
一人すわっていた。着物は、つつましく、道具といったら、お椀(わん)がひとつ前にあるだ
けであったが、その女の人は美しく、やさしい人だった。「どうしたら、立派な人になれるで
しょうか」と、善財童子がたずねると、女の人は答えた「よく、たずねましたね。私は、人に
物を施(ほどこ)すことができるの。着物でも、髪(かみ)飾りでも、家具でも、私の持って
いる物ならなんでも、人にあげました。最後にひとつ残った、このお椀からは、中から、いく
らでも、食べ物が出てくるので、百人、千人は、おろか、世界中の人びとに、食べ物を差し上
げることだって出来るのよ。私は、世界中の子供たちが、お腹(なか)をすかせて死んじゃう
ことがないようにしたいと思っているのよ」善財童子は、こうして欲ばらないで、みんなに物
を施すことを一生懸命に学んだ。そして、次に、マンゾク王に会うように言われた。

 

(七)

善財童子が、これまで会った人びとのことを思いだし、教えられたことを考え、感謝して、南
へ南へと歩いていると、大きな国に着いた。王さまは、ちょうど、仕事中で、裁判をしていた。
「おまえは、何をしたのだね」「はい、王さま。わたしは人を殴(なぐ)りました。でも、そ
れは相手が先に蹴(け)ったからです」「人を殴(なぐ)ってはいけないという、この国の法
律を忘れたのか。殴った方の手を切ってやる。ついでに、先に蹴ったやつの足も切れ」と、目
の前で、一人は手を、一人は足を切られた。「つぎのものは、何をした」「はい、王さま。わ
たしは、ただ、そのう、お辞儀(じぎ)をするのを忘れただけです」「よし、おまえは、お辞
儀をしなかった、その首を切ってやる」と、目の前で、首を切られた。次の者は、居眠(いね
む)りをしたので、両目をえぐられた。火をちゃんと消さなかったものは、熱い灰の中に投げ
こまれた。布団に粗相(そそう)をした者は、その布団にくるまれて、油をそそぎ、火をつけ
られた。それはそれは恐ろしい裁判であった。「これは、王さまのほうが、もっと悪ものに違
いない。こんな人が、どうして、立派な人なものか」善財童子が、こう思っていると、また天
女たちが口をそろえて言った。「悪者なんかじゃ、ありません。あなたは人の、本当の心が、
まだわからないの」そこで、善財童子は、王さまのところへ行ってたずねた「どうしたら、立
派な人になれるでしょうか」すると、王さまは答えた。「よくたずねた。わしは、正しい行な
いと、人を戒(いまし)めることを学んだ。先の罪(つみ)びとたちは、実はみんな、わしが
作ったロボットじゃよ。人間そっくりのロボットに悪いことをさせ恐ろしい裁判をすれば、そ
れを見た人間は、みんな、もう悪いことは、しなくなるのじゃよ。わしは、アリ一匹だって殺
しゃせんぞ。生き物の命は、みんな大切じゃ」そこで、善財童子は、王さまから、正しい行な
いと人を戒めることを学んで、さらに南への旅をつづけた。

 

(八)

こんどは大きな海にでた。そして、王さまから教わった、船乗りを見つけだすと、 善財童子は
「どうしたら、立派な人になれるでしょうか」と、たずねた。「ようこそ、ここまでおいでな
すった。まあ、おいらの船に乗んなせえ。海のことなら、だれにも負けないよ。世界中の港を
知ってるし、どこに宝島があって、どこに人を食う、化(ばけ)け物が住んでいるか。どこの
海の底に恐ろしい竜が住んでいて、どこに危ない渦(うず)が巻いているか。海の色、空の色
で、嵐がくるか、竜巻(たつまき)がおこるか。太陽に月、星座を見れば、いま自分が、どこ
にいるかだってわかるさね。だから、長い船旅だって、怖(こわ)くはないのさ。まあ、生れ
てから死ぬまでの人生の旅だって同じことさね。努力して知識を深め、慎重に行動して、たえ
ず自分がどっちに向いているか、わかったなら、必ず立派な人になれるさね。さあ、着いたぜ、
善財さん」

 

(九)

海の上に、岩に囲まれて、聳(そび)える山は、フダラカ山(さん)。あたりは美しい花におお
われ、おいしそうな、果物のなる木が一杯であった。森の中には泉がわき、すてきな香(かお
り)のする草をわけて、小川が流れ、美しい沼にそそいでいた。善財童子が山を登っていくと、
涼しそうな岩かげに、たくさんの美しい着物をきた人たちが集まっていた。みると、それぞれ、
みごとな宝石の上に座(すわ)っている。真ん中でダイヤモンドより固い宝石の上に、足を組
んで座り、話をしているのが観音さまであった。手には楊柳(ようりゅう)という、やなぎの小
枝を持ち、近くには薬びんが置いてあった。善財童子は、丁寧(ていねい)にお辞儀をしてた
ずねた「どうしたら立派な人になれるでしょうか」観音さまは、やさしく答えた「よくたずね
てくれました。私は、いつも私のことを信じてくれている人なら、どんな悩みを持っていても、
「観音さま!」と、私の名前を呼べば助けてあげようと、誓(ちか)いをたてました。どこへで
も、すぐに飛んでいって、なんにでも変身し、やさしい声をかけ、ときには強そうな姿をして、
光の輪でつつんで、人びとを救います。危険な目にあったとき、熱病に侵(おか)されたとき、
縛(しば)られ殺されそうになったとき、貧乏、争(あらそ)い、死、愛や憎しみなど、どん
な悩みや恐ろしさからも救ってあげるのです」善財童子は、喜(よろこ)んで、人を救うとい
うことを一生懸命に学び、また、旅にでた。

 

(十)

善財童子は、こうして多くの人たちに会った。そして、沢山(たくさん)のことを学んだ。だ
がなおも、南へ南へと旅をつづけた。あるときは、大きな川の川岸で、砂遊びをしている男の子
に会った。その子は、川の全部の砂つぶの数を数えることができた。善財童子は、その子から、
不思議な算数を教えてもらった。又あるときは、お婆さんに会った。昔のことは全部おぼえて
いて、決して忘れない方法を教えて貰った。沢山の、お金持ちにも会った。どんな欲しいもの
でも、空から降らせる方法を教えてくれた人。反対に、自分が少しの物しかなくても、いつも
充分(じゅうぶん)に満足した気持ちでいられる方法を教えてくれた人。どんな病気でも治(
なお)せる薬の作り方を教えてくれた人。どんな悩みを持ち、憂鬱(ゆううつ)な人でも、たち
どころに、いい気持ちに、幸せにしてしまう香水の作り方を教えてくれた人。ある王さまからは、
不幸(ふしあわ)せな人、貧しい人を可哀(かわい)そうに思い、心から愛してあげる、慈(
いつく)しみの心を学んだ。たくさんの、夜空の女神さまにも会った。人びとが夜空を見あげ
るとき、その日、良いことをした人には、安(やす)らかな心を、悪いことをした人には、慈
(いつく)しみ悲しむ心を起こさせることを学んだ。また、一生懸命に行ないを正しくして、
夜には、光あふれる美しい国々や、人々の夢を見ることを学んだ。善財童子が会った人は、と
うとう、全部で五十人にもなった。そして、五十番目の女神さんは、南へ行って、弥勒菩薩さ
まに会うように言った。

 

(十一)

弥勒(みろく)さまの宮殿は、暗い林の中に高くそびえていた。門のとびらは閉まっていたが、弥
勒さまは、ちょうど外から帰ってきたところだった。そして、善財童子を見ると、言った。「よ
くここまで、たどりつきましたね、善財。あなたは五十人もの人に、色々なことを学んで、とう
とうここまで、来ることができました。それは最初に、立派な人になって世の中のためになりた
いと、固く、心に願ったからです。その強い決意があなたを守り、ここまで連(つれ)てきてく
れたのですよ。あなたは、沢山(たくさん)のことを学んで、身につけました。さあ、これから
私の宮殿に入れてあげよう」弥勒菩薩さまが、右の指をポンと、はじかれると、門は自然に開き、
善財童子が中へはいると門は閉じた。善財童子は、思わず、まばたきをした。宮殿の中は、外か
らは思いもつかないほど、広く、明るく、キラキラ光っていた。ルビーや水晶、エメラルドなど
の宝石でできた宮殿には、黄金の鈴の音(ね)が、たくさんの美しい鳥の声と一緒になって、響き
わたり、あたり一面に、香水のにおいがして、空からは、いろんな花びらが舞い散り、数知れな
い玉の光がすみずみを照してた。窓の外を見ると、空は晴れ渡って輝き、同じような宮殿が、何万
となく、つながっているのが見えた。善財童子は、嬉しくなって、踊りあがり、やがて、心が和
(やわ)らぐと、頭の中まですっきりした。「全部の宮殿へ行ってみたい。でも、どうしたら行
けるのかしら」と、善財童子が、ふと考えると、たちまち善財童子に、なん万もの分身ができて、
全部の宮殿に一人ずつの善財童子がいた。その宮殿の一つひとつが、一つの世界になっていて、
弥勒さまや、お釈迦さまのような、立派な方が、それぞれお生まれになって、立派な人になりた
いと思いたち、色々な苦労をされて、立派な人になり、不思議な力で世の中の人びとを助けられる
様子を、一人ずつの善財童子が、ひとつひとつ見て学ぶことができたのである。「見ましたか、善
財童子。立派な人たちの不思議な力が見えましたか」と、弥勒さまの声がした。「はい、見ました
」たくさんの善財童子が、口をそろえて答えると、また弥勒さまの、指をポンと、はじく音がし
て、いつのまにか、善財童子は、ひとつの体になって、宮殿の門の外に出ていた。まるで、夢の
ような出来事であった。何百年もすごしたつもりが、ほんの少しの間のできごとだったのである。
弥勒さまが、最後に言った「善財童子。あなたに、宮殿の中のすばらしい世界が見えたのは、宮
殿がすばらしいからではありません。あなたが、すばらしく見ることができるほど成長したので
すよ。あなたは、もうすぐ、立派な人になれます。さあ、早く帰って、文殊さまに、このことを
お伝えなさい」

 

(十二)

文殊さまの名前を聞いて、善財童子は故郷(ふるさと)のことを思いだした「南へ南へと旅をし
て、とうとう、こんな南の国まで来てしまった。ああ、早く帰りたい」と思ったとたんに、目の
前に文殊さまが現れ、周(まわ)りは見おぼえのある故郷の景色になった。そこは、善財童子が
育ったガヤ村である。だが、いままで見たこともないほど空は透きとおって青く、木は緑にかが
やき、家も人びとも綺麗に見えた。まるで、まだ弥勒さまの宮殿の中にいるようであった。「よ
うこそお帰り、善財童子。あなたはりっぱに長い旅を終え、すべてのことを学びました。あっと
いうまに帰ってこれたのも、あなたの村が前より美しく見えるのも、あなたに力がついたからで
す。もうどこへ行こうと、何をしようと、思うままにできますよ」文殊さまが、こう言うと、善財
童子は、ただもう、嬉しくてて、涙を流して言った「ありがとうございます、文殊さま。おかげ
さまで、様々(さまざま)なことを学び、様々な力をつけることができました。この上は、さら
に努力して、立派な人になって、世の中の為(ため)になりたいと思います」 「よくぞ、言いま
した。善財童子。その、立派な人になって、世の中のためになりたいという、強い心が、あなた
をここまで成長させたのです。さあ、普賢菩薩さまが、あなたをずっと、お待ちだったのですよ」

 

(十三)

「普賢(ふげん)ぼさつさま」と、善財童子がつぶやくと、とたんに明るくなって、そこは、お釈
迦さまがいる祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)というところで、光の輪につつまれた、お釈迦さま
の右には普賢菩薩さま、左には文殊菩薩さまがいた。その周(まわ)りには大勢のお弟子さまが
いた。普賢菩薩さまが、言った「待っていたのですよ、善財童子。苦しいことに負けずに、長い
旅を終えました。この大勢のお弟子の中でも、ほんの少ししか学んでいない人には、わたしの名
前は教えてもらえない。まして、わたしの姿は見えないのだよ。あなたには、もう見えますね、善
財童子。あなたは、もう、立派な人です。今日からは、菩薩(ぼさつ)という、お釈迦さまのお
弟子になって、一緒に学びながら、世の中の人びとのために、働くのですよ」「ありがとうござ
います、普賢菩薩さま」善財童子が深くお辞儀をして、振り返ると、前に池があって、ハスの花
が、一杯咲いていた。一つひとつ、よく見たが、花の上には、やっぱり、仏さまはいなかった。
でも、ハスの花は、とても綺麗であった。池も林も空も、見れば見るほど、前に見たこともない
ほど、綺麗に見えた。そして、善財童子の心の中まで、すっきりした「仏さまが見えるって、こ
んなことかもしれない」と、善財童子は、にっこり微笑(ほほえ)んだ。こうして、善財童子の
長い長い旅は終った。